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連れていかれた先は…

次回更新は8月22日(月)を予定しております。


(痛いっ! 縛るのキツイよ騎士さん……なんか俺に恨みでもあんのかよっ⁉︎ 手首もげるわ!)



 俺は騎士に押されてよろける。



「さっさと歩けっ!」



(ちょっ……押すなって! いやいや、何回も押すなっつーの! ちょ、ちょっと待って! あっ――)



 俺は顔から地面に転けてしまう。



「何やってるんだ? さっさと歩けよ! 愚図!」



 騎士が俺を罵った瞬間、エリスが何かを言いかけた。


 

「――――っ! ――――」



「エリスっ! 我慢だ……」



「でも……お父様…………」



 何故かエリスが騎士を睨んでいるが、騎士は俺を罵るのに夢中で気づいていない。



「ダーント! 遊んでないで早くその子供を、荷馬車に乗せるんだ」



 エリスの父親もダーントを軽く睨みつける。

 



(ふーん、こいつダーントって言うのか……覚えたからな?)



「はっ! 申し訳ありません!」



 ダーントがエリスの父親に敬礼する。



(ちっ……権力者にはヘコヘコして弱い者には強く出るタイプか?)



「貴様のせいでお館様に叱られたではないか……クソっ!」



(そんなん知らねーし! そもそも俺はエリスさんに何もしてないからね?)



 後ろへまわした手首に縛られているロープをダーントが引っ張って、俺はズルズルと後ろ向きに引き摺られる。



「ほらっ、ここに入れっ!」



 辿り着いた荷馬車の中へ、半ばヤケクソ気味のダーントに放り込まれた。



(ってーな! お前はいちいち俺に当たってくんじゃねーよ! 子供か! ……しかし、馬車の中とはいえボロ小屋よりかは綺麗だな…………少し……疲れたな…………どこに連れてかれるんだろ…………)



 疲労困憊だった俺は心地よい馬車の揺れのせいもあってか、意識を手放した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(……ん……ここは?…………っ!……牢屋か⁉︎)

 


 目を覚ますと冷たい石畳の上だった。

 


(そうか……俺、捕まったんだったな……。まだ殺されてないだけでもマシか…………でもなぁ……なんもしてないのになぁ……釈然としねぇ……)



 牢屋の中を見渡し、外に目を向けるとダーントが居た。



「おっ? 目が覚めたか? エリスお嬢様が居なかったら、お前は今ごろ死んでいたんだぜ? 感謝するんだな」



 またもやダーントは忌々しそうな顔をする。

 俺も仕返しとばかりに似たような顔をしてやる。



(ちっ……目覚めて一番に視界に入ったのが、お前の時点で死んだ方がマシだったよダーント。――そもそもエリスさんが居なかったら、捕まってなかった未来もあるからな? 意味もわからないまま捕まえられるなんて日本だったら――)



「なんだ? その目は? お嬢様から食事を与えるようにと言われているのだが……不要みたいだな?」



(そんな! 滅相もありません! 私は貴方の従順な、しもべです! 是非とも寛大な御心でお許しくださいませんか?)



 俺は犬のお座りのような姿勢をして、上目遣いでダーントを見つめる。

 


「…………お前、気持ち悪いな…………ほら、食えっ」



(わーい、ご飯だ――――――なに? これ? スッゲー硬いパン? どうやって食うんだ?)



「なんだ? 本当に要らないのか? なら下げるぞ」



 ダーントが食事を下げようと手を伸ばす。

 俺はそれを拒むようにトレーを掴む。



(要るに決まってるだろっ! ガルルルル……! お前の腕ごと食いちぎってやろうか? ダーント!)



「なんだぁ? その目は? 別にお前をここで斬り殺しても俺は何も咎められる事は無いんだぞ? お前は罪人でスラムの人間だからな?」



 ダーントはトレーから手を離して、腰に差してある銀色の剣を引き抜いた。

 ダーントは人が変わったかのように薄ら笑いを浮かべる。



「この俺に殺して貰えるだけ感謝しろよ? スラムの人間を殺すのを嫌がる人間は多いんだ、汚いし無駄だからな。その点、俺はスラムの人間は汚いからこそ、無駄だからこそ駆逐するべきだと考えている――なぁ? 殺してもいいよなぁ?」



(ひっ‼︎――こ、殺される………)



 その時、コツコツと足音が聞こえてくる。



「何をしているのですかっ!」



 足音の正体はエリスだった。

 エリスはダーントへと詰め寄る。

 


「エ、エリスお嬢様! これは……その……」



「説明は結構ですっ! 私はてっきり客室に案内しているものと思っていましたのに! なぜ牢屋に入れてるのですか? 挙げ句に斬ろうとするなんて!」



(そうだそうだ! もっと叱ってやれ!)


 

「えっ⁉︎ 牢屋じゃないのですか? コイツはエリスお嬢様に危害を加えたスラムの罪人で……」



 ダーントは何が何だか分からないといった表情で、しどろもどろしている。

 その様子を見たエリスは呆れた顔をする。

 


「はぁ…………良いですか? あれはあの場で彼を救う為の芝居だったのです。 お父様から何も説明を受けていないのですか?」



 エリスは腰に手を当てて、ダーントへと質問する。

 


「いえ、お館様からは何も……」



 ダーントは上半身を後ろへ仰け反らせ、両手を振って否定する。

 エリスは酷く落胆したのだろう、ため息を吐く。


 

「もういいわ…………ダーントは元の持ち場へ戻ってちょうだい。 あと、その食事も下げておいて」



 エリスの表情が少し柔らかくなり、トレーを指差す。



「はい、畏まりました。 ところで、そのスラムの子供を如何なさるおつもりですか?」



 ダーントはトレーを持ち上げながら、恐る恐るエリスへと問う。



「彼は当分の間、この屋敷で預かろうと考えております。とても弱っているようですので」



「し、しかし、お嬢――――」



「なんですか? 何かご不満でも?」



(そうだそうだ! ダーントは引っ込んでろ!)



「い、いえ……何でもありません…………失礼します……」



 ダーントは項垂れながら部屋を出て行った。

 それを見送ったエリスが俺へと振り返る。

 


「ごめんなさいね? 本当は気の優しい人なのですが……。 それよりも、すぐにそこから出してあげますね」



 牢の中へと入ってくるエリス、汚くて臭いはずなのに気にする素振りも見せず俺に近いてくる。



(エリスさん……間近で見るとすげー可愛い……)



「あのような形で連れてくる事になってしまって本当にごめんなさい。あなたは何も悪くないのに……すぐにお部屋に案内しますわ」



 とても優しい笑顔で俺の手を掴み、身体を支えてくれる。



「歩けます?」



(歩けます……ってか、エリスさん凄く良い匂い……)



 俺は頷き、膝を震わせながら立ちあがろうとする。



「しっかり捕まって下さい」



 エリスが肩を貸してくれる。



「こんなに痩せ細って…………大変でしたね……もう安心して下さいね」



 二人で部屋を後にし、階段を登っていく。



「まず、食事ですね……食堂へと向かいます、もう少し辛坊して下さいね?」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく歩き、食堂へとたどり着いた。

 そこに一人の料理人がいた。

 

 

「彼に食事を!」



 エリスは先ほどとは違う厳しい顔つきになり、大きな声で料理人へと言った。

 料理人は驚きで身体が飛び上がった。



「えっ? その子供にですかい?」



 料理人は俺の事を訝しむように見てくる。



「ええ、彼以外にどなたかいらっしゃると?」



 ここでもエリスは俺を一人の人間として扱ってくれる。

 他の人達はスラムの人間っていうだけで蔑んでくるというのに。



「いえ、申し訳ありません。すぐにご用意させて頂きます!」



 料理人は慌てて部屋を出て行く。

 厨房へ向かったのだろう。



「お腹いっぱい食べて下さいね? 好きなだけ食べていいですから」



 しばらくすると数名のメイド達が料理を運んでやってきた。



(すんげー良い匂いだ! アレは何の肉を焼いたんだろう? あっちの野菜を炒めた物、何かを蒸した物、果物や飲み物、早く食いてぇー!)



 次々と運ばれてくる料理は、とても美味しそうで良い香りがしていた。

 俺の食欲はMAXに達して、今か今かと涎を垂らして待っていた。



「どうぞ、そちらへ座って召し上がって下さい」



 エリスが向かいの席に座って、座るようにと促してくる。



(ありがとうございます! いただきます!)



 俺はこの世界で初めての食事を摂る事ができた。

 この食事の味を俺は忘れない。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「まさか本当に全て平らげられるとは……驚きですね! これなら作った甲斐があるってもんですよ!」




「良かったですわね、完食して頂けて。」




 料理人は豪快に笑いながら、自ら作った料理が完食された事を喜んだ。

 エリスは特に興味もないのか、淡々とした返事を料理人へと返した。



「お腹いっぱいになりましたか?」



 エリスは途端に優しい笑顔を浮かべ、俺に話しかけてくる。



「あ……あ…………」

(まだ、ちゃんと声が出せないなぁ……? ――ってか臭いな、俺!)



 俺は食事の時は気にならなかったが、急に上がってくる自分の腐敗したような臭いで戻しそうになる。

 俺が自分の衣服を見て、顔を顰めるとエリスが不思議そうな顔をした。

 理由が分かったのかエリスは手をポンと叩く。



「あら、いけない。 次は身を清めましょう」



 エリスは立ち上がると、テーブルにあったハンドベルを鳴らした。



「ルル! ルルは居ますか?」



 すると一人のメイドが食堂へと入ってくる。



「お呼びですか? エリスお嬢様」



 腰を折り、深く頭を下げたメイドの頭には小ぢんまりとした、猫の耳に似たような物が付いていた。



(ケモミミだ! ファンタジーだ!)



 異世界ファンタジーでのお決まりを目の当たりにして、俺は興奮した。

 エリスはそんな俺を見て微笑み、ルルへと視線を戻す。

 


「ルル、彼の身体を清めてあげて。あと、服も着替えさせてあげて。その後に客室まで連れて来てちょうだい」



「畏まりました。お嬢様」



 ルルは再びエリスへと深くお辞儀をする。

 エリスは食堂の入り口で歩くのを止め、満面の笑みでこちらへ振り返る。



「それでは後ほど、お待ちしておりますね」



 そう言葉を残して、エリスは食堂を出ていった。

 ルルが頭を上げ、俺へと向き直す。

 


「それではお客様、湯浴みの準備ができております。こちらへどうぞ」



 そう促され向かったのは、とても広く大きな大浴場だった。



「それでは私が――」



 ルルが何かを言おうとした時、俺は既に全裸になっていた。



「は……早いですね……スラムの子供は浴場など見たこと無いでしょうに……。まさか廃嫡された貴族の子供とか……?」



 ルルは驚き訝しむような表情をする。

 


(そりゃぁね、前世は風呂に毎日入るのが当たり前の世界だったからね。こんな簡素な服だったら一瞬で素っ裸になれるぜ)



 俺は勝手知ったる様子でかけ湯をし、身体を洗い始めた。

 石鹸しか無いようなので頭も身体と一緒に洗う。



「――! 身体を洗うという事もご存知でしたか……。洗髪も出来ている様子なので、私がお手伝いする必要はありませんね。御召し物は脱衣所に用意しております、そちらを御着用下さい。それでは、ゆっくりお寛ぎ下さいませ」



 そう言い残し、浴場から出ていくルル。

 俺は何度も全身を洗い直し、固まっていた髪や黒ずんでいた身体を丁寧に洗い上げた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、あ、あ」



 俺は湯船に浸かって、高い天井を見上げながら声を出してみる。

 


(ふぅ……少しずつだけど声が出るようになってきたな……。これからどうしよう……このままエリスさんの世話になってもいいけど沙彩を取り戻しに行かないとな……)



 食事を摂り、身体を清めて血液の流れも良くなった。

 これからの事を考えられる程には落ち着いてきたのだろう、俺は思考を巡らせる。



(でも、テヌスって何処に居るんだろ? それが分からない事には身動きが取れないな……。なんとかして情報を集めないと……それにしても良い湯加減だな……眠気が凄い……)



 このままでは眠ってしまいそうだったので、俺は立ち上がり入り口へと向かった。

 その時、脱衣所の方からルルの声がする。



「お客様、もうよろしいのですか?」



 俺は扉を開け、タオルを受け取り頷く。

 ルルは俺の姿を見るなり驚きの表情を見せるが、すぐに元の表情に戻る。



「左様でございますか。それではそちらに置いてあります肌着に着替えていただき、別室にて正装させていただきます」



(肌着って! これ⁉︎ これ、ふんどしじゃね? なんでこんな所にあんの⁉︎ えっ、まさかコレを着ないと駄目なの? やだやだやだ! 絶対恥ずかしいから!)



 俺は嫌々ながらも用意してあった肌着へ着替えて、ルルの後ろをついて行く。

 するとルルが唐突に言う。



「見違えましたよ、お客様。別人のようです」



(やだやだやだやだやだやだ! 超恥ずかしい! モッコリしてお尻にキュッと食い込んでるよ!)



「それではお嬢様がお待ちです。ついて来て下さい」



 ふんどしで歩きまわる事が恥ずかしい俺はそれどころで無く、ルルの言葉は耳に届かなかった。

お読みいただきありがとうございます!

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