仲良し
結局、オベヤさんの布団を借りて、寝た。
オベヤさんは畳の上に雑魚寝して、毛布を1枚だけ掛けて、でもなかなか眠れないようだった。
「黒野ってひと、このアパートに、います?」
彼の後頭部を見ながら、あたしは声を投げてみた。
「そいつが君の……なのかい? ごめん、僕、他の住人の名前、ひとつも」
このアパートじゃない気がした。
もしかしてあたし、完璧に覚えてるつもりで、彼の住所を間違えて覚えてる?
どうしよう……。
「もしかしてその住所、覚え間違えて?」
オベヤさんが、あたしの心の声が聞こえたみたいに、そう言い出した。
「るんじゃない? ちゃんと、調べてみなよ」
調べようにもあたしは身ひとつだった。スマホも何も持ってない。手掛かりがない。
「お巡りさーん!」
突然、オベヤさんが叫んだので、びくっとなった。
「お、お巡りさんが……何か?」
「お巡りさんに聞くんだよ。このあたりに黒野ってひと、いるのか」
「でも……黒野なんて苗字、いくらでも……」
「諦めちゃダメだ!」
オベヤさんがあたしを励ます。
「どうにか探し出すんだ! みぃちゃんの大好きなひとなんだろう!?」
「うん。でも、一旦家に戻ります。親も心配してるだろうし……」
「僕に任せろ!」
がばっ!とオベヤさんがこっちを向いた。
「明日、交番に行って、何が何でも住所を調べてもらう! それの下の名前は?」
「黒野オサム……」
「よし聞いた! 覚えた! 僕に任せろ!」
「あ、ありがとう……」
「いいのさ! だって、僕達は仲良しだろう!?」
「うん」
あたしはうなずいて、思わずふふ、と笑った。