ヒャッハー!
「こっ……、このっ……!」
織部矢さんの口調が荒くなった。
「このっ……! キャロラインのねっ! フォルムがねっ! 最高なんだっ!」
パソコン画面の中の美少女の魅力を、彼はあたしに向かって力説しているのだった。
「はあ……」
あたしは呆然自失しながら答える。
「ほんとだ」
彼は三次元のあたしには興味がないようだった。ただ、彼の好きなものを一緒に見てくれる『目』として、あたしを欲しているようだ。
「ころでっ! みぃちゃん、スポドリ飲みなよっ!」
あたしは昼間に出された紙コップのスポーツドリンクに、深夜0時になってもまだ口をつけてなかった。
「あ……。喉、乾いてないんで……」
にっこりと笑って断った。
「ところでそろそろ失礼しようかな……」
早くここを出たかった。
彼がトイレに行った隙に脱け出そうかとも思ったが、一言断ってからじゃないといけないような気がしてた。
「もうこんな時間だよ!?」
オベヤさんはびっくりしたように、言った。
「僕、畳でいいから、布団、あげるから」
油を吸って固くなったような布団セットをあたしはちらっとだけ見た。
「いえ。用事があるんで、その、帰ります」
「彼氏のとこへ行くんでしょう?」
心配するように、あたしの顔を覗き込む。
「明日になったら僕が荷物にして送ってあげるから」
「あー……アハハハ……」
なんとしてもこの部屋で2人で夜を越えることは避けたかった。
でもあたしがそれ以上何も言えないでいると、いきなりオベヤさんがどすん!と畳を踏みしめて立ち上がった。
悲鳴を我慢しながら動きを見守っていると、押入れの襖を開け、トレンチコートを取り出し、あたしにそれを差し出して来る。
「むいだろ? これ、なよ」
どうも緊張すると言葉の省略がキツくなる人みたいだ。
でもピンク色のリボンを身体に巻いただけのあたしを気遣ってくれたことはわかった。
「ありがとう」
あたしが素直に笑うと、オベヤさんは照れたように頭を掻いた。