団らん
寂しそうだった老夫婦の部屋に、笑い声が響いた。
「そっかー。大好きな彼氏に自分をプレゼントとして届けるためにねぇー」
お爺ちゃんが笑ってくれる。
「でも住所間違っててウチに届いちゃったのねぇ」
お婆ちゃんも笑ってくれる。
「すみません」
あたしは正座して謝った。
「彼の住所、完璧に覚えてたんですけど、番地の1を7と読み違えられちゃったみたいで……」
「いいよ、いいよー」
「ゆっくりしてお行き」
お二人は面白い荷物がやって来たことに、かえって喜んでくれた。
お茶とおまんじゅうを出してくれた。恥ずかしながら喉が乾いてたし、お腹も空いてたのでがっつり食いついたあたしを見て、不憫だと思ったのか、お二人は目に涙を浮かべながら、言ってくれた。
「晩ごはんも食べてお行き」
「長旅で疲れたろう? 今夜は泊まって行くといい」
お婆ちゃんの作ってくれたソーセージとジャガイモの鍋はとっても温かかった。「おいしい! おいしい!」をあたしが恥ずかしげもなく連発すると、二人ともにこにこと笑ってくれた。お爺ちゃんに日本酒を注いであげると子供みたいな顔して嬉しがってた。赤くなった顔にあたしが笑顔を並べたのをお婆ちゃんが写真に撮ってくれた。
狭いお風呂に3人で入った。あたしはリボンのまま入って、2人の背中を流してあげた。名前は聞かなかった。孫娘が祖父母を名前で呼ぶなんておかしいもんね。2人はあたしのことを『みぃちゃん』って呼んでくれた。あたしの名前に『み』はつかないけど、それがお二人の好きな呼び方なら、それでよかった。
「住所、近いんだろ? 歩いて行けるんじゃないのかい?」
翌朝、布団を片付けながら、心配そうに2人が聞いてくれた。
「うん。でも、どうしても段ボール箱であたしを届けたいの」
あたしがそう言うと、にっこり笑ってお爺ちゃんがガムテープを手に持った。
元のみかん箱に身体を折り曲げて入ると、蓋をしてくれて、荷物伝票を貼ってくれる。
「じゃ、みぃちゃん。お別れだね」
「孫が出来たみたいで楽しかったよ、ありがとう」
外から2人の声が聞こえた。
「あたしも楽しかったよ」
そう言うと同時に玄関のドアが開き、お兄さんの声が言った。
「宅急便でーす。お荷物受け取りに伺いましたぁ」