みんなの力で
「即日配達……、やってないんですか?」
荷物を受け取りに来た宅急便のお兄さんの言葉を聞き、ミサキさんが途方に暮れた声を出す。
「すみません。地域によっては取り扱いがあるんですが、生憎この地域では……」
そんな……
今日で春休み最後なのに……。
「待ってて。狭いだろうけど……」
ミサキさんが荷造りされたみかん箱の中のあたしに言う。
「他のお店に聞いてみるから!」
電話をかけては、切るのを聞いた。どこに預けても明日の配達になるようだった。友達にも聞いてくれているようだった。
「ミサキさん……」
あたしはみかん箱の中から声を出した。
「黒野くんのところまで、ここからどれくらい距離あるんですか?」
返事がすぐに聞けた。
「ざっと10kmぐらいかな」
「あたし……。バスで行きます。もう、段ボールから出て、普通に服を着て……」
「だめよっ! 諦めちゃだめっ!」
あたしよりもミサキさんのほうが必死だった。
「そんな面白いサプライズ、絶対に成功させるのよっ! オサムを喜ばせるのっ! あたしに任せて!」
お姉さんが何も言わずに外へ飛び出して行った。
あたしは待った。待つしか出来なかった。
お姉さんを信じた。信じるしかなかった。
待った……。
お姉さんは帰って来ない。
しかし、やがて、ガガガガガ! と階段をハイヒールで駆け上って来る音が聞こえると、バーン! と玄関の扉が開く音がした。
「早苗ちゃんっ!」
ハァハァ息を切らしながら、ミサキさんが叫ぶように言った。
「喜んでっ! アパートの大家さんの息子さんが個人で運送業やってて、今日中に届けてくれるってっ!」
そして、あたしが今、こうして無事に黒野くんの部屋に向かっているのは、あたしの力じゃない。みんなのお陰だ。
出会った人みんなが、みんなの力で、あたしを黒野くんの部屋に届けてくれた。
大家さんの息子さんには段ボールの中身を知らせていない。軽貨物の荷台からあたしの入ったみかん箱を持ち上げると、うんしょよいしょと言いながら、階段を昇って行った。途中で「なんて重たいみかんだよ」と呟くのを聞いた。
やがて呼び鈴を押す音が聞こえ、ドアが開く音を聞いた。
「ちわー。お荷物お届けに参りましたー。えっと、黒野オサムさん?」
「あはい」という、黒野くんの声が聞こえ、あたしは必死で嗚咽が漏れるのをこらえていた。




