黒井サンジ
ごま塩頭の60歳ぐらいのお爺さんだった。
眉間に厳ついシワの刻まれた、目つきをナイフで彫ったような、いかにも頑固そうな人だ。
あたしは恐縮して頭を下げた。
「なんと破廉恥な格好をしておるのだ」
イサムさんはあたしを横目で睨んで、言った。
「それで彼氏は喜ぶのかね? この世がこれほどまでに乱れておったとはな」
「すみませんでした。すぐに出て行きますので」
「待て」
イサムさんの声にピリピリと身体が震えた。
「私が誰だか知らないのかね、君は?」
「ごめんなさい」
あたしは土下座する勢いで頭を畳にこすりつけた。
「有名人さんなんですか? 黒野イサムなんて聞いたことないです……」
世間知らずな自分を恥じた。
「黒野イサムは本名だ。筆名は黒井サンジ。これなら聞き覚えがあるかね?」
「あ」
聞いたことはある名前だった。確かとても権威のある文学賞を最近受賞した小説家さんだ。
「そう言えばそうであった」
黒井サンジさんは思い出したように、ぽんと手を叩いた。
「私のファンが、近々とても良いものをプレゼントとして宅急便で送ると言っていた」
「え」
「君がそれだな?」
ニヤリと何かを企むような目で見てくる。
「ちっ、ちが……」




