ありがとう
次の日。朝10時。オベヤさんはあたしと2人で向き合ってカップラーメンを食べきると、颯爽と出掛けて行った。
そして興奮にメガネを曇らせて帰って来ると、言った。
「見つけたよ! みぃちゃん! 見つけたぁ!」
「ほんとに!? オベヤさん! ほんとにぃ!?」
あたしとオベヤさんは手を取り合って、ぴょんぴょん跳ねた。
「ありがとう」と、あたしが言うと、「いいさ」とオベヤさんが言った。
これからは人を見た目で決めつけるのはやめようと心に誓った。
みたび苦難を越えて、あたしは遂に黒野くんの部屋に辿り着いた。宅急便のお兄さんが「黒野さんですよね?」と言うと、不機嫌そうなカッコいい声が「そうだ」と答えたのだ。「重いッスね〜、これ。60kgぐらいあります?」と定番の台詞を残して、宅急便のお兄さんはあたしを置いて帰って行った。
あたしは、待った。
なかなか荷物を開けてくれない。
空気穴から覗くと、風流な彼は崩れたところひとつない着物姿で文机に向かい、何か書き物をしているらしい。
黙々と──
お腹空いた
喉乾いた
お風呂入りたい……。
コンコン、と段ボール箱を中からノックした。
「ン?」
黒野くんは渋い声を出すと、振り返る。
いや、わかってるけどね……。
これ、黒野くんじゃないよね……。
「すいません。開けてください」
あたしが声を出すと、その人はゴキブリの出現でも見たように後ろへ飛び、聞いて来た。
「中に誰かいるのか?」
「はい」
「オナゴか? 中で何をしている?」
「住所をまた間違えたみたいなんです」
「わけがわからんな」
「とりあえず……すいません。開けてもらえますか?」
「覚えがないと思ったのだが……。正しくは誰宛の荷物だったのだ?」
「黒野オサムくんです」
「ああ」
小さく納得したような声を出して、その人は告げた。
「私の名前は黒野イサム。1字違いだ」




