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神様の探し物  作者: 悠
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探しもの

 「翔平」目の前の男は俺を見て確かにそう言った。俺のことを知っているのだろうか。

 俺には神になる前の記憶がない。4年前、自分が誰かわからず彷徨っていたときにかつてこの神社の神様だった者(地元では昔は三河さんと呼ばれていたらしい)に神様にしてもらった。俺は記憶と同時に未練も忘れてしまっていてこのままでは転生することもできないと言われた。三河さんはそれをとても不憫に思ったらしく自分の命と引き換えに俺を神にしてくれた。しかし、神になったからといって「はい、記憶と未練が戻りました」というようなことが起きるわけでは当然ない。じゃあ、神になったところで意味がないじゃないかと思っていたら三河さんが説明をしてくれた。

 「神は自分の願いを叶えることはできないが人間の願いを叶える力は持っているんだ。」

 「ただ、神は信仰心をエネルギーにしているため今のこの神社の現状だと願いを叶えようにも限度がある。」「そこでまずは、信仰心を集めるため少し反則的ではあるが噂話を流して人を集めよう。」三河さんの説明に俺は疑問をもち質問をした。「いくら他の人間の願いを叶える力を持っていても結局自分のために使えるわけじゃないんでしょ、だったら意味ないんじゃない」 すると、三河さんが待ってましたとばかりに得意げに説明を続けた。「いいかい、人間というのは欲望に忠実なんだ。どうしても叶えたい願いのためなら多少のリスクも平気で冒すことができる。」「その性質を利用して探しものを手伝ってくれたら願いを叶えてくれるというような内容の噂話を流して人間に未練探しを手伝ってもらうんだ」

「人間に⁉でもそんなに簡単に見つかるものなの?」「それは簡単ではないだろう。だが君は今記憶もなくしていて自分ではどうすることもできないだろう。それに、この町はそれほど大きいわけではないからひょっとすると君のことを知っている人間に出会うことができるかもしれない。そうすれば生前の君について知ることができて、未練についての手がかりも得られるんじゃないか?」

 三河さんの説明になるほどなと納得した。このまま何もせずこの神社にいるだけでは何も変わらない。助けを借りるほかないのかもしれない。それにここまで親身になって考えてくれている三河さんに申し訳ないという気持ちも湧いてくる。俺は覚悟を決めて三河さんが説明してくれた方法で本格的に未練を探し始めた。

 しかし、興味本位でこの神社に来る人も結構多く未練探しを手伝ってくれる人はそう多くなかった。もちろん中には手伝ってくれる人もいたが、俺を知っている人間に出会うこともできず手がかりもなかなか見つけることができなかった。何の手がかりも見つけられない日々が続いていき段々と自分の心の中に焦りが生じてきた。

 この神社の神様になったからといっていつまでもこの世にいれるわけではないのだ。元々この神社の神であった三河さんは力がなくなってきており、俺を神にしなくても後数年で消える運命だったのだ。その力を俺が受け継いだ形なので力を受け継いだ時点から数年後には俺も消えてしまうということなのだ。もうすでに4年経過しているので、下手すると後数ヶ月で消えてしまうかもしれない。それまでになんとしても未練を探さなければいけない。

 そうやって焦りながら未練を探していた俺の前に遂に生前の俺を知っていそうな男が現れた。

 その男は俺のことを翔平と呼んだ。しかし、残念ながら俺は翔平という名前に聞き覚えはなかったし、その男にも見覚えはなかった。目の前の男は制服を着ており高校生くらいに見えた。だとすると生前の俺の同級生という可能性もあるというわけだ。俺は目の前の高校生に話しかけた。

 「お前は俺のことを知っているのか?」すると高校生はひどく苦しそうな顔をしながら「俺のことを覚えていないのか?」と問い返した。

 「俺には生前の記憶がないんだ。お前は俺の同級生だったのか?」「そうだ。俺の名前は森野孝一。お前の名前は翔平、倉本翔平。中学のときの同級生だ」目の前の高校生、森野孝一の言葉に俺はやはりそうかと納得した。孝一は俺を見たとき泣いていた。ということは中学の時かなり仲が良かったのかもしれない。これは生前の俺について知るチャンスだと思い孝一に未練探しについて話すことにした。

「ここに来て願い事をしたということは知っていると思うが、俺はある物を探しているんだ。その探しものを手伝ってくれたらお前の願いを叶えてやろう。」孝一の願いは何やら物騒な願いであったが少しでも早く未練を見つけたかったのでとりあえず深く考えないことにした。

 「探しものを手伝うということは噂話で聞いて知っていたよ。それで一体何を探しているんだ?」「未練さ。」「人間というのは死ぬときに多かれ少なかれ未練を持っているものなんだ。だけど、俺は記憶と同時に未練も忘れてしまったんだ。そうすると転生することができなくて先に進めないんだ。」俺は孝一に事情を説明した。

「でも、ここで神様をやっているんだろ?だったら無理に転生しなくてもいいんじゃないのか?」「それができたら苦労はしないさ。神としてここにいれるのは多分後数ヶ月だ。それまでに見つけられなければ何もわからずあの世であてもなく彷徨うしかないだろう。」

 「そうだったんだな。でももし仮に見つけられなくても消えるわけじゃなくあの世にはいけるんだな。」「そりゃぁ、あの世には行けるけどさ。この先2度と新しい人生を歩めないのは結構悲しいぞ。」「それに未練探しをしていることーというか俺の存在が他の神に見つかったら多分消されてしまうんだよな。」「は⁉なんで同じ神様同士なのに消されないといけないんだよ。」俺の言葉に孝一は動揺しながら言葉を発した。

 「当然孝一は知ってると思うけど俺は元々はただの人間だ。浮遊霊として彷徨っているときにこの神社の前の神様が俺を神にしてくれたんだ。だけどこの方法は神になるための正式な方法ではないんだ。」「だからもしバレれば俺は消されることになるだろう。」

「じゃぁ、どうやって未練を探すんだよ。他の神様にバレないように探そうと思うと行動範囲が限られるだろう。」「それをお前に頼みたいんだ。他の神の領域を探すときはどうしても俺が行くことはできない。存在を感知されてしまうからな。だから、孝一に探してきてもらいたいんだ。」「それ以外のところに関しては一緒に探せると思う。たぶん領域外のことに関しては感知されにくいと思うからな。」

 正直なところ不安はある。いくら領域外でも大きな神社になれば眷属が町を見回っている可能性も十分に考えられる。しかし、全てを孝一に任せるわけにはいかない。それにこれは俺の問題なのだ。俺は不安を胸にしまい精一杯強がってみせた。

 「まぁ、俺も神様だからな。もし見つかっても奥の手はあるさ。」実際には奥の手など存在しないけどな・・不安が見透かされないように俺は心でそうつぶやいた。

 「とはいえ、もし孝一が俺の未練について何か思い当たることがあれば話は早いけどな」

 「・・・未練か。悪いけど俺は思い当たらないかな。」しばしの間があったのち、孝一が答えた。俺は小さな違和感を覚えたが特に気にすることなく納得した。

 「そうか。まぁ、しかたないな。時間はあまりないが一から探していくしかないな。」「そうだな。俺ももちろん協力するから頑張ろうぜ!」

 今度はなぜか妙に張り切っているな。孝一の態度が一定ではなく気にはなるが今は未練探しに集中だ。記憶はないが孝一は中学の同級生だったみたいだから信用はできるだろ。俺は心のなかで自分を納得させながら未練探しへと歩みを進めた。


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