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憧れ

次の出勤日。


今日も夕方から出勤だ。自宅で身支度を済まし、店へ向かう。店に着くと、レジで綺麗な先輩が年配の男性と対話していた。


「こんばんは」

「ホットコーヒー。一番小さいの」

「はい。店内で飲まれていきますか」

「うん」

「かしこまりました。お会計が319円です」


黄金色の照明が、いたいけな笑顔をより一層幼く見せる。店に入ってきた僕に気がつくと小さな手を大きく揺らしてくれた。僕は小さめの会釈で応える。どうやら綺麗な先輩は僕と入れ違いで退勤するようだ。何故か分からないが少しだけ安堵した。いつもと同じ様に待機部屋に入る。


「あっきーさんおはようございます」

「柊おはよう」

最も憧れている秋山賢人さんだ。誰にでも優しく、面白く、物知りで、高身長ハイスペック男児。もちろん学歴もトップオブトップで春から大企業のテレビ局に就職することが決まっている。スターバックス歴が長いため、周りの従業員からの信頼も厚く、誰一人置いてきぼりにしない、アニメの主人公みたいな人だ。


「柊。今日締め作業終わったらラーメン行こや」

「はい。行きましょ」

「よっしゃ。大変やろうけど今日も頑張ろうな」

「頑張ります。迷惑かけたらごめんなさい」

「ええよええよ。気にせず迷惑かけあっていこ」

「はい」

僕のネガティブな性格とは正反対で、周りをもポジティブにしてしまう彼のパワーに甘えてしまう。


締め作業を済まし、物音一つしないコーヒー豆の香りだけが漂う店を後にする。寒さに背中を丸める人が行き交う中、働き終わったばかりの背筋をシャンと伸ばした二人の男が歩いていく。

ラーメン屋の暖簾をくぐると、テーブル席に案内された。アウターを脱ぎ、ズボンのポケットからスマホを取り出す。この一連の作業を2人、ほぼ同時に行った。


「柊は彼女いるの」

「え。っあ。いないです」

アルバイトの話がメインになるかと思いきや、全く関係のない質問に戸惑った。だが退勤してからもアルバイトの話となると、気持ちが沈む。きっとそこまで配慮しているのだろう。

「あっきーさんはいるんですか」

「あっきーさんはいるよ」

「やっぱり。あっきーさんモテますもんね」

「全くやで。面白いだけが取り柄やからな」

「僕が一番欲しい取り柄ですわ」

「俺は柊の落ち着きが欲しいけどな」

「ッハハッハハ」

暖かい笑いが僕の存在意義を高めてくれる。


「あっきーさん就職するの楽しみですか」

「めちゃくちゃ楽しみやな」

「不安ないのがあっきーさんっぽいですね」

「テレビ局で働くの夢やったからな」

「夢叶えられる人格好良いです」

「ありがとうな」

「柊は夢とかあるん」

「いや。特には無いです」

「大丈夫すぐ見つかるよ」

「はい」


萎縮した声で返事した。

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