内気なスタバイターの誕生
内気な性格の、何処にでも居る大学生の僕、夏村柊がスターバックスコーヒーで働くに至ったきっかけは以外にも綺麗なモノだ。学生のビッグイベントであるテスト期間にて、良くも悪くも僕の人生を変え得る、定員さんに出会った。
いかにも大学生がテスト勉強するために入店しただろうと言わんばかりの、膨大なレジュメと注文したアイスコーヒーを持ち席に着いた。
心優しい定員さんが「テスト勉強ですか。私も追われていて焦っています。頑張ってくださいね」と声をかけてくれた。
僕は目を泳がせながら「あ、ありがとうございます」と返答した。今思えば童貞みたいな台詞であった。この経験から、あっち側に立ちたいと考えるようになった。その後、偶然新店舗のアルバイト求人があったスターバックスコーヒーの面接に行き、入社したという流れである。
入社後は冷房の効いた背の高いビルに案内され、お洒落な会議室で、お洒落な人達と、働くにあたっての講義を重ねた。スターバックスコーヒーが誕生したルーツ、スターバックスコーヒーが目指すべき姿、コーヒー豆の生産地、などなど。
学習の一角として様々な生産地、焙煎別のコーヒーを試飲する運びとなった。
「アプリコットの風味がしますね」
真っ先に口を開いたのは、新店舗の店長森本香帆里だった。
「こちらのコーヒーは大地を感じますね」
副店長の諌山莉子が難しい言葉を巧みに扱っている。
「チョコレートと相性が良さそうですね」
コーヒー豆に詳しい原口紀洋が分かり易く説明している。コーヒー豆に関する知識が皆無な僕にとっては、難しいかどうかも判断出来ない、頷く事しか出来ない、上級者の会話であった。
僕とはかけ離れたキラキラした人達に押しつぶされそうになりながら、内気なスタバイターが生まれることとなった。といっても勿論、内気なスタバイターになるぞと決意を固めて入社したわけでは無い。社交的な人間になってみたい思いもあっただろうが、残念なことになれなかった。そんな僕でも切り捨てず、雇ってくれたスターバックスコーヒーには感謝している。もしも僕が店長であれば、内気なスタバイターをどうにか丸く収めて、退社を勧めていただろう。