第三章 ミノリとショウとJ州 10
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攻撃命令なかばで途絶えた音声、ドローンもK109も、その場で身動きが取れないままであった。この動揺が機上のエムの感情をゆさぶり、J国精神感応部隊はその思考を読むことに成功、パイロットの脳に精神攻撃をしかける! もちろん観念動力部隊もデク人形と化したロボット警官、戦闘ドローンをうち倒し、うち落としていく。シュンのひきいる丁種武装部隊も手榴弾やロケットランチャーで敵を粉砕する。ミノリやショウ、コリンにタツトも前線に参加、次々と機械を撃破した。ここでヒマリさえ無事に帰ってくれば、勝てる! 講和への道が開ける! 誰もがそう思いながら力を存分にふるっていた! そしてJ国の猛攻が全世界に中継されていた。
『──私は連合政府副議長、パトリック・メイガンである!』
連合政府の声明がふたたび開始された。
『J州ミカドよりの刺客、メスのミュートによって連合政府最高議長、マクガファン・スナイダー氏は命を落とされた! なおこのメスは、われわれが殺処分した! 私は前議長の意志を継ぎ、最高議長代行として連合警察に命令する! J州およびミカドを排除するのだ! 外部へと逃亡したJ州人も、ひとりたりとも残してはならん! 殺せ! 殺しつくせ! せん滅だ!』
ふいに生気を取りもどしたように動きだす、政府の殺戮兵器の群れ。
「ヤバい! 動きはじめた!」宙を飛んで観念動力を撃っていたコリンがどなる。こうなると、まさに多勢に無勢である。ミノリたちは連合警察の兵器をほんの五分間ほどのロスタイムにそうとう数、破壊してはいたものの、五万機のうちのたかだか数千機にすぎなかったのである。
「ヒマリさんが殺された!?」跳びながら弾丸をよけ、涙を飛びちらすショウ。
「ショウ、信じろ! あの人が簡単に死ぬか!」新型K109の瞬間移動直前をねらい撃ちして倒すミノリ。「ヒマリさんは、必ず帰るって陛下と約束したんだぞ!」
「わかった、ミノリ! 私、信じる!」ショウは強引にドローンをたたきつぶした!
「くそう! 早くたまれ! 早く、早く!」トモロウは泣きながら充電ゲージにかじりつき、じれていた。彼は自身の自制心のなさから戦闘を引きおこしてしまったことを十分に理解していた。ミカドや国に対し死んでおわびをしなければならない。しかし、どうせ死ぬのなら、もう一撃! 荷電粒子砲を連合政府にブチこ──。充電を待っていた彼の頭は、瞬間移動で出現したK109に吹きとばされた。
ショウとはぐれ、銃撃の中を飛ぶミノリは、目につく敵を片っぱしから落としていったが、とあるドローンの一機に違和感を感じた。なにか攻撃をしてはいけない、そんな気がしたのだ。いちいちかまっている状況ではないのであるが、瞬間移動を繰りかえして銃撃してくるその機体をミノリは落とさず、コックピットを透視した。
「ぇえ!」わが目を疑い、一瞬、無防備になったミノリは四方から一斉掃射をうけた! 「は!」ミノリが見ると、彼を瞬時に移動させて救出したのはカンゴであった。
「なにしてる! 俺が殺す前に死ぬ気か!」カンゴは周囲の戦闘ドローンを巨大な観念動力ですべて爆破していた。中にはミノリを動揺させた機体もふくまれていたが、油断した自分が悪いのだとあきらめた。あのドローンにはコロニーでの夏祭りテロのあと、犯人のひとりとして処刑されたはずの孤児院時代のミノリの先輩、農業従事者でありながら、農作業を嫌っていた鈴村サトシが搭乗していたのだ。ミノリは確信していた。サトシは間違いなくエムではなかった。普通の人間であった。その男がなぜ、瞬間移動を使っていたのか……。「ミノリ君! ぼんやりしてるな!」どなるカンゴ!
「は、はい! すいません!」飛びながらカンゴに頭をさげるミノリ。
「悪いがよ、お前の屋敷の避難所、地下シェルターの住民は全滅した」
「え! カンゴさんがいて?」
「俺だからだよ! 俺が搬送しようとしても誰ひとりいうこときかない。怖がって逃げまわるわ、手足がきかないと見るや集団で袋だたきにしてこようとするわ、観念動力は撃ってくるわ、手がつけられないバカどもだよ」
「そんな……」
「あっという間に爆撃されて、それでおしまいだ。見ろ、だから人助けにはむいてないといったろ? お前の采配ミスだな、ミノリ君」
「はい……くそ!」ミノリは常に例の男と呼ばれ、恐怖の対象でしかなかったカンゴへの住民感情をどこかであまく見ていたようだ。「ボクが……本物の怪物になって世界中のコロニーつぶしをしていれば……みんなを助けられたのか!?」
「今ごろ気づいたか、バカが! どうせ俺たちエムは世界州民の敵なんだ! 怪物なんだよ、はじめから! 人権のあるコロニーの人間なんか惨殺して当然のよ!」
「…………」
「ミノリ君、後悔だったら墓場でしな。今は戦え! 俺らの墓を建ててくれる女のひとりすらいなくなるぜ!」そういって笑いながらカンゴは跳び、地上のロボット警官部隊へと襲いかかっていった。
「はい! ──はっ!」カズヨの悲鳴が聞こえたミノリは、彼女の病院へと跳んだ!
カズヨもポリーナもバラバラにくずれおちた病院の中でズタズタに粉砕されて死んでいた。ほかに病床から動くことができなかったらしい患者たちの遺体もあった。ふたりは、そうした人たちを見すてることができず避難しなかったのだろう。ガレキの中に赤十字の旗の燃えかすが落ちていた。当然、ロボットや洗脳されたエムがそんなものを気にしてくれるはずはない。
「カズヨ先生……ミノリのⅯは、怪物のⅯ、いつか、そんなことをいっていましたよね……ごめんなさい、先生、ポリーナさん。ボクはなれなかった……」
爆発があって、ミノリがロボットを倒しながら跳んでいくと、丁種の武装部隊が壊滅していた。累々とつみ重なる死体の中には、シュンの姿もあった。彼は最後までバズーカ砲を撃とうとしていたようだ。その指にトリガーがへばりついていた。
「シュンさん、ごめんなさい……」ポリーナさんと結婚したばかりだったのに。漁船で海にでて、デートもしたかっただろうに。足を骨折したボクを漁へ連れていってくれるっていってくれた人なのに……。
火災と爆撃、銃弾の嵐。その中でコリンやタツトらをふくむ、エムの観念動力部隊、精神感応部隊が血にまみれ、横たわり、または手足を吹きとばされて、誰の腕や太ももがどこにあるのかもわからない状態であった。コリンなどは上半身がまるごとなくなっていたが、はいている靴のサイズを見れば一目瞭然であった。息をしている者はひとりもいなかった。
「タツトさん……コリンさん、みなさん……ごめんなさい……ボクは、ボクが……」悲鳴をあげたミノリの観念動力が爆発し、周囲約三キロメートル範囲内にいたすべてのK109とドローンを破砕した。野獣のようにうなるミノリにむかい、飛来する戦闘ドローン。それらをひとにらみでたたき落としたミノリは、はっとした!
──ショウは? ショウだけは死なせない! なにがあろうと、絶対、死なせない! ミノリはショウの思考を追った。そんなミノリに、爆炎の中からK109の部隊がうなりをあげて襲いかかってくる。倒しても倒してもアリのように現れるロボットたち。人の体の一部分が引っかかったまま現れたロボットを見たとき、ミノリは完全にわれをうしなってしまった!
ミカドの潜伏していたU州駐屯基地の地下格納庫には、もはや生きている者は誰もいなかった。ロボット警官の大群に占拠され、クナシリの虫歯だった子供たち、丙種の住民、エトロフのアンデイ病患者たち、そして片足だけでなく、四肢をうしなったジョーイ、アダンにバシリオ。みな殺されていた。ただ、ミカドのみは生かされていた。中継ドローンの到着を待って処刑が開始されるのである。
「陛下!」現れたのはショウとカンゴであった。ふたりは戦闘中に偶然、合流し、まずはミカドを守ろうということで意見が一致したのである。
「私にかまうな! 逃げてください!」叫ぶミカド。その顔をなぐるK109。ショウが力をぶつけるが、ロボットはそれをはじきかえした。搭乗しているエムもまた観念動力を使うのだ。一斉掃射がはじまり、それと同時に精神攻撃、さらには観念動力を撃ってくる。逃げまどうショウ、そしてカンゴ。
「大丈夫か? カンゴ!」叫ぶショウ。
「俺、長期戦は苦手なんだよな」いいながら怒涛のような観念動力をはなつカンゴ、次々と大破して倒れるロボットたち。だが、そこまでであった。宙を飛んでいた彼が力つきたように落下した。さらに瞬間移動で続々と現れるロボットの援軍。
「カンゴ!」カンゴにかけよるショウ、その彼女を観念動力ではじき飛ばすカンゴ! 豪雨のような銃弾をあびせかけられたカンゴは笑みをうかべながら絶命した。「カンゴォーっ! このバカ!」怒りのショウ! 彼女の連続観念動力がロボットをなぎはらうが、それとは関係なく、中継ドローンが到着したことでミカドの死刑執行がはじまる。「ふざけるな!」そちらに気をとられたショウにマシンガンアームが発砲! しかし血しぶきをあげて倒れたのは、跳んできたヒマリであった。彼女の姿はすでにズタズタで半死半生であった。敵の銃弾をあびながらも、ミカドとミノリとの約束をはたすためにだけに帰ってきたのだろう。「ヒマリさん! なんでよ! ヒマリさん!」またしても守られたショウが泣き叫ぶ!
「陛下を! ショウ!」断末魔のヒマリが怒ったようにどなる。
「はい!」最大限の観念動力を撃つショウ! しかし、はねかえされてしまう。しかもほかのロボットからの攻撃もつづいている。逃げるだけで精一杯のショウ!
「ショウ!」ようやく敵を一掃し、気が違いそうになりながらショウを見つけたミノリが、瞬間移動の連続で迫るロボットを破壊して彼女を守った。
「遅い! ミノリ、陛下が! ヒマリさんが!」
「え!」無残な姿となったヒマリに狼狽するミノリ。
「ミノリ……」まだ息のあったヒマリが笑った。そして、ふたりの目の前で彼女は、特大の観念動力を自身にはなち、K109数十機を道づれにして爆死した。
この瞬間、J連邦国は終焉をむかえた。銃撃ではなく、ロボットのアームに頭部をつぶされたミカドが、声ひとつあげることなく絶命したのだ。ヒマリの死に動転していたふたりには、なすすべもなかったのである。そしてショウもまた、数かぎりなく弾丸をあびせられ、両脚を吹きとばされてミノリの眼前に倒れた。
「ショーォオ!」悲鳴をあげたミノリもまた銃弾をうけ、片腕を奪われ、そして意識をうしなった。
この日、西暦二一〇三年、六月二十四日。世界地図上からJ州の名が消えたことを、政府公報で強制閲覧させられていた世界中すべての州民が周知したのである。地球連合政府にはむかう者は投降も降伏も許されない、死、あるのみであることをあらためて思い知り、しかしながら、これでミュートもしばらくはおとなしくなるであろうと、胸をなでおろしたのである。
(終章へつづく)
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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』
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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』
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