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第三章 ミノリとショウとJ州 7

       7

「これ以上、病人までふえたらヤバいよ。かんべんしてよ、ミノリ」カズヨは冗談めかしてはいるが、医療体制がひっ迫していることは事実であろう。「指が動くようになったのに、ショウの顔をなおしてるひまもないんだからね!」

「新たに住民となってくれた人の中には医者も何人かいました。その人たちの開業準備が整うまで、もう少しふんばってください、カズヨ先生」ミノリがこたえる。

「でもミノリさん、医薬品が底をつきましたよ」シュンに肩を抱かれたポリーナがうったえる。

「薬品に関しては、以前のつてをたどってカンゴさんが交渉に動いています」

「怖い交渉になりそうね……」カズヨが力なく笑う。

「ですね。だけど、確実です」

「私らがコロニーを襲撃して奪うよりマシか」

「はい……」

 泥仕合(どろじあい)めあての徹底抗戦を決定したあの緊急議会から、半年がすぎていた。街から離脱していった者もいたが、多くの(たみ)がミカドをいただく0番街周辺に残り、その復興と開墾作業などにつとめていた。当初こそ連合政府による襲撃への不安感、十九世紀に退行したかのような新生活、憎しみの対象であったエムたちとの共生などの心的ストレスで自殺をする者があとをたたない時期もあったが、新住民たちはどうやら乗りこえてくれたらしい。サードアイのランプが消え、バングルフォンが使用不能となったことで、コロニー内における人権が剥奪されたことを知って開きなおることができたのだろう。もはやここで生きていくしかないのだと。

「もう連合政府の攻撃はないという街の声もある。どう思う? ミノリ」シュンがいう。

「それは楽観論です。地球連合政府はJ連邦国を許しはしません。正式に提出した講和条約を今もあいまいににごしていますから」

「このまま、本当になにもなければいいのに……」つぶやくポリーナ。

「そうだよなぁ……また、漁にでたいなぁ……」シュンは病院の窓から外をながめ、やわらかな日ざしの中、ポッカリとうかぶ雲を見あげた。

「すいません、シュンさん」頭をさげるミノリ。国の役員となってから、シュンの生活はすっかり変わってしまった。

「なにをいってんだ、首長。そんなことより早くショウを嫁にしろよ」

「そうですよ、首長」ポリーナが笑う。

「あの子、まだ顔のことでごねてるの? 私のせいみたいにいってないわよね?」眉根をよせるカズヨ。

「まさか。そりゃ女性だからぜんぜん平気ではないでしょうけど。連合政府からの回答がくるまでは、どうしたってうかれた気分にはなれないんです」

「悪かったな、うかれてよ」シュンとポリーナは半月前に結婚していた。

「いや。おふたりの結婚には意味があります。人とエムは愛しあえるんだと住民みんなにしめしてくれましたから」

「なんだよ、俺らは政治の道具なのか?」ミノリの胸を軽くなぐるシュン。

「そんな──」

 ドォオオン! 巨大な爆発音! 窓にとりついたミノリたちは、黒々と立ちのぼる煙と爆炎を見た。原油を精製するために建設した研究所のあたりである。

「事故ったのか!」叫ぶシュン。

「見てきます!」跳ぼうとしたミノリの目の前で信じがたい光景が展開した。「え?」

 なにもない空間から改良型らしきK109や大型の戦闘ドローンがいきなり出現、しかも続々と姿を現し、銃撃を開始したのだ。これでは機械が瞬間移動能力を使っているとしか思えない。逃げる間もあたえられず、次々に通行人たちが撃ち殺され、血液を噴きあげた体が粉砕されていく。

「やめろぉお!」市街へと跳んだミノリは観念動力を撃ち、改良型K109をなぎ倒し、ドローンを落としていく! しかし、突然、目前に跳んで現れ、銃を乱射してくるロボット警官の襲撃には、さすがのミノリもとまどってしまう。かわすだけで精一杯で攻撃にむすびつけることがむずかしいのである。さらには一度でてきても、また跳んで消えて別の位置、角度からまた撃ってくるというエム特有の戦闘方法までつかってくるのだ。そうかと思えば二機が同時に出現するなり激突したり、現れた機体がすでに銃撃をはじめているロボットを粉砕し、そのまま自壊して爆発するというちぐはぐさというか、この戦法にまだ不なれらしき一面もかいま見えた。なぜ機械がエムの力を保有しているのか? 連合政府は、空白の半年間でエムの能力を完全に解明することに成功したのか? 疑問だらけの戦い、ミノリは目の前で殺されそうになっている住民をただ、守ることしかできなくなっていた。討ちとるドローンとロボット警官の数がじょじょにへっていた。

「くそ!」落ち着け、落ち着けと自身にいいきかすミノリ!

「落ち着け! ミノリ!」現れたショウがどなった。

「遅くなって、すまない!」戦闘ドローンを落としつつ、かけつけたコリン。

「なんですか? コレー!」ジョーイが叫び、観念動力を撃つ!

「ミノリは上空のドローンに集中なさい! 住民は私が守ります!」ロングスカートをはためかし、ヒマリまでがきてくれた! そして、0番街のストロングタイプのエムたちが連合政府の機械の数を圧倒する勢いで集結した!

「はい!」勇気、百倍のミノリは空をゆくドローンに集中し、本来の能力を存分に発揮、とにかくすべてをたたきつぶした!


 初っぱなの石油精製研究所の爆破から、きっかり一時間後、連合政府の攻撃がピタリととまった。いちおうの決着ではあったが、丁種の住民、約二百人が死に、戦闘にくわわったエムの十七人が命を落とした。実質的には敗北といえる結果であった。政府の開発した新兵器に対し、J連邦国は完敗したのだ。様子をこわごわうかがいつつ、遺体の片づけと埋葬にかりだされた住民たちの不安はつのるばかりであった。ミノリとタツトは、緊急にメカニックとコンピューターに見識のある者を募集し、破壊された改良型のK109と戦闘ドローンの調査を開始した。


「なんてざまだ、俺が薬の買いつけにいってる間によ。ああ、情けない」当日の夜、会議室に招集されたミカドと役員メンバーを前にしてカンゴが薄笑いをうかべた。

「お前、戦ってもいないくせに! 黙ってろ!」こぶしをふりあげるコリン。

「ふん! 俺がいたら、あんなに死なせなかったけどなーっ」

「お前が観念動力を使えば、もっと殺してただろが! 敵味方関係なく街ごとぶっ壊しただろうよ!」

「なんだと?」

「なんせ、あんたはコスモポリタンだもんな! 愛国心なんてかけらもないよな!」

「あんたにあるのか? 愛国心。笑わせるな、U州の男がよ」

「お前……」

「なんだよ? デカ足」

「はぁあ!?」

「ふたりともやめてください。ケンカならよそでお願いします」ピシャリといいはなつ、ミノリ。「──では、あの新兵器について意見のある方、発言してください」

「ハーイ!」

「ジョーイさん、どうぞ」片足でありながらも、果敢に戦ったジョーイを指名するミノリ。

「少しだけ、ワタシの観念動力、軌道、ズラされました! あのロボット、エムの力でディフェンスしましたね」

「瞬間移動以外の能力を保有しているメカもいたんですね?」

「ハーイ、ワタシ、怖かったね。全部のロボットじゃなかったけど」

「……そういえば、ドローンもK109も新型だったよね?」ショウがいった。

「もはやK110か? やつら、とんでもないものをつくりやがったな……」つぶやくシュン。

「一時間で撤退していった。今日のはテスト運用だったのかもしれないな。機械の動きがナービス(初心者)、不なれな感じだったんだろ? ミノリ君」

「はい。どこかギクシャクしてる機もありました、だけど……」

「次にくるときは万全を期して、大軍がくるだろうな」

「いつなんだよ、それは……」へびの生殺しということわざを思うシュン。

 そのとき、木川田(きかわだ)トモロウが会議室へと飛びこんできた。彼は最近までコロニー内で、連合警察の対ミュート武器開発部門に在籍していた男である。しかし、彼も今回の新兵器についてはなにも知らされてはいなかったという。

「どうしましたか、木川田さん。メカについてなにかわかりましたか?」身を乗りだすミノリ。トモロウは現状、ロボットやドローンの残骸調査チームを指揮している。この登用に関しては、もと連合警察の人間であるという理由で反対する声もあった。しかしJ州人であるというだけで近年は不当なあつかいを受けていたと訴えた彼の言葉を、役員たちは信じたのである。

「はい、報告します」トモロウは、まだなれないザラ紙に記されたレポートを見ながら話しはじめた。「あのロボット警官と戦闘ドローンにはミュート、いえエムが搭乗していました」

「なんだって!」立ちあがるコリン。

「機体が停止すると同時に、中の人間がロースト、つまり焼かれるようになっているらしく遺体の損壊はかなりひどいのですが」

「なぜエムだとわかるんですか?」たずねるミノリ。

「埋めこまれていたサードアイとバングルフォンが退化している者ばかりでした。最近、使用された形跡がまったくないのです。それから子供以外の者は、コンパクトに改造された搭乗スペースに入りきらないため、腕や足を切断されて乗せられていました。つまり、使いすての実験動物あつかいです。こちらは科学的な根拠とはいいがたいのですが、心情的には断言できます。彼らはミュートです」

「カンゴさん……」ミノリがカンゴへと視線をむける。

「ああ。政府が飼っている洗脳エムだろうな。まさかこんな使い道を考えていたとは」

「洗脳? それで手足を切られても政府のために戦うの? ひどすぎる!」カンゴをにらむショウ。

「おいおい、アグリー(醜い)・ショウ。俺がやったことじゃないぜ」

「カンゴさん、そのいい方はやめてください。それから木川田さんも、ミュートではなくエムでお願いします」ミノリがいうとカンゴはあははと笑い、トモロウは頭をさげた。ショウは歯ぎしりして屈辱にたえている。

「だけど、これでカラクリはわかった。ジョーイの観念動力をねじ曲げたエムは丙種か甲種なんだろうな」そう話すタツトにコリンがいった。

「マル甲だったりしたら、大変なことだぞ」

「バーカ。マル甲が政府なんぞにつかまるかよ。デカ足は頭が弱いな」

「お前!」

「なんだよ脳たりん」

「カンゴさん! いいかげんにしてください!」ついにミノリがキレた。

「ミノリ君、いいかげんにするのはお前の方だ」カンゴがミノリにガンをとばす。

「どういう意味です?」

「お前がいて、なぜロボットに人間が乗っていると気づかなかった? ほかのガラクタどもはともかく、お前ならわかったはずだ。現れた瞬間に撃ちおとせたはずだ。なぜなら、そこに思考があるからだ!」

「ガラクタだと!」我慢の限界をこえたコリンを制止するミノリ。

「コリンさん。カンゴさんのいうことは正しい……ボクが冷静であれば気づけた。そうですね、カンゴさん。確かにあなたがいたら、あんなに人が死なずにすみましたね」

「わかりゃ、いいんだ」

「──しかし何千、何万の大群が押しよせたらマル甲三人がかりでも対処は不可能だ」タツトがうめく。

「私にもわからなかった。(おとろ)えた私は数に入りません」ヒマリがいう。

「なあ、やつら核ミサイルにエムを乗せたりしないよな? あんな物が瞬間移動してきたら……」恐ろしい想像を語るシュン。

「おう、シュンさん。やるなあ! やりかねないぜ、やつら。すぐにではないだろうがな」カンゴが感心したようにシュンを見た。

「世界にJ国の最期を配信してからですね」とミノリ。

「連中、中継ドローンの前で反乱軍の王、陛下の死を実況するだろうな」

「さもありなん、ですね」うろたえることのないミカド。

「そして核でとどめか?」誰かが恐怖にふるえた声でいった。

「核がでてきたら、もう誰も残ってないだろうな。全員が殺されたあとだろうよ。死体は腐るし衛生的によくないから、焼きはらわれるんだよ」カンゴの言葉に会議室のあちこちから悲鳴があがる。

「降伏するしかないか……」ショウがささやくようにいうと、議場は喧々諤々(けんけんがくがく)、それぞれが勝手に発言をはじめて収集がつかなくなった。徹底抗戦か降伏か、国に残留するべきか、よその土地へと移住するべきか。あるいは、J国の威信とともに自決してはてるのか。誰もが不安な気持ちをぶつけあっていた。

「──みなさん!」ミカドが声をはった。初めてのことである。「国の代表者たるあなたがたがこのようなあり様では、政府の襲撃を待たずして自滅の道をたどるでしょう」

「おっしゃる通りですね、陛下」ミノリが一礼するとカンゴをのぞく全員がしたがった。

「仁科タツト参謀」

「は? いえ、はい」突然ミカドに参謀と呼ばれて驚くタツト。

「たとえば私をいけにえにささげ、降伏を申しでた場合、(たみ)が助かる可能性はどのていどですか?」

「はい、いや、しかし……」

「参謀、どのていどですか?」

「……おそらく5%ほどかと」

「0%だろ? 嘘つくな、参謀」わりこむカンゴ。「連中の目的はもはや民族浄化だ。残念ながら陛下の命ひとつじゃ動きませんよ」

「そうですか。では水上カンゴどの、あなたは瞬間移動をしてくるミサイルに対抗できますか?」

「そうさな、連発されなきゃ方法はある」

「どのような?」

「俺とミノリ君、どちらかが搭乗者の脳を壊し、どちらかが起爆装置が作動する前に海にでもはじきとばす、コンマ1秒以内に。できるよな、ミノリ君」

「はい……」

「本当かよ!」思わずうわずった声をあげるコリン。「化け物だ」

「なるほど興味深いですね、そして政府は核を早々に使用することはないと」カンゴに確認するミカド。

「はい、陛下」

「木川田トモロウどのといったか、連合政府が(よう)するエムの数はわかりますか?」次にミカドはトモロウを見た。

「いえ……しかし、出生率と処分率、逃亡率、政府の財政状況などからかんがみますに……五千から一万の間かと。大半のミュ、エムは処刑されていますから。あ、あくまで推測でしかございませんが」ミカドを前にして、ガチガチに緊張しているトモロウ。

「多いですね。そして瞬間移動能力を保持する者は何割ですか?」

「さあ……わかりかねます。申しわけございません、陛下」

「ありがとう。では小久保ミノリ首長、議事の進行をおつづけください」

「は、はい」

「──そうか! 瞬間移動のできる者が約半数として、二千五百から五千機のロボットをしのげれば、まだ勝機はあるかもしれない!」タツトが叫んだ。

「どうやってしのぐんだ?」コリンがつっこむ。「それが大変なんだろ!」

「カンゴの話を聞いてなかったのか? ロボットたちがでたら精神感応部隊がいっせいにパイロットの脳を破壊する。それでも機械は銃撃をつづけるだろうが、跳ぶことはできなくなる。そうなれば従来のK109、ドローンとの戦闘と変わらなくなる!」

「なるほど。それならまだ戦えるかもしれない!」コリンがこぶしをかためる。

「俺のおかげだな」不敵に笑うカンゴ。

「苦しまぎれにミサイルを連発されたら?」ショウがいった。

「抵抗活動と並行して、ヒュペルコンピューター『アガサ』を見つける。コンピューターの管理システムさえ破壊できれば、ミサイルは飛ばせない。それどころかコロニーの機能が完全にマヒするぞ。どうだ? ミノリ君!」

「タツトさんは本当にすごい。やれそうな気がしてきました!」

「ただのよろず相談屋なんだがな。でもやるんだ、J国の存亡をかけて!」

「J国の存亡をかけて。タツトさんの意見に賛成の方はご起立願います!」ミノリの呼びかけに対し、八割の者が立ちあがった。腰をおとしたまま、おどおどする者をにらみつけるコリンに、笑いかけるミノリ。

「コリンさん、憶測にもとづく作戦です。反対意見があっても当然ですよ」

「だけどよう……」

「みなさん、過半数以上が賛成のため、作戦を決行します! みなさんは各担当区域にもどり、住民の方々へ計画を伝えてください。そして反対の人は街を去っていただいてもかまわないといってください。でていく人には少量ですが食料を配布しますとも。どこかよその土地で生きのびていただければ、その場所もまたJ国であると!」


 トモロウや代表者が帰ったあと、会議室に残っていたのはミカド、ヒマリ、ミノリ、ショウ、タツトにコリンの六人であった。体力に難のあるカンゴは病室にもどり、シュンは丁種でも戦闘に参加できるよう、ロケットランチャーや手榴弾などの武器を倉庫へさがしにいっていた。

「だけど本当にくさってるな、連合政府ってのは! 手足を切断して機械のパーツにするなんてさ!」まだ怒りがおさまらないショウがいった。「人間のすることじゃない!」

「私もそう思います。金井ショウ首長夫人候補」ミカドであった。「おそらく立案したのは『アガサ』でしょう。これは人の所業ではありません」

「『アガサ』ってそんなに力があるんですか? コンピュターが政府に命令して、やらせてるんですか?」夫人候補といわれて、おもはゆい表情をしながらショウがたずねた。

「命令とは少し違うようです。政府が『アガサ』に依存しているのです」

「陛下。もしかしてJ州の殺戮も『アガサ』の指示ですか?」ミノリが聞くと、ミカドのおだやかなお顔が色をなした。

「ありえます。これまでの人類の歴史には戦争と暴力がつねにつきまとってきました。わが州への迫害もそうしたものの一環、人の所業であると考えておりましたが、政府が独断でひとつの州を消しさる決断をくだしたとは思えません」

「やはり『アガサ』が発案して実行させているということですか……」

「断定はできません。合理的な判断をくだすはずのヒュペルコンピューターが、なぜJ州の廃棄を決めたのか、その根拠が不明です」

「根拠なんてどうでもいい!と思います、陛下。人が、政府が決めたことだったとしても、理由なんて不明なんだ。問題は今のJ国がエムと同等のあつかいをうけているという事実! 『アガサ』さえたたきつぶせば政府の機能はガタガタになるんだろ? え、タツトよ! そうなんだろ?」御前ではあるが、いきどおりをかくせず、思わずいいはなってしまうコリン。

「──陛下、『アガサ』の設置場所をご存じではありませんか?」タツトがたずねる。

「申しわけありませんが。おそらく知っているのは連合政府最高議長であるU州人、マクガファン・スナイダーただひとりです。『アガサ』の所在は代々、連合政府最高議長のみに伝承されると聞いております」

「しかし陛下、整備や調整をする者もいるかと思われますが?」タツトの問いに、ミカドは力なく笑った。

「そうした技術者は自分がなにを整備させられているのかを、わかってはいません。もしくは口を封じられます」

「なるほどです。でも前連合政府最高議長ならば!」

「生きてまともな余生をおくる者はひとりもおりません。ですから最高議長がみずから権力の座をおりることもないのです。脳死状態、認知症などの症状をかかえる者以外には」

「……最高議長の居どころをつきとめるしかないか」つぶやくショウ。

「なんとしてでも『アガサ』をつぶさないと、次はどんな戦略をカチカチと計算してくるか想像もつかないぜ!」コリンがどなる。

「みなさんの意見を聞き、話しているうちに私も気づきました。人類の本当の敵は『アガサ』です!」J国ミカドは宣言した。ヒュペルコンピューター『アガサ』を討てと。

「人間がつくった物のはずなのに……」板垣ヨウスケを思うミノリ。彼も『アガサ』の製作にたずさわっていたはず。だが、もちろん悪意などみじんもなかったはずだ。

「私がまいりましょう。『アガサ』の所在確認に」それまで黙ってたたずんでいたヒマリが口を開いた。

「ヒマリさん。では誰か、コロニー内にくわしい人を──」いいかけたミノリを、人さし指で制するヒマリ。

「衰えたとはいえ、私とてマル甲。この任務は必ず遂行いたします」

「ひとりでいく気ですか?」

「ミノリ、あなたならわかるでしょ? ひとりの方が動きやすいことは」

「……まあ。だけど!」

「あなたをひとりでクナシリや立ち入り禁止区域の原野へと送りだしたとき、ミノリ、私は今のあなたと同じ思いをだいていました」

「ヒマリさん……」

「そして私が信じたあなたは、いつも元気に街へと帰ってきた。あなたが私を信じてくれれば、私も情報をもって無事に帰還できるでしょう」

「……信じています、ヒマリさん。いつだって」

「けっこう」

「ヒマリさん、俺がついていっても足手まといかい? 何度もコンビを組んだ仲じゃないか?」自分を指さしながら、アピールするコリン。

「足手まといです。それにコリン、U州人でありながら、あなたほどJ国を愛してくれる武人はほかにいません。みなとともにこの国の守り、しっかりとお願いします。私が帰る場所をうしなわないように」

「……了解した!」決死の彼女に、おどけて敬礼してみせるコリン。

「ヒマリさん、お願いします」ショウが頭をさげると、全員がそれにならった。

「鮫島ヒマリどの」最後にミカドがお声をかけた。

「はい、陛下」ひざまずくヒマリ。

「どうかご無事で。ご武運をお祈りいたします。私には、祈ることしかできませんから」

「ありがたきしあわせ。必ずや吉報とともに、もどってまいります」

「……いっておいでなさい」

「はい。いってまいります」

 ヒマリは(ひざ)をくっした姿のまま、スィとその場から消えさった。

                             (つづく)


はげみになりますゆえ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。



当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』

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