第三章 ミノリとショウとJ州 6
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「カンゴの考察は的確ですね」ミノリが招集した緊急御前議会の席で、報告をうけたヒマリが、めまいでもおこしたように頭をふった。「気づくことができなかった私が愚かというべきか……」
「ヒマリさんのせいじゃないよ」コリンがいった。「いくら予知ができるったって、エムは万能じゃないんだ」
「お気づかいいありがとう、コリン……」
「だけど、水上カンゴのいうことなんてあてになるのか? 俺らが動揺するのを楽しんでるだけかもしれない」シュンがいうとミノリは即座に否定した。
「カンゴさんの話は現実的です。たとえおもしろがっていたのだとしても、より信ぴょう性があります」
「確かにな……くるかな、やつら」
「きます」苦渋の表情をしたヒマリであった。「街がロボット警官に埋めつくされる光景が、今ごろになって見えました。くやしい! 私はここまでおとろえたのか!」感情をあらわにするヒマリにショウがたずねた。
「ヒマリさん、結果は?」
「わかりません。申しわけないのですが、私にはミノリやカンゴがからむ未来は読めないのです」
「いつきますか?」タツトが聞くとヒマリは首を横にふった。
──ふう、とため息をつく一同。ミカドは静かに目を閉じて、みなの会話に耳をかたむけている。
「だけど、ということは、またミノリが活躍するって話だろ? だったら負けないよ、私たち!」無理にでも声をはってみせるショウ。
「からむのがカンゴの方だったら? 政府高官とつるんで商売していたようなやつだ。この期に乗じて寝がえるかもしれない」タツトがいうとコリンが高笑い、そしてどなった。
「寝がえるもなにも、初めから俺らの敵じゃないか! だから殺しておくべきだったんだよ! ミノリ!」
「内部からJ国を壊しにかかるかもしれないですね」青年団代表の若者がおびえたようにいう。もと住民は、カンゴの恐怖を身にしみて感じているのだ。
「しかし、ヒマリさんの予知で連合政府の攻撃があることは確定しました。そしてきっかけをくれたのはカンゴさんです──」ミノリの言葉をさえぎるコリン。
「バカいうな! 誰だって心のどこかで恐れていただろ、政府側の攻撃なんてよ! わかっていたから講和条約なんてのをつくってるんだろ! あんなのが教えてくれなくともよ! 殺せばいいんだ、水上カンゴは!」
「私も処刑するべきだと思います。予防は治療にまさります」コリンらのさそいで、今回の奪回作戦から役員に参加した元ヤタ区画からの新規住民代表のひとりがいった。彼のところへもカンゴの悪評はとどろいていたようである。
「あの男が街にいるってだけで、本当は怖かったんです! 新首長の判断だから、今までこらえてきたんです!」商業振興代表女性の声がとんだ。
「だけど、首長にもお考えがあるのでは?」中年の農夫代表の男性がいさめる。
「ミノリ……」不安げにミノリを見つめるショウ。
「ミノリ君、ここは決を取るべきところだな。収拾がつかなくなるぞ」ミノリに耳打ちするタツト
「はい……」
「みなさん」ミカドが目をあげた。しんと静まる会議室。「水上カンゴという方を私は知りませんが、いささか主旨が本筋から逸脱しているように見うけられます。ただ不安の矛先を水上カンゴなる者にふりむけているのだとしたら、それはもはや議会とはよべません。愚かな行為であると私は考えます」誰もなにもいえず、短いミカドの詔勅に黙礼した。
「陛下、ありがとうございます。ミノリ、会議をつづけましょう」ヒマリの言葉に一同はハッとしたように顔をあげた。
「そうだね、水上カンゴはまだ両手足も動かせない状態なんだ。今は連合政府の侵攻に焦点をしぼらないとだめだ!」タツトの声にうなずいてみせるミノリ。すでにカンゴが体をうかせて移動可能なこと、観念動力を撃てることなどをミノリは誰にもふせていた。
「いつ、なんどきくるのもかわからない敵にどう対処すればいい? ずっとおびえつづけて待つのはごめんだな……頭がおかしくなっちまう。先手必勝って言葉もあるぞ」シュンがいった。
「だからって兄さん、こっちから仕かけるのは自殺行為だよ」兄に目をむけるショウ。
「確かに。観念動力を使える者を半数近くうしなったんだ、銃火器の数もたかがしれている。シュンさん、これでは先手必敗だよ」タツトは自虐的に笑う。
「あの……政府は核を使ってくるのではないでしょうか?」青年団の若者が立ちあがり、いった。「水上カンゴのいう通り、今、この街には陛下をはじめとするJ国の代表者の方々が集まっています。一網打尽にするには絶好の機会、もし私が政府の人間ならミサイルを撃つと思います」
「だけど州制になったとき、すべての核は廃棄されているはずだぞ」誰かがいう。
「コロニーじゃCO2をださないクリーンエネルギーしか使用しないと宣言していたくせに、化石燃料を平気で使っているような連中ですよ!」反論する青年。
「ミノリやカンゴ、宮下サツキのような人間核弾頭的エムを政府が想定していれば、核を手ばなすとは思えないな……」コリンがいった。「力をあわせれば、ミサイルの軌道を変えることはできそうだけどな」
「何発も撃たれたら?」青年がコリンに問う。
「こっちには対空レーダーもないし、まあお手あげだな」
「首長、私は0番街からの移住を提案します」そういって彼は席についた。みなが首長であるミノリの判断を待つ。そしてこたえるミノリ。
「核は使われるかもしれません。ただし、最終局面に使用されるものだと思います。陛下のおっしゃった龍のような特異な形状をした州土を座布団やゾウリムシのような形に改変するために」
「州土の改変? なんだ、そりゃ?」コリンが首をひねる。
「J国のような不思議な形をした島国がほかにありますか? どの州も横並びにしたい、そして有色人種を見くだしている連合政府の意向に反します。そうですよね? タツトさん」
「確かに」うなずくタツト。
「しかし、だからすぐには核を使わないというのか? どうしてそういえる?」納得のいかないコリン。
「ひとつはヒマリさんの予知。K109の大群に街は制圧されるんですよね?」
「ええ」
「だけど、その、ヒマリさんも予知能力のおとろえを認めていらっしゃいましたよね」商業振興代表の女性が、おずおずと意見をのべた。
「……そうですね」視線をおとしてこたえるヒマリ。
「ほかの理由は?」タツトがミノリをうながす。
「カンゴさんに中継ドローンがくるといわれたとき、ボクはコロニーにいたころ、光学ディスプレイに年がら年中ミュート狩りの様子がうつされていたことを思いだしました。アズ、いえボクの部屋のRA2075型はいいました。人は人類共通の敵であるエムの死を喜んで受けいれる。残酷なショーには州民の需要があると。連中が、ボクらひとりひとりの血を流す姿を全世界に配信しないわけがない。反乱軍であるボクたちをさらし者にしない理由はない。やつらは、申しあげにくいのですが、陛下の最期を、J州の終末を必ず中継する。核を使い一瞬で消滅させてくれるほど、あまくはないと思います」
「なぶり殺しかよ!」議場に声がとぶ。
「だけど、どこに逃げても政府は追ってくるぞ!」
「街に籠城して泥仕合になったら、ミサイルが飛んでくるのか。八方ふさがりじゃないか!」
「われわれはJ州人だ! せめて誇りある死に方をしよう! 自決だ!」
「死んでなんになるの! 私たち大人が子供たちの未来を奪うことはできない!」
様々な思いが乱れとぶ。
「講和条約の草案なんて、無意味だったのか……」肩を落とすタツト。「どうする? ミノリ君」
「無意味ではありません、タツトさん」ミノリがいった。
「しかし……」
「誰かがいいましたよね? 籠城して泥仕合になるかもって。そうなれば交渉の余地が生まれるかもしれない!」
「だが、核ミサイルは!」
「とめます! ボクと観念動力を使うすべての者、それからカンゴさんがとめてみせます!」
「カンゴ!? ふざけてるのか、ミノリ!」肩をつかんでくるコリン。
「ふざけてません! カンゴさんはJ連邦国に入るしかないといいました! あとでボクを殺すかもしれませんが、今は最高の仲間です!」
「いや、ふざけているな……」物音ひとつ立てずに、骨折した手足をぶらさげた水上カンゴが、会議室の中央にういていた。「仲間だ? 笑わせるな」
阿鼻叫喚の議場! 泣き叫び、パニックにおちいる住民代表たち!
「あなたが水上カンゴどのですか?」上座にどっしりと鎮座したままで、ミカドがたずねた。
「はい陛下、謁見がかない幸福のいたり。帝位の継承に、妃として鮫島ヒマリお嬢様を推奨しております水上カンゴでございます」
「は?」カンゴをにらむヒマリ。
「あなたもJ国人なのですね?」お言葉をつぐミカド。
「基本的にはコスモポリタンなんですがね、体が回復するまで俺はどうやらJ国人みたいです。今だけは、期間限定で」
「あなたは核ミサイルをとめられますか?」
「むろんです。が……陛下、そんなことよりお妃候補がもっといい案をもってますよ」ヒマリに笑みをおくるカンゴ。
「どういうことですか? カンゴ」さらにカンゴをねめつけるヒマリ。
「とぼけなさんな、ヒマリさん。前にミノリ君に聞いてたよな? 本物の怪物になれるかってさ」
「たしかに聞きました。それが?」
「シュンもいっていたが、先手必勝をねらうべきじゃないか? こっちからコロニーつぶしを仕掛けて、世界中の州民を惨殺してまわれば、連合政府も考えるさ。講和ってやつをね。それが一番てっとり早い」
「カンゴさん! 陛下の御前ですよ! そんな話は──」ほえるミノリ!
「だからなんだよ! 核ミサイルにおびえて、とめられるかどうかなんて議論をしているよりよほど建設的じゃないか? ミノリ君はたったひとりでJ州コロニーを三つまでつぶしてみせた。この作戦の正しさ、ヒマリさんの提案の正しさは実証済みだろ? 怪物になってみせろよミノリ君。そういうことなら俺は喜んで協力するぜ、仲間になってやってもいい。死ぬ前に、もうひとつ楽しませてくれよ、ミノリ君!」
「ボクは……」口ごもるミノリの前に、ショウが両手を開いて、かばうようにおどりでる。
「ミノリを怪物になんかさせない! 醜い私が!」
「ほう。寝たのか、ミノリ君と。これはシュン兄ちゃんもビックリだな!」
「…………」互いに目をあわせられない、兄と妹。
「カンゴ! コロニーつぶしは最後の手段です!」ピシャリといいはなつヒマリ。「中途半端な攻撃ではらちがあきません、やるからには完膚なきまでに破壊しつくさねば火に油を注ぐだけ。そんな体のあなたが、コロニーつぶし? いくつつぶせるのですか? 点滴や流動食で生きながらえているあなたが何分戦えるというのですか!? 笑わせるな!」ヒマリの権幕に苦笑をうかべるカンゴ。
「……だそうですよ陛下、ヒマリお嬢様はお怒りだ。提案は取り消します。ミノリ君はどうやら怪物になれないヘタレだし、俺は脆弱な役立たずのようだ」いちおううやうやしく首をたれるカンゴ。
「世界中の州民の虐殺とは、やや過激にすぎる意見ではあったけれど、それもひとつの考え方なのでしょう。議論することは正しいと私は思います。そしてこの国を憂う心、保持しようという思いは伝わりましたよ、水上カンゴどの」
「そりゃ、どーも陛下」
「ならば私はあなたを同胞と信じましょう。小久保ミノリ首長、あなたの意見は?」
「カンゴさんは、前首長のジョエルさんがいったんは認めた男です。仲間となればこれほどたよりになる人はいません」
「ミノリ君よ、だから、仲間にはなれねぇといってんだろ! コリンとかいう男は認めないよな? 殺したいんだろ? 俺を」
「……まあな」慟哭のコリン。
「殺したいんだろ? あんたの村を襲い、奪った女子供を売りはらった男なんだぜ、俺はさ。こいよ、コリン!」
「やれ! コリン!」片足のジョーイが叫ぶ。
「あれ? コリンよ……」いぶかしげな顔で視線を落とすカンゴ。
「なんだよ? 水上カンゴ!」
「お前、足デカいな。バカの大足とはよくいったもんだ」あははと笑うカンゴ。
「……今は、期間限定でJ国人なんだな? カンゴ」懸命に気持ちをおさえるコリン。
「ああ、そうだ。で?」
「今は殺さない。お前の力を利用してやる」
「ふん! いいだろう、全部おわったらミノリ君もデカ足も殺す。それでもいいか?」
「おう、やれるものならやってみろ! 全部おわったらな、水上カンゴ!」コリンの青い瞳が火ともえる!
「──ミノリ!」ショウがミノリの目を見た。カンゴ憎しの急先鋒であるコリンが折れた今こそが、決断のときであると。うなずくミノリ。
「カンゴさんもまじえ、戦力は整いました。カンゴさんは早く復調できるよう努力してください」
「努力ねぇ……はいはい。帰って寝てくらすとしよう」音もなく、カンゴは消えた。
「みなさん、ボクたちは連合政府に対し、勝てないまでも徹底抗戦し、必ず泥仕合にもちこむ! 核ミサイルが撃たれても、ボクやコリンさん、ヒマリさんやカンゴさんならとめられる! しかるのち、全力で講和を実現しましょう! よろしいでしょうか、陛下」
「私には政治的発言をする権利はありません。首長が信じる道を進むことをのぞむばかりです」
「はい!」
こうして0番街の小さ小さな議会は、地球連合政府との戦いを選択したのであった。この選択がはたして正しかったのかどうか、それは今は誰にもわからない。
(つづく)
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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』
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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』
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