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第三章 ミノリとショウとJ州 5

       5

「今回は住人の選別はなしという提案をいたします。以前、追放や処刑をなされた方には申し訳ないのですが」今回、生き残った街の役員が集合する廃屋の会議室でヒマリがいった。コの字におかれた長テーブルの中央にはミカドが鎮座(ちんざ)していた。いわゆる御前会議であるといえるだろう。

「もはや街とよべる人数じゃないからな」腕のけがが()えないショウがいった。

「そう、国であるならば、どのような人でも受けいれるしかありません」ミカドの前なのでいささか緊張ぎみのタツト。

「助けてくれたのはありがたいが、心を読めるミュートとは暮らせないという意見もあります」報告したのは、大車輪の忙しさで避難民の世話にあけくれているシュンであった。

「いずれにしても住宅も食料もたりなくなる。難民キャンプをでて、よそで村なり街なりをつくることは歓迎するべきことじゃないか? それからシュン、ここじゃ人間にミュートとよばせるな。俺たちはエムだ」ミカドをあまり深く認知していないコリンはいつもと変わらないように見える。

「なぁコリン、それはわかるけど人間といういい方もどうかな? 私たちエムだって人間だよ」ショウがいうと、コリンもうなずいた。

「まあ、そりゃそうだ」

「話が脱線しているようなのでもどします。ボクはなるべくなら、人とエムが共生できる国をつくりたい。J州人はミカドのもとでひとつになるべきだと思います」

「外州人は? 差別よくなーい」今度の戦闘で片足をうしないながらも、あかるさはなくしていないジョーイがいった。

「ジョーイさん、すみません。ボク、そんなつもりは……」

「それにミノリ君、それは理想論だよ」タツトである。

「ただ、俺たち丁種もふくめて、0番街は人種のるつぼであったことだけは確かだ。時間をかければ一緒にやっていけるんじゃないかな?」これはシュン。

「あまいな。街に適合するやつらばかりを集めた場所だろ? もともと0番街ってのは。いわば選民の街だ。いっておくが、もうそんな連中ばかりじゃないぞ」とコリン。

「食料の備蓄がひっ迫している事実も見のがせません」役員の若者がおずおずと意見をのべた。

「カズヨさんに聞いたけど、けが人が多くて医者も薬もたりないみたいよ」同じく役員の中年女性がつづいた。

「銃を手ばなさない元レジスタンスの男たちがいて、みんな怖がってます」若い女性役員の発言。あたり前のことではあるが、まさしく問題だらけ、山積みである。

「──ひとこと、よろしいでしょうか」ミカドがいった。全員がピンと背筋を正す。

「お願いいたします」ミノリが頭をさげた。

「本来、私は(まつりごと)に口だしせしうる立場にはありません。しかしながら私とて人間、思いも考えもございます。小久保ミノリ首長、よろしいか?」

「もちろんです、陛下」

「ありがとう。私の家は過去何代にもわたってJ州の平和を神に祈りつづけてきました。しかしこれはJ州民だけが健やかであれと願ったことではありません。大昔、蝦夷地(えぞち)とよばれた土地を(かしら)と見たてた列島本土は、水の神である龍のごとく美麗である。まさしく八方を海にかこまれたこの州にふさわしい姿であると考えます」

「ミカドはなにをいってるんだ?」コリンがつぶやくと、タツトがシッ!と口もとに指をあてる。

「これは失礼、U州の方。つまり私はこのJ州に住まう者、そうU州人のあなたもふくめ、この地に住まう者のすべてが健やかであってほしいと願っております。理想論であると笑われてしまうかもしれませんが」当惑したようなこまり顔をタツトへとむけるミカド。

「そ、そんなことはございません!」立ちあがり、直立不動のタツト。

「どうかおすわりください、タツトどの」

「はい、陛下」

「人とミュート、いえエムは、その能力が平等ではない。そのせいで世界中に憎しみがあふれている。こたびのJ州への暴挙も、根幹はその憎しみにあるのだと考えます。その潮流を今はとめることができません。しかし、せめてこの地では、平等ではなき者が対等に語りあえる仕組みを、(まつりごと)をおこなう者が中心となり、はぐくんでいただければと、私はせつに願います。……この街のみなさんになら、私の理想を託せます。なぜならば、生まれも、育った環境も決して平等とはいいがたい、あなた方と私がこうして対等な形で同じテーブルに着いているのだから」ミカドは一同に礼をして、話をおえた。

「陛下、お言葉をいただき、ありがとうございました」ミノリがいうと、全員がミカドへ拍手をおくる。ショウは、前首長ジョエルやミノリと同じ考え方をおもちであると嬉しくなって、ひときわ大きな音で手をたたいた。

「──そうか!」ふたたび席を立つタツト。「昔のイメージにとらわれることはない、立憲君主国ではなく、合衆国、または連邦国になればいいんだ!」

「タツトさん、それはどういう?」ミノリがたずねる。

「つまりわれわれエムとともに暮らせない者、出身州でかたまりたい者、でていきたい者には食料や種、家畜をわけあたえて自由にさせてやるんだ。だが、勝手きままにやられては秩序もへったくれもなくなる。だから各村や街の自治を認めながら、0番街が間接統治して取りしきればいいんだよ」

「それじゃ、ミニ連合政府じゃないか!」テーブルをたたくコリン。

「ぜんぜん違うよ。連合政府は各州ごとの特色を排斥(はいせき)し、どのコロニーも画一的なものにして『アガサ』と警察を使い、直接管理しているだろ? 実は政府はJ州人が部屋にあがるとき靴を脱ぐのも、いまだにプラスチック(はし)を使うのもいやがっているほどだ。ほかの州はスプーンだってね。俺たちはそんなまねをしない。J州各地に分散した者の自由を尊重する。州内で各地の名産品なんかを独自につくりだし、お互いに貿易や取引をはじめられれば生活格差なんてこともおこらなくなる。そのうえで、ゆきすぎや暴走がおこらないよう、間接的に管理するんだよ」

「いいと思うぞ、タツト」今度はタツトへと拍手するシュン。

「ただし、またいつかJ州に危機がおとずれたときは力をあわせてともに戦う。それが条件になる」誰もが不安をかかえていた、連合政府がこのまま見すごしてくれるとは思えないと。

「ボクもタツトさんに賛成です。今の意見に同意される方はご起立願います」ミノリはいうと立ちあがった。そして全員が、ミカドをのぞく全員が起立した。もちろんミカドは異をとなえたわけではない、政治への中立的立場を堅持(けんじ)しただけである。

「みんな、ありがとう。じゃあ早急に食料問題から、ひとつひとつ課題に取り組んでいこうか、ミノリ君」タツトは笑顔でミノリの承認を求める。

「そうしましょう。それからタツトさん、独立宣言文書と連合政府との講和条約の草案、こちらも重要ですが?」

「大丈夫。近日中には第一稿が仕あがるよう、集めた専門家たちが徹夜でがんばってくれているから。俺たちは俺たちの役割をはたそう」

「わかりました」うなずいたミノリは心の中で祈った。どうか間にあってくれと。政府や警察が逆襲に転じる前に。


 会議がおわり、みなそれぞれに重い宿題をかかえて散っていく中、あのあとはひと言も意見をはっしなかったミカドが、ミノリに声をかけてきた。

「小久保ミノリ首長」

「は、はい」

「人心をまとめることに私が役立つのなら、大いに私を利用なさい。この街でならミカドの政治利用も可といたしましょう」

「ありがとうございます、陛下」

「いいえ。J州、いえJ連邦国に生きる民衆のため、ともに働きましょう」

 ミノリはあまりにも(おそ)れおおく、今にも泣きそうであった。


「へーえ、ミカドとコロニーの人間どもを奪還したか……すごいな、ミノリ君」

「いえ、結果的には半数以上の人が亡くなりました。こちらの被害も甚大(じんだい)で。成功したとはいいがたいです」ミノリはまた、カンゴの病室をおとずれていた。

「よくばりだな。半分助かったなら、じょうできだろ?」

「そうかもしれません。カンゴさんのアドバイスのおかげです」

「アドバイス? なんの話だ?」

「いえ……」

「それで独立連邦国家を立ちあげようってか? 俺には理解しがたい発想だな」

「はい……ボクらなんかがおこがましいとは思います、でも……」

「なんだよ?」

「ミカドをいただく以上、やるしかないと……」

「はーん。まあ、がんばれよ。しかし大変だよな、ミノリ君」

「はい。問題が山積みです。こういっちゃなんですが、カンゴさんみたく強権をふるうことも必要なのかもしれないと、ときどき思います」

「そんなことじゃないよ。街の内情なんか興味ない」

「はぁ……」

「ミカドに(きさき)をあてがわないと帝室が滅びるぜ。そうなれば、せっかくのJ国もバラバラだ」

「──大変だ!」目をおよがせるミノリ。

「しかも嫁には男を生んでもらわなきゃならない。一回の出産ですめばいいがな」

「どうしよう……」

(おそ)れ多くもミカドのクローンを造るのか? 頭がいいようで悪いな、ミノリ君」

「ぜんぜん、思いもよりませんでした! さっそくタツトさんに相談します!」

「タツト? あの丙種がお前の参謀なのか?」

「ええ、最高に優秀な人です。でも今、あの人、いそがしいからな……」

「そうか……よろず相談屋のタツトは最高か」

「はい、最高です」

「俺の仲間に入れておけばよかった。そうしたらお前なんかに負けなかったかもな……俺は丙種をあなどっていたらしい」

「ひとつの力しかなくても、最高な人はたくさんいますよ。カズヨ先生とか」

「ふん! ところでミノリ君よ」

「はい」

「俺はヒマリさんを推薦するな」

「なににですか?」

「もちろんミカドのお(きさき)さまにだよ」

「ぇええ!」

「驚くことないだろ? ほかにいるか? あれほどの女が」

「……ちょっと、思いつきません」青くなるミノリ。

「バツイチなのは気がかりだが、いそがないと子供を産めない年になっちまうぞ」

「…………」

「あほう。冗談だよ」

「え?」

「なにしにきた? お前は俺になにを求めている?」

「はい……実は……」

「簡単すぎたか?」

「……そうなんです、簡単すぎました。そりゃ多くの犠牲者をだしましたが……それでも」

「不安か?」

「はい。カンゴさんがいっていた、政府がかこっているというエムも、まったくでてきませんでした。わざと逃がしてくれたとしか思えなくて」

「そりゃそうだ。全世界を牛耳る連合政府を相手にして、お前らなんかが勝てるわけがないよな」

「はい……」

「誰にもいえなくて、悪の象徴たる俺のところへきたと?」

「はい」

「完治したら、絶対、殺す」

「はい」

「……避難民のチェックは全員すませたのか?」

「いえ。数が多くて手がまわりません」

「瞬間移動使いの政府のスパイが相当数まぎれこんでいただろうな。もういないだろうがよ」

「0番街の所在地を確認しにきた?」

「下級のエムは一度いった場所にしか跳べないからな。いい、ご案内ができたんじゃないか?」

「…………」蒼白になるミノリ。

「人類の敵であるミュートと結託(けったく)したJ州民とミカドは、虐殺してもかまわないんだという世界世論にむけての大義名分、免罪符、正義を連合政府側にあたえただけというわけだ、ミノリ君らのしたことは、結果として。これは笑えるな」

「…………」

「J州民もエムも、ミカドも、ひとところに集合した。J州を根絶やしにするにはもってこいのシチュエーションの完成だ。中継ドローンも続々とくるぜ、愚かしい反乱分子、J州の末路を撮影にさ!」

「…………」

「だからいったじゃないの? 兵隊は全滅させても、俺の看病をする女くらいは残しておけよってさ。今は()()()()()をしている場合じゃないんじゃないか? ミノリ君よ」

「そうですね」

「まあ俺も、この病院に世話になっている以上、今はJ連邦国に入れてもらうしかなかろうがな」

「はい……」

                       (つづく)


はげみになりますゆえ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。



当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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