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第三章 ミノリとショウとJ州 4

       4

「いきます!」クサナギ区画周辺の地からミノリが跳ぶと、J州奪還作戦が開始された。

「総員、コロニーに集中!」ヤタ区画付近で待機しているタツトが思念を飛ばす。

「ミノリ、たのむぞ!」星ふる砂浜で、ヤサカニ区画担当のコリンは胸で十字を切った。

「ミノリ……」ミノリが消えたあと、クサナギ区画のドーム型コロニーを見つめるショウは、両手を組みあわせて、やおよろずの神々にひたすら願い、祈っていた。ミカドとJ州、そしてミノリをお守りくださいと。


 まずクサナギ区画内に跳んだミノリは、自身がアズと暮らしていた五番街の団地がゴーストタウンと化していたことに衝撃をうけつつも、空を()き監視ドローンにミュートが現れたことを強く印象づけた。そしてすぐさまヤタ、ヤサカニ区画と連続して跳び、同じことをやってみせ、またクサナギ区画へもどり、一番街、無人の高層ビルに観念動力をぶつけ、なぎ倒した。そして巻きあがる噴煙の中、攻撃ドローンとK109が出撃してくるなり、ふたたびヤタ区画へ跳び、すでに州民によるレジスタンス活動で半壊していたヤタ州庁を爆破した。瞬時にヤサカニ区画へ跳ぶと、連合警察が同時多発テロ事件と判断したらしく、待ちかまえていたかのように戦闘ヘリに搭載されたロボット警官がねらい撃ちをしてきた。かつてカエサルの出現地点を予想し、処刑に追いこんだヒュペルコンピューター『アガサ』がミュート、ミノリの行動を一瞬にして計算したのだろう。しかしミノリは経験則で機械の攻撃の正確さを知っていた。正確ゆえに予知できることを知っていた。身をよじり、すべての砲弾を見切り、かいくぐり、または弾玉の弾道をねじ曲げ、ミノリはヤサカニ区画の第一陣ロボット警官部隊を観念動力で大破してのける。もはやミノリにはあいまいにゆれ動く、予想もつかない人の心のようなものをもたないロボットなど敵ではなかった。かつての親友、RAのアズに教えてやりたかった。逃げだそうとしていたかと思えば、急に義憤(ぎふん)にかられてみたりする、合理的ではない人の感情、その起伏の激しさを。愚かしい人間の(いと)おしさを。ミカドの存在意義が不明だといったアズに、在Jのショウが教えてくれたJ州人のもつ誇りについても話してやりたかった。コリンやジョーイ、U州の男たちも賛同してくれたJ州人の心意気についてアズと語り合いたかった。そしてミノリは、ヤタ、クサナギ、ヤサカニ、三区画の強化ガラスのドーム天蓋(てんがい)を、ほぼ同時に観念動力と発火能力でつらぬいた! 


「動いた!」噴きあがる爆炎を確認した、ヤタのタツトが叫ぶ!

「合図だ! みんな、いくぞ!」立ちのぼる火柱を見て、ヤサカニのコリンが跳ぶ!

「出陣だ!」クサナギのショウが号令をはなつ!


 三区画周辺に展開するJ州0番街のエム部隊がいっせいに動きはじめた。ミノリがドームの足もとを破壊すると、あらかじめ計画を伝えられていたコロニー内の州民が怒涛(どとう)のごとく、その脱出口へと殺到した。中にはウィルスや放射線を恐れ、防護服やマスクを着用している、または銃をふりかざす富裕層の者もいたが、ほとんどが連合警察の殺戮から逃げのびてきただけの、着のみ着のままの人ばかりであった。


 さわぎをおこし、連合警察の関心を引きつけ、その間にJ州民を脱出させるというミノリの計画第一段階はいちおうの成果をあげた。この先は信頼するタツトやコリンの救出活動にまかせるよりほかはない。脱出口から飛びだしてくる攻撃ドローンやK109が、逃げる人々や助けようとする0番街のエムたちを殺すだろう。死傷者がたくさんでるだろう。半数しか助からないだろう。しかし、ミノリは前へ進むしかない。

「ショウ、待っててくれ!」ミノリもやおよろずの神に彼女の生を祈り、作戦の第二段階、(とら)われのミカド救出のために銃弾をよけながら、クサナギ区画、特Aクラス監房へと跳んだ。


 人を人格をもつ個体としてでなく、集合体である固形物であると認識することで、一度にひとりていどしか、ともに瞬間移動ができないと思いこんでいた能力者たちの概念をくつがえす提案をしたのもミノリであった。カズヨとともに拘束ベルトをつけて跳んだ経験がここで生かされたのである。ミカドの蟄居(ちっきょ)先をヒマリがさがしている間、彼らは人ではなく物を搬送するのだと割りきることで、一度に数十人とともに瞬間移動することをおぼえ、鍛錬(たんれん)していた。そう思いこむための、自転車でいえば補助輪として長めの拘束ベルトが大量につくられた。男も女も、街の丙種、丁種が総動員されて製作にあたった。奪還作戦の瞬間移動で、コロニーの住民をひとりでも多く助けるという目標をかかげて。

 そしてそれは役にたっていた。もはや戦場では役目のおわった精神感応能力者、千里眼保持者と、コロニー脱走者を拘束ベルトでまとめて運ぶ瞬間移動能力者たち。しかし、拘束ベルトを巻きつける役割をになう観念動力保持者がロボットの攻撃で次々と倒れた。または人々をベルトで拘束しながらも、跳ぶことに失敗する者もいて、これも十把ひとからげに殺傷された。散乱する肉片、くだける頭蓋、三区画の周辺はさながら地獄絵図と化していた。

 ヤタ区画で指揮をとるタツトは精神感応しかもたない丙種であるが、現地に残り瞬間移動をする者の心をささえ、叱咤(しった)していた。

 ヤサカニ区画のコリンは、仲間に(げき)を飛ばしつつ、みずからも跳び、人々を0番街へと搬送していた。

 街で待機する片腕しか使えないカズヨ、助手のポリーナは運ばれた者の中の負傷者の手あてに奔走(ほんそう)し、その救護活動を助けるシュンも、ヒマリまでもが激しく声をあげていた。

 ショウは、ミノリを待ちつづけている。ミノリがミカドを連れて現れるのを待っている。アリのように現れるロボット警官やドローンを撃ちおとし、撃破しつつ。J州ミカドとの謁見(えっけん)を、やり遂げねばならない使命を胸に、撃たれた腕の痛みをこらえ、機械の群れと戦いつづけながらミノリの帰還を待っていた。


 ミノリは監視カメラを壊しながら進み、透視、暗視、千里眼などを駆使して特Aクラス監房内の探索に集中していた。まだ被弾こそしてはいないが、肉体ではなく、だしおしみなく力を使用したことで、神経の疲弊(ひへい)がミノリを追いつめはじめていた。ミカドがおわす独房が見つからないのだ。ヒマリが特定できたのは、この監房のどこかにミカドが(とら)われているという情報までであった。ミノリの中で疑念が生じる。もしかしたら、ここにはいないのかもしれない。ヒマリさんが、()()間違えたのかもしれない……。宮下サツキの本性を見ぬけなかったように……。あまり時間をかけると、待たせているショウが殺されてしまうかもしれない。ショウが死んだりしたらボクは……。ジャッ! 薄暗い通路を飛んでいたミノリの足を銃弾がかすめた。落下したミノリは床に(ひざ)をつくと瞬時に数台のK109の背後に跳んでピンポイントで観念動力を撃ち、できるだけ静かに動きを停止させた。まだ監房内の管理室には現在位置を把握されていないらしく、でてくる敵はたまたま警備巡回していたロボット警官とミニサイズの攻撃ドローンばかりであった。

「油断すると、すぐこれだ……ダメだな、ボクは……」血のにじむズボンを見ながらつぶやくミノリ。──ふふ、これが心の弱さか。またヒマリさんに怒られる! カンゴさんやサツキさんとやりあったことを思えば、こんなの大したことはない! さがせ! ミカドを! 思考を読むんだ、ミカドの思考を! 集中しろ! ヒマリさんが間違うはずないんだ! 

 しかし、読むことができない。あせるミノリ。──ミカドもエム? サツキさんなみの超マル甲なのか? それとも高貴な方は心を無にする(すべ)を心得ておられるのか? ミニ攻撃ドローンの大群を、音もなく撃ちおとしたミノリは仕方なく最後の手段を使う。

 

“ミカド、いえ陛下(へいか)、どちらですか? 生きておられますか? ボクはエム、ミュートですがJ州民です。救出にまいりました”


 広範囲、全方位へむけて思念をはなつミノリ。監房内に人がいれば誰の頭にもとどいてしまうメッセージである。カンゴがいったように、連合政府が洗脳されたエムを傭兵(ようへい)として飼っているなら、たちまちこちらの居どころを察知されてしまうだろう。


“──あなたはJ州民なのか?”


 ミノリの脳に男性の低く、おごそかな声が響いた。先日のゲリラ放送で聞いたばかりのミカドのお声であった。


“はい! ほかのJ州の人も救出中です。陛下! 今どちらです?”

“私のことはよい。州民の生命保持を優先してください”

“ボクの仲間がやってます! 陛下がうしなわれれば、この州はおわります! どこですか! 陛下!”

“……コロニーの上空のようです”

“上空?”

“こたびのあなた方の争乱に対し、連合政府は見せしめのために私の公開処刑を決めたようです。今はどこかよその州へと移送されています”

“ボクらのせいで……”

“それは違います。いずれにせよ、政府は私を亡き者にしたでしょう。しかし案ずることはありません、あなた方のような勇気ある州民がいるかぎり、J州は滅ばない。私なら大丈夫、すでに覚悟はできています”

“だめです! すぐいきます!”


 ミノリは特大の観念動力をはなち、特Aクラス監房のぶ厚い壁に大穴を開けると、ビュンと大昔の戦闘機なみの初動速度で飛びたったが、危うく首がもげそうになり、速度を調整しつつ自身が破壊したクサナギ区画の天蓋の(けつ)(げき)から上空へとでた。そして千里眼を使い飛行物をさがす。

「いた! 東だ!」ミノリの脳はこちらへむかって飛ぶ、おそらく各州からの援軍であろう戦闘ヘリの中に、何機かの逆方向へと飛翔する機体をとらえた。そして透視能力でミカドが搭乗する連合警察のヘリコプターを発見することができた。ほかに数人の男女警察官の姿と、腕や足のパーツを折りたたんで待機するロボット警官、十機を確認した。もちろん撃ち落とすわけにはいかない、ミノリはヘリの内部へと一気に跳んだ!

「陛下!」機内に現れて、ミカドを呼ぶなりK109三機が飛びかかってきて、手足をつかまれ、そのままヘリの外へとほうりだされるミノリ。三機の重量がのしかかり、すさまじい勢いで落下が加速していく。K109は、空中でミノリの腕や足を引きちぎりにかかった。アームマシンガンの掃射をうけるであろうとは予想してヘリの機体に飛びこんだミノリであったが、まさか自爆覚悟の肉弾戦を挑まれるとは考えもしなかった。

「くそ!」おのれのうかつさに声をあげたミノリはひとにらみすると、三体のロボットの肩にあたる部位を爆破、逆に腕をもいだ。さらに観念動力で指のパーツを引きはがす。飛行能力はもたないK109は、そのまま太平洋へと没していった。奇襲に失敗したミノリは、ヘリの付近まで跳ぶが、今度こそ宙をゆくミノリに対し機銃掃射をかけてきた。細かく瞬間移動を繰りかえしてこれをかわしつつ、いよいよもってミノリの神経は限界をむかえていた。目がかすみ、観念動力で体をうかせることが困難になりはじめたのだ。しかし、ここでボクが落ちればJ州がおわってしまう! ミノリは自身にいい聞かせ、K109が機銃を撃ってくるヘリの側面へと小さな観念動力を数発はなつ。ヘリがガクンとかたむき、数体のロボットが落下したが、またすぐにでてきた後続の三本足を遠隔でなぎ倒し、海上へたたきつけた。K109をすべて倒したミノリは、ふたたびヘリコプターの内部へと跳んだ。

「動くな!」ミノリは六人の警察上層部の者らしき男たちに取りかこまれ、いっせいに銃をむけられた。はっきりいって彼は、そんなものは怖くはなかったのであるが、七人目の女が、拘束されアイマスクと猿ぐつわをかまされたミカドのこめかみに拳銃をつきつけていた。 

「あんたか……」つぶやくミノリ。彼女は連合警察最高司令長官クラーラ・アインホルンであった。

「J州の汚らしいミュートめ! どんな魔法を使う気だい?」彼女らの言葉は少しなまりのあるU州語であったが、コリンと初めて会話したときのように感情の流れから、内容を理解することだけはできた。「あんたの魔法と私の指先、どっちが早いかしら?」ゴリッと拳銃をミカドへ押しつけるクラーラ・アインホルン。

「…………」ミノリは黙って両手をあげて、抵抗の意思がないことを伝える。

「やってくれたな、ミュート。この私に恥をかかせやがって!」 

「…………」さまざまな攻撃パターンを脳内でシュミレートするミノリ。ヘリの操縦席を透視してみる。遠隔でパイロットを倒せば機体がゆれて、あるいは突破口が開けるかも……だが、はずみでミカドが撃たれてしまう可能性が……。

「これからお前を殺す。いっておくけど、瞬間移動で逃げたらミカドの命はないよ」

「…………」うなずいて見せるミノリ。観念動力でクラーラ・アインホルンの首を折ることも、銃をもつ手首をねじ切ることもできる。しかし脳神経が衰弱している今、万が一タイミングをはずしたら、目測をあやまったら、取りかえしのつかないことになる。……ここでミカドが生き残れば、ヒマリさんが指揮をして救出に乗りだしてくれるかもしれない。もはや、そこにかけるしかない。ショウ、ごめん。ボクはここまでだ……。

「両足、両腕、腹、耳、目、最期に頭を撃ちぬけ」クラーラ・アインホルンがいうと、男たちが銃をかまえなおす。「左遷されるうらみを存分にはらしてあげる。断末魔で、無意識に力が暴走したとしてもミカドは死ぬよ。だからたえなさい、誇り高きJ州のミュートらしくね」フフフと笑みをうかべるクラーラ・アインホルン。

「…………」ミノリは静かに目を閉じかけた、そのとき──クラーラ・アインホルンのもつオートマチック・ハンドガンの台尻(グリップ・エンド)からストンと弾倉(マガジン)がすべり落ちた。

「え!?」足もとに転がった弾倉に一瞬、目がいく彼女の首が後方に吹っとび、ミノリの周囲にいた男たちが、突然その場に倒れふした。わけがわからないまま、あわてて身動きのとれないミカドをささえたミノリが見たものは、得意げに唇をゆがめたショウの姿であった。

「ショウ!」ミノリは泣きそうになった。

「ミノリ! 早く陛下を!」いいながら、操縦席のパイロットにむかって観念動力を撃つショウ。ミノリはミカドの拘束を瞬時にときはなつと、一礼し敬意を表した。つづきショウも直立不動の体勢から(こうべ)をたれた。

「私などのために、すまなかった。礼をいいます」ミカドもふたりに頭をさげるが、操縦士をうしなったヘリコプターは、どんどん高度をさげている。あいさつもそこそこに、跳ぼうとしたショウが、くずれるように片膝をついてしまった。

「どうした、ショウ! 腕、撃たれたんだな、痛むのか?」

「いや、いささか神経の方が……マガジンキャッチ一点にしぼって、観念動力を撃ったからさ」マガジンキャッチとは、ハンドガンの弾倉を脱着するボタンスィッチのことだ。

「そういうことか」だから突然、クラーラ・アインホルンの銃から弾倉がぬけたのだ。そのうえショウは、居合いぬきのように素早く敵を倒している。ヘタをすればミカドを傷つけかねない勝負にでたのだ。どれほど神経が摩耗したことか、その集中力はすさまじいものであったに違いない。

「カズヨ先生の人工角膜のおかげで照準あわせはバッチリだった。でも、たまにはやるだろ? 私もさ」

「ああ、すごかったよ」ミノリはふらつくショウを抱きしめ、そしてミカドへと手をのばした。「陛下、おそれながら、ボクの手をお取りください」

「わかりました」ミカドはミノリの右手を、両手でかたく握りしめた。


 クサナギ区画のJ州民のコロニー脱出作業は、ほぼ最終局面をむかえていた。押しよせるドローンを撃ちながら瞬間移動を支援する観念動力能力者たちも、だいぶ数がへり、その分、死体の山がきずかれている。むろん跳びきれなかった、もしくは逃げられなかった者たちの肉片も周囲に散乱していた。火を吹いてクズ鉄と化したロボット警官、戦闘ドローンの残骸も人間たちに負けす劣らず散らばりおちていた。そんな戦場へとミノリは跳び、もどってきた。ミカドをふくめる三人は大破した戦闘ヘリのかげに身をかくした。

「ショウ、陛下を連れて跳べるか?」

「ミノリ、誰にいってる? あんたこそ大丈夫なのか?」

「ショウがきてくれた。元気でたよ」

「はは、当然だな」鼻の下をこするショウ。

「ショウ、いく前に教えて。どうして、あのヘリがわかったの?」

「陛下に語りかけるミノリの声が私にも聞こえた。それで、作戦と違うけどコロニーに私も入っちゃってさ。飛んでいくあんたを見たの。あんた早すぎてさ、なかなか追いつけないから、あせったよ」

「そうか。でも間にあってくれた、ありがとうショウ。じゃあ、いってくれ」

「私にもひとつ教えてください」ミカドがいった。

「なんでしょう、陛下」こたえるミノリ。

「州民の救助活動がおこなわれているのは、この区画だけですか? でしたら私はおめおめと逃げだすわけにはいきません」ミカドの目には断固たる決意が見てとれた。

「ヤタ、ヤサカニでも救出作戦は同時に展開しています。どうかご安心ください」ミノリがいうと、ショウが捕捉した。くやしそうに顔をゆがめて。

「全員を救うのは、私たちの力ではとても無理ですが……」

「そうですか。それでも、よかった!」ミカドは心から嬉しそうに微笑(ほほえ)んだ。「私はミュートの存在を誤解していたようです。どうか許してください……ありがとうございます」

「……陛下、お手を」ミカドのお言葉をかみしめ、ショウが手をのばす。ミカドは黙って彼女の手を取った。「死ぬなよ、ミノリ!」何度となく口にした言葉を残し、ショウが0番街へと跳んで、ミカドとともに消えた。

「──しゃあ!」ミノリは両頬をたたき、気合いを入れて目をあげた! 計画の第三段階を実行するために。

 第三段階とは、連合政府のつくりあげた無意味なドーム型コロニー三区画を完全に破壊しつくすことであった。ウィルスも放射能汚染もなく、J州はすべての土地が居住可能の状態にある。州ではなく、国として独立するためには連合政府の建造物は排除する必要があった。もちろんソーラーパネルなどのエネルギー供給施設は残すにしても。

 ミノリは自分を笑った。先ほどまではあれほど疲れきっていたのに精神が安定し、力がみなぎっているからだ。ミカドに謁見したことと、ショウが助けにきてくれたせいであるのは間違いない。つくづく人間の心とはいいかげんなものだと自身を笑った。そしてまずはクサナギ区画に侵入し、逃げおくれた人がいないかを確認、動けないけが人や病人を救出部隊に託したうえで観念動力を飛ばし、強化ガラス製ドームをささえる無数の天柱を根もとから打ち倒し、これを崩落させた。キラキラと戦火の照りかえしをうけてくずれゆく、かつて故郷であったコロニーに一礼したミノリはつづいてヤサカニ区画へと跳んだ。もともと居住者が少なかったせいか、すでに救出活動はおわっているようで、ドローンやK109ばかりが無人のコロニーを跋扈(ばっこ)していた。おそらくはコリンのことだ、予定にはない行動であるが、動けずにいた人々も決死隊を編成して救助にあたってくれたに違いない。ミノリは心おきなくドームを破壊した。

「私らのことは捨ておいてくれ!」そう叫んだのは最後に跳んだヤタ区画の数人の老人たちであった。ミュートなんぞの情けはうけない、この土地で死ぬのだと。多くの人が夏祭りのミュートのテロで家族を亡くした者であった。心からミュートを憎んでいるのだと動こうとしなかった。ほかにも連合警察の職員や、政府の恩恵をうけている富裕層の者など、やはり住宅からでようとしない者が何名も残っていた。三区画の中でもヤタは人口数が一番多いので、さまざまな考え方をもつ者がいるようだ。けが人や希望者をいったん戦闘がつづいているコロニー外へと連れだしたミノリは、ヤサカニ区画から応援にきていたコリンやタツトに相談をもちかけた。

「死にたいやつは死なせてやりゃあいいんだよ! ただでさえ忙しいんだ!」そういいはなって、コリンは銃弾をよけながら拘束ベルトでまとめられた人々とともに跳んだ。

「ミノリ君、コリンのいう通りだよ。あまり時間をかけると、こっちが全滅しかねない。もう半数以上がやられているんだ」流血をおして、なお陣頭指揮を取りつづけるタツトにそういわれては、ミノリも反論できない。

「わかりました……もう一度、説得してだめならあきらめます」

「それがいい、ミノリ君。エムを受けいれられない人間とは仲間になれない」

「同じJ州人なのに、悲しいですね」いいながらミノリは戦闘ドローン二機を落とした。

「現実的でなけりゃ、国はつくれないよ。残念ながら」

「はい……」

「まあ人がいるのならガラスドームは落とさなくていいよ、ミノリ君」

「そうですね」ミノリはうなずくと、再度、説得のためにコロニーの中へと跳んだ。

「──それにこれからが大変なんだよ、首長」タツトはつぶやくと、ガレキにつまずいて泣いている子供の救助へと走った。

 さらに一時間後、明け方近く、三区画すべてのJ州奪還作戦は終了した。そしてヤタ区画のドームを結局、ミノリは怒りをこめてたたき落とした。二度目の説得に入ったとき、残っていた住民すべてが、K109の襲撃をうけて全滅していたからである。

                          (つづく)


ブクマ三つ目いただきました! ありがとうございます。


はげみになりますゆえ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。



当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』

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