第三章 ミノリとショウとJ州 3
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コロニー襲撃とコロニーからの新住民受け入れ態勢の準備は、街をあげて着々と進められていた。ミュートと呼ばれ、差別を受けた記憶の新しい者の一部には、ミカドはよしとしても、コロニー内の住民救出には反対の声もあがったが、ミノリら役員の説得と、よくも悪くもなくなることのない住人同士の同調圧力がこれを解決した。結果、0番街はひとつの目標にむかい走りはじめた。
ミカドの拘束場所がクサナギ区画内の特Aクラス監房であることをつきとめるのには四日かかった。このことについてヒマリは、ミノリらに謝罪した。約束より一日多くかかってしまったと。一方、一般州民やレジスタンスのリーダー格の者と精神感応で対話をすすめていたコリンらは、予想されていた通りエムであることで反発をうけたが、このままでは州民は全滅、J州そのものが滅びるという彼らの粘り強い呼びかけと、ミカドの救出を約束することで信頼と賛同を勝ち取ることに成功していた。必ず脱走させるから、できるだけ警察に抗うことなく生命維持を最優先として、次の連絡を待てと三区画で生き残っているすべての住民へメッセージをとどけることができた。ただし計画実施の日時や詳細については伏せ、直前に伝えることとした。連合警察に通報する裏切り者が現れたら、ミノリにかかる負荷が重くなりすぎるからである。
決行の夜、いつもの広場。元住民約五百名、コリンの村からきた住民約百五十名、全国からつのられた協力者約千五百名を前にして、簡易的に設置された檀上へとミノリは立った。
「みなの思いはひとつです。ミカドをお救いし、ひとりでも多くのJ州民の命を助け、守る! これがこの地でエムとして生まれついたボクらにあたえられた使命です! 今こそ、それぞれの能力を遺憾なく発揮するとき、みなさんの活躍を期待します!」
むろん中にはたくさんの外州人もいたが、不満の声をあげた者はいなかった。誰もがこの土地で生きると決めているからであろう。ミノリは人々を見わたし、演説をつづけた。
「それからひとつ、みなさんにお願いです。危険だと判断したら、かまわず逃げてください。無理はしないでください。なによりも自分の命を惜しんでください。それを責める者はこの場にはいません。そしてできれば、ひとりも死なないでください。以上です」ミノリが頭をさげると、集まった人々はオーと声をあげてこたえた。
「では、十分以内に陣形にしたがい、それぞれの配置についてください! 街に残る者は子供らを守り、引きつづき受けいれ態勢の整備をお願いします!」タツトの号令で救出部隊が動きはじめ、深夜の広場は喧噪につつまれる。戦力は三つにわけられ、一番人口の多いヤタ区画に七百五十、クサナギ区画に六百五十、ヤサカニ区画には四百がわりあてられた。それぞれのコロニー周辺で部隊は待機、侵入したミノリからの合図を待つ手はずとなっていた。
「ミノリ、演説カッコよかったぜ」クサナギ区画の陣形に入るショウが笑った。
「よしてよ。ジョエルさんみたくしゃべれないフリでもしようかな……」恥ずかしそうに照れ笑いするミノリ。
「──死ぬなよ、ミノリ。あんたが死ねばJ州は、そのサードアイみたく形だけの残骸になっちまう」ミノリの額、形骸化したサードアイの痕をつついて笑みをみせるショウ。
「予定通りミカドはショウに託す。それまで、ショウこそ死ぬなよ」
「わかってる。ミノリ、女をあまり待たせるな。浮気するぞ」
「弟分にはもどりたくないよ」
「はは、それからミカドのことは、陛下とお呼びするんだぞ。間違ってもミカドなんて呼びてするなよ」
「陛下か……そうだね。ありがとう、ショウ」
「ああ、緊張する、ちょっとトイレいってくるな」
ミノリが手をあげて笑うと、ショウは去り、ヒマリとカズヨが現れた。
「ミノリ、やはり戦力的には私もいくべきではありませんか?」ヒマリがいった。
「もしもの場合、ヒマリさんが残らなければ街は空中分解します」
「いいでしょう。ただし、もしもの場合など私は許しません」
「わかりました」
「ミノリ、また私があんたの目になろうか?」包帯が取れない腕で、ミノリの手をとるカズヨ。
「カズヨ先生は病院でポリーナさんとスタンバイしておいてください。あまりいいたくないけど、重傷をおう者が多数でると思いますから」
「そうだよね……がんばって! ミノリ」
「はい──」とこたえかけたミノリに、背後からヘッドロックをかける太い腕があった。
「ミノリ、なんで俺を連れていかない!」シュンである。
「それは何度も説明したはずです。く、苦しいです、シュンさん」
「丁種じゃ役に立たないってか?」
「違いますね」ヒマリがこたえた。「いざというとき、街と女子供を守るために銃火器をあつかえる者が必要だからです。納得いきませんか? シュン?」するどい目をむけるヒマリ。
「納得してます……」シュンはミノリの首から腕をはなすと、握りこぶしをかためた。「すまないな、ミノリ。いつもお前ばっか危ない目にあわせてよ……」
「シュンさん、そんなことありません。街をしばらくたのみます」
「まかせろ!」シュンは泣きながらミノリと握手をかわした。
「そろそろいくよ、ミノリ君」タツトとコリンまでやってきた。
「首長、合図はハデにたのむぜ!」ミノリの肩をたたくコリン。
「はい。コリンさんこそ、そのデカい足にさえぎられて見おとしたなんてやめてくださいよ」
「……そんなに足、デカくねぇし! そんなにデカけりゃ連合警察もクラーラ・アインホルンも一撃でふみつぶしてやるよ! J州の昔の映画の怪獣王みたいによ!」ミノリとカンゴの戦いで、荒れた大地をデカ足でふみならすコリン。
「ちょっと! なんだよ、みんなそろって!」トイレからもどったショウが不服を申したてる。
「ショウにはちょっと聞かせられないミノリ君の過去の女の話をしていてね」ふくみをもたせ、意地悪く笑うタツト。
「なんだよ、それ! なんだよ、おい、ミノリ!」
「え? は? 違うよ、ショウ!」逃げるミノリ、わめきながら追いかけるショウ。
声高に笑いあう一同。誰もかれもが不安と恐怖を噛みころし、懸命に笑っていた。
(つづく)
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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』
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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』
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