第三章 ミノリとショウとJ州 2
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「なるほど。こうなることを見こして、俺を生かしておいたのか? だが手助けはしないぜ、ミノリ君よ」病室のカンゴは複雑骨折した腕や足はまだ動かせないものの食事がとれるようになり、顔色が少しよくなって体を宙にうかせていた。
「見こしてなんかいません……これからどうなるのかも、わからない」
「あのなぁ、不安になると俺のところへくるの、やめないか?」
「すいません」
「シュンのやつが子供らを集めて軍事教練をしてるんだって? 怖い街になったものだな、0番街も」
「街の子供はクナシリやエトロフからきた子もふくめてほぼ全員が丁種です。最低限、身を守る方法を教えているだけです」
「ロボットやドローンに拳銃で立ちむかうのか? 滑稽だな」
「ボクもそう思います」
「しかし、よく決断したな、ミノリ君。つねに受け身の男がさ」
「今回だって受け身ですよ」
「ははは、こんなのがリーダーじゃ、街の連中が気の毒だ」
「本当ですよね……カンゴさんなら、三区画をどう攻略しますか?」
「知るか。俺、こんなのに負けたのか、腹立たしい!」カンゴの観念動力が突然、ミノリにはなたれた。しかしミノリは、その力を受けとめ、ねじ伏せ、消しさった。「くそ!」
「本気をださないでくださいよ、カンゴさんに本気で撃たれたらボクは即死です」
「よくいうよ……」
「それに病室で暴れたら、追いだされますよ」
「ふん。兵隊はどのていど集めたんだ?」
「兵隊……そんないい方はやめてください」
「うるさい。跳べるやつは何人いるんだ?」
「街の人とあわせると、約六百名です」
「千里眼と観念動力の使い手は?」
「ダブりもありますけど、千里眼が三百八十、観念動力が九百です」
「ははは、たったそれだけか。三区画あわせてJ州人口三千万人、いや虐殺で四割減か、今は一千八百万てところだな。そんな戦力でどうやって脱走させるつもりだ?」
「そうなんですよね……もう少し集まるかと思ったんですけど……」
「──俺なら、コロニーへはひとりでいく」
「ひとり?」
「ああ、ひとりだ。うぞうむぞうのザコどもなんて足手まといになるだけだ」
「ひとりか……」
「もう帰れ。あくまで仮だがお前、首長なんだろ? こんなところでウダウダしてるな、みっともない」
「はい」
「そうそう、兵隊は全滅させても、俺の看病をする女くらいは残しておけよ」
「……ありがとう、カンゴさん」
「作戦を変更する!?」すっとんきょうな声をあげたのは、タツトである。
「はい。コロニーにはボクひとりで入ります」ミノリがこたえる。
「無茶だ!」会議テーブルの天板をバンとたたくショウ。
「強いとはいっても、カンゴもサツキも相手はひとりだった。今回ばかりはわけが違うぞ、相手は機械の大群なんだ! ミノリ、お前、思いあがるな!」シュンも強い口調で反対をとなえる。
「シュンのいう通りだ。わざわざ死ににいく気か?」興奮するシュンをおさえながらコリンがいった。
「それはコリンさん、あなたの方です。ショウも」
「どういうことだ?」ギロリとミノリをにらむショウ。
「コロニーに入れば何千何万というK109やドローンの攻撃を受けることになる。死にますよ、ふたりとも。確実に」
「だから数で押すべきなんだろが!」
「コリンさん、数は思うように集まりませんよね?」
「……それは、すまんと思ってる。腐りきっちまった者やコロニーにトラウマをかかえちまった野郎ばかりでな」
「だけど集まった人たちも、街の人も、みんなJ州を、ミカドを思う気持ちは──」ショウの言葉をミノリがさえぎった。
「それはわかってる! だから死者は極力だしたくないんだ!」
「だからって……」
「ミノリ、私も人集めに関しては責任を感じています。しかし、本計画には仲間との連携が不可欠だと考えますが?」ヒマリは言葉をついだ。「ミノリがひとりの方が動きやすいというのは認めますが」
「ヒマリさん、連携はもちろん必要です。これは0番街の総力戦です」
「なにかプランがあるのですね?」
「はい」
「聞きましょう。ほかの者も黙って聞くように」
十数人の住民代表をふくむ全員がうなずくと、ミノリは作戦の概要を話しはじめた。
「たしかに数によるゴリ押しよりはマシな計画だが……粗が多いな」タツトが眉をひそめる。
「はい。詳細はつめていきましょう」説明をおえたミノリが、水を口にふくませる。
「異論、または代案をだせる者はいますか?」全員の顔を見わたすヒマリ。
「あの……代案はだせませんが……」エトロフ住民代表のJ州人の若者がいった。
「なんでしょう?」
「この作戦は、ミノリさんが撃たれたら終了ですか?」
「そうだ! ミノリが死んだらおわりだ! そうなったら意味がないよ! ミノリのスキルに依存しすぎの作戦だ! 首長が一番先に死ぬかもしれない計画なんか容認できるか!」猛りくるうショウ。
「ミノリ、こたえなさい」ヒマリは、討論内容を次世代にまかせた議長に徹している。
「さっきシュンさんがいってましたね? いくら強くてもカンゴさんやサツキさんはひとりだったと。しかし今回は大群が相手だと」
「おう、いった。その通りだろ?」
「ボクはそうは思いません。カンゴさんやサツキさんは、ひとりでもコロニーを破壊しつくせるほどの力をもっていた。そんな人たちにまがりなりにも勝てたボクが、簡単にやられると思いますか? やられませんよ、やられたらボクはカンゴさんや、死んだサツキさん、ふたりのせいで命を落とした人たちに顔むけできない!」
「まあ、わかった……」しぶしぶ、うなずくシュン。「ミノリが俺らなんかと違うのは確かだ」
「顔むけできないか、カッコいいな! ふたりへのさんづけは気にいらんが」コリンが手をたたく。
「みんな、ボクがやり遂げる前提で計画に同意してください」
「まあ、そうしないと作戦なんて立てられないか……」タツトもゆっくりと首をたてにふる。
「その通りです。そして仮に、ボクが途中でやられたとしても、この計画なら続行できる。少なくても州民は助けられる。ボクが倒れても、みなさんはやり遂げてください。0番街の総力を結集すれば、J州は存続できる! みんな、そのために立ちあがったんでしょ?」
「やろう! 俺らの首長を信じよう!」コリンが立つと、ショウ以外の全員が席を立った。そして最後に、ショウも仏頂面で立ちあがった。
「ミノリ! 死んだら殺すぞ!」
「それは前にも聞いたよ、ショウ」つぶやくシュン。
「兄さん、うるさい!」
「兄妹漫才はそこまでだ。時間がない、ミノリ君、指示を」タツトがミノリを見る。
「はい。ヒマリさんとコリンさんは千里眼、透視、精神感応能力者を総動員して、事前にコロニー内の反連合政府勢力やレジスタンスたちと連絡をとり、脱走計画があることと、コロニー外がPEウィルスも放射能汚染もなく、安全であることを知らせてください。それからミカドの正確な所在地をさぐりだしてください。三日以内です!」
「三日! たったそれだけで!?」目をまるくするコリン。
「たった一カ月で、J州コロニーの人口は半数近くへってしまった。ミカドもいつ処刑されるかわからない状況です。三日以上、かけられません!」
「わかった」うなずくコリン。
「やってみせます、首長」断言したヒマリは、コリンとともに消えた。
「シュンさんたちは、住民に作戦の伝達と子供たちの保護をお願いします」
「了解した」住民代表を引きつれて、飛びだしていくシュン。
「私らは新規住民の受け入れ態勢をととのえます!」エトロフの若者がいうと、ミノリは笑顔でうなずいてみせた。
会議テーブルにはミノリとショウ、タツトだけが残されていた
「……じゃあ計画をつめていこうか、首長」タツトがイスにすわりなおした。
「はい」ミノリも腰をおろす。
「成功してもコロニー三区の州民は半数近く死ぬだろうけどな……」
「そうですね。五百万、救えれば御の字でしょう」
「全滅よりはマシか」
「はい。問題はそのあとです。J州は連合政府から独立せざるを得なくなります」
「地球連合政府の一州ではなく、新J国を打ち立てるしかないな」
「途方もない話ですが、ボクたちは世界を相手に、対等な講和を結ばねばならない」
「途方もないなぁ……ほかの人の前じゃ話せないよ、これ。カズヨ先生なんか、びびって泣いちゃうかもな」
「そうですね。ヒマリさんは全部わかってますけど……」
「あの人は反逆児カエサルとともに生きた女だからな」
「はい。理想をすてずに現実を見つめられる唯一無二の女性です」
「──なあ!」立ったままであったショウが声をあげた。「私は、ここにいてもいいのか? なんか場違いな気がするけど……」
「いてくれよ、ショウ。ショウがいないと、ボクはなにもできない」
「そうか。よし、いてやる!」ショウもドスンとイスに腰を落とした。
「タツトさんとショウはボクと一緒に、住民にも内密に有志をつのってJ州奪回後の講和条約の草案をねってください」
「はぁ? そんなの私にできないよ!」無理、無理と手をふるショウ。
「女性の視点が必要なんだ」
「女性ったって、私なんか……」
「ショウくらい女の子っぽい女性は、ほかにいないとボクは思うよ」
「はぁ!?」
「おー首長、問題発言だ。ほかの女性への差別発言だ! リコールされるな、ミノリ君」
「ふふ。タツトさん、はじめましょう。街に条約やら憲章やらにあかるい知識人の心あたりはありませんか?」
「そうだな……」
三人の非公式会談は深夜にまでおよんだ。飛びかった意見を箇条書きにした0番街特製ザラ紙を手にタツトが帰宅すると、ショウが不満そうな目をミノリへとむけた。
「ミノリ、作戦をつめるんじゃなかったのか? だから残ったのに」
「もともと大した作戦じゃない。つめていけるほど複雑でもないだろ?」
「でも講和条約の文書なんて、気が早いよ。J州奪回がうまくいくのかどうかもわからないのにさ」
「うまくいかなきゃ、ボクらは全滅だよ。それはいやだろ?」
「あたり前だ」
「だったら成功することを考えないと。成功することを考えたら、次の手をうっておくべきだろ?」
「理屈っぽいな!」
「そう怒るなよ、ショウ」
「怒るよ! ひとりでコロニー侵入なんて……兄さんじゃないけど、思いあがってないか? いくらカンゴに勝ったからってさ!」
「あれくらいいわないと、みんな納得しないと思ったからさ」
「はん! 口がうまくなったよな、さすがは首長だ!」
「まだ反対なのか? もともとショウがいいだしたんじゃないか、コロニーの州民との共闘も、ミカドの奪還も」
「そうだけど! そうだけど、こんな大ごとになるなんて思わなかったんだ。浅はかだった……まさか世界を敵にまわすだなんて」
「連合政府から見れば、これはテロじゃない。クーデターだからね」
「なんでそんなに落ち着いていられるんだ? 死ぬかもしれないのに!」
「危険なのはショウやみんなも同じだろ?」
「あんたのはけた違いじゃないか! 本当はまだ死にたいのか? お母さんのところへいきたいんだろ!? だからひとりでいくんだろ!?」
「……ショウ、式は延期になっただけだ。ボクが花嫁を残して死ぬと思うのか?」
「え……」
「ボクは死なない。だからショウも死ぬな。これがおわったら、ふたりして街のみんなのさらし者になろう。タキシードとウェディングドレスでさ」
「は?」
「あ、ショウは白無垢の方がいい?」
「──ほんと口がうまくなったよな!」いいながら片目から涙をあふれさせるショウ。
「仮だけどいちおう首長だからさ」
「仮ってなん──」
話しかけたショウの唇をミノリの唇がふさいだ。やさしく、おだやかに、やがて激しくむさぼるように。お互いを求めるふたりは、ヒマリ不在のその夜、初めてベッドをともにした。
「ショウ、痛かった?」
「ああ、殺されるかと思った。思わず観念動力を撃ちそうになったよ」
「0距離で撃たれたらボクは死ぬよ」
「だから我慢した。それにさ……なんか、しあわせだった」
「ショウ……ボクもだ。ありがとう」
「うん……でも式までは、内緒にしとけよ。とくに兄さんには」
「そうだね。それこそシュンさんに殺される」
「それはない。兄さんはもうミノリを家族だと思ってるよ。だから本気でミノリにかみついたんだ」
「そうか……嬉しいな、嬉しいな。家族か……」
「うん。嬉しいね」ミノリの目がうるんだのを見て、思わず抱きつくショウ。
「ショウ」
「うん?」
「いつか……ボクの子を産んでください」
「は!? 気が早いだろ!」
「そうだね、自分でも不思議だよ。コロニーにいたころは、こんなこと思いもしなかったのに。ボクにはアズしかいなかったのに……不思議だよ」
「……そっか。でも、いいよ。わかった。了解した。私はミノリの子を産む」
「本当に?」
「ああ。今すぐにでもほしいくらいだ。そうしたら、パパは無茶をしないだろうからさ」
「あ──じゃあ、もう一回」
「0距離でかまされたいのか?」
「え?」
「痛かったといってんだろが!」
「ごめん、ごめん! ショウ、冗談だよ!」
あははと笑いあうふたり。ふたりは思っていた、このしあわせな時間が永遠であればいいのにと。
(つづく)
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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』
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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』
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