第三章 ミノリとショウとJ州 1
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J州三区すべての地域において、うねりをあげる大暴動が発生していた。基本的にはおとなしく、和を尊び、為政者には従順なJ州民の大多数の者が決起したのである。州の象徴であり、州民の精神的根幹であるミカドの拘束が、戒厳令下で職と食をうしない、くすぶりをかかえていた人々の心に火を入れてしまったのである。ミカドの奪還を叫ぶ者たちが、連合警察署に押しよせ、警察官やロボット警官と激しい攻防を繰りかえしていた。もちろん攻撃ドローンやK109の圧倒的な重火器に太刀打ちできるわけもなく、次々に州民は虐殺されたが、どの区画でも警察の武器庫が襲撃され、犠牲者を多数だしながらも武装勢力となったグループも現れ、戦火は拡大の一途をたどっていった。もはやJ州コロニー内に平和な場所はなくなった。
0番街の住民たちも、中継ドローンが送ってくるネット配信ニュースを連日、閲覧してはJ州の惨状に胸を痛めていた。そしてコロニー内の家族を心配して戦場の中に跳んでいく者が続出しはじめた。首長ミノリは街の人々にコロニーへ入ることを禁じたが、それでも瞬間移動の使い手の流出をとめることはできなかった。最期は家族とともに……そんな思いに、若き首長の命令は効果をはっきしなかったのである。ミノリら街の役員は早急な対応を迫られていた。
「ミカドをうしなえばJ州はおわると思ってはいたけど、それより先に州民が全滅するかもしれないな……」炎と煙が立ちのぼるクサナギ区画からの中継を見ながら、タツトがうめく。
「クラーラ・アインホルン! やりすぎだろ!」ショウはいき場のない怒りをおさえきれず、足もとの床へ観念動力をぶつけた。ささくれ、弾けあがるフローリング。
「ショウ、お前もやりすぎだ! ヒマリさんの家だぞ!」短気な妹をいさめるシュン。
「やはりカンゴの話どおり、J州そのものを消しさりたいようですね」ショウの破壊した床材を横目に見ながらつぶやくヒマリ。
「俺たちにとってもこの州は第二の故郷だ。どうする、ミノリ。動くのなら俺たちも戦うぞ!」コリンはガタンと音をたててイスから立ちあがった、
「…………」こたえられないミノリ。
「ミノリ!」やはり席を立ち、つめよるショウ。「前にミノリ、街の人にいったじゃないか! コロニーの州民が立ちあがったとき、この街も立ちあがる。そのときまで命をとっておけってさ! それって今じゃないのか!?」
「…………」
「まよいどころだよな……動くったって、ヘタに手だししたらこの街も全滅するよ」タツトはあくまでも冷静にいう。「ただ、コロニーの中の抵抗勢力と結託できれば戦えるかもしれない。ミノリ君がいっていた前首長の願い、人間とエムの共生、その第一歩につながるかもしれない」
「…………」
「人間がエムとの共闘を受けいれるかね?」コリンが疑問を呈す。
「U州人のコリンが、J州のために立ちあがるのはなんでだい?」笑顔できりかえすタツト。
「ふふ、うまいことをいうな」
「それに、今回のことはミカドがからんでいる。人もエムもJ州人なら団結するよ!」ショウの言葉にうなずくシュン。
「俺もそう思う。反発はあるだろうけど、ミカドの奪還となれば話が違う」
「ミカドの奪還! 兄さん、それだよ! それを最終目的にかかげようよ!」ショウは兄のたくましい腕につかまり、笑った。
「笑ってるな! ショウ!」ミノリが叫んだ!「笑ってる場合か!?」
「ミノリ……」
「ボクたちの街の人間は約八百、うちJ州人はたったの七割。中にはショウの生徒もいれば赤ん坊だっているんだ! 大人が動けば、丁種ばかりの子供まで殺される。大人だって、丙種なんてあっという間に撃ち殺されるぞ! せっかく集まってくれたJ州人以外の人はどうなる? みんなを巻きこむのか? よく知りもしないミカドのために死んでくれというのか! 軽々しく戦えるか!」
「ごめん、なさい……ミノリ」
「……ボクこそすまない。ショウ」
「少し調子にのりすぎだったかな……」頭をかくタツト。「カンゴやサツキをしのいだことで、いい気になっていたのかもしれないな」
「ミノリよ」コリンがいった。
「はい」
「聞きかじったていどだが、ミカドさんはJ州人の背骨みたいな人なんだよな?」
「そうです」
「先祖代々、二千年もJ州人のハッピーを祈ってると聞いたが、間違いないか?」
「ええ、二千年以上です。それに祈ってくださるのはJ州のしあわせばかりではありません。世界民族の平和です」
「ふーん。そんなすごい人とJ州人がピンチなんだ、この街以外の無頼の街や村、J州中のはぐれエムも心おだやかじゃないだろうな……それぞれに家族がコロニーにいるだろうし……中にはサムライやニンジャみたいなマル甲レベルのエムもいるんじゃないかな……うずうずしてるんじゃないかな……」
「……J州中のエム?」
「いや、ミノリが数を気にしていたみたいだからさ」
「集められるんですか? コリンさん」
「水上カンゴ憎しの者どもを、わずか数日で八百も集めたのは誰だっけ?」
「…………」
「戦う戦わないはさておき、J州人の仲間がふえるのは心強いな」シュンがつぶやくとタツトも同意した。
「そうだ、連合警察はJ州三区画をせん滅したら、コロニー外の我々にも牙をむくかもしれない。J州の血を根絶やしにするために」
「今の警察、いや連合政府ならやりかねませんね……ただ……」言葉をにごすミノリ。
「そうだね。無法地帯からの人が入ってきたら、街に犯罪がふえるかもしれない。もう処刑みたいなまねはしたくないな」ミノリの言葉をつぐショウ。
「おかしなのは仲間に入れない。今のJ州を憂う者だけを集める。それでどうだ? ミノリ」
「わかりました。いざというとき、外部に仲間がいるというのは、シュンさんのいう通り心強いです。コリンさん、お願いします」
「了解した、首長」
「私もコリンに同行しましょう。人を見る目はあるつもりです」ヒマリがいった。
「それはいい! ジョーイも喜ぶぜ。熟女、大好きだからな、あいつ」
「よろしいですか? ミノリ」コリンの発言はスルーするヒマリ。
「お願いします、ヒマリさん。それから、みんな──」
「なんだよ、ミノリ」深刻な表情をするミノリに不安をおぼえるショウたち。
「みんなの意見を聞いて、ボクも心を決めました。ミカドとJ州コロニー内の人々を救出しましょう」
「え!?」同時に声をあげる一同。
「まずは街の住民の動揺をおさえて、無謀なコロニー侵入をやめてもらうことが先決です。こういう計画があると話せば、わざわざ殺されにいくようなことはしなくなると思います」
「さっきは、あんなに怒ったくせに!」不満げでありながらも、ショウはどこか嬉しそうである。
「ごめん、ショウ。ただ、全面戦争はしない。できるだけことを荒だてたくない」
「それはむずかしいんじゃないか? ミカドひとりならともかく、州民まで助けるとなると……」タツトの進言はもっともである。「プランはあるのかい?」
「ありません。早急に計画をねりましょう」
「わかった。あまり悠長にはしていられないな。すぐにはじめよう」
「仮に成功したとしても、世界中の連合警察を敵にまわすことになりますよ。あのカエサルのように。その覚悟があってのことですか?」ヒマリがイスから立ちあがった。
「わかりません。わかりませんが、黙っていても虐殺はおさまらない。ほうっていたら、0番街もいずれ同じ目にあう。ボクらは、今はできることをしないといけないんです」
「人事をつくして天命をまつのですか?」
「天命はまちません。考えつづけます、最良の方法をつねに」
「けっこう。思考停止こそが罪、できるだけ連合政府との和平の道を模索なさい」
「わかりました、ヒマリさん」
「それからもうひとつ。私は以前あなたにいいました。残念ですが誰かを守るということは、別の誰かを排除することと同義です。ミノリ、そしてそのときは事故ではなく、あなたの意志で人を殺しなさいと」
「はい……」
「しかしあなたは、ともに薬品調達にでかけたカズヨを守るために、コリンやジョーイ、アダンやバシリオを殺さなかった」
「はい……ボクにはコリンさんたちを殺すなんてできませんでした」
「…………」目をふせるコリン。
「結果、コリンは私たちの愛すべき友人となり、この場にともにいてくれる。それは、よくやったとほめてあげたい。あなたのやさしさをほめてあげたい。殺せたのに殺さなかったあなたを。そうですね? コリン」
「ああ……ミノリが本気で殺しにかかっていたら、俺は、俺やジョーイは確実に死んでいた」
「しかし、それはたまたまコリンという男が、好男子であったから。その一点につきます。つまり、ミノリはただ、コリンらの男気に助けられただけ、ほかの者であればカズヨは犯され、殺されていたかもしれない!」
「はい……」
「好男子? 俺が?」場違いな感情とは思いつつ、ちょっと嬉しいコリン。
今回ばかりは、そんなたまたまを期待するのは間違いです。ミノリ、あなたは本物の怪物になれますか?」
「どういうことですか?」
「和平がならなかった場合、世界各州のコロニーを二十や、三十つぶしてまわらねばならなくなるでしょう。J州を守るという大義のもと、なんの罪もない他州の人間を虐殺して我々の力を示さねばならなくなるでしょう。連合政府との会談の席につくために。ミノリ、あなたにできますか?」
「……わかりません。そんなまね、ボクには……わかりません」
「では心にとめておきなさい。カエサルも本物の怪物にはなりきれなかった。そして処刑されたのですよ」
「本物の怪物……」
「ヒマリさん、なにもそこまでしなくても!」たまらずショウが叫ぶ。
「そこまでしなくていいように、考えて考えて考えぬくのです。みんな、よろしいですね?」
一同はヒマリに一礼し、決意を新たにした。故郷を守るとはそういうことなのだと。
「ではコリン、私たちは有志をつのり、J州めぐりにまいりましょう」
「──あ、あの!」ここでシュンが手をあげた。「俺みたいな丁種や丙種はなにか、こう武器みたいな物がないと……その……」
「武器ならありますよ。大量の銃器が」サラリと話すヒマリ。
「どこにですか?」
「この家、もとは暴力団の親分さんの私邸でした。地下に驚くほどの数の武器がかくされています。それに危険なので、私とジョエルで、近隣のもと警察署や自衛隊などに保管されていた銃火器や兵器、砲弾を集積しておいてあります。それこそ、いざというときのために」
「そんな倉庫があったんですか!」住まっていたミノリも知らない情報であった。
「戦車とか戦闘機もあるのか?」興味津々のコリン。
「そんな物は家に入りません。危険物として焼却廃棄しました」
「残念だぁ……」
「使い方なんか、その、練習してもいいですか?」シュンが、おそるおそるたずねる。
「けっこうです。しかしシュン──」
「もちろん私的なことには使いませんし、使わせません!」
ヒマリはうなずき、コリンとともに跳んで消えた。そしてミノリたちはあらためて数十名の住民代表を集めてJ州奪還計画の会議をはじめた。その間、シュンは地下室の銃器にふれ、古書などを参考に銃器の使用方法の研究にとりかかった。おのおのが、これは戦争への道ではないと自身にいいきかせながら。
そしてもちろん、ミノリとショウの結婚式は、延期と決まった。
(つづく)
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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』
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