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第二章 ミノリとショウ 36

       36

 昼間は執務に忙しいヒマリやショウ。そして今や街の役員となって新入住民の世話をしているシュンやタツトたち。ミノリが入院している病院に勤務しているポリーナ。医院長のカズヨ。街には入れられないと判断された者を追放、もしくは処刑するという汚れ役を一任されたコリンやジョーイたち。今や0番街の顔役ともいえる面々が夜間、少しずつ回復しはじめたミノリの病室に集まっていた。 

「超マル甲? あのカンゴが勝てないと、そういったのですか?」ヒマリがいった。

()()()、そんなにすごいエムなのか。信じられない……」シュンがつぶやくとポリーナが彼の腕をつねる。

「どうして私を憎むのかな?」これはショウである。超マル甲がどれほどのものかは不明であるが、ねらわれていると聞いては心おだやかではいられない。

「カンゴさんの話じゃ、かなりの気分屋らしいから。理由なんかないのかもしれない」こたえるミノリ。

「ミノリ、あんな野郎にさんづけはするな。生かしているだけでも腹が立つのに」コリンが少しおぼえはじめたJ州語でいうとジョーイもうなずく。

「すいませんコリンさん」

「俺のこともコリンでいい。ところでサツキという女だが、野ばなしにしておくのは危険だな。最後に撃たれた観念動力のでかさ、ありゃ尋常(じんじょう)じゃなかった」

「だからといってヘタに動けば、返り討ちにされてしまうんじゃないか?」あくまでも冷静なタツトの意見。「なにしろヒマリさんの壁も通用しないんだ。ここでの会話も聞かれているかもしれない」

「カズヨ先生」

「なに? ミノリ」

「サツキさんのアンデイ病、進行ぐあいはどんなものです?」

「投薬が中断してるから進むでしょうね。今すぐに命にかかわることはないけど」

「この病院の薬をねらってくるかも!」おびえたようにいうポリーナ。

「それだ!」タツトが指をパチンとならす。「自分は病気で醜くくずれはじめていた。だから美人のショウが憎らしかったんだよ」

「はあ?」首をひねるショウ。

「シュンにちょっかいをだしたのも、かわいいポリーナがねたましいからかも」腕組みしたカズヨがいった。

「ポリーナもあぶないってことか?」あわてたようにいうシュン。

「そんなにかわいくないですよ、私」ポリーナはヒョイと肩をすくめてみせる。

「──ん?」ポリーナに目をむけるミノリ。

「しかし、そんなことをいいだせば街中の若い娘が危険です」ヒマリが頭をふった。

「女子供を売り買いしてたカンゴが倒れたってのに、今度は嫉妬(しっと)のかたまり女かよ! どうなってるんだい? J州ってのは!」大げさに笑うコリン。そしてジョーイ。

「笑いごとではありません。それにJ州をこバカにするのはやめなさい」コリンを一喝(いっかつ)するヒマリ。

「ハッハー! いっそ薬と若い男の二、三人をくれてやればいいんじゃないか?」

「コリン、あなたがその役をひきうけますか? サツキもかなり美しい女ですよ」

「……俺、そう若くないからさ。超マル甲なんて相手にできないし」

「でしたら少し黙りなさい」

「イエス」ヒマリににらまれて苦笑(にがわら)いのコリン。

「サツキさんに薬はあげられません。あれは0番街の住民の物です」

「ならばどうします? ミノリ、いえ首長」

「どんな理由であれ、ショウを傷つけたサツキをボクは許さない!」

「ミノリ……」かすかに赤くなるショウ。

「罰をうけるべき人だ。カンゴさんを実験台にしたことも、首長さんの死期を早めたこともふくめて」

「俺らの仲間も一発で何人もやられた」黙ってはいられないコリン。

「だが、水上カンゴですら関わりたくないという女だろ? 薬をあげて、それで和解できるなら、それもひとつの手だ。超マル甲なんて聞いたこともないし、そんなのを怒らせたら、今度こそ街が全滅する」タツトの意見はもっともである。

「相手が強いから屈服するの? そんなんでいいの? 薬をあげたって和解できるとはかぎらないでしょ!」どなったショウの肩に手をおくカズヨ。

「タツトは屈服するとはいってない。和解をしたらっていっただけでしょ? それに病気になったことはサツキの責任じゃない」

「かわいそうな病人ならなにしてもいいの? 首長を殺した女だよ!」

「ショウ」ミノリがいった。

「なんだよ」

「ボクがサツキさんを街に連れてきた。ボクの責任だ。ボクが責任をとる」

「はぁ! そんな体でなにができるっていうんだ? 腹に穴があいてるんだぞ!」

「なにもいきなり戦うわけじゃない。今だってこうしてしゃべってるだろ?」

「どうする気なんだよ?」

「彼女の心はボクらの能力ではまったく読めない。だから話しあうだけだよ。普通の人間なら誰でもすることだろ?」

「そうだけど。決裂したら? 殺されるよ!」

「いや、ボクが殺す。腹に穴があいていようとボクがサツキさんを殺すから」

「無茶だよ! どんだけ強いのか見当もつかない相手だろ!」

「大丈夫、話しあってだめなら、ボクが殺すから」

「殺す殺すって、似あわないんだよ!」

「ミカドは逃げなかった。J州の民の災厄を放置しなかった。ボクもJ州の男として逃げるわけにはいかない。自分の責任は自分で片をつける!」

「…………」

「なあミノリ、俺のせいか? さっきJ州をバカにするようなことをいったから」ミノリとショウを交互に見てコリンがこまった顔をする。

「違いますよ、コリンさん。このJ州を愛してくれた首長さん、前首長のジョエルさんも、たぶん死ぬことがわかっていてサツキさんの細胞活性能力をうけたんだ。ボクとショウに思いをつなげるために。(ほこ)(たて)になれというために。そうだろう? ショウ」

「……そうだな」

「ところでミノリ。サツキと会談をもつ手だてが具体的にあるのですか? ないのならそれは絵空事ですよ」ヒマリが軽く叱責(しっせき)した。

「──もうサツキさんとは話しています」

「どういう意味です?」

「ねえ、サツキさん」ミノリが声をかけたのはポリーナであった。え!っと声をあげる一同。

「あら、さすがはミノリさん。気づいてたの?」嬉しそうに体をくねらせるポリーナ。

「な、なんだこれ! どういうことだ!」叫ぶシュン。

「シュンさん、大丈夫です。ポリーナさんはあやつられているだけです」

「そうだけど、あんまり大丈夫でもないわよ。長くつづけているとポリーナちゃんの精神が崩壊しちゃうかも」

「なんだと!」ポリーナに手をだしかけたシュンの手をミノリの観念動力がおさえた。

「ミノリさんはいつ気づいたの?」

「病院がねらわれるかもしれないと怖がっていたのに、自分があぶないかもといわれたときは平然としていた。ちぐはぐだなと思ったから、ボクもポリーナさんの心を読んだ。ポリーナさんの心は泣き叫んでいたよ」

「へえ。私の壁はミノリさんにはきかないのね」

「遠隔操作だからでしょ? サツキさん、どこにいるんです?」

「いうと思う? また読めば?」

「超マル甲に本気をだされたら無理でしょう。それより一度きちんと話をしよう」

「話しじゃなくて、殺す気なんでしょう? 私を殺すっていったわよね? 怖いからやめておくわ」

「今ならサツキさんを殺せるかもしれないな。あやつられる方だけじゃなく、あやつる方の脳神経も、体力もそうとうに削られているはずだから」

「そっか……なら、殺される前に殺すしかないか? クナシリでいらない助けをしてくれたミノリさんのやさしさが、私、けっこう好きだったんだけど」

「ボクも本性を知る前のサツキさんは、けっこう好きでした」

「ありがと。でも殺しにくるのね?」

「はい」

「死んでから後悔させてあげるわ」

「今のボクにはカズヨ先生という名医や、仲間がいる。簡単には死ねない理由もある。だから水上カンゴにも勝てた。死にませんよボクは、街にショウがいるかぎり」

「はいはいショウさんね。ミノリさんの神だっけ?」

「ええ。天使です」

「……まあ、話しあいについては考えておくわ。今日はポリーナちゃんに、お薬と食料をたくさんわけてもらえたから。また、会いましょう。ミノリさん、それからみなさん」

「待て、サツキさん!」

「ごきげんよう──」

 突然、その場にくずれおちたポリーナを、シュンが抱きとめる。

「ポリーナ!」カズヨがあわてて脈をとり、呼吸を確認。どうやら命に別状はないようだが、彼女を腕にかかえたシュンが別室に運び、ベッドへと寝かせた。

「そうとうにヤバい女だな……遠隔操作ってどうやるんだ? ミノリ」コリンの問いにこたえるミノリ。

「ポリーナさんの五感を精神感応で支配して、彼女の見聞きしたことや、さわったものをどこかで受信していたのだと思います」

「しゃべってたぞ、彼女。普通に歩いてたし」精神感応が得意のタツトが驚いたようにつぶやく。

「観念動力の技術水準がおそろしく高いのでしょうね。細やかというか、女性らしいというか」

「ミノリにもできることなの?」こわごわとたずねてくるショウ。

「無理だよ。あんなまね、できない」

「そっか……ちょっとエムとしての世界が違いすぎるね。それに、いつまた誰がサツキにとりつかれるか、そう考えるだけで……」

「これが住民に知られたら疑心暗鬼が生じますね」ヒマリがいった。

「互いに監視をはじめたら、0番街もコロニーの管理社会と同じになる……」タツトが息をつめる。

「今、ここで話していることもサツキに聞かれているかな? だとするとへたなことはいえないぞ。俺らの懸念をそのまま仕かけてくるかもしれない」とコリン。

「たぶん大丈夫です。今はサツキさんも疲れきっているはずだから」ミノリがこたえた。

「そうか」

「だけど回復したら、わかりません。話しておくべきことは今、しておきましょう」

「そうですね」ヒマリがいった。「ミノリ、考えがあるのですか?」

「コリン、ショウに護衛をつけてください。あれだけ殺すと挑発したんだ、サツキさんのねらいはボク。それからショウにしぼられたと思います」

「…………」誰もなにもいわない。もちろん、ショウも。

「ちょっと待て、ミノリ! お前、わざとねらわれるように仕むけたのか? うちのショウも巻きこんだのか!?」室内にもどってきたシュンが声をあげる。

「いいんだ、兄さん。誰かれかまわずねらわれるよりましだろ?」

「だけどショウ!」どなるシュンの肩にコリンが手をおいた。 

「まあまあ、落ちつけ。丙種のポリーナよりは、ショウの方が抵抗できるだろ?」

「なにをいってる、コリン! ショウは無抵抗でサツキから顔面に三発もくらったんだぞ! ミノリ! お前だって忘れたわけじゃないだろが!」

「もちろんです。二度とあんな思いはさせません」

「させないって、どうするんだよ!」

「それは……」

「兄さん、もういいって。死のうと思った私を助けてくれたのはミノリだろ? 一度、死んだと思えばどうってことないよ」

「……だけどよう」

「はいはい。兄妹(きょうだい)ケンカはもういいか? それより対策が先だ。ミノリとショウがねらわれるとして、俺らになにができるかだ」コリンがいうとタツトが手をあげた。

「話をまぜっかえして悪いけど、俺が宮下サツキならミノリ君やショウをねらう前に別の人を手にかけて精神的な打撃をあたえると思う」

「別の人?」ミノリが眉をひそめる。

「今はミノリ君の方が実力は上かもしれないけど、精神的な支柱だろ? ヒマリさんが」

 全員がヒマリをいっせいに見た。いわれてみれば、街の人々にとってミノリはパワーあふれる若きシンボルかもしれないが、彼女こそが住民の心のささえであり根幹、まさしく母である。しばらくともに暮らしていた宮下サツキは、そのことを十分、理解しているに違いない。

「私でしたら心配ありませんが」いつも通り、平然といいはなつヒマリ。

「ヒマリさん。あんたにもしものことがあれば、元の住民と新規住民が半々の今の0番街は分裂し、崩壊するぜ」組みあわせた両手をパァっとひろげてみせるコリン。

「私もそう思う」ショウもうなずく。

「それはミノリやショウの方でしょう? 水上カンゴを倒した英雄とその妻なのですから」

「結局、誰ひとり欠かせないってことだろ? ミノリ、あんな挑発するべきじゃなかったんじゃないか?」シュンがいうとミノリは小さく首をふった。

「サツキさんにかくれられたら、見つけることはまず不可能です。むこうからでてきてもらわないかぎり」

「そのまま、よそへでもいってくれりゃいいんだがな」

「はい。でもその可能性は低いと、今日のことでわかりました」

「今日のこと?」ショウがたずねた。

「うん。薬と食料をもらいにきたといっていたよね? でも、それだけならコロニーへいけばいい。こんなところより、ぜんぜん物資が豊富にあるんだから。あれだけの力があればK109や戦闘ドローンも敵じゃないだろうし」

「確かに。私やミノリでもいちおう侵入はできたんだもんな」

「あのときは戒厳レベルが低かったけどね。ただサツキさんなら苦もなくこなすだろう」

「なぜそうしないのかな?」

「これはあくまでも推測だけど……人恋しいんじゃないかな」

 はぁあ!? ビックリまなこの一同。

「だから街をはなれないってこと?」

「超マル甲だぞ! どこへいこうがボス猿になれるだろ!」

「さみしいのなら、おとなしく街の人間になればよかったんだ!」

「そうだよ! かぶってた猫をぬがなきゃよかったんだ!」 

 あーだ、こーだといいあう面々。

「……ミノリ君」タツトがいった。「サツキは自分に細胞活性能力を使ったといってたよね?」

「はい」

「どんな副作用がでるのかわからないんだろ? もしかしたら頭と感情がちぐはぐで、とんちんかんな行動しかとれなくなりはじめているのではないか?」

「ありえますね」ミノリがうなずくと、コリンがお手あげといったポーズをとった。

「ようはイカレてるってことかよ? カンゴのいい草じゃないけど関わりたくないねぇ」 

「はじめはショウのいったように猫をかぶっていた。街には入りたかったんだと思う。ただ、だんだんと自分をおさえきれなくなったんだろうね」

「タツトの考察はするどいですね。いつもながら」ヒマリにそういわれ、照れるタツト。

「よろず相談屋ですから」

「サツキは自尊感情、自己肯定感の低い人間だと考えた私は間違っていたようです」

「そうとばかりはいえません。パーソナリティ障害かもしれないし」

「タツトはサツキをどうするべきだと考えますか?」

「常識的に考えれば、消えてもらうしかないでしょうね。ただその方法が──」

「おーい、シュン! ポリーナが目をさましたよ。ちょっときて!」カズヨの声がドアごしに響いてきた。

「はい、すぐいきます!」大またで廊下へでていくシュン。

「そろそろヤバいんじゃないか? ミノリ」ショウがいった。サツキも体力が回復しはじめているかもしれない。

「うん。コリンさん、さっきの話は忘れてください」

「またさんづけ?」

「すいません、どうも年上の人をよびすてにはできなくて」

「それでなんだよ?」

「ショウの護衛はなしにします。もちろんヒマリさんも」

「どうしてだ?」

「まわりには誰もいないほうがいい。ポリーナさんみたいにあやつられたら面倒です」

「どうやって守るんだ?」

「ふたりはボクが守ります。ショウ、今日からヒマリさんと三人で住もう」

「は?」

「私は野暮(やぼ)はきらいです。それに自分の身は自分で守れます」とヒマリ。

「だけどミノリ、腹の傷、ふさがってないんだろ?」とコリン。

「それに観念動力を撃たれたら、三人まとめてやられてしまうよ」とタツト。

「ジュクジョ、ボク、守リマース」と久々に口をはさむジョーイ。

「ボクやヒマリさんは簡単にはやられない。ショウがあやつられても、ふたりならとめられる。コリンさんやジョーイさんにお願いです。街の巡回の回数をふやしてください。警備や監視の人数も。誰かがあやつられたら、総力をあげて住民を守ってください。観念動力を撃たれたら、全力で住民を救助してください。それからタツトさんはシュンさんらと連携して新規住民に間違いなく住宅をあたえてください。たりなければ、職人さんを動員して建築してください。街に不安や不満がある人を、サツキさんは見のがさないような気がするんです。ヘタをすると街で、カンゴさんのように自分の組織をつくるかもしれない」

「わ、わかった」有無をいわさぬミノリの口調に思わずうなずくタツト。そしてコリンたち。

「ヒマリさんも、ショウもいいですね」

「私はいいけど……」ちらりとヒマリに目を送るショウ。

「首長に従います」というヒマリのこたえを聞いてうなずくミノリ。

「それからカズヨ先生に伝えてください。今はカンゴさんにまで手がまわりません。そのまましばらく麻酔を併用しながら眠らせておいてくださいと」

「了解だ、首長」コリンが背中をバンとたたくと、折れたろっ骨にひびく激痛にミノリは悲鳴をあげた。

                          (つづく)


ブクマふたつめいただきました! ありがとうございます。


はげみになりますゆえ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。



当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』

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