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第二章 ミノリとショウ 34

       34

 翌日。その日は風もなく、対決やら決戦などという緊張感とはほど遠いポカポカとした小春日和(こはるびより)であった。

「相手は何人くらいかな?」周囲に気をくばりつつ、水上カンゴが指定した街の広場までやってきたミノリが、現在では水のでない噴水の前でいった。

「二百名をこえる大軍団だって話だ。それも能力の高いやつばかりを集めてるらしい。前にミノリをスカウトしようとしたくらいだからな」カンゴへの恐怖心は残るものの、覚悟を決めてきたショウがいう。「本当に私やヒマリさんは、なにもしなくていいのか?」

「火の粉は自力でふりはらってくれ。ヒマリさんも」

「了解だ。首長」

「わかりました、首長」ショウとヒマリに首長といわれ、こまり顔のミノリ。

「あんまりいわないでください。相手はその首長に立候補してるんですよ。聞かれたら怒りますよ……」

「──もう怒っているから、心配するな。ミノリ君」

 いつものように音もなく、水上カンゴが背後に立っていた。あわててふりかえる三人。カンゴはひとりであった。ほかには誰もいなかった。

「街も住民も無傷で手にいれたかったから、猶予(ゆうよ)をあたえてやったのに。きたのは三人か? 俺もなめられたもんだ」

「あなたはなぜ、ひとりできたんです?」ミノリが問う。どこかに伏兵がひそんでいる可能性を加味しつつ。

「ミノリ君と同じ理由だよ。俺以外のザコなんぞものの数ではないと考えているんだろ? なにせ俺はひと晩で五百人を殺したが、ミノリ君は一瞬で街を全滅させたんだもんな。ねぇ、ヒマリさん?」

「……なぜ?」ヒマリの顔色が蒼白になる。昨日の話が聞かれていた? 昨夜も、そして今も、思念の壁は間違いなく立てているはずなのに。なぜ読まれた?

「ヒマリさん?」クナシリでの話をヒマリがしたとき、シェルターにいなかったミノリとショウはいぶかしげにヒマリを見る。

「なぜ? 俺の偉大な力にそろそろ敬意をしめしてくれてもいいんじゃないか? そっちは偉大なるペテン師なんだしさ」

「ペテン師とは?」

「ジョエルじいさん、ただの丁種だったんだな……かのカエサルのご威光に俺もすっかり目がくらんでいたよ。このペテンには腹が立ったなあ。俺を無視して、ミノリ君が首長に任命されたこと以上に腹が立ったよ。ヒマリさん」

「…………」なにもいえないヒマリ。

「三年前、俺が戦ったのはじじいじゃなくて、あんただったんだな。負けたとは思っていないが、俺相手に壁を築いてじいさんと戦っているように思わせたあんたの手腕は賞賛に(あたい)する!」パチパチとヒマリに拍手をおくるカンゴ。「あんただけは認めてやるよ。三年前、間違いなくあんたの力の方が俺より上だった。あのとき俺を殺しておけばよかったのになぁ。俺の能力に欲目がでちゃったのかな? カエサルの理想を継ぐ者になれるかもしれない、なんてさ。継いでやるよ! エムを組織してマフィアをつくりあげ、コロニー攻撃を仕かけていたカエサルのあとをさ」

「……カエサルは変わりました」

「どうせあんたがよけいなことを吹きこんだんだろ? J州の誇りだとかなんとかと。カエサルはU州人だぜ! かんべんしてくれよ!」

「U州人であろうと、彼は誇りたかき男でした。あなたに彼を語る資格はありません」

「ふふ……だそうだ、ミノリ君。待たせて悪いな。ただ、きみが三年前のヒマリさんより強いとは思えない。それでも俺とやりあう気かい?」

「はい。もうこの前みたいにだまされたりはしません」

「あ、そう。なんでひとりできたかと聞いたな? もうひとつの理由を教えようか?」

「もうわかりました。あなたはなんでも知っているらしいから」

「ほう。そうかい……」

「またボクが動揺すると思いました?」

「しないのか?」

「待て! ミノリ、なんの話をしているんだ?」ショウが口をはさむ。

「彼の仲間、二百人はコリンさんの村に今、襲撃をかけている。……ですよね?」

 うっ、とうめくショウとヒマリ。昨日の会合の内容を知られていたのだ。当然ありうる話である。

「まあな。いいのか? 助けにいかなくて」今度は、カンゴがうろたえているようであった。

「あなたはおぼえていないだろうけど、コリンさんたち二十人はとても強い」

「たった二十人でなにができる?」

「0番街の人々が五百人もいる」

「戦闘なんか経験のない、クズどもだろ? アグリー(醜い)・ショウの兄貴とかさ」

「くっ!」顔をしかめるショウ。

「コリンさんたちはね、あなたが襲撃して女子供をさらったエムの町や村の生き残りをひそかに集めてくれていました。その数は今、八百名をこえるそうです」

「なんだって!?」これにはカンゴも驚いたようだ。

「やりすぎでしたよ、あなたは。世界中に敵をつくったんです」

「…………」

「あちらは心配なさそうですね」ヒマリが笑った。

「そうだね」ショウがいう。兄さん、死ぬなよ、と思いながら。

「ミノリ君、きみはこれを読んでいたのか?」カンゴがいった。

「いえ。さっきあなたとヒマリさんの話を聞くまでは考えもしませんでした。でも、今は思います」

「なにをだ?」

「ボクはなりゆきに身をまかせただけです。だけどこれは全部、あなた自身が引きおこしたことだと」

「…………」

「ある意味ではあなたを尊敬します。世界中のエムを動かしたんだから」

「ありがとう。では、やろうか? ミノリ君」

「ボクを殺しても、0番街はあなたに屈しませんよ」

「そうかよ!」カンゴがどなるなり、ミノリの足もとが爆発する! しかしこれを読んでいたミノリはヒマリとショウをかかえて跳んでいた。

「ヒマリさん! ショウを!」

「まかせて!」さらにヒマリがショウを抱いて、物かげへと跳ぶ!

「はなせ、ヒマリさん!」叫ぶショウ!

「立ちあい人はおとなしくしていなさい。ミノリの足手まといになる気か!」

 宙へとうきあがったミノリは、爆炎で一瞬、カンゴの姿を見うしなった。そこに次の一撃が! これをからくもよけたものの、連続して飛んでくる観念動力の嵐。広場の噴水が炸裂し、大地がえぐられる。路面のコンクリートがめくれとぶ。破片が弾丸のようにはねおどる。

「ようよう、逃げるばかりじゃ(らち)があかないよ!」カンゴはヒマリたちがかくれた住宅に観念動力のたばをぶつけた。跳んで逃げたショウをねらいうちするカンゴ。しかしその動力をたたき落とすヒマリ。

「やるねぇ、ヒマリさ──」カンゴの後頭部をなにかがかすめ、髪がはねあがった。ミノリの攻撃である。くずれたコンクリート片が四方八方からカンゴを襲う。そしてまぎれて観念動力の大玉が! 跳んでよけたカンゴが、ミノリの前に立つ。すかさずけりをいれるミノリだが、その足を思念でつかみとめ、ブンブンとふりまわすカンゴ。

「直接打撃はなしにしてよ。見てのとおり俺は繊細なんだからさ!」カンゴが足をはなすと、勢いのついたミノリは近くの廃ビルの壁面にたたきつけられそうになるが、寸前でブレーキをかけ、壁をけって火の玉をはなつ。そしてカンゴは火炎につつまれるが、これをものともせずに飛翔し、上空から大技を繰りだしてきた。

「死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」カンゴが撃つ最大級の観念動力が無差別に周囲の建造物や道路を破壊していく。いくつものクレーターのような大穴から巻きあがる炎と、吹きあがる黒煙。

「無傷で街を手にいれたいといったのに台なしだ! え? ミノリ君!」上空であざ笑うカンゴ。

「ミ、ミノリ!」ガレキの山にひそんでいたショウが叫ぶ。

「大丈夫、だまって見ていなさい。持久戦になればミノリにも勝機はあります」

「え?」

「これまで水上カンゴが敵を倒すために、五分以上の時間をかけたことがあると思いますか? 私とジョエルがきたえたミノリとは耐久性が違います」

「……だけど、その前にやられたら?」

「…………」スッと目をそらすヒマリ。

「ちょっと、ヒマリさん!」

 ものすごい激突音が響いた! 目を()くヒマリ、そしてショウ。空中でミノリとカンゴが衝突、ともに血を吹きだしながら自由落下していた。

「いってぇな! このガキ!」(ひたい)をわられたカンゴが、墜落しながら観念動力の束をミノリの首へと巻きつけた。押さえこまれ、うめくミノリも観念動でカンゴの顔面をしめつけ、頭蓋骨をつぶしにかかった。上に下にと、もつれあうように落ちていくふたりは、けずられた大地にたたきつけられる直前にはなれ、それぞれが跳んだ。だが、カンゴの跳んだ先にはすでにミノリがいて、彼の肺へと観念動力をねじりこむ! ぐほっと血を吐いたカンゴはすかさず跳ぼうとするが、ミノリは逃がさない。思念がうずまき、カンゴの全身をからめとっていた。身動きのとれないカンゴの前に、ミノリが片膝(かたひざ)をついた。彼の腹部からは大量の血液があふれでていた。苦し気に顔をゆがめるミノリ。

「そういうことか……」ぜいぜいと呼気を荒くしながらも、にやりと笑みをうかべるカンゴ。彼のひとにらみで、ミノリの傷が音をたてて開きはじめる。うあああ! 大きくのけぞり悲鳴をあげるミノリはしかし、カンゴをしめつける力をゆるめることはしなかった。あと一歩である。この至近距離で観念動力を撃ってこないということは相手が弱っている証拠である。一瞬でも気をそらせれば、それでやられる。双方ともにそう考えていた。さらにえぐられ、かきまわされるミノリの傷口。ボクッと骨の砕ける(にぶ)い音がした。ミノリの肋骨(ろっこつ)が折られた。しかし同時にカンゴの両腕、両足の骨もくだけた。このままつづければおそらく、たがいにたがいの内臓をつぶしあうことになりそうである。決死の意地のはりあいがつづく中、無数のビュン!という風切り音が周囲になりわたった。その音の数だけ大地に立つ人影がふえていく。しかし、ミノリもカンゴも集中をとぎれさせない。

「ミノリ、苦戦してるな。手伝おうか?」現れたのは白人のコリンや黒人のジョーイを中心としたU州の村の面々、そして彼らの集めた世界各州のエム。その大軍団であった。

「コリンさん! 村は!?」ミノリの生死を案じながらも、昨日(さくじつ)、すでに面識のあるショウがコリンへと声をかけた。コリンはショウに親指を立てて宣言した。

「水上カンゴ! 男も女もお前の手下は全滅だ! ひとり残らずぶっ殺してやったぜ!」

「…………」その言葉がカンゴの心まで完全にへし折った。カンゴは白目を剥いて気絶した。血まみれのミノリはついに勝利したのである。だがミノリとてかなりの重症である。

「ミノリ!」跳ぶことも忘れて、かけよるショウ! 

「ショウ、大丈夫。血はとめられるから……それより、麻酔薬だ! 麻酔薬をカンゴにうて!」ショウの膝に抱かれ、うめきながら叫ぶミノリ。

「麻酔? 殺しちまおうぜ!」コリンが腕をふるうと、背後の大軍団もいっせいに声をあげた。当然のことである。相手はうらみ骨髄(こつずい)、憎んでも憎んでもあきたらない、あの水上カンゴなのだ。この場にいる者全員がその思いで集結しているのである。そしてなによりも瞬間移動や精神攻撃の可能なエムを捕虜にしても、逃亡され、反撃されるのが関の山である。だからコリンたちもカンゴの手下たちの命を奪ったのである。命ごいをする者までもかんぷなきまでに。

「両腕、両足を折って、片肺をつぶした。跳んで逃げても飢えて死ぬ。こいつはそんなにバカじゃない! 今は生かせ!」ミノリこそ肺にまわった血液を吐きだしながら、わめきちらす。「ボクが首長だ! 反問は許さない! あ?──みんな、よけろ!」

 ミノリがどなると同時に半径五〇メートルほどの範囲が大爆発をおこし、ふたたび地表がめくれあがった。ミノリとショウ、そしてカンゴをもちあげて救ったのはヒマリであった。コリンをはじめとする瞬間移動能力者たちは間一髪のタイミングで跳ぶことができたが、約三分の一の者が一瞬にして粉々にくだけちってしまった。

「カンゴか!?」コリンが叫ぶ! しかしカンゴは宙にういているヒマリの腕の中でぐったりとしている。とても意識がもどっているようには見えなかった。新たな敵!? もはや動くことすらかなわないミノリ。ヒマリ、ショウ、そしてコリンらが身がまえる。姿は見えなかった。しかし声だけが聞こえてきた。その場の全員の脳に直接、響いてきたのだ。それは女の高笑いであった。

「宮下サツキ……」つぶやいたミノリが失神。ヒマリが精神感応とともに生きのびた総員に叫んだ!

「ショウ! すぐにカズヨを呼びもどせ! コリンらは全員、街に警戒態勢を()け!」

「誰? あなた? ジュクジョ! 美人さん!」昨夜、顔見知りのカズヨと話し、少しだけJ州の言葉をおぼえたジョーイが(ひたい)の汗をぬぐいながらもジョークをとばしてみせた。

「私と寝たいのなら、全員、相手をしてやる! 今はこの街とミノリを守れ! 首長の命である! いっさいの反問は許しません!」

                               (つづく)


はげみになりますゆえ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。



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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』

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