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第二章 ミノリとショウ 28

       28

「おい、顔が近い。息がかかるだろ!」ミノリの胸から顔をおこしたショウがいった。

「悪い……」

「いいけどよ、私が許したときだけにしろよ。あと右側限定!」

「許してくれるときがあるの?」

「今、許してたろが! まあ、温かかったよ……」

「ボクもだ」

「もうよしなよ、ミノリ……」

「うん?」

「前さ、私のこときれいっていってくれたよな?」

「うん」

「はは、こんな顔になっちゃ好きもきらいもないだろ? よかったのはさ、もう例の男たちからねらわれずにすむってことくらいかな! 他の誰からもねらわれないけどな!」

「ボクはきれいだからショウを好きになったわけじゃないよ」

「じゃ、元からブスだっていいたいのか!?」

「そんなことはいってない」

「あーあ、ミノリが死にたくなった気持ち、今なら少しわかるよ。死にたいよ、私……この雪の中で酒かっくらって、凍死するためにここへきたのかもね……」

「……なら、つきあうよ。ボクも」

「はぁ?」

「一緒に死のうか」

「バカなのか! 殺すぞ、ミノリ!」

「いいよ、一緒なら」

「正気か? あんたは街の抑止力にならなきゃいけない男だろ!」

「でも、ボクは知っての通り心が強くない。ショウがいない街なんて守れないよ」

「な、な、なにぬかしてる! だめだろ、それ!」

「──クナシリでさ」

「あ?」

「あのときね、たくさんの人を殺したことがつらくてつらくて、頭ぐしゃぐしゃで、お(とむら)いがすんだら死のうかなって実は思ってたんだよね。生きてる資格なんかないんじゃないかってさ」

「…………」

「そんなとき、白いポンチョをまとった天使が空から舞いおりてきたんだ」

「え?」

「神様に見えたんだよ、白い天使が……ボクにはさ。ショウがきてくれて、どれだけ嬉しかったかわかる? わからないよね」

「…………」

「あのときボク、この人と生きていこうって思ったんだよ。ボクの神様と一緒に生きようってさ。まあ、勝手ないい分なんだけど」

「勝手だろ! 一歩間違えたらストーカーだぞ!」

「古い言葉だね、ストーカーって。今、コロニーでそんな言葉を使ったら──」

「うるさい! 古い女で悪いか!」

「とにかくショウが死ぬのならボクも死ぬ。生きてくれるのならボクは強くなる。もっともっと強くなる」

「──あんたが弱いのを私のせいにするな! 卑怯(ひきょう)だろ、それ!」

「卑怯かな? ああ、それだな。ヒマリさんのいいたかったこと」

「ヒマリさん?」

「いわれたんだ。ショウだけが生きる原動力になってるボクには、皮肉と嫌味しかでてこないって。ははは、そういうことか」

「軽く笑ってんじゃない! 神様とか天使とか重いんだよ、私には!」

「でもそれは、ショウのせいだよ」

「なにがよ?」

「J州人の誇りというのをボクに教えてくれたのはショウだよね?」

「ああ、だからなに?」

「J州では昔からヤオヨロズの神がすべてのものに宿るんだっけ? 海にも、山にも、ご先祖様にも」

「まあ、そうだな」

「だったらボクがショウを神様だと思っても問題ないだろ? J州人なんだから」

「……くだらないへ理屈で篭絡(ろうらく)する気か?」

「ボクが好きな言葉は、男と女は平等じゃなくて対等がいいなんだ」

「知ってる」

「だからボクもショウの神様になりたい」

「はぁ?」

「生きてよ、ショウ。ボクとずっと」

「お前、それって……」

「ショウ、お願いし──ショウ! さがって!」

「え?」

 観念動力の束がふたりめがけて飛んできた! しかしミノリはそのすべてをはらいのけ、たたき落とした。少し積もりはじめていた雪がはじけて飛びちる。

「ミノリ、なんだ? これは」

「……十人はいる。シュンさんにけがをさせた連中だ」

「なんだと!」ショウの右の目のいろが変わった。とっさに戦闘モードスイッチが入ったようだ。しかし相手は水上カンゴの部下である。へたな手だしをすれば街の人々に災いをふりまきかねない。「どうする? ミノリ」

「ねらいがわからない。出方を見よう」

「けどよ!」

「ユウマって男の観念動力はショウより強い」

「え?」

「でも瞬間移動能力はショウの方がだんぜん高い。だから大丈夫、総合的にはショウの方が能力は上、心配することはないよ」

「私なんか。アヘン野郎にやられたんだよ。ここはいったん街へ──」

「だめだよ。追ってこられたら街で戦いになるかもしれない」

「そっか……なんだってんだ! くそ! でてこい、ざこども!」

「やっとショウらしくなってきたね」

「うるさい! やけくそなんだよ!」

「ざことはいってくれるな──」ゴウという風切り音とともに、ユウマを中心としたカンゴの手下たちが次々に跳んできて、ふたりを瞬時にとりかこんだ。その大半は男であったが、中にはアサコと呼ばれていた女もひとりまじっていた。「醜怪なご面相の女がよ……」

「く……」唇をかむショウ。

「なんのつもりだ? なにしにきた?」ミノリがたずねると、ユウマはヘラヘラと笑っていった。

「カンゴさんがさ、今晩あたりショウは絶望のあまり死にたくなるかもよっていうんだよ」

「…………」息をのむミノリ。やはりカンゴは恐ろしい。首長やヒマリなみに街の住民の動静を感じとることができるのだ。

「顔は醜悪でも体はきれいなんだろ? 死ぬ前にやらせてもらおうかと思ってね、ヴァージン・ショウ。もったいないじゃん? なあ?」ユウマが同意を求めると男たちは下卑た声をあげ、大いにもりあがる。アサコだけは苦虫をかみつぶしたような顔をしているが、しかしその目には残忍な光をたたえている。ショウは、両手をかたく握りしめて屈辱にたえていた。はらわたを煮えくりかえしながら。

「水上カンゴにいわれてきたのか?」できるだけ冷静をよそおうミノリ。

「いや。カンゴさんは商売にならない女には関心がないからな。でも好きにしろっていってくれたよ。どうせ死ぬのならかまわないだろうとさ。死ねば自動的に0番街の住民登録から消えるだろ? 首長との協定には反しないって寸法だ」

「私は死ぬのをやめたんだ! 死んでたまるか!」ショウが叫んだ! くだらない男どもをにらみつけながら。

「うるさいなぁ、どなるな。兄弟そろって醜い顔してさ。せっかく笑いにきてあげたんだから役まわりをきちんとはたしてよ」アサコは残酷な笑みをうかべる。

「それにさ、死ぬのやめた? それだめでしょ? ショウ、カンゴさんに逆らうつもりなのか? 街の人間がどうなってもいいの? カンゴさんが死ぬっていったんだから、やることやったらちゃんと絶望して死んでくれないと」街を人質にとるようなことをいいだすユウマ。

「…………」怒りにふるえるショウ。

「カンゴさんはショウが死にたくなるかも、そういったんだろ? 正確には」

「ミノリ、新入りがいちいち口をはさむな! 丁種の兄ちゃんになぐりたおされたマヌケはすっこんでろ!」

「これ以上、ショウとボクを怒らせるな……ユウマさん」

「へえ。たいそうなご託をいうようになったな?」

「ご託はならべるものだ。いうものじゃない」

「なにいってんだ、こいつ。この間のつづきをやりたいのか? 殺しあいの!」

「殺しあいにはならないよ。戦えばショウとボクが勝つから」

「おもしろい……」ユウマがいうと、アサコもふくめた周囲の男たちは少しだけ腰を落として身がまえてみせる。しかし数で勝る自分らがたったふたり、ミノリとショウに負けるはずがないとたかをくくっているため、どの顔にも真剣さはみじんも感じられない。

「ひとつ約束してくれ」ミノリはユウマに頭をさげる。

「なんだよ? 今さら命ごいはなしだぜ」

「結果にかかわらず、街の住民には手だししないでくれ。首長さんとカンゴさんの盟約は遵守(じゅんしゅ)しろ。これはボクらだけの問題だ」

「いいだろう。ただしショウ、お前は俺らがまわしおわったら自殺するんだ。ちゃーんとね」

「……わかったよ」右目だけでチラとミノリを見たショウは、大きくうなずいてみせた。

「よーし、やろう──」そういいかけたユウマの首が、突然ねじ切れたように百八十度反転し、そしてちぎれ飛んだ! 真っ白な雪上に転がる血まみれの首。

「──え!?」

 あまりに唐突な事態に騒然となる一同。ショウはミノリに目をむける。彼のしわざだと思ったのであるが、当のミノリもあぜんとした表情をして、でく人形のようにつっ立っているだけのように見えた。

「ユウマー!」叫んだアサコの胸がはじけ、血と内臓が飛びちる! そして、その場にいる男たちの頭が次々と炸裂していった! 泣きわめきながら跳ぼうとした男がいたが、彼の瞬間移動へと移行する能力では追いつけないほど見えざる者の処刑速度は速く、的確であった。ものの二、三秒でミノリとショウのふたりは、ぶちまけられた真っ赤な鮮血にとりかこまれ、そして周囲には鉄と生ぐさいにおいがあふれていた。

「──悪かったな、ヴァージン(処女)・ショウあらため、アグリー(醜い)・ショウ」

 しんしんとふりしきる雪の中に、傘をさした水上カンゴが立っていた。

「…………」言葉がでてこないミノリ、そしてショウ。

「死ぬのをやめたと叫んだ街の住人を、自殺に追いむというのは俺と首長との協定に違反する行為。俺の顔に泥をぬる行為だ。これは万死にあたいする」

「…………」

「俺はショウが死ぬつもりであれば好きにしろ、そういっただけだ」

「…………」

「それにミノリ君と戦えば連中は負けた。クナシリの街を滅ぼしたキミに勝てるわけがない。そうだろ?」

「…………」どうしてそんなことまで知っている? ミノリはまた心を読まれたようだ。

「俺は部下に、エムどうしの戦いで敗れることを許していない。そんなことになれば俺までが軽く見られるだろ?」

「だ、だからって仲間を……」ようやく声がでるミノリ。

「仲間? バカいうなよ、飼い犬だ。しかもミノリ君はこの犬どもを殺さずに倒しただろう? そうしたよね? 生き恥もいいところだ。こいつら、これから街でどんな顔して商売すればいい? ショウだっていったじゃないか? ざこだって。ざこは死んで当然だ」

「わ、私は……」そんなつもりではなかったといいたいのだが、カンゴを前にしてすくむショウの口はうまくまわらない。

「まあ、ショウの兄さんを攻撃した時点でこいつらは協定違反だった。せめて殺さなかったからと大目に見ていたんだが俺もあまかったよ、すまなかったな。だがショウ、兄のかたきが討てたんだ。喜んでくれるだろうね?」

「…………」それはそうなのだが、喜べるはずのないショウ。

「それにしても残念だよ、ショウ。せっかくきれいな顔をしていたのに、バカなまねをしてくれたものだ。自己過信もいいところだな」

「…………」そしてそれは、その通りであるとショウは自覚している。

「高値で売れたものを……とっとと俺のところへくればよかったのにな」

「…………」それはそれで地獄だろ! 閉口するしかないショウ。

「ところでミノリ君よ」

「え?」

「俺は興味をなくしたことだし、アグリー(醜い)・ショウへのプロポーズのつづき、がんばってな」

「…………」かっ、と顔をゆがめるショウ。

「プロポ……」ミノリも反論の言葉をつぐことができない。しかし……。

「ぶしつけな部下がじゃまをして悪かったな。せいぜいふたりで愛を語りあってくれ!」

 水上カンゴは高笑いをしながら背をむけた。しかしミノリは、傘をさす彼の後ろ姿に問いかけずにはいられなかった。

「カンゴさん!」

「うん?」傘ごしにミノリを見るカンゴ。

「U州から連れさった女の人や子供たちは、今どうしているんですか!?」

「U州?」

「コリンさんたちの村から奪った女性はどうなったんだ!」

「コリン? 誰だ、それ? それにミノリ君、年上には敬語を使えよ。どうなりましたでしょうか、教えてくださいだろ?」

「黙れ!」

「さすがに自殺するような愚かな女の息子は、育ちが悪いらしい」

「な……」絶句するミノリ。母、アズサがミノリを守るために自殺をしたという話は、これまでショウにしかしていない。こんなことまでも水上カンゴは……。

「そのコリンとかいう男にも伝えておきな。どの女も子供も、しあわせに暮らしてるってな。コロニーの中で性奴隷としての一生をじゅうぶん楽しんでいるとな」

「…………」

「もっとも、俺のところで種つけ用に飼っている女はいる、美形にかぎるがな。もしかしたらその中にいるかもしれないな? コリンさんとかの村の女もさ。なにせ世界中の美女が集まってるんだ、さすがの俺もいちいち州籍までは把握はしてないよ」

「……飼っている?」

「そう、飼っている。牛や豚みたいに食ったりはしてないよ。女を産んでくれればこれも売れるからね。男が産まれても、まあそれなりに育てれば労働力にはなるし、美形男子を嗜好する紳士淑女も、コロニーにはおおぜいいるからね」

「…………」

「あ、そーだ! ショウ、飼ってやろうか? もともと美人なんだ、まだ種つけ用になら使えるぞ」あははと笑うカンゴ。怖気(おじけ)づいてふるえるショウの前に立ちはだかるミノリ。

「なんてことを……」

「──俺を殺したいか? ミノリ君」

「…………」

「まあ、やってみな……じゃあな」

 そしてカンゴは、音もなく雪片とともに消えいっていった。そしてミノリは、積雪の中の血だまりに(ひざ)からくずれ落ちた。

「だめだ……あんな人の抑止力になんてなれるわけがない」

「ミノリ……」

「なにもかも読まれている。なにもかも知られている。そんな相手とどうやって……」

「だ、だけどミノリ! あの男はミノリの強さを認めたんだよ! これであいつの手下どもは街の人たちにへたなちょっかいだせなくなったんだ! これだけでも大きいよ!」

「それだけじゃだめなんだ! くそ!」ミノリは血だまりにこぶしをたたきつけた。

「ミノリ……」

「……ショウ、送っていくよ。ふたりともずぶ濡れだ、風邪ひいちゃう」

「そうだな……」

「ユウマたちの埋葬は明日でいいよね? 帰ろう、ショウ。帰ってシュンさんに元気なショウを見せてあげなきゃさ」

「ああ……」

 うなずいたショウは思っていた。死にたいと考えていたことや、水上カンゴへの恐怖心が嘘のように感じられ、全身に気力がみなぎっている。あれがミノリのプロポーズであったのかどうかはわからない。けれど今はこれで十分、生きてくやしがり、こんな顔になってしまった私にやさしく笑いかけてくるミノリがいてくれるだけで十分だ。それにまだキスも、手をつないだことすらないのだから。彼女は心からそう思っていた。

                             (つづく)


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