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第二章 ミノリとショウ 25

       25

「ミノリさ……」首長の屋敷へむかう途上、カズヨがミノリの耳もとでささやいた。彼女は、いったん街の空き倉庫へU州エイブラハム区画より大量に持ちかえったアンデイ病の薬剤をミノリに仮置きさせ、彼の背中の刺し傷を簡易的に応急処置した。とにもかくにもふたりの帰還を首長とヒマリに報告したかったのだ。カズヨは、怖がりの私だって街の役に立てました! そういいたいのであろう。そしてふたりして意気揚々(いきようよう)と歩きだす。早く首長とヒマリに経過を知らせて喜んでもらいたいのはミノリとて同じ思いであったからだ。今回の遠征ではまずまずの成果をあげることができた。カズヨの計算では、手に入れることのできた薬物の量は、サツキはもちろんエトロフの患者が仮に数百人いたとしても三年は対応できるだけの物量なのだという。そして思いもかけずコリンというU州のエムまでが同志となってくれた。どこまで信用していい存在なのか不確定要素の多い人物ではあるが、ミノリは彼の(ふし)くれだった右手にショウの兄、シュンと同じような安心感をいだいていた。

「──聞いてる? ミノリ」

「なんです、先生」

「ミノリ、絶対にないしょだからね。私が実はとんでもなく怖がりだってのは」

「ああ……はい」くすりと笑うミノリ。

「笑うな! 街の人にいったら殺すからね!」

「わかりました。でも、首長さんやヒマリさんにはすぐバレますよ」

「あたり前でしょ? もうとっくにバレてるし、それに……」

「なんでしょう?」

「……あんたさ、怒りのあまりクナシリの人を殺してしまったこと、アヤメとかって子を守れなかったこと、今でも後悔しているんだよね?」

「は? なんです急に」

「私だって一緒だよ。首長に死んでくれって思ったことがあるからね。自分が助かりたいばっかりにさ……」

「え……」

「例の男にこの街が襲われて五百人が殺されたときは、戦ってくれている首長とヒマリさん、このふたりが死んで、それで私が助かるならそれでもいいと思ったわよ! 後悔してるけどね」

「カン……例の男と首長さんが戦ったときってヒマリさんも一緒だったんですか? ふたりで戦ったんですか?」これは初耳であった。

「そうよ」

「でも、ボクの虐殺と先生の気持ちのありようなんて……」

「同じよ」いいきるカズヨ。「でもね、そんな私でさえ首長は受けいれてくれた。私の考えたことなんかお見通しのはずなのにね。とうぜん怖がりなのも知ってて今回、薬物調達の任まであたえてくれた。嬉しかったよ、私」

「そうですか……」

「胸をはりなさいミノリ。そんな首長があんたを信頼して私につけたんだから。あんたのやったこと、人を殺したことは正義ではないけど、正しいんだよ。きっとね」

「まったく意味がわかりませんが」

「さあ、収穫の報告へいざ参らん!」

「はあ……」納得のいかないミノリは首をひねりながら、カズヨのあとについていった。


「おかえりなさい。よくぞ無事にもどりました」ヒマリはいうとカズヨ、そしてミノリをそれぞれ抱きしめた。しかしその表情は、どことなく精彩(せいさい)が欠けているような気がミノリはした。「たくさんのお薬をありがとうカズヨ」

「はい。それでエトロフからの患者は何名くらいですか?」

「約三十名です。みなカズヨの病院で待っていますよ」

「わかりました」

「あんがい少なかったんですね?」ミノリがいうと、ヒマリはさらに表情をかたくする。

「もっと大勢いたそうですが、やはりアヘンにおかされている者や精神を病んだ者が多く、救助へいってくれた方々と交戦になりました」

「交戦? それで、みんなは無事なんですか!?」

「やはりいかせるべきではなかった。今はそう思っています。ふたり、亡くなりました」

「なんですって!」叫ぶカズヨ!

「それで……ショウは!?」ヒマリの肩に思わず手をかけるミノリ。

「生きてはいます。しかし彼女は負傷しました」

「ショウが負傷……どんなようすなんです? どのくらいのけがなんです!?」

「ジョエルは、こうなることを予見できなかったことをくやみ、(とこ)にふしました」ミノリの質問にはこたえず歯を食いしばっているヒマリ。

「首長が? 私が()ます!」カズヨがいうとヒマリは小さく首をふる。

「カズヨ、あなたは急ぎご自分の病院へもどりなさい。ショウを今みているのは素人(しろうと)ばかりなのですよ」

「わかりました」

「ミノリ……」

「はい」心ここにあらずといったふうなミノリは、ショウに対し千里眼を使うべきかをまよっていた。

「あなたがショウをささえなさい。力などにたよることなく、真っすぐに彼女とむきあいなさい」

「……はい」──重いのか? 重症なのか、ショウ!

「ミノリ、いくよ!」カズヨがミノリにつかまる。

「はい!」ミノリはカズヨを連れて、彼女の病院へと跳んだ。

 ふたりが消えるとヒマリは、木製テーブルの天板へ怒りの思念とともにこぶしをたたきつけた。派手な音とともに砕けちるアンティーク調のテーブル。

「わからない。なぜこの事態を予知できなかったのか……なぜ!」

                          (つづく)


はげみになりますゆえ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。



当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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