第二章 ミノリとショウ 24
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通りをはさみ、ポツリポツリと背の低い家屋が立ちならぶ小さな村であった。しかしどこの家も破壊のかぎりをつくされ、まともに屋根や壁が残っている所はほとんどなく、焼け落ちたのか柱や筋交いの燃えかすだけが放置されているばかりであった。そして0番街で水上カンゴが一晩で五百人を殺戮したときにできた炸裂痕と同じクレーターがそこかしこに見えた。あらかじめ精神感応で伝えてあったのか、ミノリたちが村に到着すると約二十名のU州の男どもがわらわらと集まり、そして誰もがなめるようにカズヨを見つめている。中には殺意をむきだしにしてミノリをにらむ若い男もいた。もしかしたらカンゴたちの襲撃で家族を殺されたのか、恋人を奪われた者かもかもしれない。ロープできつく拘束されたカズヨは村はずれの比較的、小屋としての形状が残っている家にほうりこまれ、見張りとしてふたりの老人がつけられた。老人とはいってもエムである以上、どんな力をもっているかわからない。とくにコーンパイプをくわえている体の小さな男の方の眼光のするどさが、ミノリは気になった。
「さあ、やろうか! J州野郎を殺せ!」コリンが号令をはなつと、様々な人種のむくつけき大男どもが土をけってミノリに襲いかかった。ある者は直接、ある者は空から、そしてある者は瞬間移動で。一見荒々しく見える攻撃であるが実に統率が取れていて、誰かがミノリを捕まえるとほかの男がなぐりかかり、ミノリの気が一方に向けられると他方から観念動力や、発火能力による火球が飛んでくる。そのすべてをよけ、かわしながらミノリは、そんな場合ではないのだが見事な連携であると感心してしまう。それぞれがそれぞれの能力を生かし、ときには譲り、息をあわせての戦略的動き、おそらくは相手があの水上カンゴでなければ彼らは負けなかったに違いない。あの男の手下ていどの力であれば凌駕したことだろう。ミノリはそんなことを考えながら、ひとりずつひとりずつていねいに観念動力をあてはじめる。後頭部に、顔面に、あごへと、できるだけ一撃で脳をゆらせて気絶させることにつとめる。休まずに飛んでくる観念動力はねじ曲げて別の男へと見舞い、火球には火球でかえし相互作用で分散させる。瞬間移動で跳んでくる者は現れる位置を瞬時に予知、いきなり力をぶつける。組みつかれた場合は、相手の腕か足を思念で折った。精神攻撃をしかけてくる者も当然いた。はなれたところからミノリの心臓をつかみだそうとする男も。そのどちらの場合も彼は相手の何倍ものパワーを逆に送りかえし、死なないていどに脳へと打撃をあたえた。
荒廃した村のあちこちに倒れふした男たちが転がっている。動ける者はミノリとコリンと元C州の者らしきアジア系の男、三人だけとなっていた。
「強い、強い! こりゃ驚いたな」肩で息をしながらコリンがいった。
「コリンさん、もういいだろ──」背後に跳んだアジア系の男がけりを入れようとしてきた。だがミノリは、そのふりあげた足ごと一回転させてレンガ塀に頭をたたきつけた。彼は白目を剥いたが、むろん死んではいない。
「J州人……心の底からムカつくぜ!」コリンは無作為に火球と観念動力を連続発射、しかしミノリは顔色ひとつ変えることなく、それらの力をはたき落とす。ところがである、脳神経が疲弊していたことがコリンにさいわいした。一発の軌道が読めない火球がふらふらとさまよい、ミノリのシャツに火をつけた。上半身が燃えあがり、うわっと声をあげるミノリ! 千載一遇のチャンス、コリンはミノリに飛びかかった! おそらく彼の渾身のこぶしがたたきこまれれば、ミノリなどひとたまりもなかっただろう。しかしコリンの神経はそこで断ちきれた。勝利を確信した瞬間、酷使されつづけた彼の脳がショートしてしまったようだ。ミノリが観念動力で瞬間的に消火すると、コリンは目の前にばったりと倒れていた。
「やれやれ……」ほっとため息をつきながら、炎ですすけた額の汗をぬぐったミノリは、ん?と声をあげた。するどい痛みを感じたあたりに手をまわすと、なにかが背中に刺さっていた。そして手のひらにはベッタリと赤い血がしたたっている。「まずい!」四方八方からナイフが弾丸のように飛んできた。瞬間移動を駆使し、小型のナイフを投げているのはコーンパイプをくわえていた老人であった。彼はミノリが気をぬく瞬間を待っていたのである。ミノリはとっさにナイフをはじき飛ばしたが、体を動かすと深々と刺さった刃先が内部の傷を広げているようである。
「次はおとなしく心臓をさしだせ、J州人。さもないと……」ナイフをかまえた老人がいいながら、視線を右側へと送る。その先には同じナイフを、縛られたカズヨの首につきつけているもうひとりの老人が立っていた。
「卑怯だぞ!」
「卑怯? お前の同胞のやったことほどではないよ」
「く……」水上カンゴがこの村へしたことにくらべられたら、反論は当然できない。
「次によけたら、あの女が死ぬぞ。ほれ左胸をこちらにむけろ」
「待て、ボクが死んだら先生、彼女はどうなる?」
「さあな、賞品の使い道は若い者に聞きな。わしらには無用の長物だ」
「そうか……わかった!」ミノリは力を使いカズヨを強引に引きよせ、そのまま跳んで消えた。その場には、老人があわてて投げたナイフが突きたっていた。
ナイフを突きつけられていたため、カズヨの首には薄っすらと血がにじんでいたが重篤なけがではないようで、ミノリは吐息をつき、しかし先ほどの反省をふまえ、緊張を途切れさせることはなかった。彼女の縄をほどいたミノリは背中に刺さったナイフを叫び声をあげながらぬきとり、そして膝をついた。
「ミノリ、大丈夫!? とにかく止血しないと!」
「先生、大丈夫です……自分で血はとめられますから」
「え?」
「前に連れていかれた元C州の山の中で、人食いパンダに襲われて腹を爪でえぐられまして、そのとき止血をおぼえました」
「パンダって人を食うの?」
「もともとは肉食獣らしいですよ。ヒマリさんがいってました」いいながら背中の傷に神経を集中させるミノリ。毛細血管を収縮させることで血液の流出をとめることができるのである。しかし動脈や静脈などの太い血管や内臓が損傷した場合には、あまり効果が期待できない力かもしれない。
「とにかく急いで街にもどりましょう。ナイフに毒でも塗られていたら大変よ」
「毒?」それはミノリも想定外であった。力のない老人ならばそのくらいやるかもしれない。「毒はまずい!」
「だから、早く帰るの! 帰って消毒、検査! とにかく帰る! 私、帰る!」よほど怖かったのであろう、カズヨは半分泣きながら子供のようにわめきたてた。
「──先生!」気配を感じたミノリは彼女をかばい周囲に意識をめぐらせる。するとビュンという風切り音、目の前にコリンが立っていた。ミノリは後悔した。コリンは力の使いすぎで意識をうしなっただけであって、物理的に脳をゆらされたわけではない。最後に一撃をくわえておくべきであったと。彼は自身のあまさに腹が立った。
黙って対峙するミノリとコリン。息がつまりそうになるにらみあい。相手もまだ疲労回復はしていないだろうが、それはミノリも同じこと。そのうえ、傷口は深い。今、戦えばカズヨを守りきれないかもしれない。ふるえるカズヨを背に感じながらジリジリと後ずさるミノリ。
「……強いな、お前は。ミノリ」コリンが笑顔を見せた。
「え?」
「負けた、負けた。くやしいがな!」
「コリンさん……」
「しかも死者はひとりもでていない。そっちのねえさんのいったとおりだったよ。まったく大した野郎だ」ハハハと豪快に笑いながらミノリの肩をたたくコリン。たたかれるたびに傷が痛むし、ここで油断していいものなのかミノリはまようけれど、しかし、コリンの中に悪意はみじんも感じられなかった。たとえるなら、春風のようなすがすがしさが心にあふれてくるような気さえした。信用できる、ミノリはそう思った。
「コリンさん、骨を折った人にはあやまっておいてください」
「ああ、いっておく。お、ねえさん、悪かったなさっきは」
「ずいぶんと軽くいうわね!」キーッと歯をむきだすカズヨ。
「ハハハ。ところでミノリ、あの野郎の名、なんていうんだっけ?」
「水上カンゴです」
「そうか。そのカンゴとミノリ、いつ対決するんだ?」
「え?」
「仲間がほしいんだろ? お前とならあの化け物をぶっ飛ばせるような気がしてきたんだ、俺は」
「コリンさん!」
「村の長老を気どるじじいふたりも、お前になら可能性があるかもしれんとくやしがりながら笑ってたよ」
「あのおじいさんたちが……」
「女を盾にとってすまないってよ」
「本当に!?」カズヨも目をぱちくりとしてしまう。
「──で、ミノリ、いつやるんだ?」
「まだわかりません。できれば争いはさけたいんですが……」
「だめだろ、そりゃ! あいつだけは生かしておいちゃならない」
「ボクはカンゴの暴走に歯どめをかける抑止力に──」
「だめだ! 戦え! だいたいお前、予知したんだろ? いつなのかわからないのか?」
「わかりません。すいません」シオシオと頭をさげるミノリ。
「しょうがない。だったら俺は世界をまわって仲間を集める」
「え?」
「たった二十人ばかりのエムが加勢したって、あのカンゴには屁みたいなものだろ? 俺が大軍団をそろえてやる。ミノリ、お前のためにな」
「いや、そんな……」
「俺らだけじゃないはずだ。あの男はあちこちで女子供を強奪して歩いていると俺は見てる。ヤツにうらみをもつエムは世界中に相当数いるね。ま、俺にまかせておけ!」
「わかりました。……お願いします、コリンさん」
「まかせろ」ごつい右手をさしだしてくるコリン。ミノリはその手をがっちりと握った。
「ところで、コリンさん」
「なんだ?」
「近くでよく見ると、足がデカいですね。ボクの倍ぐらいありそうだ」
「うるせぇ! 倍もあるか!」そういいながらコリンは笑った。
(つづく)
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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』
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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』
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