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第二章 ミノリとショウ 23

       23

 世界最大規模のコロニー、U州エイブラハム区画。その周囲には無数の攻撃ドローンが飛びまわっていて、地上にはK109が多数配備されていた。そのさまは、何者も近づけさせないという圧倒的なまでの威勢を誇示しているかのようであった。やはりJ州とは警戒の規模が違う。数百キロも離れた森林の中でミノリの目を通してその様子をうかがっていたカズヨが不満の声をあげた。

「なんかムカムカする。いつまでたっても白人至上主義の州なのね!」

「先生、あのコロニーには黒人もヒスパニックも住んでますよ」ミノリがいうとカズヨは目をつりあげた。

「なにあまいこといってんの? そんなマイノリティは、PEまん延時に避難シェルターへ入れてもらえず七割が滅んだわよ。白人が優先されてね」

「そうなんですか!」

「知らなくて当然か? そんな不都合な真実、政府が発表するわけないものね」

「知らなかった……ネットニュースなんかにはよくでてたのに、有色人種の人」

「そんなの目くらましよ、決まってるでしょ。それにさ、J州にだってあれだけの警備があれば夏祭りのテロなんて防げたはず。州予算のわりあてに格差がありすぎるのよ」

「へえ……」

「まあ、コロニー内のことだから私らには関係ないけどね」

「人間はエムだけを目の(かたき)にしているわけではないんですね」

「でもエムの存在によって、人間同士の差別や争いが減少したことは確かよ。こまったことにね」

「そうなんでしょうね」カエサルの理想に近づくまでには、まだまだ遠いようであるとミノリは思った。

「0番街のようなところが珍しいのよ。まさに小さな人種のるつぼでしょ?」

「はい」

「だから守らないとね。転入してくるエトロフの患者たちもさ」

「はい」

「気を引きしめていきましょう!」

「はい!」

 それからふたりは例のごとく薬品が保管されている施設をさがし、その特定ができると必要な薬がおかれている薬品庫を捜索した。U州語が堪能なカズヨにしろ、まるっきりのミノリにしても、いずれにしても他州との接触が初めてのふたりには敷居の高い探索となった。ミノリは視覚だけではなく聴覚をも働かせてカズヨの脳に送った。そしてU州人医師たちの会話の中から、ついに薬品保管庫を発見することができた。さらに今回は万全を期す意味でアンデイ病に必須となる薬品のおかれている棚の位置、貼られているラベルの特徴までも正確に把握(はあく)した。J州では最初の十秒が勝負であった。しかしテロ対策が確立されたU州では、それが三秒かもしれないのだ。ただし見かえりも大きい、クサナギ区画から持ちかえった薬品の数百倍の量の薬があることもわかったのである。そこまでつきとめるまでに七時間はかかっただろうか? 日はすでにとっぷりと暮れおち、寒風が吹ぬける真っ暗闇の森林の中で脳神経が疲弊(ひへい)しはてたふたりは、集中をつづけていたため気づかずにいた反動もあってか、あまりの気温の低さに(こご)え、ふるえていた。

「ミノリ、発火能力あるんでしょ? 火、今すぐ火おこして」

「ダメです。煙が監視ドローンに見つかったらおわりです」

「そっか……でも寒い! こんなんじゃあんたの目になんかなれないよ!」ガチガチと歯を鳴らすカズヨ。

「いったんもどって、日が昇るまで待ちましょう」

「ダメよ! 今晩、薬品庫の模様がえがあったらどうすんの?」

「ありませんよ」

「わかんないでしょ? U州人の考えることなんか!」

「ヒマリさんみたく交感神経を活発化させるとかできればいいんですけど」

「え? あの人、そんなことできるの?」

「はい。長くはつづけられないけど、それで体を温められるって」

「どんだけすごいの? ついていけない……」

「でも、人体構造にくわしい先生にならできるんじゃないですか?」

「できるわけないでしょ!?」

「先生は患者さんの苦痛を(いや)す能力がありますよね?」

「それがなに? 大した力じゃない」

「だったら逆に、乱すこともできるんじゃないですか? 人体にストレス、負荷をかけることだってできるんじゃありませんか? 熱をださせるとか?」

「そんなのやったことないし、熱がでたらよけい寒気が増すでしょ!」

「そっか。それに医者にそれをされたら患者はたまりませんもんね」苦笑いをうかべるミノリ。「だけどヒマリさん、いってました」

「なんて?」

「エムには無限の可能性があるって」

「そんなの甲種の人だけよ! ああ寒い! こうしていたら風邪ひいて熱がでるかもね」

「……先生、とにかく一度帰りましょう。厚着して出なおすんです。カイロとかもってきましょうよ」

「……それもなんかくやしい。医療系エムとしては」

「先生、どうすればいいんですか!」さすがのミノリもカズヨのわがままさにイラっとした。

「わかったわよ! やればいいんでしょ!」

「え?」

「脳と体の感覚を切りはなす。患者から苦痛を取りのぞくために私が今まで使ってきた手法よ。それが癒しの能力の正体」

「脳から体の感覚を切りはなす?」そういえば、とミノリは思い出した。全身をロボット警官にハチの巣にされ、足の骨を折られて入院したとき、体中が痛むはずなのに、それほどの苦痛を感じなかったことを。

「それを自分に使ってもミノリからのビジョンは脳が受けとれるしこたえられる。そして寒さは感じない」

「すごいじゃないですか! 先生!」

「脳天気なこといわないで! 時間がかかれば手足が壊死(えし)しても気づけないのよ! こんな森の中へおきざりにされて、飢えた野獣にでも襲われたって体を動かせないの! 病室で管理された患者相手だから使えた力なの!」

「……先生、その力から復帰することはできるんですか?」

「たぶん。体はなにも感じなくなるけど、意識だけは残るから」

「三十秒でもどります」

「本当にお願いするわよ!」一瞬、泣きそうな顔を見せたカズヨは、目を閉じ(ひたい)に手をあてた。すると気絶したかのように、その場にくずれおちた。脳神経と全身の神経が切断されたのである。ミノリは彼女を両腕でささえ、その場に横たえると心の中で、いってきますとつぶやく。すると彼の脳に“いってらっしゃい”とこたえが帰ってきた。

 U州エイブラハム区画病理医学研究所へと跳んだミノリは、目的の薬品庫へと入る前に片っ端から様々な室内に侵入、所内の警報を鳴らしまくった。とたんに聞こえはじめる銃声音。そこまで約八秒、やはりJ州の警備とは桁違(けたちが)いの素早さでK109が出動してきた。ミノリはここでめざす薬品倉庫へと跳んだ。そして、素早く周囲を見わたす。

“ミノリ、早く! 右側裏の棚でしょ! それから正面奥、後ろの棚!”脳内にカズヨのどなり声が響く!

「はい!」大量の薬品箱、それから棚ごとを観念動力で持ちあげるミノリ、あとは持ちかえるだけ!

“な、なに? なに? やめて!”

「え?」切羽つまるようなカズヨの叫びが聞こえた。そしてほぼ同時に、薬品庫の装甲扉がはじけとび、K109が銃撃してきた! なかばパニック状態のミノリは、山のようなダンボール型プラスチック箱と薬品棚をかかえ、カズヨの元へと跳んでもどった。

 真っ暗闇の森林の中、手にした箱やスチール棚をほうりだしたミノリは、横たえた場所に彼女の姿がないことに気づき真っ青になる。

「先生! 先生!」ここからはなれたのは、わずか二十秒ていどである。しかも彼女は身動きひとつ取れない状態であった。自身で力を解いて、トイレにでもいっているのであればいいが、最後に聞こえた叫び声はそんな悠長な事態ではないことを物語っていた。暗視能力を使うと、ふみ荒らされたような地面に複数の足跡が見えた。人間に襲われた? いや、コロニー外である以上、相手はエム! おそらくミノリ同様、千里眼を使う者がいて、どこかで彼らの様子をうかがっていたのであろう。そしてミノリがコロニーへむかった瞬間、行動を開始したに違いない。「くそ! くそが!」相手が瞬間移動能力、飛行能力を備えている可能性は高い。ミノリはいったん、はあっ!と息を吐き、精神を集中させると敵ではなくカズヨの思考を追った。聞こえるはずだ! 聞こえるはずだ! 先生、どこだ! クナシリでは殺されていく子供たちの声を聞くことができなかった。二度とあんな後悔はしたくない! あんな思いはしたくない!

 ──聞こえた! そして見えた。うちすてられた山小屋の中で、上半身の衣服をはぎ取られ、しかし動けないカズヨと、彼女を取りかこむ飢えた野獣のような目をした白人や黒人の男たちの姿が。ミノリはひとつ自分の(ほお)をたたいた。怒りに身をまかせてはならない、ボクはただの人殺しにはもうならない! そして瞬時に彼は、灯りが外部にもれないよう窓が目かくしされた小さなロッジへと跳んだ!

 四人の屈強な男たちは、脳と体の神経を切りはなした状態のままの生きた人形であるカズヨを床に横たえ、上着をぬがし、そして木綿のブラジャーをはぎ取った。そしてリーダー格らしき白人の男が彼女のズボンのベルトに手をかけ──。

「だぁ!」木製の室内に突然現れたミノリが、白人の大男のあごをけりあげた。身がまえるほかの三人。そして、いきなりのことでじゃっかん驚きはしたものの、ミノリのけりなどあまり効いていない様子の大男。ミノリは自分の着ていたジャンバーをカズヨにかけ、そのまま持ちあげ、跳ぼうとしたところへ黒人の放つ観念動力に撃たれた。直撃はまぬがれたが、さらに別の男からも撃たれる。カズヨにあたりそうであったため、その軌道を変え、黒人の男へとぶつけさせた。次々と繰りだされる連打の嵐。予測のつきにくい角度から飛んでくる観念動力は、正確無比なK109の銃弾よりもミノリには恐ろしく感じた。四人の男は、エムとしての性能がかなり高いようである。ひとりであれば逃げることはたやすいに違いないが、それでは意味がない。そして、いつの間にかカズヨからはなれた位置に立たされていた。白人の大男を中心とした四人の連携攻撃にまんまと引っかかってしまったようだ。

「××××!」白人の男がなにか叫んだが、U州語が理解できないミノリにはこたえようがない。そのはずであるのに、なぜだろうか? 言葉はわからないのに意味がなんとなくではあるが、くみ取ることができた。以前から他人の感情を感じることはできたのだが、これはミノリにとって初めてのことであった。白人の大男は“J州の男は死ね!”そういっていたのだ。男たちは観念動力の連射にくわえ瞬間移動も駆使(くし)、ときおりなぐる、けるなどの物理攻撃まで仕かけてきた。体の大きさも、体力も完全に劣っているミノリは、あやまってパンチをくらうと、歯を折られ、いとも簡単に壁へとたたきつけられた。


「残念ですが誰かを守るということは、別の誰かを排除することと同義ですよ。ミノリ、そしてそのときは事故ではなく、あなたの意志で殺しなさい」


 ヒマリの言葉がうかんだ。それでもミノリは殺したくないと思った。あまいのかもしれないが。カズヨは絶対に守りたいが! 血を流して床にはうミノリを見ながら、白人の男はカズヨをおおっていたジャンバーをこれ見よがしにはぎとり、前歯をむきだしにして、ハハハと笑った。笑いは世界共通語、この笑いにふくまれた意図を読みとったミノリは激怒した。

 ドーン! 激しい激突音とともに四人の男は、いっしょくたにまとめあげられ天井へ、そして床へとたたきつけられた。二度、そして三度と。白目をむいて血をふく男たち。ミノリはそれをしながら、カズヨにジャンバーを着せ、フロントのファスナーをしっかりと閉じた。

「先生、おきてください。もう大丈夫です」ミノリはカズヨにいうと、天井と床を何度も往復させつづけていたU州の男たちを、そっと床へとおろした。死んでないよね? そう思いながら。彼はかなりの手ごころをくわえていたつもりであった。

「う……うう」身体に神経がつながったらしいカズヨがうめきながら顔をおこした。

「先生! 無事ですか? 体、動きますか?」

「怖かった……」そうつぶやいたカズヨは、指先や足先の動作を確認している。「うん、問題ない」

「先生、どうしてもっと早く神経を復帰させなかったんですか?」

「だって! あんなエム相手じゃ絶対、逃げられないし、犯されるにしても殺されるにしても、体がなにも感じない方がいいと思ったのよ! どうせ弱虫な丙種よ、私は! 悪かったわね!」半ベソになりながらミノリの肩をバンバンたたくカズヨ。

「すいません。ボク、女性の気持ちがぜんぜんわかってませんでした……」ミノリの視界の端で、重なりあって意識をうしなっている男たちの山がかすかに動いた。「先生、さがって」ミノリが身がまえると、黒人とヒスパニックの下敷きになっていた白人の男が頭をふりながらはいだしてきた。その手には小型の拳銃が握られていたが、ミノリは無言のまま、観念動力ではね飛ばした。白人の男は驚いたように自分の手を見つめ、はじかれた銃を引きよせようとはしなかった。そしてあきらめたらしく両手をあげ白旗の意をしめし、なにかを話はじめた。

「××××……」

「ミノリ、U州の言葉わかる? (やく)そうか?」ミノリの背後にかくれながらカズヨがいう。

「いえ、言葉はわかりませんが意味はわかります」

「どういうこと?」

「感情の流れだけはわかるんです。理解できない単語だけは教えてください」

「へぇ……」あらためて彼女は甲種の能力に恐れおののいた。

 白人の男が話している間にほかの男たちも意識を取りもどしていた。そして恐れるようにミノリを見つつ、口々にいいあいをはじめる。リーダー格の白人がそれを制止し、そしてまた話をつづけた。白人の彼はコリン、黒人はジョーイ、ヒスパニックのふたりはそれぞれにアダンにバシリオという名であるようだ。カズヨの翻訳にも助けられながら、ミノリが確認したコリンの話を要約すると、次のような驚くべき内容であった。

「J州のエムはみんな、お前みたく強いのか? 以前、やはりJ州の男たちがやってきて、我々がそこそこ平和的に築いていたコミュニティに襲いかかった。連中は男たちや老人を容赦なく殺し、女子供を根こそぎさらっていった。抵抗しなかったのかって? したさ、もちろん。J州側のエムにも何人かの犠牲者がでたはずさ。けどな、ひとりだけとてつもなく圧倒的なエムがいてね……アイツの強さにはまるで歯が立たなかった。生き残った男や老人は俺たちをふくめて二十名たらずだ、元は二百人以上いた村だったのにさ。俺たちがJ州人を憎んでも当然だろ! 俺たちの女を奪われたんだ! J州女を犯してなにが悪い! え? 違うかい? J州の男!」

「──水上カンゴだ」ミノリがつぶやいた。いつかショウはいっていた。カンゴはさらった女や子供をコロニー内の富裕層へ奴隷として売りさばいていると。そしておそらくではあるが、あの男のほかに強大かつ凶悪な力をもつJ州のエムの存在など考えられない。「許せない!」ミノリがどなると床や壁の板が爆破されたようにはじけた。とっさに怖気(おじけ)づいて逃げるカズヨ、そしてコリン、ジョーイ、アダン、バシリオ。「……先生、通訳をお願いします」

「は? え?」

「彼らの話す言葉の意味は理解できるんですが、彼らに言葉を伝えることは今のボクにはできないですから」

「わかった」ミノリのはなつ圧に押され、とにかくうなずくカズヨ。

「……コリンさん、申し訳ありません」ここでミノリは深々とこうべをたれた。「みなさんの愛した女性や子供たちを奪った男はボクたちの街の人間です。彼ら彼女らが今、どこでどうしているのか、ボクにはわかりません。さがしようもありません! でもいつか、ボクはあの男、水上カンゴと対決します。そんな予知をしました……」ここでまたミノリは言葉を切り、ひとつ息を吐く。「ボクはひとりでは勝てないでしょう、たぶん殺されます。でもボクは大切な人たちを守りたいんです……そのときは、コリンさん、ジョーイさん、アダンさん、バシリオさん、ボクを助けてくれませんか? 助けてください、お願いします!」 

「──ってミノリ、なにいうの!」同時通訳をしていたカズヨがミノリへと声をはりあげる。襲われ、半裸にされた連中に彼が助力を求めたのだから当然であろう。そしてコリンらも大げさなリアクションでノー、ノーとわめきたてた。

「大切な人を守りたい? 笑わせるな。お前は俺たちの大切な人を守ってくれたか? 知らん顔だったろうが!」先ほど受けた攻撃で口の中を切っていたジョーイが、血のまじったツバを吐く。

「それにあんな恐ろしい男と対決だ? イカれてるとしか思えない! あんたも強いが、ヤツは百倍も強かったぜ! 大勢の仲間が目があったってだけで瞬殺されたんだ!」こういったのはアダンであった。

「死にたきゃ勝手に死にやがれ!」ミノリの力に恐れをなし、腰の引けていたバシリオも三人の後ろにかくれながら抗議の声をあげた。

「俺らだってできるものならヤツに復讐はしたい。バラバラにしてやりたいさ。だが、J州人の協力はしない」コリンが太い声で静かにいい、頭を左右にふる。

「わかりました。身勝手なことをいってすみません」このミノリの言葉をカズヨが翻訳すると男たちは顔色を変え、ふたたびどなりはじめる。わけがわからないミノリはほくそ笑む彼女に眉をひそめて質問した。「先生、なにをいったんです?」

「別に。例の男とは違って、ミノリはあんたらが死なないていどに手をぬいて遊んでやっただけだっていってやったの」

「なんですって!?」

「だいたいあってるでしょ?」

「先生……怖がりのくせに、なんでわざわざ怒らせるようなことを!」

「怖がりだってくやしいものはくやしいのよ! ミノリ、ちゃんと守ってよ!」

「…………」知りませんよ!といいたいのぐっとをこらえるミノリ。

「本気だしたら俺たちなんて相手にならんてか? お前、あいつより強いってのか? よーし、もう一度やろうぜ。その女をかけて」指をボキボキと鳴らすコリン。

「は!?」同時に目を()くミノリとカズヨ。とくにカズヨの顔面は青くなっていたが自業自得である。

「俺たちの村にこい。残党二十人総出でもてなしてやる」

「いや、ちょっと待ってください! コリンさん」

「このくらいでビビるようじゃヤツの相手はつとまらないぜ!」

「確かにその通りかもしれませんが……やめておきます」

「なんだと?」

「ひとつには派手にやりあって火の手でもあがればエイブラハム区画の監視ドローンに捕捉される恐れがあること。ふたつ目は先生をかけるなんてとんでもないということです。絶対にできません」

「ひとつ、俺たちは毎日のように()き火をする、冷えるからねぇ。たまに仲間うちの小競りあいでボヤをだす、発火能力に()けたやつもいるからな。だが、およがされているのか、コロニーからの攻撃をくらったことはない」

「およがされている? どうしてです?」

「さあな。俺たちが知るか」

「……そうか」ミノリは以前考えたことを思いだした。連合警察はここU州でも、失態隠蔽(しったいいんぺい)のため、そしていざというときのスケープゴートとして彼らを生けにえ用に飼っているのであろう。

「なんだ、だったら私らも焚き火ができたんじゃない……」いささかピントがずれているカズヨ。

「ふたつ、女ひとり守れずにあの男と対決? それを手伝え? どの口がいう? 俺たちはどうやってお前を信じればいい?」

「それは……」それはヒマリからもいわれたことである。カズヨひとりを守れずに水上カンゴの抑止力になどなれるか、と。

「やる気になったか? ビッグマウス野郎!」コリンがいうと、はやし立てる三人の男たち。このときふたりはいつの間にかカズヨの通訳を介さずに対話をしていた。つまりコリンはこの短時間で、ミノリと同じように細かな単語はさておいても言葉をこえて相手の伝達したい語彙(ごい)を読みとることができていたのだ。

「戦えば死人がでるかもしれない」コリンの能力の高さを認めつつミノリがいった。

「だからどうした? 俺たちはもう死んだも同然、あのJ州の男になにもかも奪われた時点で、死んで、今はただ生きながらえてるだけなんだ!」

「……わかった」ミノリは戦うしかないと思った。水上カンゴと同じJ州人であることに、なぜだか責任と負い目を感じたのである。

「いい子だ」笑うコリン。そしてジョーイ、アダン、バシリオ。

「ミノリ! 私をかけるの?」悲鳴のようなカズヨの叫び。

「ただしコリンさん、ボクが倒れるまで先生には一切、手だししないでください」

「約束しよう」

「ほかの村人にも徹底させてください」

「いいとも。神にかけて誓おう。J州には決まった神がいないそうだから信じられないかい?」

「いますよ、ボクにも神は」

「ミカドって野郎か?」

「違います。ミカドは敬愛していますが、神に祈りを捧げる方です。ボクの神様はいささか荒くれの天使というか女神です」

「へえ、女だな。なら天使だか女神に祈りな」コリンが指先をクイと動かすとジョーイが瞬間移動でカズヨの背後に立ち、いきなり取りおさえた。

「約束が違う!」

「まだ悪さはさせないよ。ただ、賞品に逃げられたら賭けが成立しないだろ?」

「わ、私みたいなおばさん、賞品にならないわ!」U州語で金切り声をあげるカズヨ。

「それにミノリといったか? この(ほう)がお前も本気をだせるだろ? おいジョーイ!」コリンが軽く手をふると、カズヨの胸をまさぐろうとしていたジョーイの腕がカクンとはじかれた。「あわてるな、お楽しみはこいつを殺してからだ」

「わかったよ、コリン……」へへへと苦笑(にがわら)いをうかべるジョーイ。

「じゃあ、いこうかミノリ。あのJ州人のせいで壊滅した俺たちの村へさ」

 覚悟を決めたミノリは、ゆっくりとうなずいた。

                        (つづく)


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当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』

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