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第二章 ミノリとショウ 20

       20

 約一カ月がすぎた。ガレキの街に横たわり体が一部でも見えている人々の埋葬にはさして時間はかからなかったが、建物や土砂に埋もれた遺体ひとりひとりをさがし、掘りだす作業はミノリの透視能力をもってしてもそうとうな手間であった。そしてヒマリがいった通り見晴らしのいい山の中腹あたりに運び、祈りを捧げつつ埋葬するのである。死者の亡霊に襲われる夢をひんぱんに見て、眠れない夜も多々あった。懺悔(ざんげ)鎮魂(ちんこん)の日々がつづいていた。

 二一〇三年、年が変わった雪のふりしきる元旦。泥にまみれ、いつものように山で遺体を埋めるための穴をミノリが掘っていると、ビュッ!という風切り音が聞こえて鮮やかな純白のポンチョをまとった天使が宙空から突然、舞いおりた。ミノリには本当に美しい翼をもつ天使に見えたのだ。

「……ショウ」

「よう」ショウはミノリを一べつすると、軽く手袋をした手をあげた。「汚いな。ひげくらい剃れよ、ミノリ。正月だぞ」

「ショウ、どうしてここが?」ミノリは手にしていたスコップをおいて彼女に近づいていく。

「首長の家に押しかけてヒマリさんに無理やり聞いた。もちろん私はこんな所きたことないから、昨日一度、ヒマリさんに連れてきてもらったんだ。あんたがひと月も音沙汰(おとさた)ないから悪いんだ! あんたのせいだぞ!」

「すまない、心配かけて。でも昨日きたなら、なんで声をかけてくれなかったの?」

「アホみたいに寒いからだよ!」ショウはポンチョの下にかなり厚手の防寒着を着けているようだ。

「そっか……」

「それから、これ!」彼女は大ぶりのバッグをかかげた。「あんたの着替えやら、洗面具、歯ブラシなんかが入ってる。使えよ、あんたもあの子らみたく虫歯だらけになっちまうだろが!」

「ショウ……」

「おせちも入れておいたから食いなよ。まあ、新年を祝う気分じゃないだろうけど」

「……ショウのだし巻き卵、また食べたかったんだ」

「あ? だし巻きは入れてない、だて巻きでがまんしな。……しかしえらくやせちまったな、ミノリ。なんだか修行僧みたいだぜ」

「そうかな?」

「それに(にお)う」

「毎日、死体が相手だからね」夏であれば臭気の度合いはくらべ物にならないほどであったろう。

「墓穴、掘るにしたって力を使えばいいのに。なんで手掘りなんだ? バカじゃない?」

「うん。でも、自分の手で遺体を埋葬したいんだ……」

「そうか……吹っとんだ街も見てきた。あんたの、(すさ)まじい力なんだな」

「そうだね。ショウには見られたくなかったな。怖くなったろ? ボクがさ」

「…………」

「実はあの前にもひとり殺しちゃったし、水上カンゴと同じことしちゃったよ、ボク」

「違うよ! ミノリはあんなのと一緒じゃない!」

「え?」

「いいことしたとは思わない。けど子供の頭でサッカーやってたんだろ? そんなの断じて許せない! 私の生徒がそんな目にあったら私だってひとり残らずぶっ殺してやる! なにもかもぶっ壊してやる!」

「ショウ……」

「私に、そんな力ないけどね。……だからミノリ、早くもどってこい。0番街になにかあっても、私じゃ守りきれないんだぞ!」

「わかった……ありがとう、ショウ」

「バカ、泣くな。みっともない!」

「うん……」泥だらけのミノリの顔に涙の筋が流れて落ちる。それをこすったものだから、もはやぐちゃぐちゃである。こんな姿を見られたらまたヒマリにたたかれるだろう。

「寒いからもう帰る。がんばれよ、修行僧!」

「あ、ショウ、さっきから気になってたんだけど……」

「ん?」

「その髪型、きれいだね」

「あ? ああ……」照れるように少しのばした髪に手をやるショウ。「いやだってのに、今朝、ポリーナのやつが勝手にセットしやがったんだ!」

「よく似あってる。いいよ、ショウ……本当に」

「うるせぇ! あーっ!」ショウはなにかを思い出したように両手をバチンとあわせた。

「なに?」

「あんた、そうやってサツキって女を口説いたのか?」

「へ?」

「なかなかの美人だもんな、あの女。でるとこでてるし。あーやだやだ、なにが修行僧だよ! この生臭(なまぐさ)坊主(ぼうず)が!」

「……なにをいってるんだ?」

「で、あの女も薬を待ってるとよ。病気なんだろ? あいつ」

「ああ」

「お(とむら)い、きちんとおわらせて、とっとと帰ってきやがれ!」

「わかった」

「じゃあな、ミノリ!」

「うん」

 複雑でニヒルな笑顔をうかべた彼女が消えたあと、ミノリはもう一度ひとりつぶやいていた。ありがとう、ショウと。そしてふたたびスコップを握り、穴を掘りはじめた。ショウのいる0番街へ思いをはせながら。


 0番街の自宅にもどったショウは、必死にこらえていた涙をあふれさせた。自分でもどうして泣いてしまうのかわからなかった。兄が新年のあいさつまわりにでていたのがさいわいだと思った。そして、もう一度ひとりつぶやいていた。がんばれよ、ミノリと。

                            (つづく)


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