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第二章 ミノリとショウ 19

       19

 クナシリにもどったミノリは、()き火のある場所、子供らがたむろするところを急襲し、即時にエムか否かを判断、そしてせっせと人さらいをはじめた。残されたエムの少年、少女からの攻撃は執拗(しつよう)であったが、はっきりいって彼にはものの数ではない。そして奪った子をカズヨの元へと運び、拘束して麻酔をうつまでを手伝った。助かったのはシュンと若い女性がボランティアでカズヨのサポートにきていてくれていたことであった。

飯田(いいだ)ポリーナです。先日は失礼しました」彼女そういってミノリに会釈(えしゃく)する。

「ああ、あのときの……こちらこそ怖いおもいをさせてしまって」頭をさげるミノリ。ポリーナは水上カンゴ襲来のとき、シュンの見舞いにきていたグレーの瞳の女性であった。彼女はJ州人の父とR州人の母をもつ混血で、R州語も堪能(たんのう)なためクナシリの子供らの看護助手をたのまれたのだという。本来の職業は理髪店なのだそうで、どうりでシュンの髪型も決まっていた。

「あの……もしかしたら、シュンさん?」ミノリがうわ目づかいに見ると、大柄なシュンは顔を真っ赤にしてあはは、と笑った。

「うん、ポリーナ、今、俺の彼女だ」

「は? まだ、つきあうっていってないじゃない。魚が高いうちはやだ!」

「ぇえー! いつもまけてるじゃん!」

 ミノリはごちそうさまですと笑い、そしてカズヨの補助をふたりにたのむとふたたび北へと跳んだ。何回か往復し五人を拉致(らち)したミノリは、人間の子はあと二、三人であろうと目算を立てながらクナシリ上空を飛んでいた。ところが街のどこにいってもエムをふくめ、子供らの姿が見えない。たかだか三十人ていどしかいない子供のうちの五人をさらったのだ。警戒されても仕方のないことであろう。離れては千里眼、近づいては透視を駆使(くし)して、ミノリは残った子供の居所をさがした。

 広い島ではないためすぐにあたりがつくかと思われたが、いっこうに子供たちの姿を見つけられない。さらには気配すら感じられない。焦るミノリ。考えてみれば彼らの中には瞬間移動能力を持つエムがいるのだ。いったことがある場所であれば、どこにだって逃げていけるのである。

 ──いったことのある場所? 宙をういていたミノリは、ここではたと疑問をもった。そもそもエムの少年少女は本当にコロニー内から脱走してきたのか、ということである。彼は自身の経験則でものを考えていたようだ。ミノリは子供のころからコロニー内外を行き来していたから、疑問をもてなかったのかもしれない。あるいは彼以上に(すぐ)れたエムの子供たちがいるとも考えられる。しかし一般的にいわれている瞬間移動能力はいったことのある場所にのみ跳べる力のことである。カズヨだっていっていたではないか、0番街の丙種は皆、救助された人たちであると。ひと昔前ならばいざ知らず、ドラッグ中毒者ばかりの現在のクナシリに、そんなきとくな人物がいるとは思えない。となれば、コロニー外にでたことがあるはずのない子供らが自力で脱走するのはどうしたって不可能なのである。しかしクナシリの子供らがコロニーからの脱走者であると断言していた人物がひとりだけいた。それは宮下サツキである。あのとき、なぜ彼女の話に疑念をいだかなかったのだろう? 単に自分がにぶいだけ? しかしカズヨだってその場にいたのだ。そうだ、カンゴだ。水上カンゴの名がでたせいでふたりとも動揺したせいだ! ミノリは総毛だつ思いがして落下しそうになった。そのサツキは今、首長ジョエルとヒマリの屋敷にいるのである! 考えてみれば、ただ彼女の言葉を信じただけで実はなにも知らない。疑えばきりがないが、首長を排除したい水上カンゴの仲間かもしれないのだ。ミノリは迷った。子供らはもちろん心配だ、しかしもし首長に危機がおとずれているとしたら……。

「もどるか?」後ろ髪を引かれる思いで跳びかけたミノリだったが、思いあがりもはなはだしい、なにさまなんだよボクは? そう考えて思いとどまった。ほかの島民と違いサツキには理性も知性もあり、きちんと心の壁を築いていた。ミノリにはその壁のむこうをのぞくことはできない。だがマル甲の首長やヒマリに、そんな壁など通用するはずがないことを、ミノリは身をもって知っていた。首長の体調が思わしくないことは気がかりであるが、ミノリの危惧(きぐ)など彼らにいわせればシャカに説法に違いないのだ。大きく息を吸った彼は、サツキの件はいったん棚あげとし、子供たちの捜索続行を決めた。

 四島からさらに北へと広範囲の探索をつづけるも、少年少女の消息はようとして知れなかった。そして三日がすぎ、さすがに妙だとミノリは思いはじめていた。二十名以上いる子供が、痕跡すら残さずにいっせいに消えた。そんなバカなことがあるはずがない。あの子らには心に壁を立てるという概念などないのだ。どこかに彼らの思念があるはずなのに、ミノリにはどうしても見つけることができない。

 疲れはて、途方に暮れてさまよっていたミノリはいつの間にかクナシリ上空に舞いもどっていた。荒廃した廃墟の立ちならぶ街の中で、いつか観念動力による死のゲームに興じていた若者たちを見かけた。彼らは紙に巻いたアヘンを吸いながらではあったが、なんとサッカーの真似事(まねごと)をしている。いくつものボールをリフティングしたり、ならべて空き缶にむけてキックしたりしてはしゃいでいた。ミノリは心中で、どこかほっとしていた。子供たちばかりではない、この若者たちにだって希望はもてるのではないか? この島にはまだ望みがあるのではないか? そんな風に思えたのである。養護施設にいたころ、人気だったのはボールひとつあれば遊べるサッカーであった。力を使えるミノリ自身はスポーツそのものへの関心は薄かったのであるが、同じ施設の仲間たちがサッカーボールにむかうさまを見ているのはきらいではなかった。そんな郷愁を胸にいだきつつ宙をただようミノリに気づいた若者のひとりが、いきなりボールをけりつけてきた! 観念動力をともない弾丸のように飛んでくるボール! 回転するそのボールをパシンと音をたてて両手で受けとめたミノリは、なんだか彼らの仲間に入りたいような気がしていた。しかし、それはボールではなかった。野鳥を焼いて食べさせた、そのあとまとわりついてはなれずに難儀した、あのときの男の子の血にまみれた頭であった。そしてよくよく見ると、彼らの足もとにごろごろと転がるニ十個あまりのボールはすべて、子供らの頭であった。

 ──ミノリは悲鳴をあげた! そしてなにも見えなくなり、聞こえなくなった。


 気がつくとガレキの山に埋もれていた。どうやら死んではいないようだ。ガラガラと音をたてながら体をおこすと、ほこりまみれの全身、あちこちから出血していた。どうやらコンクリートのかけらや、くだけた石や岩で傷ついたらしい。そして目をあげると廃墟の街は、焦土の街と化していた。アスファルトの道路は陥没(かんぼつ)し、建造物の七割はくずれおちていた。そして、そこかしこに生々しい死体が転がっている。見わたせばミノリ自身を中心にして半径五百メートルほどの範囲が完全に破壊され、炎と煙につつまれていた。確認するまでもなく、先に殺されていた子供たちをのぞく約百二十名の住民はほぼ全滅したことだろう。ミノリには自覚こそなかったものの、この壊滅的光景を生みだしたのは間違いなく自分であると確信した。そして歯どめのきかない化け物、怪物(モンスター)を脳内に宿していることに恐怖し、絶望し、その場にへたりこんでしまった。

「ミノリ」名を呼ばれ、のろのろと顔をあげるミノリ。

「ヒマリさん……」目の前に彼女がいた。

「あなたのもどりが遅いので様子を見にきました。大変でしたね」

「大変?」あはは、ミノリは力なく笑った。「見てください、これ。これみんなボクがやったんですよ。大勢の人を殺しました……殺しました!」ガレキに(ひざ)をついたまま、肩をふるわせるミノリ。「なのに涙もでない、どこかがおかしいんですよ……ボク」

「その先で、死ぬ寸前だった若い男にであいました」ヒマリがいった。

「はぁ?」

「男の頭を読んだところ、彼は島の子供たちを殺した若者のひとりのようでした」

「え?」

「人さらいがでるとの(うわさ)が流れて、子供から助けてくれとたのまれたようです。しかし彼らは面倒だと断った。それでもあきらめずにしつこくせがむので、全員でなぶり殺した」

「なんですって!」──人さらい……ボクのせい! なにもかもがボクのせい!

「若者たちの中には殺された子の母親もいた、父親も……」

「…………」憤然(ふんぜん)と立ちあがったミノリは、懸命に奥歯をかみしめた。だから殺してもいいのか? もちろんこたえは(いな)である。

「以前、いいましたよね? 薬物におぼれ、思考停止した者に未来はないと。無理にでもそう思いなさいと」

「はい。でも……」

「でも、怒りにまかせて他者の命を奪うなど英知ある者の所業ではない。そうですね?」

「はい」

「あなたのしたことは、なにがあろうと許されない大罪です」

「はい」

「そして、それは私の罪でもあります」

「は?」

「子供たちをさらうように指示をしたのは私です。浅はかでした」

「それは違います! 全部、ボクの──」

「全部? すべてがあなたのせいだというのですか?」

「はい……」

「ずいぶんと一丁前(いっちょうまえ)な口をおききですね。ひとかどの人物にでもなったつもりですか?」

「そんなこと……」

「今回のことは、あなたの潜在能力を引きだすことばかりに執心(しゅうしん)し、もっとも重要な心の成長を(うなが)すことをしなかった私の責任です!」ヒマリは周囲に散らばる遺体を見つめ、涙こそ流してはいないが、それまでミノリが見たことのないような慟哭(どうこく)の表情をうかべた。

「ヒマリさん……」

「ごめんなさい。責任の所在をうんぬんしたところで、死者にははなむけにもなりませんね」

「あの、ヒマリさん」

「なんです?」

「ボク、もうだめです。抑止力(よくしりょく)になんてなれませんよ。だって水上カンゴと同じことをしてしまった……あの怪物(モンスター)と同じことを」

「ではどうします? 死にますか?」

「わかりません」

「アンデイ病の薬は誰がコロニーから調達するのです? エトロフに残された住人を助けるのは誰ですか?」

「誰か別の人に……」

「あなたより力の劣るエムがコロニーに入って、危険な思いをするのが望みですか?」

「そんなつもりはありません!」

「今後、亡くなった人々の倍の命を救いなさい。あなたの力はそのためにあるのです」

「……ボク、化け物になりませんか?」

「それはあなたの心がけしだいです。それに安心なさい。もしもあなたが人々に害をもたらすだけの怪物(モンスター)になりはてれば、ジョエルと私が全力であなたを倒しますから」

「そうしてください。もう二度とこんなこと、ボクは……」

「二度とさせません、この私が」

「はい……ありがとうございます」ヒマリは、つい涙してしまうミノリの横っ(つら)に平手打ちした。観念動力ではなくみずからの手で。

「たやすく泣くのはおやめなさい。泣けばうしなわれた命がもどりますか?」

「いえ……」

「では今から全員の遺体をさがしだし、心をこめて(とむら)いましょう。こんなことで罪をあがなえるとは思いませんが」

「全員……」

「そう全員。子供たちもふくめてひとり残らず。今、あなたと私にできることはそれぐらいです」

「わかりました。でも、これはボクひとりでやります。ヒマリさんは首長さんについていてください」

「……サツキに対する疑念があるのですね?」

「多少」相変わらず簡単に心を読まれてしまうミノリ。

「理由は?」

「あの子供らが瞬間移動でコロニーから脱出するのは不可能だからです」

「その件でしたら私がサツキに問いただしました。問題ありません」

「そうですか!」ミノリはほっとしたようだが、考えてみればあたり前のことである。彼に気づけたことを首長やヒマリが見逃すなんてありえないのだ。

「では、手わけして遺体を見晴(みは)らしのよい場所へと運びましょう」

「いえ、ヒマリさん。このお弔いはボクの仕事です」ミノリは真摯(しんし)な目でヒマリを見つめる。「ヒマリさんは、首長の健康管理とサポートが仕事のはずです」

「生意気ですね。しかし正論です。ならば私はJ州の男の言葉に従いましょう」

「ありがとうございます」

「ただミノリ、くどいようですが時間はあまり残されてはいませんよ。そして矛盾(むじゅん)する話ですが、ひとりひとりの死者に対して敬意をもって接するのですよ。中途半端な弔いならしない方がよいのです。事実だけを見れば強いエムが、弱いエムを踏みつぶしただけのこと。水上カンゴならば、そういって笑うでしょう」

「心してかかります……」

「おわったら帰って、少しだけ休みなさい。そしてもう一度思いだしなさい。あなたが強くなりたいと願った理由を。誰のために、なんのために強くなりたかったのかを。いいですね」

「はい」

「思考停止こそが人間にとって一番の罪悪なのですよ、ミノリ……」

                            (つづく)


はげみになりますゆえ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。



当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』

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