第二章 ミノリとショウ 9
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「兄さん、バカなことして……」精神感応による知らせを受けて学校をぬけ、カズヨの病院にかけつけたショウがつぶやいた。病室内のシュンはいまだにカズヨによる手術をうけつづけている。廊下にはミノリと、やはりシュンの身を案じてやってきた街の男女若者が数人、不安そうな目をしてベンチにかけていた。
「ショウ、お兄さん立派だったそうだよ」若者のひとりがショウに声をかける。「命がけで街を守ろうとしたんだからさ」
「自分でまいた種だろ? 兄さん、いつもひとこと多いんだ! 殺されなかっただけでもありがたく思いやがれってんだよ!」
「そんなにひどいこと、シュンさんはいってない……」ミノリがいった。「あんな目にあうほどひどいことはいってない!」
「そんなのわかってるよ」こたえたショウはギリリと歯がみする。
「ミノリさんて、街の新人さんでしょ? だからよく知らないと思うけど──」ひとりの女がミノリの前に立った。それは、昨日、ショウに魚が高いと声をかけてきたグレーの瞳をした女性であった。「例の男と、そのお仲間を少しでも刺激するような発言は禁止されているのよ。それが街のルールなの」
「考えることもですか?」ミノリは女性の目を見ずにたずねた。
「え?」
「シュンさんのような丁種は心の壁をたてる力が弱いんでしょ? だったらシュンさんは考えることもできないんですか!? なにが街のルールだ! コロニーよりひどい、ろくでもない街だ!」
「ミノリ! なんてこというんだ!」つめよるショウ。「みんなで守っている大切な街なんだよ!」
「ショウ、お兄さんがゴミよばわりされたんだぞ? それでも街のルールが大事なの? キミのいうJ州人の誇りってやつはどこにあるんだ?」
「く……」ショウはくやしそうに目をそらす。
「おかしいよ! みんなもだ! あれだけのエムがいたら、あんな連中、簡単にたたきのめせたはずだろ?」
「バカか! あの大穴を見せただろ? 今度もめたらおわりなんだよ!」
「……わかった。そうだね。だったらボクが話をつけてくる」
「はぁ!?」ショウをはじめとする一同が一斉に叫び声をあげた。
「ボクは街の人間じゃない。部外者がなにをしようと街に迷惑はかからないよね?」
「そんな理屈が通用するはずないだろが! やつらに街を襲撃する口実をあたえることがわからないのか!」
「……水上カンゴに会って、直接、聞きたいこともあるんだ!」ミノリは片足で立ち、松葉杖をドン!と床についた。
「その名前、ださないで! 聞きたくない!」涙声で訴える女性!
「とにかくバカはやめろ、ミノリ。兄さんの犠牲が無駄になる」懸命に低くおさえた声をはるショウ。
「そもそもシュンさんが犠牲になる必要なんてなかった!」カンゴの屋敷を見たことがないミノリは瞬間移動ができないため、いき先も定まらないままに歩きだした。
「ミノリ、また死にたい病か!? 死ににいくつもりか!」
「…………」こたえずに前進をつづけるミノリ。
「このクソガキぃ!」どなったショウは、ミノリに特大の観念動力をぶつける! が、これをミノリの思念が受けとめた! 窓ガラスが音をたたて砕け、壁にひび割れが走り、床のPタイルがはじけとんだ! 「絶対、いかせないぞ、ミノリ!」そう叫んだショウに、街の若者たちが力を使い加勢する。ある者は観念動力で、ある者は精神攻撃で。
「他人にむけて力を使うのはルール違反なんだろ!」多数の思念を受けとめきれないらしく、片ひざをついたミノリが正論を吐く。
「あんたは街の人間じゃないんだろ! なら合法だ!」負けずに切りかえすショウ!
「うるさい!」と、叫んだのは病室からでてきたカズヨであった。「あんたらシュンを殺す気なの!」一瞬にしてしずまる若者たち。そして浮遊していたガラスやPタイルの破片が一気に落下した。
「──本当にうるさいな」いつの間にかそこにいた細面で色白、長身の男がいった。
うわぁ! カズヨふくむ一同が悲鳴をあげて、飛びあがる。例の男、水上カンゴがそこにいた。
「よう、ヴァージン・ショウ。今日はうちの者がお兄さんに失礼したな」
「……いえ」かすれた声でこたえるショウ。「とんでもありません」
「そちらの泣きそうな顔をしたご婦人も、カズヨ先生も、ガサついた上着を着ていないと体のラインが目に見えて美しいなぁ。もっとも、あんな物でかくしても俺には丸見えなんだけどね。ヘソの脇のホクロまで」カンゴがいうと女性は顔を真っ青にしてうつむいた。
「なにしにきたの?」カズヨがふるえながらたずねる。
「お見舞い。……それと、キミはミノリ君というんだって? 昨日、会ったね」
「え、ええ」カンゴに会いにいく気、満々であったミノリも当人を前にして委縮してしまう。
「キミはうちの若い者に観念動力をあてたそうだね?」
「は?」眉をひそめるミノリ。
「……ほう。おぼえがないか? ならユウマのいう通り、無意識にはなったってわけだ。危険な男だなぁ、よくあの首長が街にむかえたな」
「ボクは転入保留中で……」
「へえ、さすがは我が尊敬するカエサルのじいさんだ。やはり見くびれない人だな」
「カエサルを尊敬してるんですか?」
「そう。でなきゃ首長の和解案なんてつっぱねたさ。カエサルは偉大なエムだ。なんせ世界中のエムをまとめあげたカリスマだから。俺もあやかりたいと思ってるよ。あちこちに散らばってるエムを束ねれば、コロニー支配をすることだって夢じゃない。我々が力をあわせれば丁種、エムを迫害するただの人間たちを奴隷にすることだって可能だ。どうだミノリ君、街への移住が保留なら、俺のところへこないか?」
「──はい?」突拍子のない提案に、頭の中がまっ白になるミノリ。
「…………」無言で、しかし目を剥くショウやカズヨたち。
「実はスカウトしにきたんだ。強い力を持つ同志はいつでも大歓迎なんでね。どう? いい話だろ? ともにカエサルの望んだ革命をおこさないか?」カンゴは軽くミノリの肩に手をおいて笑みをうかべた。
「革命……」人間に対するエムの革命。徹底管理されたコロニー育ちのミノリには、決してでてこない発想であった。K109や戦闘ドローンの大群に、ミュートがいくら立ちむかっても勝てる見込みはないと、あらゆるメディアにいいきかされつづけてきたのだ。そしてニュース映像で殺されつづけるだけのミュートたちの姿をずっと見てきた。ミノリには、まだ目の前にいるマル甲、水上カンゴを相手にする方がましに思えた。「勝てませんよ。無理です、革命なんて」
「そうかな?」
「そうです」
「俺はひとりでコロニーのドーム、強化ガラスを破壊してやったことがある」
「え!? あの事件、あなたが!」確か以前、アズとともにネットニュースで見た、U州での事件であるとミノリは記憶していた。鋼鉄のような硬度をもつガラスの破片が州民の頭上にふりそそぎ、そうとう数の残留放射能がコロニー内に流れこんだと聞いている。
「あれは少しやりすぎだった、人が死にすぎたからね。二千人ほどだったかな?」
「そんなに……」他州の事件であったのでミノリは流し見でニュースを視聴していたが、とんでもない数である。「よく追尾されませんでしたね?」
「初めは追われたさ。でもね、俺は捕まる気がしなかったな。そして今でも自由の身、すごいだろ?」
「はい……」おめおめとコロニーから逃げ帰ってきた自分とは比較にならないとミノリは思った。やはりマル甲といわれるのはだてではないのだと。
「ところがそのあと、連合政府内の一部の官僚から裏取引を持ちかけられてね。今じゃ俺は、どのコロニーにもフリーパスで入っていけるようになった。もう人間に対して暴力行為はしないと誓約はさせられたがね」
「そんなバカな……あの皇帝カエサルだって処刑されたのに!」
「カエサルのころとは時代が違うんだ。あの当時は連合政府も樹立したてで、どの閣僚も熱かったんじゃないのかな? 自分らの職務に対してさ。なんせPEで人類が滅亡しかけたあとだものな。ところが長く太平の世がつづくと、とたんに私利私欲に走るやからが現れる。これは世のつねだ」
「今が平穏な時代だとは思えませんが。とくにJ州なんてひどいものです」
「そうだな。しかしそれは結局、政治が州の統治を放棄したからだろ? 警察に仕切りを委譲したせいだろ? 知ってるか? おとといクサナギ区画、五番街で職をなくして飢えた州民がデモをおこしたそうなんだが、なんと約三百人もの一般州民をロボット警官が射殺したそうだよ」
「なんですって!」ミノリの脳裏にとっさにうかんだのは板垣ヨウスケの家族の顔であった。
「だが政治家は知らん顔で私腹をこやすことに夢中になってる。J州は経済が破綻しかかっていて多くの州民が苦しんでいるのに、エムである俺との取引にも喜んで応じてくれる。なぜか? もうかるからだ。どう思う? 腐りきってるだろ? 誰かが正す必要があると思わないか?」
「……ひとつ聞いてもいいですか?」
「もちろん」
「夏祭りのエムの同時多発テロ。あれをやったのはあなたですか? あれも、あなたのいう革命の一環なんですか? だとしたらボクは……」
「うん? あのテロで知りあいでも死んだのか?」
「ええ」目を伏せたミノリはカンゴのこたえを待った。恐怖心をおさえこみ、返答によっては、アヤメやリョウジのために、このマル甲と刺しちがえる覚悟を決めた。
「ほう? 俺とやりあう気かい? 強気だな」彼には、ミノリていどの心の壁は通用しないようだ。
「…………」
「それ以前に俺をバカだと思ってないか?」
「は?」
「あんな余計なまねをされて、こっちも迷惑してるんだ。どの州も経済的に豊かでいてくれなければ俺の商売は成りたたない。とくにJ州の収益落ちこみは目をおおいたくなるほどだ」
「本当に、あなたじゃないんですね?」ミノリは、なぜだか妙にほっとしていることに気づいた。
「あのテロで俺になんのメリットがある? 少しは頭を働かせろ」
「では、誰がやったんですか?」
「それは俺にもわからない。おそらく、どこぞの州のはぐれエムだろうよ。だからこそ世界中のエムを束ねる存在が必要なんだ! あのカエサルのように! そして腐った政府に鉄槌をくだし、エムに人権をとりもどすための戦いをはじめなければならない」
「人権、革命……」ミノリは、カンゴという男にどこか感化されつつある自身を恐れた。確かにコロニー内におけるエムへの弾圧は常軌を逸している。しかし彼は二千人の州民、そしてこの街の住民を五百人も殺してひょうひょうとしていられる殺戮者なのだ。気のいいシュンをゴミ呼ばわりするような連中のボスなのだ……。
「今は商売を通して連合政府のごきげんをとって油断させている最中だが、やがて俺は立つ。ともに戦おう、ミノリ君」
「…………」
「そうだ、ミノリ君。なんならショウを一緒に連れてきてもいいぞ」
「へ?」ミノリと、おし黙っていたショウが同時に呆けたような声をだす。
「ただし、ショウの能力はたかが知れてる。手土産には処女をいただくかな?」
「な、な、なに!」床に落としていた目を剥くミノリ。
「ミノリ!」彼を片手で制するショウ。
「ははは、ミノリ君、怒ったか?」
「いえ。でも……」まじめなのか、遊ばれているのか、もはやカンゴにほんろうされるばかりのミノリであったが、これだけは譲れないと思った。「ショウの能力は優れています。たかが知れてなど、いません」
「ミノリ、いいからもう黙れ!」小声で懇願するショウ。カズヨや他の誰もがこの恐怖と苦痛の時間を早くおわらせたいのである。
「そうか。ショウは優れているか? 確かにセックス・オブジェクトとしては優れているかもしれない」カンゴはなめまわすようにしてショウを見て、そして吹きだした。「貧乳好きのペドフィリアにはたまらないだろうな」
「…………」屈辱と恥辱に顔をそむけ、胸もとに手をおくことしかできないショウ。
「く──」ミノリはなにかいいかけたが言葉にならない。
「ふたりとも、そうむきになるなよ。さっきキミらの茶番、失礼、力のおしくらまんじゅうを拝見させてもらったが、ミノリ君、キミ、そうとう手ぬきをしたな? わざとらしく膝なんかついちゃってさ。ショウたちに怪我を負わせないためか? それともエムとしてのプライドを折らないためか? いずれにしても能力の差が歴然すぎて残酷なショーだったぞ。笑えたがね」
「そ、そんなこと……」目をみはり、カンゴから受けた侮辱以上の衝撃をかくせないショウ、そして若者たちを見ることがミノリにはできない。なにもかも見透かされる。カンゴとは力のレベルが違いすぎる。この男と刺しちがえるなんて無謀としかいいようがなかったことを思い知らされたような気がした。
「してないか? しただろ。俺の目は──おや? ご老体。これはこれは、千客万来だ」
今度は車椅子の首長と侍女のふたりが、またしても音もなくカンゴの背後にたたずんでいた。
「首長!」ミノリとカンゴ以外の者が、わらにでもすがるように叫んだ。
「カンゴ、おふざけはそこまでにしておきなさい。そうジョエル首長が申しております」先日と同じ侍女が静かにいった。
「やあ、ヒマリさん。あなたもお元気そうでなにより」カンゴは侍女の鮫島ヒマリに大げさに頭をさげ、笑顔をむけた。「俺は年上、熟女も大好物でね。そう、だからカズヨ先生も十分、守備範囲内ですよ」カズヨにウィンクしてみせるカンゴ。そして青くなるカズヨ。
「それはけっこう。しかし、今日のところはお引き取りなさい」表情を変えず侍女ヒマリがいった。
「それは? 首長のお言葉かい?」
「もちろんです」
「なら、そうしよう」
「それから私との盟約にそむき、大怪我を負わせたシュンの休業補償分の米十袋、麦十五袋、豚一頭をショウに支払いなさい」
「へいへい、おおせの通りに」首長に合掌してみせたカンゴはミノリへと目をむける。「ミノリ君、トークディスカッション楽しかったよ。また会おうな」カンゴは風切り音などという無粋な物音は一切たてずに、一瞬にしてその場からかき消えた。
「…………」ミノリの胸はもやもやとうずき、水上カンゴには二度と会いたくないと、はっきりと思った。
緊張の糸が途切れ、ため息をついてその場に倒れふすカズヨと若者たち。しかしショウだけは険しい目で、じっと息をころしているミノリを見つめていた。
「みなさん、遅くなって申し訳ありません」ヒマリが全員にむかって声をかけた。「彼の屋敷にシュンの件の賠償請求にいっていたので。こちらへきていると部下のかたがたに聞いて、あわてて跳んできました」首長の言葉を伝えるヒマリ。
「首長、ご迷惑をおかけします」兄に代わって頭をさげるショウ。
「気にしないでください。私には、これくらいしかできませんから」
「それにしても助かりました。首長、ヒマリさん」カズヨがいうと、みながふたりに心から一礼した。ただミノリだけは、不満の表情をうかべている。
「ミノリ、納得いきませんか?」ヒマリが聞いてきた。
「……はい、まあ。シュンさんはなにも悪くなかった。それなのに、あんな目にあうなんてどう考えてもおかしいです」
「もうやめろ、ミノリ!」ショウがミノリの腕を引っぱる。
「かまいませんよ、ショウ」首長ジョエルは無言で右手をさし伸ばしショウの肩をたたいた。そしてヒマリが言葉をつぐ。「ミノリ、今日は私の所へくる予定でしたね? お話しは私の家でゆっくりとうかがいます」
「それなんですが……ボク、ちょっと、その、用が……」
「どのような用ですか?」
「はあ、といいますか、ボク、やっぱり、この街をでた方がいいのかと」
「はぁ! なにいいだす!」いきなりキレたようにどなるショウ。
「ミノリ、ひとつづつ聞きます。まず、用とは?」猛るショウに笑みを見せつつヒマリがいった。
「はあ……クサナギ区画の五番街でデモがあって、何百人も射殺されたと水上……例の男から聞きました。この話、本当でしょうか? ボクには彼が嘘をついているのかどうか、まったく読めませんでした」
「彼の話は事実です。それで?」
「だとしたら、やっぱり確認にいきたいんです。知りあいの、仲間の家族が心配で……」
「またコロニーに入る気か!? あんた、まだ──」ショウは片足立ちのミノリの背後からけりを入れたが、ひょいとよけられてしまう。「てめぇ! よけるな!」
「ショウ、ボクは死にたくていきたいわけじゃないよ。今度はさ」ミノリの口調は落ち着いていて、ショウのけりなどまるで問題にしていないかのようであった。
「…………」唇を噛みしめるショウ。
「次に街をでたいという理由は? 単にコロニーへいきたいからですか?」ヒマリ、いや首長も淡々と質問をつづける。
「その、さっき、例の男にまた会おうといわれたとき、その……」
「なにかを見た、もしくは感じたのですね?」
「ボクは、いつか、彼と殺しあうことになる……と」
「予知をしたのですね?」
「わかりません……けど、そんなことになれば、また街が──」
「例の男と殺しあうだ!? ミノリ、百年早いんだよ!」
「ショウ、少しうるさいですよ」ヒマリの物静かな叱責。
「すいません……」肩をすくめて、小さくなるショウ。
「話はいったんわかりました。いずれにしてもミノリ、私たちときなさい。そしてあの男となにを話したのか、くわしく報告をなさい」
「でも……」板垣ヨウスケの妻子の安否が気になって、下をむいてしまうミノリ。
「でていくにしても一宿一飯の恩くらいは、街にかえすべきなのではありませんか?」
「……はい」
「報告をしてくれますね?」
「わかりました」ミノリがこたえるとヒマリは車椅子の手押しハンドルの一方をあけた。
「では、片側をもちなさい。ミノリ、ふたりでジョエルを押していきましょう」
「はい」ミノリは首長の背後にまわり、ヒマリと横ならびに立った。松葉杖をついた男が車椅子を押すという、少々、間のぬけた絵面ともいえる。
「ち、ちょっと待って! 首長! ひとつだけ、ひとつだけミノリにいわせて!」ショウが三人の前に進みでた。
「どうぞ。手短にね、ショウ」
「はい。……ミノリ」ショウは首長の正面に立たないようミノリの隣に移動する。「私ら対等なんじゃなかったのか?」
「え?」
「本当に手をぬいたのか?」
「…………」こたえられないミノリ。
「こいつらの力なんてこのていど、だからさじ加減、手ごころをくわえてくれたってのか? バカにするな! そんなの対等でもなんでもないだろが!」おさえていた感情を爆発させるショウ! それは他の若者らも同じ思いであろう。みな一様に複雑そうな顔をしている。
「ショウ」ヒマリがいった。「私は対等だと思いますよ」
「でも首長! こいつ……」
「能力の高さに個人差があるのは当然のことです。平等ではありませんね?」
「それは……わかりますが」ふりあげたこぶしをおろしきれないショウ。
「あなたも、丁種であるお兄さんを侮蔑しているのですか?」
「そんなことありません!」
「ならば対等、もしくはそれ以上の存在ですね?」
「はい……もちろんです」
「ミノリも同じことです。怒りにまかせて力を使い、あなたがたを傷つければ、そのときこそミノリが、あなたがたを見くだしたということになるのだと私は思います」
「そう、かもしれません……」懸命に気持ちの整理をつけているらしいショウ。
「ショウ……」なにかいいたいが、どういっていいのかがわからないミノリ。
「では、ミノリ。いきますよ」ヒマリがミノリの手を取り、手押しハンドルを握らせた。
「はい。……ショウ、ごめん!」
「ごめん?」つぶやいたショウ。「ごめんて、なんだよ!」
しかしミノリがこたえをかえす前に、水上カンゴと同様、音もなく三人の姿が消えた。
「人それぞれの能力は不平等。けれど人間関係は対等。例の男たち以外の街のみんなが信条にしていることじゃない? どうしたのよ、ショウ」カズヨが肩を落とすショウに笑いかけた。
「わかってるよ、カズヨ先生。けどさ……」くやしくて、という言葉をショウは飲みこんだ。彼女は思っていた。首長が初見でいったようにミノリがマル甲なみの怪物になるようなことがもしあれば、いつか例の男と対決するような日が本当にくるのかもしれない。しかし人としてだけではなく、力も対等でなければミノリを助けることもできないじゃないか!と。
「ショウ?」カズヨがショウの顔をのぞきこむ。
「許さない。ごめんだと? あのガキが!」
(つづく)
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『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』
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『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』
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