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第二章 ミノリとショウ 8

       8

 翌朝。片足が不自由なため、観念動力を使い部屋の掃き掃除やふき掃除をしたせいで脳の疲労がたまったせいか、よく眠れたミノリは昨日、侍女の女性からあたえられた食料で簡単な朝食をすませると、約束通り首長の屋敷へとむかった。

 その途上、住宅街の中心部に巨大なタンクローリー二台が停車していて、あまりミノリがかいだことのない異臭の中で、多くの人々が行列をつくっていた。なんの行列だろうとながめていると、列の中ほどに漁師スタイルでキャップをかぶったシュンの姿があった。

「シュンさん、おはようございます」ミノリが声をかけると、シュンは唇のはしを曲げてニヤニヤと笑った。「なんですか? なにかボク、おかしいですか?」

「ショウのやつがさ、昨日、帰ってくるなりプンスカしててさ。原因はお前だろ?」

「まあ……かなあ?」

「かなあ、じゃない。ちゃんとあやまりにこいよ。妹を怒らせると怖いぞ」

「知ってます」

「即答かよ!」こぶしをふりあげてみせるシュン。

「すいません!」

「あのショウが鏡の前にすわりっぱなしで、髪をのばすかなぁ?なんてひとりごとをいってた。爆笑もんだぜ!」

「はあ……」

「なにがあったのかは知らないが、まあいい。今夜こい! また酒を飲ませてやるから」

「お酒はちょっと……でも、はい。今晩、うかがわせていただきます」

「そうか。でも、その足じゃな……ああ、そうか、瞬間移動が使えるのか」

「はい、まあ……」

「便利だな、乙種は」 

「はあ……」またシュンのひがみ根性が顔をだしそうになったので、ミノリはあわてて話題を変えてみる。「ところで、これはなんの行列ですか? すごい臭いですけど」

「油と薬品の交換販売だよ」おもしろくもなさそうにこたえるシュン。「普段は帆船や汽船を使って漁にでてるんだが、やはりガソリンエンジンはスピードが違う。くやしいが遠洋漁業には欠かせないんだ。連中は港まで給油にきてくれるからな」

「ガソリンの臭いなのか……じゃ、水上カンゴがきているんですか!?」先頭部、タンクローリーに視線をおくるミノリ。

「おい! ショウから聞いてるだろ? 街でその名はご法度(はっと)だぞ」

「はい、すいません。例の男、きてるんですか?」

「親玉がわざわざ、物々交換にきてるわけないだろ? 下っ端だよ売人はさ」

「──危ない!」叫んだミノリは、大柄なシュンを突きとばし、おおいかぶさった!

「なんだよ、ミノリ!」と、どなるシュンのかたわらのアスファルトがドンと音をたててめくれあがった! 「なんだ!? なんだ?」

「下っ端で悪かったな! え? 丁種の兄さん、思考がまる聞こえだよ!」観念動力をぶつけてきた十五、六の少年と仲間の若い男女が数人、タンクローリーからはなれて、ぶらぶらと腕をふりながらゆっくりと近づいてくる。悲鳴をあげながら、行列をくずして逃げまどう人々。

「ああ、いや、すまない! 悪かった! ごめんなさい!」松葉杖のミノリをつきとばして、(ひたい)をアスファルトにこすりつけるシュン。

「しまった!とかって今更、思っても遅いよ。ああ、もう心の壁がガラガラと崩壊してるね? まあ丁種の壁なんて、初めからあって無いような物なんだけどさ」少年が笑うと、他の男や女も笑いだす。

「すいません! 私はゴミです! ゴミの丁種です! お許しください!」

「シュンさん……だめだ! なに、いってんだ!」左足のみですっくと立ちあがったミノリはシュンの顔を持ちあげようとするが、彼はてこでも動かない気がまえらしく、腕力が劣るミノリには、その頭をおこせそうになかった。

「お前、新顔だな? そのゴミの知りあいか?」少年がいった。

「シュンさんをゴミとかいうな!」

「あはは! ありゃりゃ、怒りのオーラがだだもれだよ。怖い、怖い」

「やめろ! ミノリ!」シュンが頭をさげたまま、ミノリの腕を取ってゆさぶる。

「あたしたちを殺したいの? えーと、ミノリ君? やる? 下っ端だからわけないよねぇ? たぶんさ」少年の隣にいた少女が、両手を組みあわせて身もだえするように腰をふってみせる。

「やりたいだろ? ミノリ君。俺の攻撃をよけたんだ、少しは楽しめそうだ」

「…………」こたえられないミノリは、ふとあることを思い出した。

「やろうよ、殺しあい。街中を巻きこんでさ!」少年の言葉を聞き、遠巻きに様子をうかがっていた住民たちが悲鳴をあげた! あの惨劇が繰りかえされるのかもしれないのだ。

「俺を殺せ! 俺が悪い! 俺ひとりで勘弁してくれ!」叫ぶシュンがぴゅんとはじけとんだ!

「ゴミは黙ってな」指先でシュンをはじいた少女が笑った。

「……ひとつ聞いていいか?」ミノリがいう。

「なんだい?」面倒くさそうに前髪をかきあげる少年。

「夏祭りを襲撃したエムは、あんたらか?」

「なんの話だ?」少年は、いぶかしげに眉をひそめる。

「アヤメさんを殺したのは、あんたらか!? コロニーとつながりがあるんだろ? リーダーやヨウスケさんを殺したのもあんたらか!」

「なんだかよくわからないが、だったらどうだってんだ?」

「殺してやる……」涙目を()いたミノリは断言してしまった、殺してやると。

「あ、そう。じゃ、やろうか?」再度、うねりあがる住人たちの悲痛な叫びの中、嬉しそうに舌なめずりをする少年。

「ユウマ! やめて! やめなさい!」そのとき、対峙する少年とミノリの間にわって入った女性がいた。「街の人間とはもめ事をおこさない約束でしょ!?」それは女医、赤津カズヨであった。彼女の職には当然、医薬品が必須であるし、かかえる患者の生命を維持するために風力、水力だけではまかなえない火力による電力を得られるガソリンも必要不可欠なのである。

「おっと、カズヨ先生かい?」ユウマと呼ばれた少年が、一歩だけ足をさげた。

「ミノリも! そんな足でなにするの! せっかくなおしてやったのに、無駄にする気!?」

「カズヨ先生……」その迫力に息をのむミノリ。

「カズヨ先生、ケガするぜ。どいてなよ」そういって背後の仲間を制するユウマ。少女や他の若者たちも医師のカズヨには一目おいているらしく、苦笑いのようなこまり顔をうかべていた。彼らも元はこの街の住民である、誰しも一度は彼女の世話になっているのであろう。

「──ミノリ!」すきをうかがっていたシュンが、カズヨの登場に動揺するミノリのあご目がけてパンチを見まう! 脳をたてにゆらされたミノリの後頭部へさらにとどめの一撃! これでミノリは完全に意識をとばされて、ばったりとその場に倒れてしまった。

「ははは……やるなぁ! 兄さん」ユウマが笑いながら手をたたく。

「腕力以外、取り柄のない丁種なもんで……」ユウマの目を見ずにいうシュン。「あんたらを怒らせたのは俺だ。ミノリじゃない。やるんなら、俺をやってください」シュンはふたたびアスファルトに両手をつける。

「ユウマ! もう本当にやめて!」シュンをかばうように立ちはだかるカズヨ。

「わかった。今日のところはカズヨ先生に免じて許してやるよ」

「いいのか?」少女がユウマの尻をはたく。

「いいんだ、アサコ。カンゴさんにいわれた新顔の偵察も、ま、あっさりおわったしな」小声でささやくユウマ。

「ミノリ君、自分からでてきてくれたもんね、くくく……」笑みをかみ殺すアサコという名の少女。

「ショウと一緒にいたという男、むこうっ気だけは強いが、たいしたことはなかったな」

「あんな丁種のゴミ兄ちゃんのパンチもよけられなかったんだもんね」

「そういうことだ、アサコ」

「……本当に許してもらえるのか?」頭をさげたままのシュンがたずねた。

「いいよ。ゴミはゴミなりの男気にしびれたぜ。兄さんのいう通り、俺ら下っ端だからさ! きちんと商売して帰らないとカンゴさんに殺されちまうんだよ! なんせ下っ端だからよ!」怒声とともにユウマが軽く腕をふるうと、シュンの顔半分が吹きとんだ! 遠巻きに見ていた人々にふりかかるシュンの血と肉! 悲鳴をあげる間もなくあおむけに倒れたシュンは、その衝撃で片目と意識をうしなっていた。

「ユウマ! 許すといったのに!」叫びながらシュンへとかけよるカズヨ。

「だから、左目だけで許してやるっていうんだよ。ありがたく思いな」

 失神状態から息を吹きかえし、血まみれのシュンに気がついたミノリは、ふらつく頭をふりながら懸命に立とうとする。そしてユウマに怒りの眼光をむけた。

「お前がやったのか!」しかし脳からの神経伝達がうまく足にとどかないようで、なかなかおきあがることができない。「くそ!」

「お目ざめかい? ねぇ、ミノリ君、今、お前っていったのか? それ俺のこと? そんな呼ばれかたされるのは心外だなぁ! なあ、みんな?」ユウマが笑っていうと、アサコらが口々に心外だ! 遺憾だ! 胸が苦しい!などとわめきはじめる。

「だからなんだよ!」けいれん気味の左足だけでなんとか立ったミノリの頬を、今度はカズヨが平手で打った。

「カズヨ先生……」ぐらぐらとやじろべえのように左右にゆれる片足立ちのミノリ。

「ミノリ、そんな場合か!? 急いでシュンを私の病院に運びなさい! 今すぐに!」

「あ……はい!」またたく間にシュンとカズヨを宙にうかせ、両脇にかかえたミノリは風切り音を残して一瞬で消えた。ざわざわと顔を見あわせている残された住民と、ユウマたち。

「あらら……あいつ、やるなぁ!」目をまるくしてミノリの消えた場所に舞いたつ土ぼこりを見るユウマ。

「早かったね、逃げ足だけはさ……」アサコもあまりの早わざに、少しばかり狼狽(ろうばい)しているようであった。「あれ? ユウマ、ほっぺたが赤くなってるけど?」

「うん?」ユウマが頬をさすると、焼けたような、ひりつく感覚があった。

「どうしたの?」

「いや……」ユウマは身ぶるいした。どうやらミノリという男は、カズヨから平手を食らう間際に観念動力をぶつけてきたようだ。彼の攻撃意図が明確であれば予知してかわせたはずである。おそらくミノリは無意識に思念を撃ったのだろう。足もとがふらふらとしていなければ、顔面を直撃され、へたをすれば()(がい)をわられていたかもしれない……。ユウマは早々にたたきつぶしておくべき0番街の新顔であると、ミノリに対する認識をあらためた。

「ユウマ?」けげんそうな顔でユウマを見ているアサコ。

「なんでもない……さあ、商売、商売! 売って帰らないとカンゴさんに、マジ殺されるぞ!」今はなにより水上カンゴが一番怖い! あの人の怒りをかうことが一番、怖いのだ! ユウマは腕をふりあげた! 「さあ、街のみなさま! (あきな)い再開だ! ガソリン、軽油、灯油に薬! さあほしい人、ならんで、ならんで!」彼は客よせでもするようにあおり立てるが、一様に下をむいて動かない人々。ユウマらのシュンへの所業に怒りをおぼえていることは明白であった。しかし、彼らに従わないことは、()()()に従わないことと同義であることも、みなが知っていた。

「イチバーン!」他の州からJ州へと流れてきたらしい黒人の農夫が列の先頭におどけながらならんだ。自身の役割、なすべきことをJ州人よりもよく理解しているのであろう。やがて、われ先にとあとにつづく人々。つまり、ここではこうしないと生きてはいけないのである。

「そうだ! いいぞ! もうすぐ冬だストーブを使いな! 工場の機械を動かせ! 農場の耕運機も! たまには遠洋で魚を獲るんだろ! 超能力じゃマシンは動かねぇぞ! 楽して働きたけりゃ、とっととならびやがれ!」虎の威を借りる狐であることを自覚しつつユウマは叫び、そして少量を希望する住人には燃料や医薬品を物々交換で売りさばき、大量に欲する者には給油場所へタンクローリーを移動するための番号札をくばりつづけた!

                                (つづく)


よろしければ、ブックマークと感想などをよろしくお願いいたします。


当サイトにて、二作品を公開中です。お読みいただければ幸いでございます。


『ゴースト・キス ~死人しびとの口吸い~ (改)』 

この小説のURL : https://ncode.syosetu.com/n8533gq/ 


『ときに、たまにはショート・ストーリーなどを』

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