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第二章 ミノリとショウ 2

        2

 ミノリが収容されている病院は、PEウィルスがまん延したころに放棄された診療クリニックをそのまま使用しているのだそうで、天井や壁はシミだらけで、ベッドは寝がえりをうつたびにギシギシときしむ耳ざわりな音がした。彼を施術、治療をしてくれた女性医師、赤津(あかつ)カズヨの話では、初めてここでの開業を決めたときはまさに死屍(しし)累々(るいるい)、ウィルス感染で命を落とした人々や医療職員らしき遺体であふれかえっていたのだという。

「おそらくねぇ、この病院の先生は最後まで逃げないで感染症にみまわれた方々の治療にあたっていたんだと思う。J州スピリットは偉大よね?」夕食を運んできたカズヨはそうしみじみと語りながら笑顔を見せた。ミノリがヤマト魂ですね、というと「よくそんな古い言葉知ってるわね?」と驚いていた。

 ノックの音がして、ミノリがどうぞとこたえると鮮やかな紺色のポンチョをまとったショウが入ってきた。彼が体をおこそうとすると、ショウは舌うちしながらミノリの肩を押さえる。

「いいよ、寝てな。死にそこなったって聞いたから、顔、見にきただけだから」

「ショウ、ありがとう。また助けられたな」

「また貸し一な。いつかかえせよ」

「わかった。ショウ、そのポンチョ……」いつものカーキ色ではない。

「あんたのせいでしょうが。私のポンチョ着たままでガンガン撃たれやがって」

「そうか。悪かった」

「でもまあ、着ててよかったよ。あのポンチョ、アラミド繊維が織りこんであったから」

「防弾効果があったのか?」

「ほんの気持ちていどだけどね。これもそう。高くついたよ、まったく!」いいながらショウは新品らしいポンチョの裾を広げてみせる。

「かさねがさね申し訳ない」

「……本当だよ。ナービス(初心者)のくせしてコロニーにひとりで入るなんて無茶しやがって!」

「ボクは初心者じゃないよ。ミュー、エムに関してはベテランの方だと思うけど」

「人権保障からはずれたばっかで、右も左もわからない状態をベテランていうのかい?」

「……いわれてみれば」

「頭やられてたらおわりだったよ。まあ、助かっただけめっけものだと思いな」

「そうだね」頭ばかりではない。急所を撃ちぬかれていたら即死であった。

「普通なら絶対に死んでたところだ。なぜ助かったのか、そのあたりの状況も聞きたいところだけどな。今日はやめとくよ、カズヨ先生から疲れさせるなといわれてるからさ」

「うん」

「それから回復したら首長も話を聞きたいっていってた」

「町長さん?」

「ああ。とにかく早くなおして、働けるようになりな。ここの入院費だってバカにならないよ」

「え? お金とるの?」

「あたり前だろ? 慈善事業で医者やるお人好しがどこにいるよ?」

「……金、ないよ」

「安心しろ、ここじゃ金なんてない。物々交換か労働が対価になるんだ。働けば米もパンも食える。ポンチョだって交換して手に入るし」ポンチョをたなびかせ一回転してみせるショウ。実は新しい服をまとうことが嬉しいのかもしれない。

「紺色、似あってるよ」案外、女の子っぽいな、とミノリは思った。そして夏祭りに浴衣を着てきたアヤメをつい思い出してしまう。

「またアヤメか。やっぱり、あんたは──」

「違うよ! やっぱりボク、この街じゃやっていけそうにないな……」いちいち心を読まれていては、やってられない。

「バーカ。カズヨ先生がいわなかったか? 簡単さ、他人との間に壁を築くなんてこと。でなきゃ私らだって街じゃやっていけないだろ? いやでもなれるよ」

「そうかなぁ……」

「アホな政府がなにをいおうとエムは人間だ。人間てそういうもんじゃないか? たとえ肉親でもさ」

「それはそれで悲しいな」

「どっちなんだよ!」吐きすてるようにどなったショウはポンチョをひるがえして背をむけた。「またきてやるよ。早くなおしな」

「ありがとう、ショウ」

「…………」ショウはなにもこたえずに室外へとでていった。


 それからショウは三日おき、ときには二日おきにベッド上での暮らしを余儀なくされているミノリのもとへとおとずれた。当初はひとりできていたのであるが、彼女は徐々に訪問人数をふやしていった。友人だという若い女性を連れてくることもあったし、近所の子だという少年少女をともなって現れたこともあった。サードアイ、バングルフォンの(あと)が見られない子供もいてミノリが驚くと、0番街生まれの子だよとショウが教えてくれた。彼女は退院後のミノリが街の生活にすぐにでもなじめるよう、心の壁を築くトレーニングをさせるために、他者を同伴してきていたのである。しかし、彼の思考はことごとく、年端のいかない子供にすら読まれつづけた。ミュートは基本的に誰もが精神感応能力だけはもっているのだとミノリは聞いていた。その他の付随する能力は各人の個性や生活環境の影響に左右されて発症する病であるとコロニー内では教えられてきた。つまりショウのいう心の壁を築く(すべ)を習得できない場合、子供から老人まで、街中の人間に思いや考えをさらけだすことになりかねないのである。

 入院して三週間がすぎ、ミノリが自力で動けるようになったころ、ショウは妙に横柄な態度の大柄な男とやさしそうな笑顔をもつ男、ふたりの男を連れて見舞いにやってきた。

「お前が小久保ミノリか?」ミノリがうなずくと、大柄な方が自己紹介をした。「俺は金井(かない)シュンだ。街じゃ漁師をやっている」

「はあ……漁師さんですか」どうりで荒々しくたくましい感じの人だとミノリは思った。

「お前、いい度胸してるな? 俺の名を聞いて、なにも思わないのか?」

「はあ?」

「コロニーで妹が助けてもらったそうだな」

「妹?」はっとしてショウに目をやるミノリ。

「ははは。そう、私の兄さんなのよ。どうしてもミノリの顔を見たいっていうからさ」

「兄さん!」目をまるくするミノリ。そういえばショウの苗字を聞いたことはなかった。彼女のフルネームは金井ショウか……。

「おう。だが、お前の兄貴になる気はないぞ」

「は? え?」

「兄さんさ、私がミノリの見舞いにしょっちゅうきてるから、なんか誤解してさ」

「こんなヘナヘナ、ヒョロヒョロの男じゃだめだ。許さんぞ、ショウ」

「だから違うっつってんだろ!」ムキになって怒るショウ。

「だけど気になるからきてるんだろが! 毎日、毎日!」

「毎日なんかきてないっての。いいかげんにしろよ、恥ずかしいな!」

「あの、俺も紹介してもらえませんか?」もうひとりの男が見かねたように遠慮がちにたずねる。にこにこと微笑(ほほえ)みながら。

「ああ悪い。この人は兄さんの友達で仁科(にしな)タツトさん。精神感応のスペシャリスト」

「精神感応のスペシャリストってなんですか?」そんないいまわしを、ミノリは聞いたことがない。

「まあ、そうだな。精神感応、テレパシーに特化した能力を保有しているエムってところかな?」タツトはやわらかく笑った。

「なんかすごいですね」

「でもないさ。ショウみたいにいろいろな力はもってないからね。丙種(へいしゅ)だし」

「へいしゅってなんです?」

「古い言葉だけど甲乙丙丁って知ってるかい?」

「昔の契約書なんかにある順番ていうか、上下わけみたいなものですか?」

「まあそんなもんだね」

「違うだろ! 上下なんてない! ここじゃみんな平等だよ!」顔を真っ赤にしたショウが叫んだ。

「俺は(てい)(しゅ)だから、少しばかり差別されてるけどな」おもしろくもなさそうにシュンがいった。

「兄さんが自分を卑下(ひげ)してるだけだろ? くだらない!」

「ああ、どうせ俺はくだらないよ! 乙種(おつしゅ)のショウにはわからないよ!」

「……あの、みなさんがなにをいっているのか、さっぱりなんですけど」おそるおそる手をあげて発言するミノリ。

「つまりこういうことさ」兄をにらみながらショウがいう。「丁種ってのはエムじゃないただの人間。丙種はひとつの力しかもたないエム。乙種はふたつないし三つの力をもったエム。甲種(こうしゅ)はそれ以上、四つていどの力をもつエムのことだ」

「エムにランクづけがあるのか……」

「ランクじゃないよ! それぞれの力を把握してないとつきあえないだろ? 互いの気持ちがわかりすぎないようにエム同士で取り決めしただけの話だ」

「わかりあえるのはいいことなんじゃないか?」

「相変わらずあまちゃんだね? ミノリ、あんた、自分の本心、思いを誰かと共有したいと本気で思うのか? あんたのクソロボへの気持ちを他人が心から理解できるとか思うのかい?」

「……それは思わない」

「だろ?」

「ああ。だけどショウ、結局は能力の高さで順番をつけているような気がするけど」

「違うよ。たとえばタツトさんはひとつの力、精神感応しかもってない、丙種だ。だけど、ミノリたちを収容所から逃がすとき何人の捜査官や看守を精神攻撃で身動きとれなくしたかわかるかい? 乙種の私にはとてもできないことをタツトさんはらくらくとやってのける。あんたが好きな対等っていうのはこういうことじゃないのかい?」

「そうだね。それは対等だね」

「わかりゃいいんだよ」

「平等じゃないとは思うけど」

「──そっか。平等じゃないけど対等か! クソロボがいってたやつか!」

「うん」

「おい! なにふたりしてわかりあってんだ! ショウ、やっぱりお前……」

「だから兄さん、違うよ」げんなりした顔つきでショウは兄を見る。「ミノリはさ、弟みたいな気がするんだよ。私を守るために0番街にきてくれた兄さんと同じ気持ちだよ」

「弟?」シュンはいぶかし気な表情で妹を見る。

「ふふ、こいつはさ……」ショウは包帯の取れたミノリの髪をわしゃわしゃとかきまわした。「ときおりバカみたいな正論を吐く。ヨウスケさんちでハナコが警報を鳴らしたとき、ただ逃げようとした私に木や紙でできた品をもっていけと冷静に指示した。驚いたよ」

「…………」赤くなるミノリ。ただ彼は必死だっただけである。

「そうかと思えばロボットアーム恋しさにひとりでコロニーに跳ぶような愚かさもある。要は安定してないんだ、なんかほっとけないんだよ。兄さんが今まで私を守ってくれた思いに近いんじゃないかな、と私は思う」

「……弟分か。そうかショウ、そういうことなら認める。小久保ミノリ、お前を金井家の次男坊にしてやってもいいぞ!」

「はぁ……」

「あははは。ミノリ君、今、傷ついたね?」タツトが笑った。

「そんなことないです」目を伏せて否定するミノリ。また思考を読まれたようだ。

「ところでミノリ君は瞬間移動能力は使えるんだよね? キミはどの種なのかな?」

「あと観念動力も使えるよ。あれの連打でナービス・エムを倒したんだ!」やや興奮したようにショウがいう。

「じゃあ、ふたつの力か。ショウと同じ乙種……いや、まだあるんだね? それはどんな力なの?」

「はぁ」精神感応のスペシャリスト、タツトの前では丸裸も同然のようだ。「最近のことなんですけど、どうも透視能力もあるみたいです」

「え! 三つめの力!? こいつ、いつの間に!」不服そうに口をとがらせるショウ。

「へぇー、いいなぁ。それじゃこれから街の女の子の裸、見ほうだいだ!」大げさに驚いてみせるタツト。

「はぁ!?」考えたこともないミノリ。

「なに!?」妹の前に立ちはだかるシュン。

「え!?」両手で前をつつみかくすショウ。

「あはははは」変わらずにやさしく笑うタツト。

 一同はシンとしてしまう。沈黙にたえられなくなったミノリが口火を切った。

「……あの、ですね。透視ができたのは切羽(せっぱ)つまった状況のときだけなんです」

「たとえばどんなときだよ!」ショウの体を見せないようにしつつシュンが吠える。

「小堺さんの部屋にいって、あ、小堺さんてのは──」

「ショウから聞いてる。それで?」おだやかにこたえるタツト。

「小堺さんが無事かどうか確かめたくていったけど、呼び鈴に反応がなくて。それで室内にいるかどうか見たいと思ったら見えたんです。それから、この病室で目がさめたら拘束されてて、目かくしもされてて、また拷問されるのかもしれないってものすごい危機感があって、そうしたらカズヨ先生の顔とこの部屋の様子が見えたんです。だから普段、使える力ではありません」

「ミノリ、本当だろうな?」ぐぐっと顔をよせてくるシュン。

「はい。本当に追いこまれたときだけで……」

「ミノリ君はさ、ここに入院してどのくらいになるんだっけ?」とタツト。

「えーと、どのくらいだろ?」

「意識がもどるまで一週間。もどってから三週間てところだね」ミノリに代わってこたえるショウ。

「もうそんなになるの? そう、ひと月か……」ミノリは思う、アズが初期化された、あの日からもう一カ月かと。

「そりゃかなり切羽つまってる状況なんじゃないかな? ミノリ君。一カ月も寝たきりじゃ、そりゃ下半身がうずうずと──」

「はぁ!?」

「そうとうたまってるんじゃないか? 若いんだから」おだやかな顔をしながら悪魔のようにささやくタツト。「追いこまれてるんじゃないか? 見たくもなるよね、ショウのヌード」

「…………」さらに紺色のポンチョごしに体をかたくして縮こまるショウ。

「ない! ないぞショウ!」叫ぶミノリ!

「どう思う? シュンさん」ヘラヘラ笑いをうかべるタツト。

「タツトさん!」やさしげなオーラをふりまきながら、このシチュエーションをおもしろがっているとしか思えないタツトに怒りをおぼえるミノリ。

「今すぐ魚の餌にしてやりてぇ!」荒ぶる漁師、シュンががなる!

「ミノリ! そんなやつだとは思わなかったよ!」薄く涙をにじませるショウ。

「だから違うって!」ミノリは天をも突きぬけるようないななきをあげた!


「ちょっと、うるさいんだけど!」カズヨがミノリの病室のドアを音を立てて開くと、シュン、ショウ、タツトの見舞客三人はそれぞれ三方の壁にはりつくようにしてふるえていた。「なにやってるの、あんたたち。けが人相手に」

「あれがけが人のすることか?」初めて笑顔が凍りついておののくタツト。

「ものすごい波動を感じたけど、まさかミノリ君なの? 力は使うなといってる……あ、寝てるの。じゃ誰なの? 病室で騒々しい思念を発したのは」

 ミノリの放出した観念動力で壁ぎわに吹きとばされた三人はいっせいに彼を指さす。

「だって眠ってるじゃない」

「寝てるというか、たぶん気絶かと思うぜ、カズヨ先生。なんせすごい勢いの力だったから」頭を打ったらしいシュンが側頭部をさすりながらいった。

「ほんと、こいつ本気だしたらそうとうヤバそうだね」いいながらショウは壁面の古い塗膜がついて汚れたポンチョをはたく。

「ほう……どういうことだ? これは完全拒否だ」タツトは唇をゆがめて笑った。

「タツト君、なんの話?」前後の状況を把握していないカズヨはポカンと口を開いてたずねた。

「カズヨ先生、このミノリ君、もしかしたらマル甲になれる才能があるかもしれない」

「マル甲……まさか」腰が引けたように一歩さがるカズヨ。マル甲とは四種類ていどの力をもつ甲種をはるかに超える能力をあやつり、しかもバラつきなくどの超能力も最高のパワーで発動できる者をさす0番街の隠語(いんご)である。しかしマル甲と呼ぶにふさわしい存在は、伝説のエム、あの皇帝カエサルと、この街の首長ジョエル、そして彼らの街ではいないことにされている()()()だけではないかといわれている。

「なにいってんの? ミノリごときがカエサルみたいなカリスマになれるわけないじゃん。ただ観念動力が強いってだけでしょ?」あきれたようにショウが笑いとばす。「ちょっとコロニーに入っただけでボコボコにされたやつだよ」

「でも生きて帰ってきた。あれだけ弾丸を受けてるのに脳や心臓、致命的な所には銃弾をうけてないと聞いたよ。そんな奇跡ありえる? K109ってそんなに親切だったっけ?」

「ミノリが意図的に着弾位置をずらしてたってこと? それこそありえない」

「まあね、それは認める。でもだったらどうしてミノリ君は生還できたんだい?」

「瞬間移動できるからでしょ?」

「ショウ、ロボット警官のマシンガンアームの銃弾は秒速一八〇〇メートルなんだ。それが単発じゃなくて四方八方から急所だけをねらって連射してくるのは知ってるよね。それに瞬間移動だけで逃げられたのなら一発もくらわずにすんだはずじゃないか。あんなに撃たれるまで彼はなにをしてたんだい? 説明がつかないだろ?」

「今度、確認しておくよ」確かにミノリの生還を理づめで説明することはむずかしいようだ。だからといって彼がマル甲だなどという話も、ショウには妄想としか思えなかった。

「そうしてくれ。それから彼は今もプチ奇跡をおこしたよ」タツトは言葉をついだ。

「どういうこと?」

「知っての通り俺はさ、この街の住人の思考は誰だろうとおぼろげながら読める。どんなに心に壁を積まれても俺には通用しない。ひとりだけ、()()()をのぞいてはだけどね」

「…………」例の男と聞いただけで顔をしかめるショウ。

「だからよろず相談屋みたいなことをして生計を立てることができた。依頼人はたいてい嘘をつくからね。その先を見通すことで本当に相談したい内容を読みとり、結果をだしてきたんだ」

「知ってるけど、それがなに?」

「それがどうだい、このミノリ君。ちょっと追いこんでみたら軽く切羽つまったんだろうな? 一瞬にして誰よりも高い心の壁を築きあげたよ! まるでバリヤーだ。もう彼の思考は俺にも読めそうにない」少しくやしそうに自嘲するタツト。

「嘘でしょ?」

「嘘だろ?」ショウとかぶるようにシュンがいった。丁種のシュンはいくら練習を積んでも、いまだに心へ壁を立てることには四苦八苦しているのである。

「本当だ。そしてミノリ君は心に防壁を構築すると同時に、あの怒りのようなパワーを爆発させた。あれはたぶん俺への怒りだったんだろうな……怖い、怖い」

「ねぇ、この子が寝てるから意識を読めないだけじゃないの?」ベッドの乱れをなおしつつカズヨがいう。

「…………」黙って首を横にふるタツト。

「このヒョロヒョロに、そんな才覚があるのか? 本当に?」シュンは眠るミノリをうさんくさく見つつつぶやく。

「でもタツトさん、私の裸を見るとか見ないとかがそんなに切羽つまること?」

「そりゃ、一大事だろ!」シュンは自分のももをバシンとたたいた。

「兄さん、ここは黙ってて!」

「はいはい」妹の剣幕に大柄な体をすくめる兄。

「人それぞれにことの重要さは違うからね。ミノリ君にとっては一大事だったんじゃないのかな? ショウにいやらしいやつだと思われるのは」

「そう……生意気だな、子供のくせして」ショウはミノリの髪をひとつかきあげ、指先で額をはじいた。

「いずれにしても依頼の件、ミノリ君に心の壁を築かせることには成功した。ということで米二袋はオーケーですかね? シュンさん」あかるい声をあげるタツト。

「そんなことしてたの?」あきれるカズヨ。

「まあ、妹の頼みなんで……いいのか? ショウ、これで」

「うん」ショウはうなずいたがこういわずにはいられなかった。「ほかに方法なかったのかよ! 私のヌードとか、ほんとありえない!」

 タツトはエヘラエヘラと笑うばかりであった。そしてショウの兄、丁種であるシュンは複雑そうな表情をうかべ、妹を見つめていた。

                                (つづく)


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