第二章 ミノリとショウ 1
1
深夜、矢も楯もたまらず、コロニー内の自室にまいもどったミノリは、もうすでにアズではないRA2075に警報アラームを鳴らされ、すぐに跳んで逃げればいいものを、呆然と涙を流しロボットアームを見つめているうちに、ロボット警官、K109に包囲されて雨あられと集中砲火を全身にあびた。壮絶な痛みも、自身が血まみれになっていることもはっきりと自覚していた。なので意識をとりもどしたときは意図せず「あれ?」とつぶやいていた。あんな撃たれ方をして生きていられるとはとうてい思えなかったからだ。しかし、やや霞がかかっていたような頭の中が回転をはじめると、さらによくない状況におかれていることを感じた。まず、目を開けない。なにかおおいがかけられているらしい。そして腕と足、これも拘束されているようだ。双方とも指先の感覚はあるので、どうやらつぶされてはいないようであるが、ミノリは戦慄せずにはいられなかった。間違いなく、連合警察の収容所にふたたび監禁されたのだ。以前受けた拷問どころではない、言葉にできないような地獄の責め苦が待っているに違いない。もはやミノリは一般州民ではなく、ミュートなのだから。胸のあたりでX状に交差している腕や手のひらを動かしてみる。力は入らないが、握ることはできる。そして脳はスッキリとさえてはいないが、思考することはできる。唯一の友人であるアズをうしない、母との約束が守れなかった今、死はむしろ歓迎するし、怖くはない。しかし可能な限り苦しまずにあっさりと死にたい。ならば、逃げるしかない。こんな拘束具など引きちぎってやる! ミノリは精神を集中させた。
「はい、そこまで」ハスキーな女性の声がした。「目がさめたみたいね。でもいきなり観念動力は使わない方がいいわ。まだ傷は完全にふさがってないから」
「誰だ! ボクをどうする気だ!」
「どうもこうもない。私は医者よ。あなたのケガを治療した医者よ」
「なおして、また拷問する気だな?」閉じたままの目に意識を集めるとほんのりとだが、リョウジの部屋の前に立ったときのように周囲の景色と、声の主、やや年配の女性の顔が薄っすらと見えた。
「ほらまた! 力は使うなっていってるでしょ!」彼女はミノリの頭をパチン!とたたいた。「本当に傷が開いても、もうなおさないよ!」
「なぜわかるんだ? ボクが力を使っているのを」ついに連合政府がミュートの能力発動システムのようなものを解明したのか? ミノリはそう考え、ぞっとした。これまでは目視による確認しかできなかったはずであるが、ミュートのはなつオーラというか波動を感知されるようになったのであれば、たとえば精神感応のようなささいな力を使用しただけで攻撃ドローンに襲われることになるだろう。
「そりゃわかるわよ。エム同士なんだから」
「なんだって! でもボクはあなたになにも感じない」
「私たちは気持ちや思念を制御、防御する術を学んでいるからよ。あなたもここで学べばいいわ。そうでないとこの街ではやっていけないわよ」
「街……ここは、その何番街なんですか?」もしかすると──。
「もうわかってるんでしょ? ショウがあなたをここへ運びこんだ。この街はショウの住んでいる街、私たちは0番街と呼んでいるわ」
「ショウの街……0番街……」ショウの名を聞いてそれまで抱いていた緊張感から一気に開放されたかのように全身から力がぬけてしまうミノリ。しかし──「じゃ、なんで、目かくしや拘束具を着けてるんですか?」
「あなたみたいに内地からきたばかりでなにも知らないけが人は、意識がもどったとたんにいきなり力を使って暴れる傾向が強いの。ワンクッションおかないと危険なのよ。わかるでしょ?」
「わかります……」先ほどのミノリがそうだった。
「さっきもいったけど、まだ銃創も、弾丸を取りだすために手術した傷も完治していないの。なにせ全身ボロボロだったんだから」
「はあ……」
「暴れないでおとなしくできると約束するのなら、拘束はといてもいいわ」
「おとなしくします」
「けっこう」そういった彼女が笑ったような気が、ミノリはした。「意識がもどってよかった。きっとショウも喜ぶわ」
「ショウ! ショウは、今、どこに?」
「仕事にでてる。さあ、あなたはもう少し眠りなさい。彼女には連絡しておくから」
「はあ……」とても眠れるわけがないとミノリは思ったが、女医の手がやわらかく額におかれる感触を感じると、次第に睡魔にとらわれ、眠りにおちていった。苦痛をやわらげ、人を就眠に誘う能力を、この女性医師は持っているのかもしれない。
(つづく)




