Ep.98 焦熱の巨人
燃え上がる災厄の巨人
オルカ達の戦闘が始まった頃、バルアルとスカァフはサルトとの戦いは激しさを増していた。
巨体を高速で動かす肉弾戦を武器にしてくるサルトに対し、2人は回避しながら隙ができるのを窺っていた。
スカァフは攻撃を紙一重で躱しつつ、軽やかに跳躍して距離を取る。バルアルは翼を広げ、宙を飛びながら距離を取って攻撃を回避していた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
サルトは一撃も当たらない2人に激昂し、大振りの攻撃を放つ。
強力な一撃が地面に叩き付けられ、周囲に床の破片が散々の如く飛び散った。
だが、2人はそれを悠々と躱し、すぐに武器を構える。サルトが大きな隙を見せた今、攻撃をする最高のチャンスだ。
「合わせろバルアル!!」
「分かっているとも!!」
スカァフの合図に合わせ、サルトに向かって挟撃する。
サルトは防御しようと両腕を上げるが、それよりも速く2人はサルトの懐に到着する。
スカァフの槍がサルトの腹を切り裂き、バルアルの爆炎がサルトの背中を焼いた。
音を置いて行く程の速さのスカァフの一撃、爆裂音が無数に響くバルアルの猛撃は、サルトに見事直撃し、大きな深手を負わせる。
「が、アアアアアアアアアアアアアアアア!!!??」
あまりの痛みに絶叫し、膝から崩れ落ちるサルト。
両手を床に叩き付け、倒れないように両腕で支える。頭に付けたフルフェイスの鎧の下から聞こえるほど呼吸を荒くし、痛みに耐えている。
しかし、背中と腹の傷口からの出血は酷く、足元に大量の血が落ちている。このままいけば失血で気を失うのも時間の問題だろう。
スカァフはサルトの状態を見て、槍を下ろした。
「アレではもう戦えまい。放っておいても問題無かろう」
「拘束するにも、道具が無いからね。可哀そうだが、あのまま放っておくしかなさそうだ」
そう言って2人は背を向け、奥の扉へと進む。
「今頃カラー達と戦っておるじゃろう。急いで援護に向かうとするかの」
「そうだな。いくらラシファとは言え、苦戦しているのは目に見えている。行こうか」
◆◆◆
終われない
あの方に拾ってもらった命
全てをあの方のために使うと決めたあの日、そう誓った
失敗できない
今日だけは、失敗できない
何があっても、今だけ
あの2人を、殺して、止める
そのためならば、この命
燃やし尽くしても、構わない
◆◆◆
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
サルトの絶叫に、その場を去ろうとしていたスカァフとバルアルは、咄嗟に振り返る。
そこには、立ち上がるサルトの姿があった。
「馬鹿な、あれだけの傷で動けるじゃと……? 何という耐久力……!」
スカァフは驚きつつも、再び槍を構え直す。
(何だ、この嫌な感覚は……。まだ何か隠している……?)
バルアルも翼を広げ、両手から炎を出して戦闘態勢に入る。
サルトはゆっくりと立ち上がり、被っている鎧に手をかけた。
そして、鎧をゆっくりと上に持ち上げ、頭から外してみせる。
その顔は、燃えていた。
顔面が轟々と燃え、表情は一切分からず、影で目と口を確認するだけで精一杯だ。
燃える顔でスカァフ達を睨みつけ、鎧を投げ捨てる。
「ウンガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
再び雄叫びを上げ、しっかりと四股を踏み、堂々と立ち上がった。
立ち上がったの同時に、顔面の炎が全身に回り、炎の巨体へと変貌する。
変貌した巨体はみるみるうちに大きくなり、5mあった巨体は、倍の10mに達した。
あまりの変貌に、流石の2人も驚きを隠せなかった。
「炎の巨人、じゃと? 馬鹿な、500年前に滅びたはずじゃ……!?」
「どうやら、カラーは化石からも人造人間を生み出せるみたいだな」
バルアルは眉をひそめながら悪態をつき、宙に羽ばたいた。
「【獄炎砲】!!」
上から炎の一撃を放ち、サルトに直撃させる。
しかし、炎で包まれたサルトには、まるで効いていない。
「だろうな。炎に炎を注いでも、効く訳がないか」
苦い表情で笑うバルアル。
「笑ってる場合か!! 来るぞ!!」
スカァフの警告の直後、サルトの炎を纏った拳が、バルアルに向かって放たれる。
その速さはさっきの比ではなく、一瞬で数十m離れたバルアルの目の前にまで迫り、バルアルの対応が完全に遅れてしまった。
「くっ!!?」
バルアルは咄嗟に【防御魔術】を発動し、間一髪で防御に成功する。
だが、勢いを殺すことはできず、その衝撃で壁にまで吹っ飛ばされ、叩き付けられた。壁はあまりの衝撃に凹み、バルアルよりも一回り大きいクレーターが壁にできてしまう。
「ぐは!!?」
あまりの衝撃に、少しだけ血を吐いてしまった。
「バルアル!?」
バルアルの心配をするスカァフだったが、サルトの足による追撃を察知し、咄嗟に回避する。
「ちい!! こんな奥の手を残しておったか!!」
サルトが動く度に炎が舞い、辺り一面炎の海へと化していく。
閉鎖された空間で燃え広がる炎の熱気は、どれだけ素早くとも逃れる術は無く、徐々にスカァフを蝕んでいく。
攻撃しようにも、全身業火に包まれた怪物を、どこから斬りつければよいのか分からない。ましてや、さっき入れた傷も塞がってしまっている。
(これは、思ったより厳しいか……?!)
加えて、燃焼による酸素の低下が起こり、激しく動くスカァフの動きを更に鈍らせた。
結果、一瞬ではあるが、サルトの攻撃がスカァフをかすり始めたのだ。
「ちぃ!! 厄介な!!」
悪態をつくスカァフに構わず、サルトは連撃を続行する。降り注ぐ拳の雨と舞う炎に、スカァフは苦しめられる。
(いかん、このままでは……!)
「スカァフ!! 今助ける!!」
サルトの背後にいたのは、バルアルだった。
スカァフに気を取られているうちに、飛んで背後まで移動していたのだ。
「【魔導砲】!!」
単純に魔力をエネルギーの光線に変えた一撃を放ち、直撃させる。
「ガア!!?」
効果があったようで、サルトはバルアルの方に振り向く。
その隙をスカァフが突く。
「貫け!! ガオバルガ!!」
全身全霊を持って、槍を大きく振りかぶり、10mある巨体に向かって投擲する。
狙うは心臓。その位置は完璧に捕らえた。
だが、狙いが完璧すぎるのも、弱点になってしまう。
何故なら、軌道が完全に読まれてしまうからだ。
巨体でも素早く動けるサルトは、その軌道を読み、一歩引いて、槍を掴んで止めてみせた。
「な、に」
亜音速で投げ放った槍を、突き刺さる寸前で掴んで止めるという離れ業を見せられ、スカァフは驚愕せざるを得なかった。
サルトは槍を放り投げ、動きの止まったスカァフ目掛けて拳を放つ。
槍が手元から離れたことで、力が入らなくなったスカァフには、躱す術がない。
(……終わりか)
スカァフは死の覚悟を決めた。
「何やってんだスカァフ!!!」
しかし、それを許さない者が一人、飛び込んできた。
バルアルだ。
バルアルはスカァフを突き飛ばし、本来スカァフが受けるはずだったサルトの拳を、その身で受けた。
今度は防御魔術が間に合わず、生身で受けたことにより、左半身が骨折し、その身を業火で焼かれてしまった。
強力な一撃で吹き飛ばされたバルアルは、壁に叩き付けられ、大量の血を吐き出しながら、肉が潰れる音を上げてめり込んだ。
その光景を見ていたスカァフは、呆然としていた。
「バル、アル?」
何故自分を助けたのか分からず、理解できず、ただその光景に目を見開くしかなかった。
ピクリとも動かないバルアルに、精神的ショックを受ける。
対等な友として、笑いあえる同僚として、心が安らいだ仲の人物が、死んだ。
ドクン、と、心臓が爆ぜる。
涙よりも先に、心の汚泥が溢れ出る。
スカァフの髪が逆立ち、どす黒い魔力が暴発した。
「ンガア?!」
攻撃しようとしたサルトも、思わず数歩後退する。
スカァフが手を伸ばすと、ガオバルガが勝手に手元に戻る。
黒い魔力はスカァフを包み込み、ドレスの形となってまとわりつく。
全身黒ではあるが、ウェディングドレスの様に煌びやかなレースが施されている。スカートは短く作られ、足回りは普段と変わらず動かせるデザインとなっている。
「ゴルニア王国の王族の血の力、固有魔術か……」
スカァフは自分の姿を見て、フッと呆れたように微笑む。
「嫌な装備じゃ。これではまるで喪服じゃな……」
そう言いつつも、自身の能力が爆発的に上がったのを感じていた。
今なら、サルトを倒すことが出来ると確信する。
槍を構え、目の前にいる焦熱の巨人と再び対峙する。
「行くぞ巨人。その心臓、貰い受ける」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『影の女王』
お楽しみに
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