Ep.97 人造人間だとしても
そこに人の心があるなら
オルカ達がカラー達と対峙している時、ファンは怪人と一進一退の攻防を繰り広げていた。
『収納袋』に入れた矢を取り出し、連射しつつ位置を変えて、怪人からの攻撃を絞らせない戦法で追い詰めるが、怪人も短距離転移で何度も瞬間移動して回避してはナイフで攻撃を仕掛けてくる。
投擲と近接を織り交ぜて攻めてくるため、パターンを掴みにくく、ファンはやりづらくて仕方なかった。
(対人戦はギルド内で何度かやってたけど、これは今までにないパターンっすね!)
心の中だけで悪態をつきながら、怪人の強襲を凌ぐ。
「ふむ。ふむ。ふむ。ただの弓兵かと思っていましたが、想像以上にやりづらい」
怪人もまた、ちょこまかと動くファンに手こずっていた。
想像以上に素早く、ランダムに動くため、短剣の転移の狙いが定まらない。それではこちらの手を無駄に消費してしまう。それは避けたいので、出し渋っている状況だ。
仮面の下でファンを忌々しく思いながら、曲芸師の様な動きでファンに攻撃を仕掛ける。
互いのナイフがぶつかり合った直後、互いに跳躍して距離を取る。
(そこ!!)
跳躍した一瞬の隙を狙い、ファンは肩鎧にいる【バルトゥラ】を発動する。
6匹の蛇が怪人に向かった発射され、牙をむいて怪人に襲い掛かる。
「ッ」
怪人は咄嗟に身を翻し、5匹の攻撃を躱す。
しかし、残りの一匹の攻撃だけは回避できなかった。
その攻撃は仮面に直撃し、仮面の一部を割って見せた。
「ぐ!?」
怪人は仮面を押さえながら、更に跳躍して距離を取る。
ファンは【バルトゥラ】を自身の下に戻し、態勢を取り直す。
「やっぱり仮面が弱点っすか。ヘルウィンさんのメモ通りっすね」
ニッと笑うファンに、怪人は睨みつける。
「……止めて欲しいものですね。外気に触れると染みるんですよ、これ」
そう言って割れた仮面の下から見せたのは、
ツギハギだらけの顔だった。
ぬいぐるみをパッチワークでつなぎ合わせた様な、人と人のパーツを張り付けた様な顔で、至る所に手術の痕が見える。
あまりにも生々しく、残酷さが漂う、恐怖を身に纏った顔だった。
それを見たファンは思わず顔が引きつる。
「メモで聞いてはいたけど、実際見るときついっすね……」
「おぞましいですか?」
怪人はクスクス笑いながら問いかける。
「そうでしょうねえ。こんな姿、普通の人間なら耐え切れないでしょうねえ」
何が面白いのか、声を大きくして笑い始める。
ファンは弓矢を構えたまま、冷めた目で見る。
「それはお前が人造人間だから耐えられるって意味か?」
ファンの言葉に、怪人の動きが止まる。
「…………どこでそれを?」
「ヘルウィンさんから教えてもらった。お前の素顔を見てすぐに分かったって」
ファンは弓矢で狙いを付ける。
「お前、人造人間なんだろ」
◆◆◆
オルカの言葉を聞いたウルパは、目を見開いて驚いていた。
「私が、人造人間……?」
驚くウルパに、オルカは静かに頷く。
「特徴が一部しか合わない、怪人の正体、そして魔術師の秘術が使える。この3つのことから、貴女が人造人間であると断定しました」
オルカの説明に、ウルパはギリッと歯を食いしばる。
「ふざけるな!! そんなことで納得できるわけ……!!」
「貴女は、アージュナさんと同じ獣国の出身であり、その体に獣人としての特徴があるはずです……。ですが、貴女にはそれが全くない……。私と同じ、人族の姿をしています……。それは何故なのか……。その理由が、残り二つにあります……」
オルカは話を続ける。
「怪人の正体。ヘルウィンさんが教えてくれたその情報には、怪人が多くの人間からパーツをかき集めて造られた人造人間であると書かれていました。その裏付けとして、顔のツギハギと、本来特定の魔術師しか使えない固有魔術を使いこなしていました……。この二点は、ウルパさんにも共通しています……。首にあるツギハギの痕、そして【存在隠蔽】の魔術を使いこなしていたこと……。ここで、さっきの獣人の特徴が無い点と繋がってきます……。それら3つの点を総合すると……」
「止めろ」
ウルパは顔面蒼白になり、止めようと声を漏らす。それでもオルカは仮説を止めない。
「ウルパさんは、怪人と同じ人造人間。そしてその中身は、ウルパさんの死体と、ラビングさんの一部を使って造られた、人造人間なのでは無いか、と」
「止めろ!!」
ウルパは頭を抱えてしゃがみ込む。
「違う違う違う違う違う!!!!! 私はウルパだ!! そんな死体で造られた人造人間なんかじゃない!! 絶対に違うんだ!!」
余程オルカの仮説が効いたのか、絶叫しながら否定する。
「私は、そんなめちゃくちゃな存在じゃない……!!」
涙をこぼしながら、髪をぐしゃぐしゃにして崩れ落ちる。
「………………」
その様子を、オルカとアージュナは辛そうな表情で見ていた。
こうなるのではないかと思ってはいたが、実際にそうなると、胸が苦しくなる。
それでも告げたのは、何も知らずにカラーの配下としているのが良くないと思ったからだ。
もし人造人間で洗脳されているのであれば、今からでも救い出してあげたいという、アージュナの願いで告げることを決めた。
「ウルパ……」
苦しむウルパに、アージュナが声を掛けようとした時だった。
それよりも先に、カラーがウルパに寄り添っていた。
圧倒的強者の殺気を感じ取ったアージュナは、咄嗟に距離を取ってしまい、完全に出遅れた。
カラーは微笑みながら、ウルパに語り掛ける。
「大丈夫よウルパ。貴女は確かに人造人間だけれども、ウルパという女性に何の変りも無いわ」
「……それは、本当ですか?」
「ええ、私が保証するわ。人造人間にしたのは私だけれど、決して記憶はいじってない。あの子達では無く、私を信じてウルパ」
悪魔の囁きが、ウルパの魂を侵食する。
優しい言葉の裏に邪悪が潜んでいるにも関わらず、囁かれた者は白が黒に染まるように、いとも簡単に飲み込まれてしまう。
それに飲まれたウルパは、完全にカラーの虜になってしまう。
「はい、カラー様。私はカラー様を信じます」
「いい子ね。それでこそ私が見込んだ子」
カラーは母の様にウルパの頭を撫で、その後ゆっくりと立ち上がらせる。
「さあ、一緒にあの2人を殺しましょう」
「はい、カラー様!」
見ていることしかできなかったアージュナは、自分の情けなさと悔しさのあまり下唇を噛んでいた。
オルカはアージュナの服の裾を掴み、視線を送る。
視線を合わせたアージュナは、一度深呼吸をして、精神を落ち着かせる。
「…………行くぞ!!」
アージュナは双剣を抜き、カラー達と向き合った。オルカも遅れて杖を構えて、戦闘態勢に入る。
一瞬の静寂の後、戦いの火蓋が、切って落とされた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『焦熱の巨人』
お楽しみに
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