Ep.96 正体
その身は何か?
カラーが襲撃してくる2時間前
ラファエルの指示に従って持ち場へ移動する直前、
「それでは、皆さんの健闘を祈ります」
ラシファが最後に声を掛ける。
そして、それぞれ移動しようとした時、
「皆、俺はオルカの傍にいさせてくれないか?」
アージュナが突然希望を出す。
全員の足が止まり、アージュナの方を向く。
「何を言う。オルカ殿は我々枢機卿に教皇猊下と共にいることは決定している。お前程度がいても何の足しにもならんぞ」
ラファエルが厳しい意見をアージュナに告げる。
「それでも、俺はオルカをすぐ近くで守りたいんです。お願いします」
アージュナは深々と頭を下げた。
「しかしなあ……」
「いいじゃないですかラファエル。ここは本人の意思をくみ取りましょう」
ラシファが加勢し、アージュナのフォローをし始める。
「それに、不測の事態が起きた時、人手が多い方が良いに決まってます。彼なら十分その役割を担ってくれますよ」
「それは信用に欠けると言いたいのかのお?」
「信用していますよ。ですが、相手はあのカラー。聖国側の手を知っている存在です。だとすれば、対策をしていないはずがない。その対策を潰す一手として、彼は必要だと思いますよ」
「……ラシファがそう言うなら、まあ、いいかのお」
最後にラファエルが折れ、ラシファの意見を聞き入れることにした。
「アージュナ殿はオルカ殿と共に教皇の間に来てもらう。しっかり役目を果たしてもらうぞ」
「ああ!」
アージュナは自信のある笑みで答える。
オルカの方を見て笑顔を向けると、オルカも微笑みで返した。
それを見ていたスカァフとバルアルはやれやれといった表情で笑みを浮かべ、ファンとセティとルーは温かい眼差しを向けていた。
そしてラシファは微笑みながら、
「では改めて、皆さんの健闘を祈ります。武運を」
改めて全員に声を掛け、枢機卿に持ち場へ案内してもらうのだった。
◆◆◆
カラーが襲撃してくる30分程前
教皇の間で臨戦態勢で待機している枢機卿の後ろに、オルカとアージュナはいた。
枢機卿達からいつも以上の緊張感が漂う中、オルカ達の後ろにいる教皇は、のんびりしていた。
「そこまで気を張ることもあるまい。余がいればあのような者、恐るるに足りぬ」
「しかし……」
「ここは息苦しい。余は奥で湯浴みをしてくる故、ここは任せるぞ」
そう言って教皇は奥へ引っ込んでしまった。
アージュナは呆れながら、
「随分とマイペースな方だな……」
思ったことを喋ってしまう。
「ま、まあ、あの位の方でしたら、アレくらい余裕がある方が自然だと思いますよ……」
教皇の凄さを知るオルカは、思わず教皇を庇う発言をしてしまう。
それを聞いていた枢機卿達は、とりあえず黙って前へ向き直した。
オルカはアージュナの方を見る。
この非常時に不謹慎かもしれないが、こうして2人だけの時間が再びできたことが嬉しかった。
そう思っていたが、迫って来るかもしれないカラーが脳裏によぎったのと同時に、ウルパの事を思い出す。
アージュナはウルパのことをどう思っているのか、こんな時に思うのもどうかと思うが、気になり始めるとどうしても聞きたくなってしまった。
「……あの、アージュナさん……」
「どうした、オルカ?」
「ウルパさんについて、聞きたいのですが、いいですか……?」
その名前が出て来た時、アージュナは気まずそうな表情になる。
「……そうか、今か。覚悟はしていたんだが……」
「? それは、どういう……?」
「実は聖国に向かう馬車の中で、ギルドマスターが聞いてくるかもしれないって教えられてたんだ。何があったのかも聞いた」
「そ、そうだったんですか……」
「ウルパについては、やっぱり心残りではある。俺のせいで死なせてしまった幼馴染だからな。それが生きていて、敵になったと聞かされたら、複雑な気持ちだよ……」
アージュナは何とも言えない表情で俯く。
オルカは心配そうな目でアージュナを見る。
「やっぱり、似てますか……?」
アージュナが自分にウルパの面影を重ねているのではないか、その心配が胸の中にあった。
もしかしたら、ウルパの事が好きで、その延長で自分を好きになったのではないかという不安が、ささくれの様に残っていた。
アージュナはオルカの問いに、微笑んで答える。
「似てるけど、それだけだ。ウルパはウルパだし、オルカはオルカだ。全く別だよ」
その言葉を聴いたオルカは安堵した。
(…その言葉を聴けて、本当に安心しました……。本当に自分だけを、見てくれているんですね……)
心の中でアージュナを更に信頼し、ゆっくりと微笑んだ。
「それに、顔以外全然似てないしな、ウルパ」
「? そんなに体形が違うんですか……?」
「いやいや、ウルパを見たなら分かるだろ?」
アージュナは笑いながら言葉を続ける。
「だってウルパは俺と同じ獣人だから、立派な耳と尻尾があっただろ?」
それを聞いたオルカは、背筋が凍った。
あの時見たウルパの姿。そして怪人の秘密。
もしこれらが繋がっているのなら。
みるみる青くなるオルカ。それを見たアージュナは心配そうな表情になる。
「どうしたオルカ? 具合が悪いのか?」
「いえ、その、嫌な想像を、してしまった……」
「何の事だ?」
オルカはアージュナの顔を見て、真剣に答える。
「もし、私の推測が正しければ、ウルパさんは―――」
◆◆◆
そして現在
オルカとアージュナ、カラーとウルパが対峙している。
そして、アージュナがウルパに言い放った言葉が、
「お前は、ウルパじゃない」
存在を否定するものだった。
ウルパは眉をひそめ、ハッ、と一蹴する。
「何を言うかと思えば……、本人を前にそんな戯言か。いい加減にしろよアージュナ」
懐から短剣を取り出し、アージュナに向ける。
アージュナは悲しい表情で話を続ける。
「確かに顔はウルパだ。それは間違いない。けど、それ以外の特徴が何一つ違いすぎる。獣人の耳と尻尾は無い、人族そのものみたいな姿だ。だから、ウルパとはとても言えない」
「何を言っている……? 私はウルパだ! 獣国で生まれた反逆者!! それに何の疑念もない!!」
「では、さっきから使っている【存在隠蔽】は、どこで覚えましたか……?」
途中で話に割って入って来たのは、オルカだ。
「【存在隠蔽】はラビングさんの得意としていた魔術です……。普通の方が覚えられるものではありません……。それがどうして、使えるのですか……?」
「それは、カラー様が……」
反論しようとした時、ウルパの言葉が詰まる。
「カラー様が……?」
何か思い出そうとして、思い出せない。
思い出そうにも、探ろうとした記憶が、何も残っていないのだ。
「何だ……? これは……?」
「やはり、そうなんですね」
オルカは最後のピースを手に入れ、ようやく結論が出せる。
「貴女は、カラーさんによって造られた、人造人間です」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『人造人間だとしても』
お楽しみに
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