Ep.95 色彩の堕天使
色彩を操る者
カラーとラシファの激突を皮切りに、ユラマガンド達とファン達も一斉に走り出す。
ファンは真っ先に怪人の下へ駆け寄り、弓矢による最初の一射を放つ。
怪人は懐から出そうとしたナイフで矢を弾き、そのナイフをファンに向かって投擲する。
ファンもまた腰に吊っていたナイフを抜き、飛んで来たナイフを弾き返した。間合いを一気に詰め、ナイフで強襲をかけるが、怪人はどこからか出したナイフでそれを防ぐ。
「【収納】か!」
「私ほどにもなれば造作も無いかと。しかし、いきなり襲って来るとは、懸命ですね」
「どこからともなくナイフを投げてくる奴を抑えるのは当然のこと!」
「よく分かっていらっしゃる」
怪人とファンは接近戦にもつれ込み、激しいぶつかり合いが始まる。
一方で、ユラマガンドは火を点けた葉巻から大きく煙を吸って、一気に吐き出していた。
「来い。煙の魔獣、黒きテスカトリポカ」
吐き出した煙は黒く、ユラマガンドよりも数十倍の大きさがあった。その煙は徐々に獣の形を作り、巨大な熊とジャガーとなる。
熊とジャガーは、兵士達に狙いを定めた。
『『GOAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』』
大きく腕を振りかぶり、兵士達を薙ぎ払った。
煙だった2体の獣は、実体を持ち、一撃で何十人もの兵士達を吹き飛ばした。
「ウワア!!?」
「ぎゃあ!!?」
悲鳴を上げながら吹き飛んで行き、壁や床にぶつけられ、次々と戦闘不能になっていく。
「大したことはないな。このまま蹴散らして……」
「そう簡単に行くと思わないで欲しい」
ユラマガンドの横から現れたのは、セティとルーだった。
「『精霊砲』!!」
「ッ!!?」
ルーの不意打ちを受ける寸前のユラマガンドだったが、紙一重で攻撃を躱し、何度か跳躍しながら後退する。
「危ない危ない。やられるところだった」
「その割には焦っていないようだが?」
「おや、バレましたか。では、本気で行きましょうか」
ユラマガンドは拳を握り、戦闘態勢に入る。
セティとルーも、戦闘態勢に入り、ユラマガンドと対峙する。
カラーとラシファは互いに魔力の光線を放ち、相殺し合っていた。
正確には、ラシファがカラーの全ての攻撃を寸分違わず相殺し続けているのだ。
カラーはそれをクスクスと笑いながら、
「いつまで耐えられるかしら? 私の呪いを受けている貴方が」
攻撃の手数を増やす。
今度は輪の形をした魔力の塊を射出し、高速回転をかけてラシファに襲い掛かる。
「ッ」
ラシファは魔力の弾丸を作り、連続で発射する。
何度かぶつけ、相殺することに成功した。
カラーは攻撃の手を休めることなく、一歩一歩近付いていく。
「どうしたのかしら? お得意の魔術は使わないの?」
「……使えれば、とてもいいのですがね」
ラシファは微笑みながらも、苦しそうな表情になりつつあった。
カラーはそれを見て、再びクスクスと笑う。
「そうよね。私の【色彩魔術】の前では、貴方の強力な魔術も無意味ですものね」
ラシファが警戒しているのは、カラーの操る【色彩魔術】だ。
特に【色彩剥奪】は、相手の魔術の色を見極め、その色を指定して封印し、使用不能にする魔術だ。
しばらくすれば解除されるが、実戦でやられると、徐々に追い込まれ、やられてしまうのだ。
何より、ラシファとバルアルにかけられた呪い、【色彩呪術】は、『最も得意とする魔術の色を長期間封印する』という恐ろしい魔術だ。
当時のカラーの全魔力を使用して掛けられたこの魔術は、今でも楔として2人の身体に残っており、神聖魔法でも最上級の【神聖紋】と教皇の【加護】が封印されてしまった。
ラシファは今日まで、神聖魔法の代わりとなる【深淵魔術】を鍛え上げてきたが、これを封じられると決定打が無くなる。
それだけは回避するために、こうして単純な魔力放出だけで戦っているのだ。
ラシファは光の剣を出現させ、カラーに向かって射出し、反撃を試みる。
「それはもう見ました」
【色彩同調】
光の剣はカラーに直撃すると同時に砕け、光の粒子となって吸収される。
それを見たラシファは、眉間にシワを寄せる。
「なるほど。そちらも成長していましたか」
今まで見たことの無い魔術だったが、自分と照らし合わせて、長い年月の間で、何もしてこなかったはずがないのだから、これくらいは当然かとすぐに納得した。
静かで激しい戦いは更に激化し、攻撃の種類も増え続ける。
しかし、押されているのはラシファの方だ。
それでも何とか持ちこたえているのは、ラシファの技量あってのものだ。
(さて、このままだと負けるのは目に見えてます。どこかのタイミングで奥の手を……)
そう考えていた時、ある事に気付いた。
あと一人、堕ちた林檎のメンバーの姿が無い。
他におかしな点があったのは、教皇の部屋へと続く扉が、僅かに開いていたことだ。
「まさか……!!」
「今更気付いても遅いわよ。もうとっくに到着している頃なのだから」
◆◆◆
教皇の間
「ぐ、が……!!」
そこでは、枢機卿達がカラーによって全滅していた。
4人いた枢機卿はカラーの魔術によって次々と倒れ、戦闘不能になってしまった。
カラーとウルパは、倒れていった枢機卿達の横を通り過ぎ、本命のオルカの目の前にいた。
「ごきげんよう、オルカさん。また会えましたね」
ニコリと笑うカラー。
そこへ割って入って来たのは、アージュナだった。
「悪いが、これ以上は近寄らせない」
「随分と言うじゃないか。弱虫アージュナ」
更に割って入って来たのはウルパだった。
「カラー様、先に決着を付けさせてください。あの男は私が始末しなければいけないのです」
憎しみの籠った眼差しでアージュナを睨むウルパ。
「…………」
一方で、アージュナは憐れむような眼でウルパを見る。ウルパはその視線が癪に障り、
「何だその眼は。今更同情したところで容赦はしないぞ!!」
「……ウルパ。いや」
「お前は、ウルパじゃない」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『正体』
お楽しみに
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