Ep.91 十二騎士、開放
宝剣開放
「十二騎士、出陣!!」
アグラヴェインの掛け声と共に、十二騎士の面々が一斉に駆け出した。
「3方向に分かれて迎え撃つ!! ランスロット、グレース、ボーサ、パルジファルは右翼を! ベドウィル、トリストラム、イヴァン、パラメデスは左翼を! 私とギャラヘッド、ウェイガー、メイドリッドは中央だ!!」
『了解!!!』
3方向に散開し、それぞれ武器を取る。
グレースは緊張で動きが硬くなっていた。
「グレースってこういう実戦は初めてだっけ?」
緊張するグレースに、ランスロットが話しかける。
「は、はい! あれだけの大勢を前に戦うのは初めてで……!」
「OK、何かあったらフォローしてあげる。だから肩の力を抜いて」
「はい!!」
更に硬くなるグレースに、苦笑いするランスロットだった。
一方で、アグラヴェインとギャラヘッドは、昔話をする余裕があった。
「こうして肩を並べるのはいつ以来でしょうか?」
「お前がまだ青年の頃だから、10年は経つな」
アグラヴェインとギャラヘッドは、叔父と甥の関係なのだ。
その伝手で聖国へと渡り、ウェイガーとメイドリッドを騎士として向かい入れてもらえたのだ。
それまでに色々といざこざがあったのだが、それはまた別のお話。
ギャラヘッドは剣を握りながら、目の前の敵に視線を向ける。
「これだけいると骨が折れそうですね。ウェイガーとメイドリッドでも1000倒せれば良い方ですよ」
「その時は宝剣を使えばいい。『開放』ならば1万は余裕だろう」
「ウェイガーと私はいいですが、メイドリッドのは……」
「ああ、そうだったな。もしダメそうなら私が援護に回る。それでいいか?」
「お願いします」
2人は話を合わせて、更に速さを増し、大群へと突っ込んでいく。
その後を追うウェイガーとメイドリッドは、追いかけるのがやっとだった。
「速すぎだろあいつら!? 馬の5倍速いぞ!!」
「これが十二騎士の走法、『戦走り』か。早く身に付けないとな」
「だー!! しんどい!!」
文句を言うメイドリッドと、やる気に満ち溢れているウェイガー。
それぞれモチベーションは十分である。
しかし、パラメデスだけは乗り気ではなかった。
「死霊術とは言えさー、無抵抗の人間斬るのなーんかヤダよねー」
「しかし倒さなければ聖都が危険にさらされますよ?」
それを諭すのは、ベドウィルだ。
「気が乗らないのは分かりますが、果たすべきことは果たしましょう」
「でもさー……」
「その心配は三倍要らないだろう」
そう言って話の腰を折ったのは、トリストラムだった。
「……化けの皮が剝がれるぞ」
トリストラムが呟くと、100万の人間のような者たちが光り始め、光の線へと姿を変えていく。
光の線は形を作り始め、それぞれが魔法陣を形成する。
形成された魔法陣から穴が出現し、そこから更に無数の魔物が這い出して来た。
ゴブリン、ワーウルフ、オーガ、オーク、ゴーレム、ワイバーン、サイクロプス、メタリカモール、ギガントゴーレム等々、とにかく様々な種類のありとあらゆる魔物達が泡の様に湧いて来る。
その数は100万をゆうに追い越し、1000万は下らない数へと膨れ上がった。
魑魅魍魎の恐ろしい叫びが、十二騎士達に迫る。
だが、十二騎士達は至って平然としていた。
「なるほど、人はあくまでブラフだったか。手の込んだことをする」
アグラヴェインは感心しつつ、次の指示を全員に出す。
「全員初動から全力で挑め!! 後方に軍隊が防衛線を張っているとはいえ、この数ではすぐに押しつぶされる!! 一匹も通さないつもりで倒し続けろ!!!」
風魔法に乗せて十二騎士全員に通達する。
溢れかえる魔物の津波に、パラメデスはやる気を取り戻す。
「魔物なら容赦なく叩き潰せるっしょ!! 先行くね!!」
そう言って加速し、先行して剣を構える。
「いっくよー!! 宝剣開放!!」
その言葉に合わせて、剣が光り始め、その形を変えていく。
「断ち切る宝剣『シャスティフォル』!!!」
長剣は関節によって分かれる蛇腹剣へと変貌し、その長さも20mまで伸びていた。
鞭のように振り回し、自身が走るよりも速い速度で剣を振った。
空気を切り裂くと同時に、目の前にいた100はいた魔物の群れを一刀両断してみせた。
「まだまだ行くよー!!」
更に蛇腹剣を振り回し、後続の魔物達も八つ裂きにしていく。
流石に危険だと感じた魔物達は足を止め、左右に迂回しながら進軍を再開する。だが、
「そうはいきませんよ」
「僕らもいるんだなあこれが!!」
ベドウィルとイヴァンが迂回してくる魔物達にそれぞれ待ち構えていた。
ベドウィルは義手の右手で手刀を作り、徒手空拳の構えを取る。
「宝剣開放。打ち破る宝剣『モルデュール』」
静かに唱えると、右手が光り、先端から光の剣が伸びる。
「行きます」
目にも止まらぬ速さで魔物の群れに突入し、手刀の一振りで何十体もの魔物を切り伏せた。
それを数秒の間で何度も繰り返し、まるで光のヴェールを形成するかのように動き、華麗な動線を築きながら一網打尽にしていく。
イヴァンもまた、腰に吊っていた剣を構え、
「宝剣開放!! 小さき宝剣『カルンウェナン』!!」
剣を短剣に姿を変える。
同時に、地面からリチョウが飛び出してくる。
『やるんだな? イヴァン!』
「もちろんさリチョウ!!」
イヴァンはリチョウの上に乗り、短剣を押し寄せる魔物の群れに向ける。
「これが我が魔法!! 刮目して見よ!!」
短剣を天に振り上げ、その力を発現する。
「いざ行かん!! 【マウンテン・オブ・ムーン】!!!」
突如として地面から無数の針山が出現し、一瞬で数百の魔物達を串刺しにしてみせた。
それを後方から見ていたトリストラムは、超大型の魔物に目を付けていた。
「さあ、皆より三倍活躍してみせましょうか」
トリストラムも、剣を構え、
「宝剣開放、偉大なる宝剣『カーテナ・ヘルメス』」
その姿を細身で鋭い両刃剣へと変えてみせた。
「これより我が事象は全て三倍。そしてそれは常に乗算される」
剣を大きく振りかぶり、力を溜める。そして、一気に開放する。
「『三倍十乗斬撃』!!!」
ただの斬撃は59049倍の力を得て、遠距離にいたギガントゴーレムを一刀両断してみせた。
右翼、中央でも、同様に宝剣が解放された。
しかし、魔物の群れの中で一人、ほくそ笑む者が紛れていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『宝剣蹂躙』
お楽しみに
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