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Ep.89 カラーの真理


真理、そして過去



 オルカとモーフェンが話し合った翌日



 朝早くから漆黒の六枚翼(ネロ・セラフィム)、八天騎士、アーサー王、ガネヴィア、モーフェンの面々が、軍部の作戦会議室に集まっていた。


 大きなテーブルを囲み、その中心に地図を広げている。地図の上には現在の状況を示した駒が配置され、徐々に大群が押し寄せているのが分かる。


 アーサー王は将軍から報告を受けた後、作戦会議を始める。


「これより作戦会議を開始する。が、その前に、話しておかなければならないことがある」


 そう言うと、苦虫を嚙み潰したような顔になる。


 状況が呑み込めていないのは、漆黒の六枚翼の年長組を除いたオルカ達だった。


 アーサー王はガネヴィアの方に視線を向ける。ガネヴィアもまた、言いづらそうな表情をしていた。


「話す前に、お約束して頂きたいことがあります。これから話すことは、どうかくれぐれも口外しないようお願いします。表には出していない、いえ、出してはいけない情報ですので……」


 ガネヴィアの表情からして、相当重要な事だと理解したオルカ達は、


「分かりました……。絶対に口外致しません……」

「同じく。必ず秘密にします」

「お約束します」

「誓います!!」

「はい!!」


 絶対に口外しないことを約束した。


 それを聞いたガネヴィアは、小さく頷いて承諾する。


「ありがとうございます。ではお話ししましょう」



「カラーの過去について」



 ガネヴィアは重い口を開いて、カラーの過去を語る。



「カラー・ゼクロ・パラスペナ。彼女はこの聖国の出身で、孤児として生まれながら、文武共に非常に優秀な成績を修めて高等学校を卒業。その後は十二騎士となり、最年少で八天騎士となりました」

「私が塗り替えた次の年で引っ繰り返されたので、よく覚えています」


 ラシファがどこか懐かしそうに微笑んでいた。


 ガネヴィアは話を続ける。


「八天騎士になってから間もなく、彼女に新たな転機が訪れました。夫となる『プルソン・キュルソー・ガーティア・プルトン』との出会いです」

「……? その家名ってもしかして……」

「俺の一族の家名だ」


 ファンの疑問に、バルアルが答える。


「一族と言っても遠い親戚だ。殆ど面識はない。結婚式の時に呼ばれて初めて顔を合わせた位だ」

「そのプルソンは、聖国の政治官として席を置いておりました。カラーとは国主催のパーティーで出会い、そこから半年程度で結婚したのです」

「随分と早いですね……」

「……理由があったのですよ。それも最悪な」


 青の八天騎士が重い口調で話す。


「奴はカラーが八天騎士として稼いだ給料目当てで結婚したのです。そのお金は本命の女と遊ぶために使われました」

「それは酷いですね……」

「悪辣すぎます!!」


 セティとルーは思わず眉をひそめる。


 カラーの話は続く。


 ここでアーサー王がようやく口を開く。


「プルソンは、口が達者だった。カラーはそれに乗せられ、金も、その身も全て任せてしまったのだ」

「結婚から1年後、カラーはプルソンの子を妊娠したのです。……ここから先が気分の悪い話です。私も平気ではいられません」

「……代わりに私が話しましょうか?」


 そう言って紫の八天騎士が代役を申し出る。


 ガネヴィアはその提案に首を横に振る。


「いえ、大丈夫よ。ちゃんと説明させて」

「よい、我が説明しよう。無理をさせてすまなかったな」


 ガネヴィアの背中を摩りながら、アーサー王が説明を引き継ぐ。


「プルソンの子を身籠ったカラーは、それは大層喜んでおった。この我にもその喜びを伝えに来た時の事は今でも鮮明に思い出せる。そうだなラシファ?」

「はい。私もあの時のことはよく覚えています。孤児だった彼女にとって、唯一の血のつながった家族が出来たのですから」


 ラシファはどこか遠くを見る様な目で語った。


 アーサー王は説明を再開する。


「そんなカラーが臨月に入った頃、彼女は偶然にも目撃してしまったのだ」

「……浮気現場を、ですか……?」


 オルカの問いに、アーサー王は静かに頷く。


「カラーはプルソンに問い詰めたそうだ。しかしプルソンははぐらかし、嘘を貫き通そうとした。それで口論となり、カッとなったプルソンは、カラーを殴り飛ばしたのだ。その勢いでカラーは床に倒され、更に暴力を振られ……」

「…………流産したのです」


 アーサー王とガネヴィアは、苦しそうな表情で語った。


 それを聞いていたオルカ達もまた、気分の悪そうな表情になっていた。


 相手のあまりにも身勝手な行動の末、最悪な結末を迎えなくてはならなくなったカラーが不憫でならない。


 スカァフもまた、眉間にシワを寄せていた。


「浮気されまでは聞いていたが、まさかこんな裏があるとはのお。反吐が出る」


 ガネヴィアは当時の状況を語る。


「臨月まで大きくなっていたお腹が無くなって、流産してしまったと聞かされた彼女は、とても取り乱していました。そのショックで精神疾患を患い、人格が破綻してしまいました。天真爛漫だった性格は、とても残酷なものへと変貌したのです」

「そして、事件が起こったのだ。プルソン殺害を始め、教皇猊下へ襲撃をする恐ろしい事件だ」


 アーサー王とガネヴィアは俯き、その時の事を思い出す。


「精神病で入院していたカラーは、病院から脱走し、密会中だったプルソンと相手の女を惨殺。そこから行方をくらまして数ヶ月後、唐突に聖都の教会へ姿を現したのだ」

「多くの信者と兵士を殺戮し、教皇猊下がいらっしゃる奥の間まで迫ったところで、八天騎士と十二騎士の総力を結集して、カラーを捕らえることに成功しました。その代償として、八天騎士を二人、十二騎士を四人失いましたが……」

「なりふり構わずってのがあれほど恐ろしいとは思わなかったよ」


 バルアルは珍しく嫌な表情で思い出していた。


 それを見たオルカは、首を傾げた。


「あの、バルさんは当時の事をご存じで……?」

「知っているも何も、当時の八天騎士だったからな俺。色は黒だった」

「私も八天騎士でした。色は白です」


 バルアルとラシファの口からサラリととんでもない事実が飛び出した。


 オルカ、アージュナ、セティ、ルーが目を丸くして驚いていた。ファンだけは、


(あー、ギルドマスターがそうだから何となく予想出来てたけど、まさか本当だったとは……)


 あまり驚いていなかった。


 スカァフはむしろ、オルカ達が知らない事に驚いていた。


「何じゃ、聞かされてなかったのか。とっくの前に言っておると思っておったのだがのお」

「は、初耳です……」


 オルカと共に、アージュナ達も首を縦に振る。


 それを見ていたアーサー王は、


「ちょうど良い。ここからは直接対峙した二人から説明を受けた方がよかろう。頼めるか?」

「仰せのままに、アーサー王」


 ラシファは一礼して、説明を引き継ぐ。


「女王様が言っていた通り、あの時の激闘で、八天騎士2名、十二騎士4名が死亡。私とバルアルはカラー特製の呪いを受けて、八天騎士に必要とされている教皇猊下の恩恵を受けられなくなり、引退せざるをえなくなりました」

「それだけの被害を出したカラーはもちろん処刑されることになった。この事に関しては知っているな?」


 2人の問いに、アージュナが答える。


「ああ。前代未聞のテロとして各国に発表されたのは教えてもらった」

「では何故、カラーは教皇猊下を襲撃したのか。その事に関しては直接尋問したバルアルがよく覚えていますね?」


 ラシファの言葉に、バルアルは頷く。


「もちろんだ。だがカラーの理由は公表されることはなかった。何せあまりにも滅茶苦茶な発言だったからな」

「それは、一体……?」


 オルカの問いに、バルアルは答える。



「『ハデスの復活と、世界の転変』と言ったんだ」



「ハデスの、復活……!」


 バルアルの返答に、オルカは心底驚いていた。


 それを見ていたモーフェンが口を開く。


「そうだ、ハデスの復活こそがお前を狙う理由だ。貴女の代わりとして、だ」


 モーフェンがそう言うと、会議室の扉が静かに開く。


 そこにいたのは、光で乱反射する銀色の長い髪、全てを見透かす様な紫と青の瞳、雪よりも白い肌。そして、どんな祭服よりも神々しく、威厳があり、白と金、銀色の色合いでデザインされた祭服を着た少女だった。


 すなわち、教皇ヨアンナである。


「その通りだ。オルカよ、お主が狙われる理由は、余の代用品として、お主の魔力核に狙いを定めたからだ」






お読みいただきありがとうございました。


次回は『真理の先』

お楽しみに


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