Ep.83 恋人として Ⅴ
いつもと違う顔
聖都 城内
城の一室、作戦を立てるための会議室に、アーサー王、アグラヴェイン、青の八天騎士、ラシファ、バルアル、スカァフの6名が集まっていた。
四国が描かれた地図が広げられた大きなテーブルを囲み、作戦会議を行っている。
「カラーは各国で暗躍している。これは火を見るよりも明らかだ」
アーサー王はそう断言した。
「獣国と王国は漆黒の六枚翼の活躍で危機を免れたが、連邦は陥落した。その被害は災害に匹敵する」
今までの所業に怒りを感じてるのが、口調から分かる。
「その魔の手が、この聖国にも近付いている。我々はここでカラーを止める。我々にはその義務がある」
その言葉に、その場にいた全員の表情が曇る。
ラシファは重い口を開く。
「そうですね……。彼女があのようになったきっかけを作ったのは、我々聖国関係者ですから……」
罪の意識に苛まれ、苦しい表情になっていた。
「……その件なのじゃが、ワシはよく知らんのじゃ。聞いても良いか?」
ここまで勝手に付いて来ていたスカァフが口を開く。
スカァフは聖国でカラーが事件を起こしていたことは知っているが、詳細は知らない。何故なら、聖国の上層部がこの情報を秘匿したからだ。
そのため、国外の人間はもちろん、聖国の人間も、上層の人間が起こした事件の一つ程度の認識しかない。
アグラヴェインは眉をひそめながら、
「そうですね。この件に関わって頂く以上、隠す訳にはいきません。私からご説明しましょう……」
重い口を開いた。
「彼女がこの聖国の出身者なのはご存じですね?」
「それは知っておる。どんな立場にいたかまでは知らぬがな」
「……彼女の以前の地位は、八天騎士でした」
スカァフはそれを聞いて、一瞬耳を疑った。だが、納得もした。
「なるほど、それならあれだけ強いのも頷ける。そんな偉い立場の輩が犯罪なぞを?」
「それは―――」
アグラヴェインは、カラーが犯罪を起こした理由を話した。
理由を聞いたスカァフは、
「…………は?」
今までしたことの無いくらい、目を丸くしていた。
「いや、理由はそれぞれじゃろうが、それがどうして斬首刑になる程の大罪に繋がるんじゃ? 想像が出来んぞ」
「それを今から詳しくお話します。あれは……」
アグラヴェインが語ろうとしたその時、会議室の扉が勢いよく開け放たれた。
開けたのは、トリストラムだった。
「アーサー王。三倍緊急事態です。今すぐ軍部へ」
トリストラムの表情は険しく、平静を装っているが、焦っているのが分かる。
「どうしたトリストラム?」
「先程警備部隊から連絡があり、正体不明の集団が聖都へ向けて行進中。その数、推定100万」
会議室に緊張が走る。
それだけの大軍勢を率いられる国は、周辺にはどこにも無い。
「魔物では無いのか?」
「三倍確認しましたが、全員人間だそうです」
トリストラムは『三倍』という口癖以外、至って真面目で、冗談など言わない性格だ。軍部もトリストラムに伝えるならば、正確な情報を渡すだろうし、何度も確認したのなら、間違いないだろう。
「……分かった。軍部へ向かう。皆の者も付いて来なさい」
アーサー王を先頭に、その場にいた全員で軍部に向かった。
◆◆◆
一方で、オルカとアージュナは、足湯から出た後、食べ歩きを楽しんでいた。
聖都には屋台区画があり、そこでは食べ歩きに適した屋台が数多く出店している。
足湯広場から1時間程歩いたが、オルカがどうしても来たいということで、足を運んだのだ。
オルカは買ったばかりの焼き菓子を頬張っていた。
「おいひいですね……」
嬉しそうなオルカを見て、釣られて微笑むアージュナだったが、内心違和感を覚えていた。
(普段のオルカなら、魔術関連の物を見に行くとはすだが……。今日はそんな気分じゃないのか……?)
いつもなら魔術関連の物を見に行くのに、今日に限っていつもとは違う所ばかり行っている。
その事を疑問に思ったが、まともにデートするのは今回が初めて。何も知らないのに違和感を覚えるのも、変な話だ。
アージュナはそんなことを考えていたが、
「見て下さいアージュナさん……! あっちにも美味しそうな物が……!」
オルカは目を輝かせて次の屋台へと向かう。
「ああ、行ってみようか」
アージュナもオルカと手を繋ぎながら、一緒に向かった。
(考え過ぎだな。そんな事より、今はオルカとのデートを楽しまないと)
邪推するのを止め、オルカとのデートに専念する。
数件屋台の物を食べ歩きし、色々と回った頃には、日が暮れ始めていた。
「そろそろ夕方か……」
「じゃあ、あの店に行きませんか……?」
そう言って指を差した場所は、酒を提供している飲食店だ。
「晩御飯として、どうですか……?」
オルカの提案に、アージュナは、
「いいんじゃないか。食べて帰ろう」
笑顔で快諾した。
そうして二人は、店へと入って行った。
その裏で、パラメデス、ランスロット達が奮闘していたのだが、それはまた別のお話。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『恋人として 一線を』
お楽しみに
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