Ep.81 恋人として Ⅲ
カフェで一休み
カフェに入ったオルカとアージュナ
カフェはレンガ造りの内装で、それなりの客数が入っていた。
2人は注文した飲み物と菓子を食しながら、談笑していた。
互いに不快にならない内容の昔話をする。
「で、またファンと俺で忘れ物を取りに行く羽目になったって訳」
「何ですかそれ……」
クスクスと笑いあい、和気あいあいとした時間が流れる。
その近くで、パラメデスとランスロットが悪目立ちしないよう、ティータイムを楽しみながら、様子を窺っていた。
「……まだ、だね」
「そうね」
何かを待つように、静かに見届ける。
そんな二人の存在に気付かぬまま、オルカ達は、
「そろそろ次の場所に行きますか……?」
「そうだな」
移動するために席を立ちあがる。
「会計は俺が済ませておく。オルカは先に外で待っててくれ」
「分かりました……」
アージュナの好意を素直に受け取り、カフェの外へ向かう。
アージュナは会計に向かい、支払いを行う。
(しかし、アレは何だったんだ……?)
会計をしながら思い出したのは、さっきオルカが突然停止したことだ。
(あんな止まり方、今まで見たこと無い。オルカ自身も自覚が無さそうだし……)
もしアレが戦闘中、緊急事態にでも起きれば、最悪の事態になる可能性は十分ある。
そうならないためにも、何か対策が必要だろう。
(一度、ラシファさんに相談するか……)
◆◆◆
一方オルカは、カフェの外でアージュナを待っていた。
空を見上げたりして、暇をつぶしている。
(アージュナさん、まだかな……)
一瞬、カフェの中を見ようとした時だった。
通りすがりの男が片腕だけ鞭のように動かし、オルカの首に向かって放つ。
数秒前まで、ただの通行人だった男性からは考えられない速さで、片腕を放ったのだ。
その手には、ナイフが握られている。
このまま行けば、周囲も、本人も気付くことなく、オルカの首、頸動脈を切断される。
しかし、切断されることはなかった。
何故なら、ランスロットが男のナイフと腕を掴んで、阻止したからだ。
男が驚く前に、ランスロットが動く。
男の顎に拳を一発叩き込み、脳震盪を起こし、思考を奪う。
叩き込んだ拳でそのまま胸倉を掴み、一瞬でカフェとは反対方向の建物を飛び越える跳躍をしてみせた。
この間、僅か0.3秒。
オルカが再び視線を戻した時には、もういなくなっていた。
オルカからしてみれば、少し強い風が過ぎた程度にしか感じられないだろう。
「…………?」
ほんの少し疑問に思うが、
「オルカ、お待たせ」
会計を済ませたアージュナの顔を見たら、忘れてしまった。
「お会計していただき、ありがとうございます……。……やっぱり自分の分は自分で……」
「いいよ。俺に出させてくれ」
「でも……」
「いいからいいから! さ、次に行こう!」
問答をする前に、アージュナに手を引かれて、次のデートスポットへと連れて行かれるオルカだった。
◆◆◆
聖都の路地裏
ランスロットは、捕まえた男を魔力の鎖で拘束を完了していた。
「オッス! お疲れ!」
そこへ、パラメデスが現れる。
「会計はやっといたよ」
「ありがとう。あちらの方は?」
「使い魔で監視中」
「そうか」
手短にやり取りしながら、パラメデスは拘束された男の顔を覗く。
「で。どこの誰?」
「分からない。聞き出そうとしたら舌を噛んで自決した」
「じゃあ何で拘束してんの? 意味ないじゃん」
「……【死霊魔術】が仕込まれている」
ランスロットの言葉に、パラメデスはすぐに剣を抜く。
「……ここでばらす?」
「【聖魔法】で対処済みだ。動く可能性は低い」
「そ。ならいいや」
パラメデスは剣を戻す。
「誰がやったまでは?」
「似た様な魔力痕なら覚えが」
「誰?」
ランスロットは眉間にシワを寄せ、
「……カラー」
苦虫を嚙み潰したような表情で答える。
いつも笑顔のパラメデスも、その名を聞いて表情が曇る。
「うーわ、マジか。怠いなあ……」
「察しは付いていたでしょ?」
「あーね。でも外れててほしかった……」
ランスロットは魔力の水で鳥を作り、空へと飛ばす。
「騎士団に連絡を入れたわ。あの二人の追跡に戻るわよ」
「声かけないのは囮にするため?」
「不本意だけどね」
男を置き去りにし、路地裏から駆け出した。
聖都は既に、安全ではない。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『恋人として Ⅳ』
お楽しみに
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