Ep.80 恋人として Ⅱ
美術館デートにて
オルカとアージュナがデート中
ウェイガーとメイドリッド、そしてギャラヘッドの3人が、倉庫整理の仕事に追われていた。
魔術的に貴重な宝石、武器があるため、知識のある騎士でないと触れる事すらできないのだ。
そのため、割り当てられた騎士達だけでやるしかない。
ウェイガーは不満げな表情で、
「今日の担当のパラメデスはどこへ行ったんだ……」
忌々しそうに呟いていた。
「そう言うな。パラメデスが他の仕事を片付けてくれたのだから、これだけで済んでいるんだ。むしろ感謝しないとな」
「それはそうだが……」
「これが一番時間かかるだろ!!」
少し離れた所で武器を整理していたメイドリッドが叫ぶ。
「下手しなくても一日かかる量だろこれ! パラメデスの野郎、わざとこれだけ押し付けたな!!」
「だからでは?」
一日かかりそうだから他の仕事を代わりに片付けてくれたのでは、と思うギャラヘッド。
「あ、ギャラヘッド様。少々よろしいでしょうか?」
そこへ、兵士が入って来る。
「どうした?」
「追加で倉庫に入れる物をお持ちしました。先日、パラメデス様が今日運び込むようにと言われまして……」
「前言撤回」
パラメデスが笑顔の裏で、何を企んでいるか分からなくなったギャラヘッドだった。
◆◆◆
「えっくし!?」
同時刻、パラメデスは美術館の一角で、くしゃみをしてしまった。
「何? 風邪?」
「私の噂をしているピーポーがいるのかも」
「まさか」
気を取り直して、視線の先にいるオルカとアージュナを監視するのだった。
オルカとアージュナは、一枚一枚、絵画を見て歩いていた。
どれも美しく、精巧に描かれたものばかりで、圧倒されるばかりだ。
2人は並んで歩きながら、絵画の内容を語り合う。
「これはエルフ族の収穫祭だな。打楽器の演奏で自然に感謝している様子がよく描けている」
「火は起こさず、月明かりだけで演奏し続けている光景は、とても忠実に描けていますね……」
互いに持っている知識で語り合い、より深く絵画を楽しんでいた。
しばらく進んでいくと、巨大な絵画が並ぶ場所へ辿り着く。
高さ9m、幅4mにもおよぶ絵画が、数枚展示されており、どれも圧倒的なスケールで描かれている。
神話の一場面、歴史的出来事の一コマ、重要性の高いものが題材になっている。
その中の一つ、『魔神討伐』の絵で、オルカの足が止まる。
「この絵……、史実通りに描かれてますね……」
その絵には、あらゆる種族が力を合わせ立ち向かい、先頭に立つ4人の戦士が秘宝を掲げ、災厄の魔物を封印する様子が描かれていた。
一枚の絵にストーリー仕立てで描かれており、巨大な魔物に向かって大勢が武器を持って突き進んでいる。難しい構図だが、分かり易く組み立てられていた。
オルカが見上げていると、アージュナもその絵を見る。
「キヌテの魔神討伐か。これが実際に起きたっていうのが信じられないな」
「そうですね……。魔物の体長が100mもあったとか、秘宝がどこかに隠されてしまっているとか、あやふやになってしまっている部分が多いですから……」
互いに知識を共有しながら、絵をじっくり見ていく。
「……ん?」
その時、アージュナが何かに気付く。
「どうしましたか……?」
「いや、あの宝石、前にどこかで……」
視線の先には、赤い球体の宝石が描かれている。
アージュナは過去の記憶を辿り、該当する物を探るが、
「…………駄目だ。あり過ぎて絞り切れない」
国の宝物庫、商人から見せてもらった宝石、ジュエリーショップ等、色々な所で宝石を見たことがあるので、今この場では絞り切れなかった。
「ごめんオルカ。思い出せなかった」
「いいですよ……。思い出せた時に話して頂ければ……」
「……ありがとう」
互いに顔を顔を見て笑顔を見せあい、次の絵に進む。
その様子を、パラメデス達が影からこっそり見守る。
「いやあ、ブラックコーヒーが砂糖水になりそう……」
「(二人の展開に)速さが足りない」
感想と愚痴をこぼしながら、追跡を続ける。
◆◆◆
日が天辺を超え、少し傾いた頃。
2人は美術館を出て、次のデートスポットへ向かう。
「オルカはどこへ行きたい?」
アージュナがオルカに尋ねる。
「そうですね。じゃあ……」
次の目的地を言おうとした時だった。
オルカの全ての動きが止まった。
まるで人形の様に固まり、ピクリとも動かなくなる。
「オルカ?」
不自然な止まり方をしたオルカを見たアージュナは、思わず声をかける。
肩に触れようとした瞬間、
「カフェにしませんか……? 一度休憩を挟んでからがいいと思うのですが……」
突然動き出し、何事もなかったかのように喋り出す。
アージュナは、目の前で起きた出来事に戸惑っていると、
「……どうかしましたか……?」
オルカが小首を傾げてくる。
我に返ったアージュナは、
「いや、何でもない。じゃあ行こうか」
平静を装い、オルカの手を握って、一緒に歩き出す。
後方から見ていたパラメデスとランスロットは、
「……今のってさ」
「ええ、間違いない」
互いに目を合わせ、ゆっくりと立ち上がる。
「ちょっち事情が変わっちゃったねー」
「仕方ないわよ。……気を引き締めて行きましょう」
「りょ!」
真剣な表情で、尾行を続ける。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『恋人として Ⅲ』
お楽しみに
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