Ep.78 幕間:影の中で
暗躍と思惑
漆黒の六枚翼一行が聖都に到着する3日前
ハナバキー 行政エリア 防衛省 大臣室
エーデンファは暗い部屋で一人、報告書を読んでいた。
内容は『テルイア崩落に関する報告書』だ。
無言で一枚一枚めくり、読み進める。
「………………」
被害状況を始め、今後の経済や外交への影響についても記されていた。
一通り読み終えた後、報告書を机に置き、眉間をつまんだ。
「これだけの被害が必要だったのかね……?」
「ええ、必要な被害よ」
一人だけだった部屋に、もう一つの声が響く。
「むしろ足りない位なのだけれど、想定内として諦めるわ」
その声の主に向かって、エーデンファは睨む。
「これだけの犠牲を出して、失敗は許さんぞ」
「カラー」
エーデンファの前にいたのは、カラーだった。
カラーは笑みを浮かべながら、
「失敗なんてしませんよ。準備を怠らなければ、ですが」
エーデンファに答える。
エーデンファは忌々しそうにカラーを睨み続ける。
(どうして総理はこんな女の計画に乗ったのだ。理解に苦しむ……)
キヌテ・ハーア連邦は、既にカラーの手によって陥落していた。
具体的には、政府全体がカラーの手に落ちたのだ。
ラシファ達がゴルニア王国に出ている間に、カラーは言葉巧みに政府の上層部を懐柔し、手中に収めた。
エーデンファを含めた一部を除いては、全員がカラーに従っている状態にある。
そんな得体の知れない人物に、エーデンファは警戒を解かない。
「あら、何だか納得できていない様子ね」
「当然だ。国家転覆を平然とやってのける輩なぞ、どこに信用できる要素がある?」
「ふふふ、ごもっともね」
カラーは微笑みを崩さないまま、エーデンファに近付く。
「では次の計画に移行しましょう。それにはアナタの承認が必要なのだけれど、いいかしら?」
「……内容によるな」
「それもそうね。内容は―――」
カラーの口から語られる計画の内容に、エーデンファは驚愕する。
「そんな馬鹿な計画が呑めるか!!!」
机を思いっ切り叩き、椅子から勢いよく立ち上がる。
カラーはクスクスと笑いながら、
「何を今更。ゴルニア王国の件は了承したのに」
以前の行いを引き合いに出す。
「あれは王国だったからよかったのだ!! あのバカ王子が王位に就けば、連邦の良い様に操作できるメリットがあった。だが、今回は訳が違う!!」
「大して変わらないと思うわよ?」
「大いに違う!!」
平然としているカラーとは反対に、エーデンファは息を荒くして、激しく反論する。
怒りに満ちた表情で、顔を真っ赤にして憤慨する。
「とにかく!! 今回は了承できない! 諦めろ!!」
否が応でも反対する意思を見せるエーデンファに、カラーの表情から、徐々に笑みが消えていく。
「どうしても、駄目かしら?」
「断固反対だ!」
意地でも意思は変わらないという姿勢に、カラーの表情が、完全に冷たくなった。
「そう、ならいいわ」
カラーがそう言ったので、エーデンファは諦めたと思った。
次の瞬間、エーデンファの胸に、一本の剣が貫通する。
「が」
反応する間もなく、心臓を一突きされ、刺された箇所から、大量の血が溢れる。
「お、おまえ……!?」
「貴方のような人、好きじゃないわ」
カラーの軽蔑な視線に見送られながら、エーデンファは意識を失い、椅子にもたれかかるようにして、命を落とした。
グッタリと動かなくなったエーデンファを置いて、カラーは大臣室を後にした。
「いらない防衛大臣を処分したから、新しい防衛大臣を置いてもらわなくちゃ」
楽しそうにスキップをしながら、廊下を進むさまは、美しくも、残酷な姿だった。
◆◆◆
そして現在
オルカ達が晩餐会に参加している最中
ヨアンナは月明かりの下、湯あみをしていた。
一人で入るにはあまりにも広すぎる露天浴場で、あられもない姿で湯船につかっている。
「……もうすぐ決着の時が近い」
誰もいない大浴場で、ポツリと呟く。
「20年か……。……長かった。だが、こちらの準備も抜かりはないぞ」
ゆっくりと顔を上げ、
「来るなら来い。余は逃げも隠れもせぬぞ」
月に手を伸ばし、不敵な笑みを浮かべながら、決戦の時を待つ。
最後の戦いは、目の前に。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『恋人として Ⅰ』
お楽しみに
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