Ep.76 20の騎士の晩餐会 Ⅲ
一触即発の距離
オルカが女性の騎士達に囲まれている頃、バルアルは十二騎士の二人と共にいた。
「こうして会うのは何年ぶりだ?」
バルアルがグラスを揺らしながら、十二騎士『パルジファル』と『ベドウィル』に話しかける。
パルジファルはバルアルよりも背が高く、日焼けした肌とオレンジ色のオールバックヘアーが特徴的な男性だ。大きな胸板がドレスコードのスーツによく似あっている。
ベドウィルは片腕が魔導義手の騎士で、バルアルと同じ位長身の男性である。淡い黄色のロングヘアに童顔で、中性的な容姿をしている。
パルジファルは髪をかき上げながら、
「かれこれ十数年じゃないか? 正確には覚えてないが」
大体の年数を答える。
「18年です。随分と経ちましたよ」
正確に答えたのは、ベドウィルだった。
「数字にすると、結構経ちましたね」
「ベドウィルは変わらなさ過ぎなんだよ」
バルアルが苦笑いする。
このパルジファルとベドウィル、見た目20代と10代なのだが、十二騎士の中でも古参にあたる存在なのだ。
年齢を始めて聞いた者からはもちろん驚かれるし、年齢詐称まで疑われたことがある。
そんな2人とバルアルは、古い友人に当たるのだ。
「あの事件から大分経ちましたが、まだ体の方は……」
「ああ、呪いは続いてる」
バルアルは一言そう言うと、グラスに入った酒を飲む。
「色々試したが駄目だった。こうもしぶといのが、まだ生きていたからと分かると、納得いった」
「魔術協会にも相談したのだろう?」
「した。が、無視された。興味が無いそうだ」
「何と身勝手な……」
眉間にシワを寄せるパルジファルだったが、バルアルはあまり気にしていない様子だった。
「そう言うな。魔術師の大半はそういうものらしい。診てもらえたところで何をされるか分かったものじゃない。それこそ人体実験とか」
「それもそれで恐ろしいですね……」
ベドウィルは苦虫を嚙み潰したような表情になる。
義手にした経験のあるベドウィルだからこそのこの表情なのだ。
バルアルはフッと笑い、
「まあ、その認識が改まったのは、つい最近なのだがね」
小さく呟いた。
そんな他愛もない話をしていると、バルアルの視線の先で、アージュナがウェイガーと睨み合いを始めるのが見えた。
(おいおい、どういう状況だ。あれは?)
心の中でそう思うバルアルは、事を大きくするのを極力避けるため、割って入るのは、本当に危なくなってからにすることにした。
今は静観するのみと判断し、パルジファルとベドウィルと会話をしながら視線だけ送る。
◆◆◆
時は少し遡り、晩餐会が始まって十数分経った頃
アージュナはセティ、ファンと共に、アーサー王の下へ挨拶に行こうとしていた。
だが、
「まだギルドマスターと会話中か……」
アーサー王、ガネヴィア、八天騎士はラシファと会話をしている最中だった。
目上の人同士の会話中に行っても、失礼に当たる可能性がある。それは王族の教育として叩き込まれたアージュナだからこそ知っている空気感を読んで、今は行くべきではないと判断した。
なので、ラシファとの会話が終わるまで他の騎士と交流することにした。
アージュナを先頭に会場を歩いていると、
「おう、暇してそうだな」
スーツに着替えたメイドリッドが3人に話しかける。
「相手がいないならこっちで話そうぜ。てか来い」
「む、無理矢理だな……」
強引なメイドリッドについていくかどうか迷ったアージュナは、後ろにいるセティとファンの方を見る。
視線を受け取った2人は、
「断る理由もありませんので、付いて行くしか……」
「すね」
付いていくことを提案する。
アージュナも断る理由も無かったので、付いて行かざる得ないだろうとは思っていたので、
「分かった。行くよ」
メイドリッドの提案を受ける。
メイドリッドはニッと笑いながら、3人を他の騎士の下に連れて行く。
「おーい兄貴、ギャラヘッド、ヴェインのおっさん! 連れて来たぞ!」
そこにいたのは、ウェイガー、ギャラヘッドに加え、白髪交じりの髪をした渋い男性がいた。
全員スーツを着ており、よく似合っている。
ウェイガーはグラスを片手に、
「ようこそ漆黒の六枚翼の方々、我らアーサー王と聖騎士たちの晩餐会へ」
代表として丁寧に挨拶する。
「こちらこそ、お招きしていただき感謝いたします」
アージュナも頭を下げ、挨拶する。
セティとファンも、続いて頭を下げる。
「今夜は王も言っていた通り無礼講。存分に楽しんで行ってください」
「ありがとうございます」
形式的な挨拶を終えると、ウェイガーの雰囲気が、畏まった硬いものから、少しだけ柔らかくなり、
「……挨拶も済みましたし、お互い硬くならずにいきましょう。そのままだと、折角の晩餐会を楽しめません」
更に徐々に変化し、
「そんな直後で申し訳ないが、単刀直入に聞きたい」
棘のあるものへと変わる。
「オルカとは、どういった関係で?」
アージュナに対し質問し、目の奥で睨む。
それはウェイガーだけではなく、メイドリッドも同じだった。
「俺も気になってたんだよなー。オルカ姉ちゃんを誰よりも気にかけてた。ただの冒険者仲間って訳じゃないよな?」
メイドリッドはアージュナに近付き、尋問のように聞く。
「止めないか二人共。客人に失礼だろう」
ギャラヘッドがウェイガーの後ろから止めに入る。
「すまないギャラヘッド、これだけはどうしてもハッキリさせておきたいんだ」
ウェイガーの目は本気だった。それは長年一緒に冒険者をしてきたギャラヘッドだから分かる。
かなりギリギリな所だが、手を上げようとしている訳では無いので、とりあえず見届けることにした。
「どうなんです?」
睨んでくるウェイガーとメイドリッドに、アージュナは臆していなかった。
しっかりと顔を上げ、視線を向ける。
「恋人だ。相思相愛の」
ハッキリと恋人だと告げた。
それを聞いたウェイガーの表情が一気に険しくなる。
怒りに近い、激しい感情が溢れ出しているのが、誰の目から見ても分かるほどの表情で、アージュナを睨む。
アージュナも負けじと睨みつけ、ウェイガーとの睨み合いへと発展する。
◆◆◆
そして今、アージュナとウェイガーの睨み合いへと到達する。
慌てるファン、冷静ではあるが焦りを隠せないセティとギャラヘッド、ウェイガーに加勢するメイドリッド。
いつ争いに発展してもおかしくない状況に、
「そこまでにしておきなさい」
渋い男性が割って入る。
「『アグラヴェイン』殿」
「ウェイガー君とアージュナ様にどんな因縁が生まれたかは存じないが、この場で争うのはよしておいた方が良い。ここにいるのは十二騎士だけではなく、王と八天騎士がいるのだから」
それを聞いたウェイガーとメイドリッドの動きが止まる。
「それは……」
「ここは穏便に行こうじゃないか。後で話し合う場所を設けるなりして、ゆっくりと解決する。それでどうだろう?」
アグラヴェインと呼ばれた男の提案に、誰も反論できなかった。
言っている事は正しいし、問題を起こせばどうなるかも分かる。
だがそれ以上に、アグラヴェインから出る殺気が、周囲を納得させていた。
アージュナ、ウェイガーを始め、近くにいた全員が頷いた。
「分かって頂けて何より。ここからは仕切り直しだ。じっくり楽しもう」
アグラヴェインは優しく微笑み、酒のお代わりにその場から離れた。
アージュナとウェイガーは、一瞬だけ互いをまた睨み、距離を離したのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『雪月の下で』
お楽しみに
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