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Ep.73 男達の決意


それぞれの思う事



 父親の訃報を聞かされたファンは、驚いていた。


 

 オルカの病室に入れない以上、固まって待っていても効率が悪いので、ラシファだけが残るという話になり、各自街を散策することになった。


 ファンはその途中、路上にある新聞屋の横を通り過ぎようとした時、その一面が目に入った。


 慌てて新聞を買い、記事の内容に目を通す。


『昨日未明、ハナバキー 行政エリアで男性が、魔法による攻撃で死亡しているのが見つかった。男性は連邦政府防衛大臣エーデンファ・ポアトゥン・スブランカであることが分かった。連邦警察は、殺人事件として犯人の行方を追っている。

 エーデンファ防衛大臣は―――』


 その冒頭から始まり、本人の経歴、前日までの動向等が書かれていた。


 一通り目を通したファンは、新聞から目を離し、空を見上げた。


(そうか、親父は死んだのか……)


 ファンと父親の仲は良いものでは無かった。



 普段から仕事と接待で家に帰って来る事はなく、病気がちな母を看病するのがファンの日常だった。この日常が、6歳から始まった。


 学校の行事には参加することはできず、誕生日も祝われることはなく、母の看病のためだけに日々を費やした。


 12歳の時、母が重い病気にかかり、そのまま亡くなった。


 父のエーデンファは、最低限の手続きと葬儀を終えた後、また仕事と接待に戻ってしまった。


 その上、自身の妻の死を利用して選挙の票稼ぎまでする始末だ。


 それに怒ったファンはエーデンファに直談判したが、政治家として働いていくためには必要なこと等と言い張り、聞く耳を持たなかった。


 同時に、今までの不満をぶちまけたが、息子として当然の責務、死んだのはお前の努力不足だと言い、責任転嫁してきた。


 口論の末、どうして母と結婚したのかと聞いた。


 母は顔が良く聡明だったから、傍に置いておくだけで自分の評価が上がる。それだけのために貰ってやったと言った。


 その言葉に激高したファンは、エーデンファを殴り飛ばした後、家との縁を切って独り立ちした。


 それ以来、エーデンファとは会っていない。



 故に、エーデンファの訃報を聞いても何の感情も湧かなかった。


 むしろわだかまりが無くなって、少し安堵しているくらいだ。


「…………今の俺の顔、皆には見せられないな……」


 ファンは噴水のある広場のベンチに座り、新聞で顔を隠した。


 しばらく隠した後、新聞から顔を出し、空を見上げた。


(……連邦に戻ったら色々聞かれたり言われたりするだろうけど、俺には関係無い。今は目の前の事に集中しないと)


 この国に呼び出された理由、そしてオルカの容態。


 まだ先の見えない問題が待ち構えている現状、縁を切った父親の死を気にしていられない。


 気持ちを切り替えて、前へと進む。



 ◆◆◆



 ウェイガーは病院の屋上で、一人項垂れていた。


「振られてしまった……」


 オルカに思い切ってプロポーズしたのだが、断られてしまったのだ。


 『ごめんなさい』の一言で玉砕された。


「一体何がいけなかったのだろうか……」


 思い悩んでいると、ギャラヘッドが近付いてきた。


「聞いていたぞ。何故あそこでプロポーズなんかしたんだ」


 呆れた表情でウェイガーに問う。


「……ダメなのか?」


 真顔で驚きながら、ゆっくりとギャラヘッドの方を向く。


「シチュエーションも何も無い状況で、成功する方がおかしいくらいだ」

「そ、そうなのか……」


 ギャラヘッドは大きなため息をついて、


「どうしてお前はこういう時だけ考えが足りないんだ……」


 呆れながらそう言った。


 ウェイガーは基本的に優秀なのだが、オルカの事となると、先走ったり浅慮だったりと駄目になってしまう。


 黄金の暁にいた時もそうなのだが、オルカの前だと緊張して無口になり、いざ話しかけるととんちんかんな事を口走り、オルカを困らせていた。


 今回も手順を飛ばしてプロポーズをしてしまう大失態だ。


 それを傍で散々見て来たギャラヘッドは、呆れることしかできなかった。


 もちろんその原因は分かっている。


「オルカが好き過ぎてそうなっているのは分かるが、いい加減どうにかできないのか?」


 ウェイガーはオルカが好きなのだ。


 傷付いたメイドリッドの心を癒してくれたり、家庭的で一分野において聡明だったり、何より時々見せた笑顔がとても魅力的だった。


 そんなところに惚れたウェイガーだったが、オルカを前にすると緊張し過ぎて、告白することができなかった。


 その時の環境は変わらないだろうという慢心があったのも一因だった。


 告白できないまま現在まで時間が経ち、いつまでも変わらないなんて事は無いと焦りが生まれ

、ウェイガーはついプロポーズをしてしまった訳だ。


「痛い男ですね、自分」

「自覚があるなら少しは事前に準備しろ」

「メモなら取っています。ですが、オルカを前にすると内容が全て無くなってしまって……」

「……進歩はしているが半歩も行っていないようだな」


 ギャラヘッドに小言を言われるウェイガーだったが、気を取り直して立ち上がる。


「今回は失敗しましたが、次は成功させます。なので、入念な準備をしないと」

「わりいが兄貴。そうはさせねえぞ」


 そう言って割り込んできたのは、メイドリッドだ。


「メイドリッド?! どうしてここに?」

「兄貴とギャラヘッドが屋上に向かったっのが見えてな。それよりプロポーズしたってのは本当か?」

「ま、まあそうだが。玉砕でな」

「なら少しの間引いてもらおうか」


 メイドリッドはウェイガーに詰め寄る。


「俺もオルカ姉ちゃんが好きだ。だから俺も告白する」

「っ!?」


 メイドリッドの突然の宣言に、ウェイガーの表情が引きつる。


「……本気なのか?」

「本気さ。最初は姉の様に思ってたが、大人になって好きだって分かった。この気持ちを譲る気はない」

「…………」


 2人の間に重い沈黙が流れる。


 そして、ウェイガーが溜息を一つつき、


「……分かった。そこまで言うなら止めない。もしメイドリッドが告白に成功したら、私はそれを受け入れよう」

「言ったな!? 恨みっこなしだぜ、兄貴!」

「ああ」


 2人は拳と拳を合わせ、約束を交わす。


 それを傍から見ていたギャラヘッドは、


(オルカの都合を無視しているのは、どうかと思うがな)


 そんなことを思ったが、今は黙っておくことにした。



 ◆◆◆



 アージュナは、バルアル、スカァフと共に、街を一望できる喫茶店に来ていた。


 3人はテラス席で、静かに茶を飲んでいた。


「ここのグリーンティーは気分を落ち着かせる効果がある。少しは気も楽になっただろう?」


 バルアルがアージュナに問うと、


「ああ、何とか落ち着いたよ」


 胸をなでおろして答えた。


 アージュナはさっきまでオルカの事を心配し過ぎて、ウロウロしたり、ふさぎ込んだりと落ち着かない状態だった。


 それを見かねたバルアルとスカァフは、喫茶店に無理矢理連れ込み落ち着かせた。


 バルアルは茶を飲みながら、


「オルカ君のことは心配しなくてもいい。王都の医者の腕は確かだ」


 アージュナの不安を和らげようとする。


「そうかもしれないが……」


 ここまで心配するのは、アージュナの母のこと、オルカが一度無理をして倒れたことを思い出したからだ。


 あまりにも大きすぎる負担は、その命を平気で奪う。その事を誰よりも知っている。こびりついたその記憶が、今でもアージュナの心を不安にさせるのだ。


 オルカの事が心配なアージュナに、スカァフが溜息をつく。


「そんなにオルカが信用できぬか?」

「そうじゃなくて、ただただ心配なんだよ。あの魔女の事で精神的に不安定になってるんじゃないかと思うと、恐ろしくて……」

「それが信用できていないと言っている。オルカは弱くない。仮に不安定になっていたとしても、全力で支えてみせるという気概を見せぬか、青二才」

「っ」

「好いた相手なら、尚更であろう。しっかりせんか」


 スカァフに喝を入れられ、弱気になっていたアージュナの心が上向きになる。


「……そう、だよな。俺がこんなんじゃ、戻って来るオルカに負担をかけるだけだ」


 頬をパシン! と叩き、気持ちを入れ直す。


「ありがとう二人共、もう大丈夫だ」


 そのようすを見たバルアルは微笑み、


「そうか。ならラシファの作戦が上手く行ったということでいいな」

「そうじゃな」

「? それはどういう意味だ?」

「あのままジッとしていても、気分が晴れないだろうというラシファの気遣いだ。現に、お前の心はいい方向に向いただろう?」

「た、確かに」

「あとでこっそりお礼を言っておくんじゃな」


 バルアルとスカァフは一気に茶を飲み干した。


「一度、病院に戻るぞ。オルカも回復したかもしれないしな」

「はい!!」


 アージュナ達は席を立ち、病院へ戻る。


(そうだ。俺はオルカの恋人になったんだ。なら、全力で支えないと……!)


 心の中で、そう決意するアージュナだった。




お読みいただきありがとうございました。


次回は『20の騎士の晩餐会Ⅰ』

お楽しみに


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