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Ep.72 運命が縺れる時


運命で、突然足を取られるのだ



 モーフェンを前に失神寸前のオルカは、顔面蒼白でふらついていた。

 


 オルカの精神は、過去に受けた苦痛を思い出し、今にも発狂しそうだった。


 モーフェンはそんなオルカに平然と近付いていく。


 そんなモーフェンの前に、ウェイガーとアージュナが立ちはだかる。二人はモーフェンを睨みつける。


「申し訳ありませんが、オルカの様子が優れません。お引き取りを」

「こんな事を初対面の人間に言いたくないが、早急にここから立ち去ってくれ。嫌なら力づくで排除する」


 ウェイガーとアージュナは、モーフェンとオルカの師弟関係である事を知った時点で、モーフェンを敵と認識していた。


 オルカの背中の傷。その原因がモーフェンであることは、ある程度の情報を知っていれば予想がつく。2人にはその結論に至るだけの情報を持っている。


 故に、こうしてモーフェンの前に立ちはだかっているのだ。


 モーフェンは表情を一切変えることなく立ち止まる。


「……聖騎士ウェイガーと獣国の王子か。何故邪魔をする」


 抑揚のない、冷たい声で尋ねる。


「オルカのため、でしょうか」

「俺も同じ理由だ」


 3人の間に、緊張感が張り詰める。


 まるで互いの首にナイフを突きつけているかの様な、一歩間違えれば死人が出てもおかしくない殺気にも似た空気が周囲一帯を支配する。


 ドス黒く、押しつぶされそうな気迫のぶつかり合いが起こっている。


 その様子をファン、セティ、ルー、メイドリッドが息を呑んで見守る。バルアル達も一触即発の状況に、警戒せざるを得ない。


「はあ、はあ、はあ…………」


 3人の睨み合いが始まって十数秒、オルカがモーフェンに耐え切れず、とうとう気を失ってしまった。


 フッと、力無く倒れるオルカを、アージュナは素早く受け止めた。


「オルカ!?」


 アージュナはすぐさまオルカに声を掛ける。


「う、うう…………」


 オルカは完全に血の気が引いており、肌は真っ白になっていた。呼吸も浅く、すぐに処置が必要な状況だった。


 アージュナは医療の面では素人だが、オルカが危ない事くらい分かる。


「聖騎士!! 医務室は!?」


 一足遅れたウェイガーは、


「城内で王族以外使える医療施設は無い! 一番近い医療施設は城外の病院だ!!」


 すぐに目的の場所を伝える。


「分かった!!」


 アージュナはオルカを抱えて立ち上がり、走って病院へと向かう。


「道案内は私に任せてもらおう」


 ギャラヘッドがアージュナの横について走り出す。その後をメイドリッドが追う。


「申し訳ありませんが、モーフェン様。ここはお引き取りを」

「……仕方ありませんね。また後日来ましょう」


 モーフェンは溜息一つついて、再び黒い渦を出現させ、中に入ってその場を去った。


 黒い渦が完全に無くなるまで見届けた後、ウェイガーはアージュナ達の後を追う。


「俺達も行くぞ」

「う、うっす!!」


 取り残されたバルアル達も、アージュナ達の後を追う。



 ◆◆◆



「…………ん?」


 オルカが目を覚ますと、そこは個室病棟だった。


 上体を起こし、周囲の状況を確認する。周囲には誰もいない。


(そっか、私、師匠と……)


 モーフェンの顔を思い出そうとすると、頭痛がした。


「っ」


 オルカは咄嗟に頭を抱えて、痛みに耐える。


 ズキズキと痛む頭に対し打つ手が無いため、時間経過で収まるのを待つしかない。


 ジッと動かず、痛みが引くのを待つ。


 そこへ、


「オルカ姉ちゃん!!」


 メイドリッドが入って来る。痛みが引くのを待っている間に、メイドリッドが部屋に入って来ていたのだ。


「大丈夫か?! 気分は悪くないか?!」


 心配そうな表情でオルカの顔を覗き込む。


 オルカは静かに微笑んで、


「だ、大丈夫……。ちょっと、フラッとした、だけ……」


 メイドリッドを安心させようとする。


 しかし、


「そう言って毎度毎度無理するだろうが!! いいから寝てろ!」


 無理にでも安静にさせようとしてくる。


「わ、分かった……」


 オルカはメイドリッドの押しに負け、ベッドに横になる。


 メイドリッドはベッドの横にある椅子に座る。


「……今日の晩餐会、無理して参加しなくていいからな。姉ちゃんは昔っから人前に出るの苦手だし、ましてや今日は一回倒れてるんだ。だから出なくてもいい。俺と兄貴、ギャラヘッドが王様に話しておく」

「そ、それは駄目だよメイくん……」


 オルカは昔から使っているメイドリッドの愛称、メイくんで呼び、その提案を止めさせる。


「私一人のために、迷惑をかける訳にはいかないし……、それに、ちょっと休んだら、よくなったし……」


 そう言って上体を起こし、力こぶを作る。そして、笑顔でアピールをした。


 今まで見た事の無い行動をするオルカに、メイドリッドは驚きを隠せなかった。以前はこんな事をする人間ではなかったからだ。


(見ない間に、姉ちゃんは変わったんだな……)


 明るくなったことを喜ばしくも思うが、以前とは違う事に寂しさを感じていた。



 同時に、メイドリッドの目には、オルカがより魅力的に見えていた。


 

 格好も抜群のスタイルが丸分かりの刺激が強いものに変わり、女性として、更に磨きがかかっている。


「……そこまで言うなら止めねえよ。けど、ダメだと思ったらちゃんと言うんだぞ」

「ふふ、メイくんは心配性ですね……」


 オルカはメイドリッドの頭を撫で始める。


「本当に良い子ですね……。メイくん……」 


 優しい微笑みで、メイドリッドを褒める。


 メイドリッドは顔を真っ赤にさせ、


「こ、子供扱いは止めろよな!!」


 すぐに手をどけさせる。


 すぐさま席を立ち、部屋から出ようとする。


「後で兄貴たちも来るから、それまでジッとしてろよ!! いいな!!」


 オルカに指を差して、念の為に釘を刺す。


「はい、安静にしてます……」


 オルカが微笑みながら返事をすると、そっぽを向いて部屋を出て行った。


(変わらないなあ……。メイくんは……)


 メイドリッドのことを小さい頃から知っているオルカにとっては、あんなにも逞しく成長したことが喜ばしかった。


 小さい頃は身体を洗う事を面倒臭がったので、何とか一緒に入って体を洗ってあげたり、文字を上手く覚えられないので、優しく教えてあげたり、魔法を覚えた時には、使い方を教えてあげたりした。


 そんなやんちゃだった子が、今では聖騎士をしているのだから、感慨深い。



 オルカがしみじみとしていると、病室の扉からノックする音が聞こえる。


「失礼。ウェイガーだ。入ってもいいか?」


 ウェイガーの声が聞こえてくる。


「は、はい。どうぞ」


 オルカは慌てて返事をする。


 ウェイガーはソッと扉を開け、中に入って来る。


「大丈夫か?」

「はい、もうすっかり……」

「そう言って毎度毎度無茶をするだろう。もうしばらく寝ていた方が良いな」


 メイドリッドと似た様な事を言う。流石兄弟と言ったところだ。


 ウェイガーはさっきまでメイドリッドがいた席に座る。


「とりあえず、病院での手続きはこちらで済ませておいた。この件に関しては心配しなくていい」

「ありがとうございます……。あの、他の皆は……?」

「漆黒の六枚翼の面々なら、病院の待合で待ってるよ。色々手続きが面倒だから……」 


 ウェイガーはこの国の聖騎士なので身分が保証されているが、アージュナ達は外国人。公的機関の中に入るには、色々と手続きが必要なのだ。


 それはオルカも理解している。


「そうですよね……。見舞いに来れなくても、仕方ないですよね……」

「まあ、あともう少しすれば外に出れるはずだ。それまでの辛抱だと思ってほしい」

「分かりました……。何から何まで、ありがとうございます……」


 オルカは深々と頭を下げて、お礼を述べる。


 ウェイガーは素直に照れた。


「どういたしまして。……それはそうと、随分と雰囲気が変わった」

「そ、そうでしょうか……?」

「ああ。とても、綺麗だ」


 そう言って、オルカの横顔にソッと手を伸ばす。


 ウェイガーはオルカの横顔を優しく撫でる。


「私は、黄金の暁でずっと一緒に過ごしていけると思っていました。しかし、それは叶わなかった。あんなにもあっさりと壊れてしまうなんて、思いもしていなかった。辛くて、悔しくて、後悔ばかりでした」

「ウェイガー、さん……?」


 突然の自分語りに、困惑するオルカ。それでもウェイガーは言葉を止めない。


「だから、決して揺るがない、皆といられる場所を作った。離れる心配の無い、皆の居場所だ」


 オルカの手を優しく握りしめ、ゆっくりと膝まずいた。



「オルカ。このウェイガー・モルガースと、結婚して欲しい。私は君が好きなんだ」



「…………え?」


 突然の告白に、オルカは固まる事しかできなかった。



 ◆◆◆



「嘘、だろ?」


 ファンは、偶然見つけた新聞の記事に、衝撃を受けていた。


 その記事とは、



『エーデンファ・ポアトゥン・スブランカ 暗殺  犯人は未だ逃走中』



 父親の暗殺を知らせる内容だった。


「親父が、死んだ?」



 


お読みいただきありがとうございました。


次回は『男達の決意』

お楽しみに


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