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Ep.71 オルカの過去


オルカの幼少期



 私には昔の記憶が無い。



 正確には、6歳から前の記憶が無い。


 気付いた時には、師匠の下で暮らしていた。



 師匠は私に魔術を教えてくれた。


 毎日寝る間も惜しんで基礎を叩き込んでくれた。


 何日も徹夜をして、何冊もの魔導書の内容を覚えさせられた。


 ちゃんと覚えたか試験をし、間違えたら罰として、指を折られた。


 大泣きしたけど、すぐに治してくれた。そしてまた一から教えてくれた。


 折られるのが嫌で必死に覚え直した。それでも何度か間違え、その度に折られた。


 何とか必死に覚えて、一問も間違えないようになった。



 その次は魔法だ。


 これも魔術と同じ要領で教えてもらい、連日徹夜で覚え、覚えたか試験をする。


 魔法も難易度が高く、何度も間違えた。


 間違えたら、今度は足の指も折られた。


 今度は泣いてもしばらく放置された。早く治してもらうために急いで覚えた。


 そして、魔法も一問も間違えないようになった。



 ここまで2年位かかっていたような気がする。


 多忙な日々に、時間間隔がおかしくなっていたからだ。



 魔術と魔法を完璧に覚えた後、実戦で使う訓練が始まった。


 座学を完璧に覚えた自分なら、何の問題は無いと思っていた。


 けど、問題はすぐに起こった。


 魔力回路が先天的に弱かった。それが原因で、強力な魔法、魔術を使うと、全身に激痛が走った。


 激痛でのたまう私に、師匠はそれでも魔法、魔術を行使するよう命令した。


 無理だと言っても聞いてくれず、泣けば火の付いた鞭で背中を叩かれた。


 殺されると思った。


 死にたくないから行使した。


 何百回も使った後、ようやく師匠は許してくれた。



 あまりの激痛に耐えかねた私は、逃げることにした。


 隙を見て師匠の家から逃げ、死にたくない一心で暗い森を走り、泣きながら助けを呼んだ。


 けど、師匠は一瞬で私を見つけた。


 殺されると思った私は、殺されたくないと叫び、命乞いをした。


 師匠は冷淡な目で私を見下ろし、黙って家に連れ帰った。


 

 その日から、地獄が始まった。



 魔法や魔術が使えないのなら、魔法薬を作れるようになれればいいと考え、私に魔法薬の作り方を教え始めた。


 これもまた座学から始め、連日の徹夜、試験、間違えた時の罰が繰り返され、何とか習得した。


 魔法薬は調合から始まり、材料の魔力反応と加熱の見極め、反応に合わせた魔力注入、繊細な魔力コントロール、どれも経験を積まなければ成功できない芸当ばかりだ。


 そのせいで何度も失敗した。


 師匠はその度に鞭で叩いてきた。酷い時には耳を破壊された時もあった。


 中途半端な物は目の前で破壊された。無表情のまま、声を荒げず、冷酷に罵詈雑言を浴びせられた。


 一つの魔法薬を完璧に作り上げるまで、罰を受け続ける毎日だった。



 魔法薬の作成を始めて1年が経った頃、ようやく一つの魔法薬が完璧に完成した。


 師匠は褒めてくれることはなく、また次の魔法薬を作るよう言って来た。


 心の中では嫌だったけど、また酷い目に合わされるなら従った方がいいと思い、素直に従った。

 

 些細なミスでも手を上げ、暴力と暴言をぶつけられる毎日。


 どんなに頑張っても称賛も、激励も、慰労も、心配も無い。ただただ薬を作り続ける毎日だった。



 ある程度余裕ができた頃、今度は並行して出来る魔術を習得する訓練が追加された。


 無限に種類のある魔法薬の作成と、魔法と魔術の訓練を一日でこなさなければいけない日々は、過酷そのものだった。


 魔法薬ができるまでは休憩させてもらえず、少しだけの休憩を終えたらすぐに訓練、訓練のメニューは一定のノルマをこなさなければならないため、終わるまで休む事はできない。


 もちろんミスをすれば罰が待っている。


 この頃から更に、魔法を使って痛めつけるようになった。


 

 私は恐怖で謝る事しかできなくなり、毎日怯えて過ごすようになった。



 師匠はいつも無表情で、冷酷で、冷淡で、これでもかと追い詰めてくる。


 眉一つ動かさず、何を考えているのか分からない表情で、私の精神を切り取っていく。



 笑う事も、喋る事も、食べる事も、寝る事も、歩く事も、全ての事に怯える毎日を過ごし続けた。


 時間が経つにつれ、笑えず、喋れず、食べれず、寝れず、歩けなくなった。


 ずっと怯え続け、四六時中恐怖に蝕まれるようになった。


 それでも師匠は私に鞭を打ち、無理矢理動かして、魔法薬の作成と、魔法と魔術の訓練をさせた。


 殺されたくなかった私は、それだけはやるようになった。


 

 それでも限界は来る。


 死のうとしたこともあったが、師匠がすぐに魔術で治療し、死ぬことすら許されなかった。


 私に、自由はなかった。



 それが、4年も続いたらしい。



 完全に時間間隔が麻痺し、寝る事もできなくなったため、一日、一週間、一ヶ月、あらゆる時間経過が分からなくなった。


 4年という時間が経ったのが分かったのは、後から他の人から聞いたから。


 

 こうして師匠と6年の時を過ごしたある日、私は他の賢者の手によって、師匠の下から引き離された。


 この時の記憶は無いけど、ひと悶着あったとか。


 

 気が付けば、私は『黄金の暁』にいた。


 意識がハッキリしたのは、引き取られてから2年経ってからだった。




 師匠との関係は、そこで終わった。


 しかし、その呪縛は、今でもオルカを侵食している。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『運命が縺れる時』

お楽しみに


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