Ep.70 騎士と魔女
聖国の最高戦力
オルカが教皇の元に行ってから1時間
扉の前で待たされているアージュナは、オルカの事が心配でウロウロしていた。
落ち着かない様子のアージュナに、バルアルが視線を向ける。
「取って喰う訳じゃないんだ。そんなに心配しなくてもいいぞ」
「それでも、心配なんですよ……」
止まらないアージュナに呆れて溜息をつくバルアルだった。
他のメンバーは黙ってオルカを待つ。
沈黙してはいるが、ファンもまた内心穏やかではなかった。
(オルカ姉さん大丈夫っすかねえ……。何か変な事されてなきゃいいっすけど……)
ファンが心配している表情をしているのを、スカァフは見逃していなかった。
スカァフは呆れて溜息をつきながら、腕を組んで待機する。
しばらくして、扉がゆっくりと開き、オルカが戻って来る。
「オルカ!!」
アージュナが真っ先に近付き、安否を確認する。
「大丈夫だったか?」
「は、はい。ただお話しただけですので、大丈夫です……」
「そうか……」
アージュナは安堵し、胸をなでおろす。
後からラシファ達も近付いて来る。
(……これは)
ラシファはオルカに近付いた瞬間、オルカから微かに教皇の魔力を感じた。何かしらの魔術をかけられた痕跡だ。
(教皇猊下はオルカさんに何をしたのか、推理はできますが、確定ではありません。……ここは、時を待つしか無いですね)
教皇はラシファ以上の策略家だ。その上未来予知ができる。
むやみやたらに未来の話はしないし、変えたい時にはちゃんと話す。時が来れば話してくれるのは過去にもあったので、待つ他無い訳だ。
(何とも歯がゆいですね。全く)
ラシファは悟られないよう微笑みながら、オルカを見守る。
オルカの周りにアージュナ、ファン、セティ、ルーが集まり、一歩引いた所にラシファ、バルアル、スカァフが見守る。
「兄貴、オルカ姉さんの事ずっと心配してたっすよ。ジッとしてられなかったみたいっす!」
「お、おい! 余計な事を言うな……!」
「あ、ありがとうございます。アージュナさん……」
「とにかく、オルカさんに何事も無くて良かったです」
「お疲れ様です!」
アージュナ達がオルカの事を心配していたことを話し、どことなく笑顔が漏れていた。
そこへ、ミカエルが近付く。
「歓談中申し訳ありませんが、この後国王陛下に謁見して頂きます。どうぞこちらへ」
ミカエルの案内と指示に従い、オルカ達はミカエルの後を付いて行く。ラシファ達も後を付いて行き、最後尾にはガブリエルとラファエルが付いて行く形になった。
◆◆◆
教会から出た後、オルカ達は馬車に乗って城へ移動する。
城には多くの兵士達が出迎え、廊下の両脇をしっかりと固める形で並んでいた。
謁見の間までその列は続き、かなりの人数がオルカ達を見送る。
「な、何でこんなに兵士が……?」
「敵は国だけじゃない。空と山から来るモンスターだっている。その備えとして軍隊を持つのは、何もおかしいことじゃないさ」
バルアルがオルカに丁寧に説明している間に、謁見の間の扉がゆっくりと開き始める。
謁見の間には、王と女王が玉座に座っている。
王の名は『アーサーⅢ世』、女王の名は『ガネヴィア』。両者、国外からの評価が高い名君である。
そして、玉座を囲むように、十二人の騎士達が立っている。
全員それぞれ違うデザインの鎧を身に纏い、兜で顔を隠している。
この騎士達がリュオンポネス聖国最強の騎士『聖騎士』である。
先頭で案内をしていた王に対してミカエルは膝を付いた。
「国王陛下、客人達を連れて参りました」
「ご苦労。枢機卿達は下がるがよい」
「「「は!!」」」
3人は同時に短く答え、謁見の間を後にする。
残されたオルカ達は、ミカエルと同じ様に膝を付く。
そして、ラシファが首を垂れて挨拶する。
「お久し振りです国王陛下。ラシファ・ヴェヌス・エフロディート及び漆黒の六枚翼一同、ただいま参上致しました」
国王は威厳ある姿で、玉座からラシファ達を見下ろす。
「……久しいなラシファ。こうしてまた会えるとは思っても見ていなかったぞ」
「私もです」
「最近は隣国を救った聞いた。素晴らしい戦果である」
「もったいなきお言葉」
重苦しい雰囲気の中、ラシファとアーサーのやり取りだけが進む。
「さて、今回お主達は教皇の客人として来た。ならば、王として相応のもてなしをせねばならない。故に、今夜は我々と十二騎士と八天騎士達との晩餐会を設けた。それまで国の宿泊施設で休んでおくがよい」
「喜んでお受けいたします」
ラシファは深々と頭を下げる。それに合わせてオルカ達も続いて頭を下げた。
◆◆◆
謁見が終わり、城内の廊下を歩いて城の外へと向かう。
出る時は普通の兵士が案内してくれている。
その途中、ルーが小首を傾げていた。
「あれ? 十二騎士と八天騎士って何が違うんでしたっけ?」
「何だルー、知らないのか?」
セティが聞き返すと、ルーは頭を振りながら
「すいません。勉強しきれてないもので……」
申し訳なさそうに答える。
セティは溜息をつく。
「仕方ない。私が説明しよう」
「お願いします!」
「まず十二騎士だが、あれは国王直属の騎士隊だ。アーサー王の命を受けて動く部隊で、場合によっては国外で活動することもある」
「では八天騎士は?」
「八天騎士は教皇の騎士隊だ。表舞台には滅多に姿を現さないが、その実力はS級に匹敵すると言われている。謎が多くてここまでしか分かっていない」
「そうなのですか……」
ここでルーが、重大な事に気付く。
「……という事は、八天騎士に会えるのって……」
「滅多にない貴重な体験だろうな」
「ひえ」
セティとルーは背筋が凍る感覚に襲われ、互いに背中が伸びてしまった。
その様子を見ていたバルアルは、
(八天騎士の正体を知ったら、気絶するんじゃないか?)
内心心配しながら、それもそれで面白そうだと思うのだった。
その直後、廊下の曲がり角から、3人の男が現れる。
さっき見た十二騎士の内の3人だ。
兵士はすぐに姿勢を正し、敬礼する。
「ここから先は私達が案内する。お前は下がってくれ」
「は!! かしこまりました!!」
兵士は十二騎士の指示に従い、その場を後にする。
3人はオルカの前に立つ。
オルカは緊張して背筋が伸びてしまった。
「……そんなに緊張しなくていいんですよ。オルカ」
「?……」
不思議そうな顔で騎士の顔を見上げる。
(何でしょう……。どこかで聞いた事のあるような……)
オルカにとっては、聞き覚えのある声だった。しかし籠ってよく分からない。
騎士もそれが分かったのか、
「ああ、兜を取った方が分かり易いかな?」
おもむろに兜を取る。後ろにいる2人も兜を取った。
兜の下にある顔に、オルカは目を見開いた。
「え、あ、どうして……?!」
驚きのあまり、言葉上手く出なくなる。
「久し振りだなオルカ。また会えて嬉しいよ」
話しかけて来た騎士の正体は、ウェイガーだった。
「うっすオルカ姉ちゃん!」
「久し振りだね。元気そうで何よりだ」
そして後ろの二人は、メイドリッドとギャラヘッドだ。
オルカは手で口を抑え、
「私、てっきり、先日の事件で……!」
「実は大分前にギルドを止めて、こちらの騎士になったんです。経緯は話すと長いので、機会がある時にじっくりお話しします」
「良かった……。生きててよかった……!」
オルカは今にも泣きそうだったが、ウェイガーが懐からハンカチを取り出し、ソッと拭う。
「心配をかけてすまなかった。連絡を取りたかったが、行先も分からなかったから……」
「いえ、こちらこそすいません……。挨拶も無しに去ってしまって……。でも、元気でやっていてよかったです……」
互いに笑顔で顔を見て、安堵していた。
ギャラヘッドとメイドリッドも笑顔でその様子を見ていた。
『いつまで馴れ合っているつもりだ?』
その最中、突然女性の声が響き渡る。
廊下全体に響くその声は、どこから聞こえているのか分からない程ぼやけている。
声を聴いたウェイガー達は、すぐに身構える。
「……どうしてここに?」
『知れたこと、弟子に会いに来ただけだ』
その言葉を聞いたオルカは、一気に全身から汗が噴き出た。
「あ、あ、あ……!」
顔面蒼白になり、今にも倒れそうな程ふらつき始める。
「どうしたオルカ?! しっかりしろ!?」
慌ててアージュナがオルカを支える。オルカは既に過呼吸を起こして苦しそうだった。
そんな混乱の中、廊下の中央に大きな黒い渦が現れる。
黒い渦の中から、ゆっくりと一人の女性がその姿を現した。
黒い帽子に銀色に煌めくロングヘア、目は星空の様に黒く、肌は反射する程白い。
華奢な体つきだが、ローブから肩を出した服装で妖艶に見える美しさを持っている。
その手には3mにもなる巨大な杖が握られていた。
女性はコツコツとヒールを鳴らしながら、オルカに近付く。
「久しいな、オルカ」
苦しむオルカを冷たい眼差しで見る。
オルカは震えながら、女性の顔を見た。
「お、久し振りです……。師匠……」
彼女の名は『モーフェン』。オルカの師匠。元賢者であり、聖国の魔女である。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『オルカの過去』
お楽しみに
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