Ep.7 クエストを終えて
戦いを終え、食卓を囲む
討伐証明になる魔物特有の臓器『魔核』を回収し、オルカ達は魔法の絨毯に乗り、ハナバキーへ戻って早々組合に報告し無事達成証明をもらった。
後日報酬を支払うことになったため、オルカ達はギルドへ帰ることにした。
アージュナは思いっ切り伸びをして、
「あー、終わった終わった! 腹減ったなあ!」
「お疲れ様ですアージュナ様。しかしながら、今の時間どの店も閉まっている状況です」
「そうだった……」
アージュナは肩を落として落ち込んだ。
「ある物でどうにかせい小僧」
「ある物か、何があったか?」
「野菜っすね。あと干し肉」
「私は料理できないです」
「ギルドマスターはそっちの努力もして下さいよ……」
「というか何でそんなに食材が無いのじゃ?」
「組合から呼び出しを受けて出払っていたら買い物する暇が無かったのさ」
6人が色々話していると、
「あ、あの、良かったら何か作りましょうか……?」
オルカが挙手して提案する。アージュナは素早く反応してオルカに近付く。
「マジで!? できる?!」
「は、はい。調理場の使い方はバルさんに教えてもらっていますので……」
「よろしくお願いします!!」
頭を下げてオルカにお願いする。オルカは慌てて、
「あ、頭を上げて下さい……! 私にそんな、頭を下げるだなんて……!」
「頼む時に頭を下げるのは当たり前だろ。そんな話はいいからさ、早く帰って作ってくれよ」
オルカの背中を押してギルドまで急いで帰って行く。その後をラシファ達が付いていく。
・・・・・
帰って早々オルカは料理を始める。野菜を料理に合わせて切り、魔導コンロに火をつけて鍋やフライパンを乗せて暖めていく。
「手伝うかい?」
そこへバルアルが入ってくる。オルカが来るまでと、ここ2日はオルカに調理場の使い方を教えるためにバルアルが料理当番をしていた。
「あ、ありがとうございます。でも、一人でできるので大丈夫です。休んでいてください」
干し肉をお湯に戻して味を出していく。そこへ切った野菜を入れ煮込む。
手慣れた動きで次々野菜料理を作っていく姿をバルアルは見つめる。
「随分と慣れてるね。前のギルドでも料理を?」
「はい。基本プロの人がいたのですが、お一人で全部やっていて大変そうでしたので、お手伝いしていたらできるようになりまして……」
「そりゃすごい。なら君に倣って配膳だけでもやらせてもらおう」
バルアルは皿を棚から取り出し、調理用テーブルへ並べていく。
「ちなみに何品作っているんだい?」
「えっと、一人5品です」
バルアルの手が止まる。
「……何だって?」
「5品です。少ないとは思いますが、満足して頂ける品を作れるよう頑張ります」
この30分で同時進行で料理を5品も作るのはバルアルでもできなかった。どれだけ料理の経験を積んだのか想像もできない。
バルアルはクスクスと笑いながら、
「そうか、君はそういう面でも有能なんだな……」
「はい……?」
小声で話したためオルカにはよく聞こえなかった。
・・・・・
料理が完成し、ギルドの共有スペースで7人一緒に食事を始める。
「うん! うん、美味い!」
アージュナは相当気に入ったのか勢い良く食べていく。
「んん!? 美味いっす!」
「ほう、悪くないぞ。お主中々やるではないか」
「やはり美味いな。いい味付けだ」
「美味ですね」
「美味しいですよ」
言葉は違えど、皆オルカの料理を褒めてくれた。オルカも嬉しくなって微笑んだ。
(久し振りだなあ。こうやって褒めてくれるの。黄金の暁にいた時は、感想をもらえないくらい忙しかったからなあ……)
黄金の暁のギルドマスターが変わる前は皆で食べる機会は多かったが、変わってからは立て直しのために全員遠征とかで一緒に食事をする機会は全く無くなってしまった。
(せめてクビにされる前に皆と食事をしたかったなあ……)
「どうした、オルカ?」
寂しい思いにふけっていると、アージュナが近付いていた。
「わひゃ?! な、何でもないです!」
「そう? じゃあおかわりある?」
「あ、あります」
「じゃあ貰うな!」
アージュナは急いで調理場へ向かった。
「ご馳走さまでした。私はこれで失礼しますね」
「ご馳走様。美味しかったよ」
ラシファとバルアルは綺麗に完食し、食器を重ねて洗い場へ持って行った。
「お、お粗末様です……」
お礼を言って食事を続けるのだった。
・・・・・
ラシファとバルアルは書斎で酒を飲み始めた。互いのグラスに酒を注ぎ、口をつける。
「オルカ君、想像以上の働きだ」
「そうですね。抵抗力の強いキングゴブリンにもデバフを与えられるとは思ってもみなかった」
「ラシファの【天啓】、最初はどうかと思ったが意味がありそうで良かった」
バルアルは一気に飲み干し、息を吐いた。
「アージュナは『彼女』と重ね合わせてる気がする」
「私も最初はそう思いましたが、その線は薄いでしょう」
「根拠は?」
「彼の眼。あれは憧れだ。彼女に向けていた眼じゃない」
「……なるほど」
互いに酒を飲み交わし、月が浮かぶ夜空を見上げる。
「オルカさんはこのギルドの命運を左右する。そんな気がします」
「それは【天啓】か?」
「ただの勘です」
・・・・・
晩御飯を終えた後、オルカは食器を洗い片付けていた。
(とんとん拍子で新しいギルドに入ったけど、クエストでお役に立てて、食事も喜んでもらえて良かったなあ……)
解雇されて国にもいられなくなりそうになった時はどうしようかと思ったが、こうして冒険者を続けられて本当に良かったと安堵した。
(何より、良い人達ばかりで本当に良かった……)
研究ばかりで内向的な自分をすんなり受け入れてくれたことが何より嬉しかった。
(これでまた研究を再開できたらいいんだけど、ちょっと図々しいかな)
デバフしかない自分がこのギルドで何ができるか考えると、少しだけワクワクした。
そこへファンバーファが入ってくる。
「オルカ姉さん、何か手伝いますか……?」
尋ねようとしたが、言葉が止まった。
オルカがニヘリと柔らかい笑顔を浮かべていたからだ。
その顔を見た時、ファンバーファの胸の中で、ドキリとした。
「? 何だ……?」
「あ、ファンバーファさん。どうかしましたか……?」
「え? ああ、良かったら手伝おうかなって」
「ありがとうございます。でもお気持ちだけで大丈夫です。もうすぐ終わりますから」
「そ、そう? なら俺はこれで……」
一瞬感じた胸の高鳴りに疑問を感じながら、ファンバーファは自室へと戻って行った。
オルカは充実感を感じながら、今日という一日を終える。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『幕間 アイシーンの企み』
お楽しみに。
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