Ep.64 業火の街を照らせ
理不尽に燃え盛る街に、光を
オルカ達はクストル達の遺体そのままという訳にはいかないので、並べて整理していた。
「これで全員か?」
「あと、1人、いる。女の子」
ケーナは彼らを追跡していたので、顔は分かっていなくても、何人いるかは把握している。
なので、背負っていた少女がいない事はすぐに分かった。
辺りを全員で探していると、
「いました!!」
ルーが少女を見つけた。
使用者が死亡したことで、魔術が解けて確認できるようになっていた。パルクスは目を閉じて眠っている。
バルアルがしゃがんで顔を覗き込む。
「あれだけの事があったのに、全く起きないんだな」
「魔力が極端に枯渇していましたので、目を覚ますには時間が必要なんです……」
オルカの説明に、アージュナの事を思い出し、全員が納得した。
「……この子はとりあえず『漆黒の六枚翼』で身元不明の少女として預かる。ラシファも納得はしてくれるはずだ」
バルアルはそう言って、魔法の絨毯を【収納】から取り出す。
「一度商会へ戻る。この事をジークに話さないといけないからな」
「ジーク……?」
オルカは小首を傾げる。
「ああ、オルカ君は知らなかったか。ラグナ商会のムササビは、ゴルニア王国のジーク第一王子なんだ」
「ええ!?」
突然の事実に、驚きを隠せなかった。何より、商会がクストル達と因縁がある王族だったことが衝撃だった。
(クストルさん達はこの事を知っていたのでしょうか……? もう確認のしようがありませんが……)
地面に寝かせられているクストルを見る。もちろん返事は無いが、知っていても教えてくれることはないだろう。
「おーい! 皆さん無事ですかー!!」
突然、上空から大声が聞こえた。
そこには、飛行龍機に乗ったジークが、窓から上体を乗り出してこちらを見て叫んでいる姿があった。
飛行龍機は着陸できる場所が無い為、オルカ達の上を滞空している。
オルカは帽子を押さえながらジークの姿を見た。
「ムササビさん!? あ、いえ、ジークさん!?」
「オルカさんも無事でしたか! 良かった!」
ジークは安堵した様子でオルカを見ていた。すかさずアージュナがオルカの前に出てブロックする。
「どうしたんだジーク? 迎えは頼んでいないぞ?」
バルアルが声を掛けると、ジークの表情が真剣になる。
「緊急事態だ! 今さっき連絡があって、王都テルイアにモンスターが氾濫した!! すぐに手を貸してくれと要請が入ったんだ!!」
「何?」
バルアルの眉間にシワが寄る。他のメンバーも、事態の深刻さを想像して、険しい表情になる。
「ラシファとスカァフが対応に当たっているが、手が足りない!! 疲れている所悪いが、これに乗ってすぐに王都に行くぞ!!」
「ほぼ強制か。仕方ない、全員行くぞ!!」
「ま、待って下さい!? クストルさん達は……!」
オルカの訴えにバルアルは少し考え、
「……ジーク! ここにある遺体を商会まで搬送してくれ! ついでにこの少女もだ!」
「いいだろう! それくらい安い用だ!」
ジークはあっさりと承諾してくれた。バルアルはオルカの方を見る。
「これで一先ずいいか?」
「はい、ありがとうございます……」
「よし、魔法の絨毯に乗れ! 飛行龍機に乗ってテルイアへ向かうぞ!!」
「「「「「了解!!」」」」」「ん」
オルカ達は力強く返事をし、テルイアへと向かう。
・・・・・・
テルイアは、突如現れた魔物の大群で溢れかえり、阿鼻叫喚に地獄となっていた。
巨大な魔物により建物が次々に壊され、火を吐く魔物で容赦なく燃やされていく。更に人間位のサイズの魔物も暴れ回り、逃げ惑う人々を襲い続けている。
ラシファとスカァフは、建物の屋根を飛び越え、被害が一番出ている場所へと向かっていた。
「遠目からでしたが、この先の建物に多数の魔物が集まっていました」
「この先は確か、簡易拘置所ではなかったか?」
スカァフは街を散策していて、大体の位置を把握している。この先にあったのは、テルイアで犯罪を起こし、一時的に拘留する簡易拘置所だ。
「何故そんな場所に……?」
「とにかく急ぎましょう。市民の方がいない訳ではありませんから」
・・・・・・
簡易拘置所 地下牢
地下牢には『黄金の暁』メンバー達が捕まっていた。
個室の牢屋にそれぞれ入れられ、収容されている。見回りの兵士も数人おり、簡単には出られない。
マドゥアも狭い個室の牢屋で過ごしていた。
「はあ、どうして私が……!」
溜め息をつきながら、ベッドの上で横になり、天井を見る。
(もうアイシーンはダメね。牢屋から出たら、付き合いのある貴族に助けてもらおうかしら)
そんな事を考えていると、天井からパラパラと粉が落ちて来る。それがマドゥアにかかる。
「ちょっと、何よ全く!」
すぐに粉を払い、服が汚れていないかを確認する。
その間に、上から地鳴りの様な音が響いてきた。
「? 何かしら?」
マドゥアが不意に天井を見る。
直後、ドゴン!!! という轟音と共に天井が一気に崩壊した。
大量の瓦礫が、マドゥアに降り注ぐ。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??」
絶叫と共に瓦礫の下敷きとなり、一瞬にして地下牢全体が埋まってしまった。
・・・・・・
簡易拘置所の地上では、高さ40mもある鉱物でできた人型の魔物『ギガントゴーレム』達が暴れていた。
鉱物の塊だけあって、凄まじい重量があり、蹴られれば即死は避けられないと言われている。
そんなギガントゴーレムが地下のある場所を踏み荒らせば、地下は一瞬で潰れる。地下にいる者は誰も助からないだろう。
しかし、こんな怪物相手でも怯まないのが、S級の冒険者だ。
ラシファとスカァフは、それぞれ武器を持ち、ゴーレムの群れへ飛び込んだ。
ラシファは一本の光の剣を作り出し、天に向かって振り上げる。
「切り裂け、【聖天紋・神聖大剣】」
光の剣は一瞬で100mまで伸び、巨大な大剣と化す。そして、ゴーレムに向かって振り下ろされ、一撃で両断した。
ゴーレムは縦に割れ、ゆっくりと左右に分かれて撃沈した。
スカァフは神槍『ガオバルガ』を取り出し、回転させながら振るう。
そして、ガオバルガを強く握り、大きく振りかぶった。
「貫け! ガオバルガ!!」
空中にいる状態で、身体のひねりだけで槍を投擲する。
しかし、槍は音を置いていく程の速さで発射され、簡単にゴーレムの胸を貫通した。そこを中心に、死の呪いが広がり、ゴーレムは絶命する。
ゴーレムはバラバラと崩壊し、ただの鉱物の残骸と化した。
2人は武器を存分に振るい、次々とギガントゴーレムを倒し、全滅させた。
スカァフは着地したのと同時に、深く息を吐いた。
「……この下におった者達は、ダメじゃろうな」
「ええ、私もそう思います」
簡易拘置所があった場所は、更地どころか押し固められ、地下があった場所もろともしっかりと潰されていた。これでは掘り起こす事もできないだろう。
「くよくよもしていられません。次に行きましょう」
「分かっておる」
2人は大きく跳躍し、次の戦場へと向かう。
・・・・・・
そんな惨事になっている街を、カラーは頬杖をしながら楽しそうに見ていた。
その背後に、魔法陣が出現する。
魔法陣の中から出てきたのは、怪人だった。
「カラー様、そこにいては冷えますよ?」
「いいの。この景色を見ていたいから、どうって事無いわ。怪我はもういいの?」
「はい。処置は終わりましたので」
「そう。ならいいわ」
燃え盛る街の火が、カラーの顔を照らす。しかしその眼には、光が届かない真っ黒なモノが詰まっていた。
「聞こえるわ。罪の無い人達が悶え、苦しむ声が。なんて素敵な響きなのかしら……」
まるで小鳥のさえずり、気持ちの落ち着く音楽を聴いているかのような、落ち着いた表情をしている。
怪人は帽子の唾を摘まんで
「先程、ユラマガンド達が戻りました。『顔の無い盗賊団』の始末を完了したそうです」
「あら、思ったより早かったわね。もう少しかかると思っていたわ」
「どうやらまとめて出てきたところを叩いたとか」
「それは賢いやり方ね。後で褒めてあげましょう」
街の光景を見つめながらも、優しい口調で喋るカラーを、怪人はジッと見つめていた。
「…………美しいですね」
一言、怪人は呟く。
「ええ。美しいわ」
カラーはその呟きに答えた。
2人は崩壊していく街を、ただただ眺めていた。
・・・・・・
ラシファとスカァフは、街に溢れる魔物を次々と倒していくが、いくら倒しても一向に数が減らない。
「ええい!! 多過ぎる!!」
スカァフはゴブリンにワーウルフ、オーガにオークと軍隊にも匹敵する物量をガオバルガ一本で次々と薙ぎ倒していく。
持ち前のスピードで、眼にも止まらぬ速さで通り過ぎながら槍で切り裂く様は、まさに疾風怒濤のようだった。
「うわあああん!! お母さん! お母さあああん!!」
「誰か! 誰か助けてくれ!! 妻が死んでしまう!!」
「足が! 足が折れたあああ!!?」
建物は残らず火事になり、崩壊した建物に下敷きになってしまった者、魔物に襲われ怪我を負って動けなくなった者、突然の事態にパニックになっている者で、この世の地獄と言った惨状だった。
スカァフは自分一人ではどうにもならない事態に、歯ぎしりをする。
(S級のワシがどうにもできんとは、不甲斐ない……!!)
既に1000近くの魔物を倒しているが、まだまだ魔物は多い。加えて、巨大な魔物もいて倒すのに時間がかかる。
どこから手を付けるか迷っていると、ラシファが翼を広げて空に上がる。
「スカァフ! 魔力の充填が完了しました! 私は上から細かいのを倒します! スカァフは大きいのを!」
「分かった!!」
スカァフはサイクロプス、サラマンドラ、ギガントゴーレム、アースドラゴンといった巨大な魔物達に突っ込んでいく。
ラシファは黒色の翼を大きく広げ、空へと舞い上がる。街全体を見渡せる高度まで一気に上がると、天に手をかざし、魔法陣を出現させる。神聖魔法と深淵魔法を合わせた巨大な魔法陣は、街全体を照らすサイズにまで拡張される。
「聖なる鉄槌、業深き断罪、我が宣誓において、この身に集え!」
呪文を詠唱し、魔力が充填した光り輝く魔法陣から、魔法を起動する。
【聖淵紋・女神の落涙】!!!
ラシファが手を振り下ろしたのと同時に、魔法陣から無数の光線が街に降り注ぐ。
光線は街にいる中型の魔物を次々と貫き、灰塵と化した。しかし、巨大な魔物には効果が薄く、表面が少し焦げる程度だった。
【女神の落涙】は、超広範囲攻撃な分、威力が出ない。その上燃費も悪い。
そのため、小型中型の魔物を一掃するのには有効だが、大型の魔物にはあまり効かない。
7割程倒せたが、大型を含め、まだ数千はいる。
(まだまだいますか。次の発射まで時間が必要ですし、それまで光の剣で各個撃破と参りましょう)
ラシファは急降下して、巨大な魔物に立ち向かっていく。
・・・・・・
スカァフはサイクロプス、サラマンドラを数体ずつ倒し、次の敵へと向かう。
「む?」
次の敵、アースドラゴンに、王国の兵士達が群れていた。街の魔物を討伐するために出てきたのだろう。
その指揮を取っているのは、シグーだった。
「ドラゴンを取り押さえろ!! 決してトドメは指すな!!」
兵士達はシグーの指示に従って、アースドラゴンに網を投げて捕えていた。
アースドラゴンは翼の無いドラゴンで、硬い鱗に覆われた蜥蜴の様な見た目をしている。全長30mはあるため、暴れれば周囲に相応の被害が出る。
案の定、アースドラゴンは網をかけられて暴れ始める。そのせいで、網をかけていた兵士達は投げ飛ばされてしまう。
「うわあああ!!!??」
「ぎゃあ!?」
兵士達は断末魔の叫びを上げて宙を舞った後、建物や地面に激突し、動かなくなる。
シグーはそんな事お構いなしに指示を出し続ける。
「何をしている?! 早く取り押さえろ!! 俺が英雄になるための礎となれ!!」
王族であるシグーに逆らえず、渋々指示に従い、身を投げうつ兵士達の姿を、スカァフは建物の屋上から見ていた。
(何じゃあのお粗末な作戦は……?! あれでは無駄死にを増やすだけではないか!!)
王国の兵士達の練度は低くない。むしろ高い位だ。
その兵士達を使い捨ての様に死なせていく指示は、まさに愚策だ。
スカァフは憤りを覚え、建物から飛び降りる態勢に入る。
その間、シグーは無茶苦茶な指示を出し続ける。
「俺は英雄王になる男! 今回犠牲になった者達は英雄王の歴史の一部として残るのだ!! 故に! 臆することなど無い!! 存分にその命を使うのだ!!」
シグーの狂言に、スカァフの堪忍袋の緒が切れた。
飛び降りるどころか跳躍し、放物線を描いてシグーの場所まで飛んで行く。そして、拳を思いっ切り握った。
「歯を食いしばれ!! この糞餓鬼がアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
スカァフは怒鳴り声を上げながら、着地地点にいるシグーの顔面に拳を叩き込む。
シグーの顔面に拳がめり込み、潰れた鼻と口から大量の出血を起こし、殴られた衝撃で頭から飛んで行った。
凄まじい破壊音が響いた後、数度地面を跳ね、激しく地面を転がってから停止した。シグーは一撃で見る影もない位ボロボロになってしまった。
その様子を見ていた兵士達は、呆然としていた。
スカァフは兵士達に向き直り、槍を立てる。
「怯むな!! 全隊陣形を組み直せ!! 巨大魔物との戦闘訓練の陣形で十分対処できる!!」
兵士達はスカァフの指示に背筋が伸び、素早く陣形を組み直す。
「全軍突撃!! 討ち取ってみせい!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」
兵士達は士気を取り戻し、アースドラゴンへ突撃する。
ラシファとスカァフは、街の魔物を一掃すべく、奔走する。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『集結、漆黒の六枚翼』
お楽しみに
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