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Ep.6 緊急クエスト、ギルドの実力


緊急、漆黒たちの実力



 装備と防具を買い揃えた時には、昼になっていた。


 

 杖専門の武器屋に入り、杖を選んでいく。オルカが探しているのはデバフ専用の杖だ。意外とすんなり見つかり、早々に購入した。


 3人は店を出て街を歩く。


「しかし、随分と大きい杖を買ったな」


 杖はオルカの身長160㎝よりも大きい2mの大きさで先端には魔術を補助する『魔石』が付いている。デバフ用の紫色の魔石だ。


「そうでもないですよ……? 複雑な術式になればなるほど大きくなります。軍用になると10m以上は普通です」

「そうなのか、オルカは物知りなんだな」

「魔術の方にだけ詳しいだけですよ……」


 突然ファンバーファが走り出した。


「兄貴! オルカ姉さん! ここでお昼にしましょう!」


 指差していたのはオープンテラスのあるカフェだ。


「いいな。ここのサンドイッチは美味しいからオルカも気に入ると思うぜ」

「わ、私お金無いです……」

「これくらい奢るって。加入祝いの一環だと思って受け取ってくれ」


 オルカはアージュナに説得されてカフェで食事をすることになった。


 オープンテラスの席に座り、注文をして運ばれてきたのはハムと野菜のサンドイッチだ。オルカは2人が食べ始めたのを見た後で食べ始める。


「あ、おいしい」

「だろ? 気に入ってもらえてよかった」


 アージュナは微笑みがらオルカの顔を見る。オルカは少し恥ずかしそうにサンドイッチを食べ続ける。


「きゃあ! アージュナ様よ!」

黒豹王子(くろひょうおうじ)、今日もカッコいいわあ……!」


 通りすがりの女性が気になる言葉を口にしていた。


「あの、黒豹王子って一体……?」

「兄貴のことですよ。獣人の種族『黒豹』でイケメンだから黒豹王子。分かり易いでしょ」

「なるほど……」

「俺はあんまり好きじゃないけどな」

「よお、お二人さん。女連れなんて珍しいな」


 そこへ40代手前くらいの男が声を掛けてきた。剣を腰に吊っているのを見ると、冒険者だろう。


「『ジャンパ』、もう遠征から戻ってきたのか?」

「ああ、ワイバーン討伐だったが大したことはなかった。それでこの女の人は?」

「うちに昨日入った新メンバー、オルカだ。仲良くしてくれよ」

「もちろんだ。よろしくなオルカさん」


 ジャンパはオルカに握手を求める。オルカは握手に応じて手を握った。


「よ、よろしくお願いします」

「それで? ジャンパのおっちゃんがわざわざ声を掛けてきた理由ってまだあるんでしょ?」


 ファンバーファが会話に割って入ってくる。ジャンパは真面目な表情になる。


「相変わらず察しが良いな。実はさっき組合にゴブリン討伐のクエストが入ったって話だ。しかも相手の大将は『ジェネラルゴブリン』。多分お前らの所に依頼されるんじゃないかと思ってな」

「じぇ、ジェネラルゴブリンですか……」


 

 ゴブリンは進化する魔物だ。


 E級相当のゴブリンは経験を積んで歳を重ねると、ホブゴブリン、ジョブゴブリン、エースゴブリン、ジェネラルゴブリン、キングゴブリン、カイザーゴブリンと段階的に強くなっていく。カイザーはS級相当になる凶悪な魔物だ。


 繁殖力が高く異種族と交配することも可能なため、女性冒険者の天敵であり、G並みに嫌われている。集団で行動するのでソロ冒険者にとって脅威でもある。



 オルカは生唾を飲み込み、緊張してくる。


「まああくまで可能性の話だ。他の討伐ギルドが名乗り出るかもしれんからな」


 ジャンパは笑いながら話す。


「それなりの用意をしておいた方はいいかもなっていう話さ。それじゃあ俺はこれで失礼するぜ」


 ジャンパは手を振って自分のギルドへと帰って行った。


 アージュナとファンバーファは顔を見合わせる。


「確定だな」

「でしょうね。フラグが凄いっす」

「ええ……」


 オルカは2人の確信を得た表情に信憑性を感じた。



 ・・・・・



「先ほど組合から討伐クエストが来た。ここから20㎞程にある村『カパンルエク』近郊の森にゴブリンの群れが発生。群れのリーダーは『キングゴブリン』。人的被害は出ていないが、作物を荒らしているとのことだ。我々はそれらを速やかに討伐する」

「「聞いてた話よりヤバイな」」


 買い物から帰って来てから数時間後、ラシファから緊急招集がかかり討伐クエストが入った事を知らされた。ジャンパから聞いていた話より事態は深刻だったためアージュナとファンバーファは呆れながら驚いていた。


 そんな中、オルカがゆっくりと挙手する。


「あ、あの、ゴブリンの数はどれほどでしょうか?」

「確認しに行った冒険者の話だと最低でも100はいるそうです。なので今回は全員で対処することになります」


 スカァフは壁に寄りかかりながら話を聞いていた。


「いきなりA級相当のクエストか。こ奴には荷が重すぎるのではないか?」


 それをバルアルが不気味な笑みで見ていた。


「足手まといにならないのかの間違いだろ? 俺は問題無いと踏んでるけど」


 2人の間に嫌な空気が流れるが、ラシファ達はそれを無視して話を進める。


「準備ができ次第出発だ。各自準備ができたら玄関前に集合」

「「「「「了解!!」」」」」

「りょ、了解しました……!」


 オルカ達は出発する支度を迅速に済ませ、建物の施錠も完璧にこなす。10分足らずで全員が玄関前に集合していた。


 アージュナは最低限の鎧と剣を、ファンバーファは弓矢と短剣、セティは剣と大盾、バルアルはいつもの手甲と脛当てと鉄靴、スカァフは槍、ラシファは双剣を帯剣していた。オルカは今日買ったばかりの装備と武器だ。


「今から歩いて行くんですか……?」

「いえ、これを使います」


 ラシファは何も無い所から巨大な絨毯を出現させた。全員が立っても十分余裕がある大きさだ。


「私の『魔法の絨毯』です。これでクエスト先まで飛んで行きます」

「す、すごい……! 魔術協会の博物館でしか見た事の無い伝説の魔導具……! まさか乗れるだなんて!」


 オルカは目を輝かせて絨毯を観察する。ラシファはオルカの姿を微笑ましく思ったが、切り替えていく。


「クエストが終わったらじっくりお見せします。今は急ぎましょう」

「は、はい!」


 全員絨毯の上に座り、ラシファが呪文を唱えると浮き始める。高さ3mくらいの位置まで浮いて発進する。そのまま街を飛び、多くの人から手を振られ、黄色い歓声を受けながら街の門で手続きを済ませて街から飛び出した。そこからは一気に高度を上げて目的地まで猛スピードで飛んで行く。


 夕陽が輝く空を駆け抜け、目的地の森の入り口前で着陸する。初めて乗ったオルカは少しフラフラだった。


「あうう……。目が回る……」

「大丈夫か?」


 咄嗟に支えてくれたのはアージュナだった。手を握り、背中に手を当てて優しく支えた。


「無理はするなよ」

「あ、ありがとうございます」


 アージュナの顔が近くにあるせいで、オルカの顔が赤くなる。やはりイケメンが近いと照れ臭い。


「兄貴、イチャイチャしてないで早く行きましょうよ」

「イチャイチャしてない。心配しただけだ」

「はいはい……」


 森へ入る前にスカァフが【探索魔術】を発動する。感覚を研ぎ澄まし、ゴブリンの根城の位置を探し当てる。


「いたぞ。ここから北西に3㎞、地面から盛り上がった横穴に潜んでおる。捕まっている人間はおらぬ」

「なら遠慮なく巣穴ごと潰せますね」


 ラシファは微笑んだまま作戦を練る。


「短期決戦で行きましょう。私が巣穴に【攻撃魔法】を入れますので、スカァフ、バルアル、アージュナ、セティは出てきたゴブリンを掃討してください。ファンバーファとオルカは援護を」

「「「「「「了解」」」」」」


 

 ・・・・・



 ゴブリンの巣穴には見張りのゴブリンが4体いた。


 ファンバーファとオルカはラシファ達よりも後方に待機し、身を隠していた。


「そろそろ始まるっすよ」

「ラシファさんの【攻撃魔法】って見た事無いですけど、どんな魔法なんですか?」

「見てれば分かりますよ」


 息を潜めて見ていると、ラシファが木の陰から何かを唱えた。


 次の瞬間、見張りのゴブリン4体全部の胸に光の剣が貫いた。音も無く突き刺さり、何が起きたのか理解できないまま倒れた。倒れたのを確認したラシファは単身前に出る。


 すると、ラシファの背中に6つの光球が現れる。


「あれって、【神聖魔法】……?!」

「流石オルカ姉さん。ギルドマスターはリュオンポネス聖国でもトップクラスの【神聖魔法】の使い手っす。それに加えて……」


 光球からそれぞれ翼が生え始める。ただ、色は全て黒色だった。


「闇属性の上位属性魔法【深淵魔法】の使い手でもあるんですよ」


 オルカは驚きを隠せなかった。


 火と水、風と土など、背反する属性を体内に宿すのは稀有とされている。ましてや珍しい光と闇を宿しているという事例は過去に例が殆ど無い。


 光と闇を同時に操り、遠距離からでも分かるほど強力な魔力を有しているのが分かった。


「あれがギルド『漆黒の六枚翼』の由来、『深淵の天使』ラシファさんです」

「す、すごい……!」


 オルカが関心している最中、ラシファが攻撃の準備を始める。


 光の槍が無数に出現し、槍に禍々しい模様が付く。ラシファは手を巣穴に向け、魔法を発動する。




 【深淵紋(アビスコード)神聖槍(ホーリージャベリン)(ストリーム)




 静かに唱えられた魔法は、一斉に巣穴へ駆け込んだ。


 中に入った槍は入り組んだ巣を正確に進みながら、次々とゴブリン達に突き刺さっていく。一番下のゴブリンは貫通する威力で身体の上下を分断する大穴を開け、ホブ、ジョブ、エースは突き刺さって一撃で絶命する者もいれば、四肢のどれかを持っていかれて死なずに済んだ者と分かれた。数体しかいないジェネラルにも刺さり、頭部に刺さった者が一撃で死亡した。


 一方で、ここのリーダーであるキングは光の槍を棍棒で撃ち落していた。目の前に広がる惨状を見て、頭に血が上り咆哮を上げる。生き残った者達に迎撃命令を出すのだった。



 咆哮を耳にしたラシファは後退してアージュナ達と入れ替わる。


「総撃破数304、残り40程取り零しましたのであとはお願いします」


 その数秒後、一斉にゴブリンが巣穴から飛び出した。手負いのゴブリンだけだが、死兵となった敵は厄介極まりない。



 だが、迎え撃つは最強格のギルドメンバー。不覚は取らない。



 最初に動いたのはバルアルだ。


「燃えろ」


 不気味な笑みを浮かべながら手を払うと、ゴブリン達が一斉に燃え出した。瞬く間に灰となり、ゴブリン達はそれを見て動きを止めた。


「どうした? かかって来ないのか?」


 両手に炎を纏い、一歩一歩近付いていく。


「ならこちらから行かせてもらおうか!!」


 彼の二つ名は『焦熱』。あらゆる敵を燃やし尽くす無慈悲な戦士だ。


 

 次に前に出たのはセティとアージュナだ。


 セティは大きな盾を構え、魔術を発動する。


「【標的集中(ターゲット)】!!」


 ゴブリン達の視線がセティだけに向けられ、進行方向もセティの方だけになる。理解できていないゴブリン達は隙だらけであり、アージュナはその隙を見逃さなかった。


 剣を逆手に構え、ゴブリン達目掛けて駆ける。逆手に持った剣でゴブリン達の首を掻っ切り、絶命させていく。


 セティの盾とアージュナの剣は『双撃の黒豹』として評価されている。



 最後に出たのはスカァフだ。


 こちらはもう超人の域の戦闘、否、蹂躙だった。


 ゴブリン達が襲い掛かろうと動いた瞬間、残像となり、残像が実像に戻った時には全てのゴブリンは切り刻まれていた。それはジェネラルも例外では無く、4mもある巨体も切り刻まれバターの様に崩れ去った。


「つまらん。とっとと本命が出てこい」


 彼女に付いた二つ名は『槍聖(そうせい)』。槍の扱いにおいて右に出る者は誰もいない。



 数分足らずで出て来たゴブリン達は全滅した。


「残すはキングだけか」


 アージュナは剣を握り直し、身構える。


「大したことはないが、油断すればかすり怪我くらいは付けられてしまう相手じゃ。用心に越したことは無い」

「スカァフがかすり傷とか大騒ぎだな。新聞の一面を飾れるぞ」

「減らず口を」


 スカァフとバルアルが会話している最中に、地面が盛り上がった。


「下か」


 全員盛り上がった場所から高速で退避する。


 盛り上がった地面から飛び出してきたのは体長6mもある巨大なゴブリンだ。体のサイズに合った棍棒を持ち、屈強な肉体をしている。


 大きく息を吸い、咆哮を吐こうとする。


 が、喉に3本の矢が突き刺さり阻止されてしまった。痛みの余り喉を押さえようとするが、太い血管にも直撃し、下手に触れることができない。


 矢が刺さったのを見て、アージュナが飛んで来た方向を見る。そこにはファンバーファがいた。


「流石だ。この森の中で正確に当てられるのはファン位だぜ」


 アージュナが感心している最中にキングゴブリンが暴れだした。棍棒をむやみやたらに振り回し、辺り一帯を破壊していく。木は吹き飛び、地面は抉れ、岩は粉砕される。


 バルアルは破片を躱しながら舌打ちする。


「おいおい、これじゃあ近付けないぞ」

「なるほど、ここで彼女の出番か」


 スカァフが何かに気付く。


 暴れるキングゴブリンの目の前にオルカが飛び出した。



「【10連(テンタイムズ)】【遅延(スロウ)】!!!!!」



 杖を掲げて放たれた魔術により、キングゴブリンの動きが遅くなる。


 目にも止まらぬ速さで振り回していた棍棒は虫が止まりそうな程遅くなる。全身の動きも鈍くなり、ほぼ止まっている様な動きへ変貌した。


「今です!!」


 オルカの掛け声と共に、一斉攻撃が始まる。


 数分後、キングゴブリンはほぼ原形を残さず討伐された。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『クエストを終えて』

お楽しみに。


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