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Ep.58 交渉決裂


決裂した裏で



「……本当にそんな短期間で解呪できるのか?」


 クストルはオルカに疑問をぶつける。


 数多の術者、魔術師が手も足も出なかった呪術を、たったの3日間で解決できるのか、疑うのも無理は無い。


 オルカは頷いて


「あれは、一つの【呪術】だけではなく、多数の魔術が絡んでいるんです……。デバフに近い術式が混ざっていたので気付けました……。後は解析を進めれば、個々で解除可能になると思います……」


 いつもの弱々しい口調だったが、眼の中には確かな自信が見えていた。


 クストルはオルカの方が魔術師の技術が上なのを知っているため、その言葉が信頼できるものだと分かっている。


(それに、ここで虚勢を張る意味も無いしな……)


 オルカが嘘を言っていないことを確信し、クストルはオルカの眼を見ながら


「信用しよう。ただし、大幅にズレるようなら……、分かっているな?」

「はい。必ず期待に応えます」


 オルカは背筋を伸ばし、ハッキリと答えた。


「……よし、話はついた。とりあえず解散だ。オルカ、今日はしっかり休んでくれ」

「わ、分かりました」


 クストルは立ち上がり、見張りとして女性の団員一人を残し、他の団員達を連れて部屋を出て行く。


 オルカと団員2人きりになり、さっきまでの騒がしさが嘘の様に静かになった。


「……なあ、一ついいか?」

「は、はい。何でしょうか……? えっと……」

「『イオレ』だ。気になる事がある。どうしてここがゴルニア王国だと思った?」


 さっきの女性団員とは違う声色なので、別人だと分かる。


「アンタを攫ったのはアストゥム獣国だ。それなのに、ゴルニア王国で事が起こっているかの様な口ぶりだった。何故そう思った?」


 オルカは壁を触りながら


「この土質、獣国には絶対無いんです。砂質土が殆どの獣国で、この泥炭土は有り得ないんです。それに、この泥炭土があるのは、ゴルニア王国だけなんです……。だから、ここがゴルニア王国だと分かったんです……」

「何で土質にまで詳しいんだ……?」

「ご、ゴーレムの魔法の基礎知識として、覚えてました……。使えませんけど……」


 オルカは愛想笑いで答え、解答を得たイオレは、納得した表情で見張りを続けるのだった。


 

 ・・・・・・


   

 クストルは自室に戻り、椅子に座って腰を落ち着ける。大きく溜息をつき、天井を見上げる。


(……随分と、話してしまったな……)


 初対面のオルカに、洗いざらい話してしまった。


 不思議と後悔は無いが、何故ここまで話してしまったのか、上手く言葉に出来なかった。


(彼女が解放された後、全て王国に話す可能性もあるのに、何故か彼女は話さないと思ってしまった。……我ながら、おかしな話だ)


 ハッ、と小さく笑い、頭を掻いた。


(……とりあえず、交渉は続けるか。王族の商会相手に金を取らないとい選択肢はないからな)


 何故今回は金銭の要求かというと、本命の龍の宝珠を要求すれば、東龍族が絡んでいると勘繰られる可能性が高い。そうなると無関係な同胞にまで迷惑がかかる。それを避けるために、今回は金銭のみの要求にしたのだ。


 クストルは姿勢を正し、机の上にある魔導通信機を手に取る。ボタンを押して、繋げたい相手に連絡を繋げる。相手は外で動いている同胞だ。


 数度コールした後、通信が繋がる。


「…………俺だ。首尾は?」

『関係者があっちこっち探し回っているみたいだ。そろそろ身代金要求の文を送るか?』

「頼む」

『了解。急いで送り付けて来るぜ』


 通信が切れた後、クストルは 魔導通信機を元の位置に戻した。そこへ


「団長」


 部屋の外から声が聞こえた。現れたのは、東龍族の男、先日クストルの元を訪ねた団員だ。


「どうした『リュンケス』?」


 クストルはリュンケスに顔を向ける。リュンケスは気難しい表情だった。


「いいんですか? あの時の件、オルカさんに話さなくても」


 リュンケスの質問に、クストルは眉を潜める。


「……今はその時じゃない。話しても、混乱するだけだ」


 遠くを見つめながら、目を細めた。


(今の第一目標は、龍の宝珠獲得のため、どんな手段を使ってでも金を集めなければならない。万が一オルカが失敗しても、そっちが本来の目的だ。何も、焦る必要はない……)


 沈黙を貫き、そして、


「とにかく、今はラグナ商会だ。根こそぎ持って行くぞ」


 睨むような視線で、指示が出されるのだった。



 

 ・・・・・・




 翌日から、オルカは解呪に向けて本格的に動き出した。



 呪術の術式を徹底的に解析し、数百にもわたる術式を解体していく。まるで、複雑に絡まった糸を、傷つけないよう、丁寧に解いていく感覚で解呪を進めた。



 その裏で、クストル達はラグナ商会にメッセージを送り、事を着々と進めていた。



 そして、オルカの宣言した3日が経過した。



 ・・・・・・



 オルカは最後の【黒泥変異】の術式と、それに絡むいくつかの術式を同時に解除する作業に入る。


 この3日間、寝ずに作業をしたので、少々ふらついてはいるが、作業に支障はない。手際よく魔法陣を作成し、魔力を流して術式を完成させる。


「これで、陣は完成……。後は、起動させるだけ……」


 クストル達が見守る中、オルカは術式を起動させる。



 起動したのと同時に、パルクスの泥となった肉体に変化が起きる。


 巻き戻すかの様に泥が肉体へ移動し、徐々に元の体へと再生していく。更に、黒かった部分は肌色に変わり、少女として元通りになったのだった。




「か、解呪、完了しましたあ……」


 オルカは力を出し尽くし、へたり込んでしまった。


「パルクス!!」


 クストル達はパルクスの眠るベッドに駆け寄る。パルクスは目を閉じ、寝息を立てている。


「長い間、眠ってましたので、起きるのには、もう少し時間が掛かります……。なので、もうしばらく、お待ちください……」

「良かった……。本当に良かった……!」


 クストルは涙目で喜び、パルクスの頭を撫でた。団員達も感情の出方に大小があるが、泣いて喜んでいた。


 オルカは今にも倒れそうだったが、クストル達の様子を見て、つい微笑んでしまった。


(役に立てて、良かった……)


 これで、クストル達『顔の無い盗賊団』が窃盗をする理由の一つは無くなった。復讐はどうにもできないが、出来る範囲で出来る事を、オルカはやってみせた。


 オルカは充実感に浸る眠たい頭で思い浮かんだのは、アージュナの姿だった。


(アージュナさん、私、人の役に立てました……)


 ウトウトしながら、重い瞼が徐々に下がって来る。


(今度は、アージュナさんを…………)


 アージュナの事を思いながら、オルカはその場で眠ってしまった。


 クストルは頭を打たない様に、オルカを咄嗟に支える。オルカの満足そうな顔を見て


「ありがとう、オルカ。このお礼は、必ず」


 ソッとオルカを抱え、立ち上がる。


「オルカを、恩人を腐った王族の手に渡す訳にはいかない。身代金は放棄し、執着する王族の手から救い出す。いいな?」


 団員達は頷いて、クストルに賛成した。


 そして、すぐさま行動に移るのだった。



 ・・・・・・



 「オルカ・ケルケは盗賊団が貰う。これは決定事項だ」



 そして、時間はジークとの直接交渉の時に戻る。



 ジークは交渉を根底から無かった事にする発言に、驚きを隠せなかった。


「オルカ・ケルケを、貰うだと?」

「そうだ。お前達王族には渡さない。絶対にだ」


 互いに睨み合い、空気に張り詰めた緊張感がへばりつく。


 視線を外さず、鋭く睨み、一歩も引かない重い空気が続く。


「……もはや、金では解決できないと?」


 ジークは手に持っている鞄を強く握る。

 ここからは、目的が分からない相手の情報を聞き出さなければいけない状況だ。慎重に会話を切り出す。


 団員は小さく溜息をついた。


「そうだな。特にこの国の王族なら、交渉の余地も無い」


 嫌悪を示す相手は、呆れと憎しみを込めて返答する。 更に、


「腐った連中の富なぞ、手に入れても臭くて使えん」


 悪態をついて唾を吐いた。直後



「私を他の王族と一緒にするな!!!」



 激高した。


 その表情には鬼気迫るものが宿っており、睨んだだけで人が腰を抜かしそうな眼力がある。


 団員も思わず一歩、引いてしまった。


 ジークは構わず叫び続ける。


「ゴルニア王国の王族が腐っているのは私がよく知っている!! 父は例外だが、他の者達は目に余るものがある! 不正なぞ当たり前の様に行い、国民を蔑み弄ぶいかれた血族に生まれた私が、どんな目で見られたか分かるか?! あんな思いをしたくないために、諸外国を周って信頼を得てきたんだ!!」


 自身の思いの丈を、全てぶつける。


「オルカだって! 私が人生で初めて一目惚れしたから、こうやって大金をかき集めて取り返そうとした!! ……どうして誰も俺にまともな人生を送らせてくれないんだ!!」


 勢い余って、とうとう愚痴まで零してしまった。


 団員はジークのこんな状態になるとは思わず戸惑っていたが、気を取り直して動き出す。


「と、とにかくお前達ラグナ商会は信用できない。だから今回の交渉は無かったことにする。それだけだ」


 慌ててその場を去ろうする。が、


「逃がすと思うか?」


 逃げようとする団員の前に、バルアル、アージュナが現れた。森の中にはファンが待機している。


「交渉決裂か。だがオルカは返してもらうぞ、うちのギルドの一員だからな」


 バルアルはジリジリと、一歩一歩近付く。団員はジークとも距離を取りつつ、後ろへ下がった。


「さあ、返してもらおうか」


 バルアルが手をかざした瞬間、



 目の前に突然、別の人物が姿を現した。



 フルフェイスのマスクを被った、マントの男だ。



「団長!?」

「逃げるぞ。付いて来い」


 そう言って2人は森の中へ逃げ込んだ。


「逃がすか!!」


 アージュナが駆け出し、2人の後を追う。バルアル、ファンもアージュナの後に続く。


(待ってろ、オルカ……!!)


 必死の追跡が、始まった。






お読みいただきありがとうございました。


次回は『追跡と糸』

お楽しみに。


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