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Ep.57 蜥蜴と呼ばれた者達


蜥蜴は何を見る?



「……ん?」


 オルカが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。


 身体を横にして眠っており、傍にはさっきとは別の団員がいた。団員は椅子に座って居眠りしている。


(私、どうして……?)


 朦朧とする意識の中、直前の記憶を思い出す。


「うっ!? げほ!! げほ!!」


 思い出した直後、絞められた感覚を思い出し、咳き込んでしまう。


 咳の音を聞いて、団員が目を覚ました。


「ん? 目が覚めたか。ちょっと待ってろ」


 団員はすぐに立ち上がり、頭に指を当てて何か喋り出す。オルカは上体を起こしたまま、その様子を眺めていた。


 団員の姿は相変わらずよく分からない状態だ。【存在隠蔽】による影響だが、オルカには顔の無い盗賊団の正体が分かり始めていた。


(もしそうだとしたら、彼らの師匠は……)



 ・・・・・・



 しばらくして、顔の無い盗賊団全員が集合した。



「すまなかった!!」


 団長は勢いよく頭を下げた。


「団員が手を挙げてしまったことは俺に責任がある。本当にすまない……!」


 団長の横で、オルカの首を絞めた団員も申し訳なさそうにしていた。


「すまなかった……」


 頭を下げて謝罪する。他の団員も同じ様に頭を下げて謝罪する。


「あ、頭を上げて下さい……!」


 オルカは頭を下げるのを止めさせようとする。


「私も不用意に喋り過ぎたのが原因です……。だから、そんなに謝らないで下さい……」


 オルカの言葉に、団員達は驚きを隠せなかった。 


 殺されそうになったにも関わらず、こうして優しい言葉をかけてくるとは思ってもみなかった。


 目が点になっている団員を尻目に、団長は頭を上げた。


「それでいいのか? 普通なら怒るとかするだろ?」

「元々、私の方が出過ぎた真似をしているんです……。だから邪険にされても仕方ないとは思ってましたので……」


 団長はオルカの人の好さに、頭を抱えそうになる。


「いい様に利用されるかもしれない思考だ……」

「???」


 オルカが疑問符を浮かべていると、首を絞めてきた団員が地面に膝をついた。


「俺はアンタを勘違いしていた! 本当に申し訳ない!!」


 両手を地面につけ、頭を地面に擦りつけて謝罪した。


 団員はオルカが探りを入れて、盗賊団の正体を暴き、追い詰めて来ると思っていた。しかし、彼女は純粋に気になっただけだと今気付いた。そんな彼女を思い違いで殺そうとしたことに、深く後悔しているのだ。


 オルカは団員を見て、ベッドから起き上がり、肩に手を置く。


「大丈夫です……。勘違いは、誰にでもあります……。私は怒ってませんし、恨んだりもしませんよ……」


 微笑みながら許す姿に、団員は下唇を噛んで、更に反省した。


「本当に、すいませんでした……!」


 今にも泣きそうな状態だったが、オルカは母親の様に背中をさすり、何度も大丈夫だと伝えた。



 場が落ち着いた所で、団長が話を切り替える。


「……オルカは、『蜥蜴の学び舎』を知ってるんだな」


 団長の真剣な口調にオルカも


「はい」


 真剣な表情で答える。


 団長は深く溜息をつき、何か覚悟を決めた様に背筋を伸ばした。


「どこまで気付いた?」

「皆さんの使う【存在隠蔽】、四国同盟では無名の【呪術】に精通している点、執拗に全身の姿を隠す点、それらから考えて、魔術協会の魔術師『ラビング・ファッシブル・プレシオ』さんの開講していた『蜥蜴の学び舎』が当てはまりました」

 


 ラビング・ファッシブル・プレシオ


 魔術協会所属のB級魔術師。首長の蜥蜴人族(リザードマン)で、所属期間が長い為、魔術協会では有名な魔術師だ。


 得意分野は【時空間魔術】。【空間移動】、【異空間収納】、【空間干渉】といった魔術の研究、開発を行い、【空間干渉】の延長で【存在隠蔽】の魔術を作り出した。


 

 そんな彼が講師を務める魔術師の塾『蜥蜴の学び舎』がある。


 ここで多くの【時空間魔術】が学べ、多くの魔術師が通った。オルカも過去に2年程通った事がある。



 『蜥蜴の学び舎』には、研究開発で忙しいラビングを支える副講師達がいたのだ。


 しかし、その姿を見た者は誰もいない。




「『蜥蜴の学び舎』の副講師達、その種族が東の国にいる『東龍族』で編成されていると聞きました。なので、姿を隠すのは、東龍族であることを隠すためだと思ったんです」


 オルカの推理に、団長は前のめりになって聞いていた。


「その様子だと、東龍族の事情にも詳しいようだな」

「はい……。東の国は数十年前から内乱が起きて、多くの種族が四国同盟に流れてきています。同盟の会議で、ゴルニア王国、リュオンポネス聖国が受け入れることになりましたが、ゴルニア王国は選民思想が強く、貴族達が言い掛かりをつけて奴隷にし、多くの東龍族が犠牲になったと……」



 ゴルニア王国は人族の国であり、王族、貴族も人族だけだ。


 その為なのか、選民思想の強い貴族が圧倒的に多く、人族以外の種族に対して風当たりが強かったり、最悪迫害したりしている。


 四国同盟が再三注意しているが、ゴルニア王国は東からの侵攻を食い止めてもらっていたりするため、あまり強く出れず、状況は改善していない。


 

「それを見かねたラビングさんが、東龍族の皆さんを受け入れたとも聞きました……。そうなると、【存在隠蔽】が使える事、それに、【呪術】は東の国が発祥ですから、知っている事も辻褄が合います。だから、皆さんは東龍族の可能性が高いと考えたんです……」


 推理を聞き終えた面々は、どこか諦めの雰囲気が出ていた。


「………………団長、これ以上は」

「……そうだな」


 団長は溜息をついて、マスクに手をかける。



 そして、マスクを外し、素顔を晒した。



 頭には大樹の様に枝分かれした角、眼の下には赤い隈取、頬には爬虫類の大きな鱗がついている。東龍族特有の特徴だ。



 顔立ちは細いが、男らしい形をしている。俗にいうイケメンの部類の顔だ。


 そして、姿も変わっていき、尻に1mにも匹敵する大きな尾が付いていた。これにも大きな鱗があり、独特の光沢を持っている。


 団長は黒色の眼をオルカに向ける。


「顔の無い盗賊団団長、クストルだ。オルカの言う通り、ラビング師匠の副講師をしていた」


 クストルの言葉を合図に、団員達の姿も露になる。全員体格はバラバラだが、東龍族の特徴を持っている。


 これを蜥蜴の種族と呼ぶ者がいるのが、ゴルニア王国の荒んだ現状だ。


 オルカは真剣な表情で、頭を下げた。


「この度は、心からお悔やみ申し上げます」


 その言葉に、クストル達も頭を下げた。



 ラビングは半年前、心筋梗塞で亡くなったのだ。



 発見された時には死後半日が経っており、蘇生は叶わなかった。


 葬式は身内だけで行われ、オルカは手紙を送るだけしかできなかった。そのため、関係者である彼らに挨拶をするのは今回が初めてになる。



 クストルは頭を上げる。


「師匠からオルカの話は聞いています。優秀な魔術師で、よくできた人間だともおっしゃってました。……それなのに人質という無礼な事をして、本当に申し訳ない」


 再び頭を下げるが、オルカは別の事に気付き、そっちの方に思考が向いていた。


「……犯人の目星が、ついているんですね?」

「っ」


 クストルはもちろん、団員達の動きも固まった。


「龍の宝珠の所有権は今、ゴルニア王国にあります。使用するのに法外な金額がかけられていますが、問題はそこではありません。問題は、以前の所有者がラビングさんだったことです」


 オルカは更に言葉を続ける。


「魔術協会でも一時期話題になったので知っていますが、ラビングさんの死後、龍の宝珠だけゴルニア王国に寄付する形になっていました。蜥蜴の学び舎の教え子達がいたにも関わらずです」


 クストルは歯ぎしりしながら、悔しそうな表情になっていた。


「……まさか、王族が師匠の遺書を偽装するとは思わなかったよ。それも多人数の貴族が関わってるんだから、質が悪い!!」


 団員達も怒りと悔しさで、表情が歪んでいた。


 オルカは眉を潜める。


「何のために宝珠を……?」

「分からない。だが絶対ロクなことじゃないのは確かだ」


 クストルは大きく深呼吸をして、一旦自身の精神を落ち着かせる。


「……これは妹を助ける目的と同時に、同胞達と師匠の敵討ちをするために盗賊団をしている。それが盗賊団全ての目的だ」


 オルカはクストルの決意と目的を全て聞き、眼を閉じて黙った。


 もし彼らの言う事が正しければ、王族が犯罪を犯し、貴族達がそれに手を貸した、国の存亡に関わる恐ろしい事態だ。


 クストル達のやっている事も見過ごせないが、ゴルニア王国の王族と貴族の蛮行も許せるものではない。


(彼らを止めることはできないし、協力もできない。……なら、私は……)


 オルカは考え、今できる事をすることにした。


「分かりました……。私には、貴方達を止める術はありません。なので、解呪に注力したいです……」


 あの少女を助ければ、事態が少しは良くなるかもしれない。そんな曖昧な発想だが、希望のある選択肢だと考える。


 クストル達は小さく頷く。


「いいだろう。それで、あとどれくらいかかりそうだ?」

「あ、えっと、おそらくですが……」


 急にしどろもどろに戻ったが、



「3日もあれば、何とか」



 意外な言葉が返ってきた。



 忘れがちだが、彼女は知識、実技において認められた、数少ない魔術協会のA級魔術師である。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『交渉決裂』

お楽しみに。


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